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メイド・イン・イタリーの美学のもと、ソールに取り付けられたゴムの突起が特徴のアイコンシューズ「ゴンミーニ」に代表される上質なレザーコレクションを手掛けてきた「トッズ(TOD'S)」。かたや、東京の下町を拠点に、シューズやレザーグッズを軸として既存の概念に捉われないアイデアを具現化してきた「エンダースキーマ(Hender Scheme)」。国や歴史は違えどもシューズメーカーとしての共通言語を持つ2つのブランドのクリエイションはどう融合し、一つのコレクションを作り上げたのか。ミラノファッションウィーク期間中に全貌が明らかになったカプセルコレクション「HENDER SCHEME X TOD’S」。発売を前にエンダースキーマのデザイナー柏崎亮に話を聞いた。
<HENDER SCHEME X TOD’S>
様々な領域で活躍するデザイナーやアーティストとコラボレーションし、従来の型にとらわれないアイテムを生み出すための協業プロジェクト「トッズ ファクトリー(TOD'S FACTORY)」の第4弾。これまでにアレッサンドロ・デラクア(Alessandro dell'Acqua)やアルベール・エルバス(Alber Elbaz)とのカプセルコレクションを発表してきた。日本ブランドは第3弾の「マメ クロゴウチ(Mame Kurogouchi)」に続く選出。「HENDER SCHEME X TOD’S」は9月28日にトッズ 銀座、スキマ 恵比寿、ドーバーストリート マーケット ギンザと各オンラインストアで発売する。
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ー今回どのような形で、またどういった両社の認識のもとコラボレーションすることになったのでしょうか?
コラボレーションが具体的に決まる前の2019年秋に一度、トッズのミラノとマルケの本社と工房に招待してもらいました。そこでマネージメント陣やクリエイティブ・ディレクターのヴァルター・キアッポーニ(Walter Chiapponi)と顔合わせをして、実際に生産背景を一通り見る機会があって。色々とやりとりを重ね、昨年の夏頃から本格的にプロジェクトがスタートしました。
ヴァルターたちは来日した際に直営店である「スキマ」に立ち寄って靴を購入してくれたそうで。トッズもエンダースキーマも共にシューズブランドをルーツとし、クラフツマンシップに重きを置いており、プロダクトを作る上で職人なしでは成り立たないブランドです。共通する部分も多く、お互いに自分たちだけではできないことを、コラボレーションすることで実現できるんじゃないか、というところから話が進みました。
ー実際にプロジェクトを進行する頃はコロナ禍。これまでのコラボレーションにない難しさはありましたか?
フィジカルのやりとりができないことによる難しさはあったかもしれませんが、共に自分たちでものづくりをしているブランドだったので、モノを通じてのコミュニケーションができたのは幸いでした。彼らは工房で、我々は自社アトリエといったインハウスの体制でプロトタイプを作れる環境にあったので、距離や時間、文化や言語といった様々なリミットや壁がある中で、平面上ではなく立体的なモノを通してコレクションを作り込むことができたのは、我々だからこそできたことだと思います。ただロゴを並べてみた、というような表面的なコラボレーションではなく、制限がある中でも実際にモノを交換し合いながらディープなやりとりができた結果、満足のいくプロダクトが完成しました。アナログかもしれませんが、この時代ならではのコミュニケーションという点で新しかったですね。
ー「アディダス オリジナルス」や「ザ・ノースフェイス」といったグローバル企業との協業がきっかけでブランドバリューが高まったり、グローバル認知も上がってきたと思うのですが、コラボレーションはエンダースキーマにとってどういった役割を果たしているのでしょう?
ありがたいことに、協業のお話をいただく機会が多く、これまでにもたくさんのブランドと一緒にアイテムを作ってきましたが、基本的には年2回のコレクションが自分たちの表現活動の軸として最も重要。なので、商業的にコラボレーションをやらなければいけない状況は絶対に作りたくない。自分たちだけではできないことや、単純にワクワクすることを自然にやってきたという感じです。「コラボ」というと、どうしても単発的に聞こえがちですが、それが一回キリだろうと、作ったモノや得た経験、知識が両者にとって財産として残るような、例えば今回作ったアイテムがリファレンスとなって将来インラインで出てくる、というような形が理想的。コラボレーションはブランド成長のためにプランニングしていたわけではないですが、蓋開けてみたらどれもすごく実りのあるプロジェクトでしたし、それ以降のブランドのコレクションにも影響を与えていると思います。
ー今回シューズやバッグはもちろん、初となるウェアコレクションもラインナップしています。
僕らが得意なシューズやバッグ、レザーアクセサリーをベースにしつつ、レディトゥウェアに関してはトッズからのリクエストだったので今回初めて取り組みました。単体でレザージャケットなどは作ったことがあるのですが、ちゃんとルックを組めるようなコレクションはこれまでにやったことがなく、新しいチャレンジでした。今回全てトッズの生産背景でウェアを作ることができるという贅沢かつ貴重な機会だったので、ブランドを10年やってきた中で少しずつ蓄積されてきたアイデアを形にして、実際に自分も着たいと思うアイテムに仕上げました。
ーウェアコレクションのコンセプトは?
すでに展開されているトッズのウェアのプロポーションをフォローするのではなく、僕ら独自のシルエットをなるべく出そうと意識しました。トッズの服は結構シェイプが効いているものが多いのですが、今回はストレートなラインにしています。エンダースキーマではメンズとウィメンズを分けていないので、今回もサイズ展開に幅を持たせて男女どちらも着られるようにしています。あと、僕らが普段扱っているシューズのディテール、ステッチワークなどを不自然にならないバランスで取り入れています。
ーコレクションを象徴するデザインとしてドライビングシューズの「ペブル」が挙げられると思うのですが、このキーとなるモチーフを"巨大化する"というアイデアはどこから生まれたのでしょう?
トッズといえばゴンミーニのドライビングジューズのイメージが凄く強くて。構想の時点で今回のプロジェクトのキーアイテムになるんだろうな、とは最初から思っていたんです。それをどう解釈してリデザインするか、という時にプロダクトフォーカスでも成り立つ個々の強度と、且つ一つのカプセルコレクションとしてちぐはぐにならないような、統一感のあるバランスを取りたいという思いが強くありました。
そんな中、「TOD’S」のTとDをくるっと入れ替えると「DOT’S」になるというアイデアを思いついたんです。「ドット=ペブルの○」という見立てをすれば、今回のコレクションを全部包み込めるなと。そこから連想を広げて、トッズの「オーボエ バッグ」をサークルの形にしたり、「○=ループ」の発想で動画をループの構造にしたり。今回のカプセルコレクションを総括できるようなワードとして「TOD’S⇄DOT’S」を軸にまとめていきました。その中でペブルをどう僕たちなりにコンテンポラリーでモダンなプロダクトにできるかと考えた時に、シューズのソールをもう少しボリューミーにしたかったので、自ずとペブルを巨体化するというアイデアに至りました。
ー実際にシューズを見た時にどんな履き心地なんだろう、と色々想像したのですが、シューズである限り、構造面なども考えなくてはいけないですよね。
構造的にもチャレンジングで、まずはアトリエでプロトタイプを作りました。最初は東急ハンズで球体の発泡スチロールを買ってきてソールにくっつけるというような(笑)。2~3個のプロトタイプを作り、それをトッズに送りました。もちろんですが、トッズのプロダクションチームは履き心地や耐久性といったクオリティーコントロールに関して徹底していて。ただ守りに入りすぎるとつまらなくなるので僕はデザイン目線での意見を伝えながら、どちらも譲らないところに着地させるという、そこのせめぎ合いはありましたね。例えば、ペブルはドットで○である必要があるのですが、最初はまんまるだったのが「滑りやすい」ということで楕円になったり。互いに譲れない点が拮抗して、最後の最後にボツになってしまったプロダクトもあるほど。トッズ側も大変だったと思いますが、それが協業をするからには達成すべきミッションであって、だからこそのオファーだと思っています。
ーそういった試行錯誤を経て、これまでに見たことがないシューズの形状が完成したんですね。
形状のユニークさが際立って見えてしまうかもしれませんが、これはトッズが長年かけて作ったアイコニックなペブルや既存のゴンミーニのイメージが存在し機能してのデザインなので、そういった文脈を無視して我々が根も葉もなく「こういったソールを作りました」と言っても全く機能しない。両社のコラボだからこそ意味があって成立するデザインなんですよね。
ー確かに「TOD’S⇄DOT’S」というアイデアの前提がないと成立しない。
そうなんです。なのでこのアイデアを思いついた時点で、すでにプロジェクトの全体像が出来上がった感じがしました。そこで、このアイデアをトッズ側にも一発で理解してもらうために簡単なアニメーションを作ってプレゼンしました。この案が通りさえすれば、今回のプロジェクトが成功したようなもんだ、くらいの勢いで(笑)。ただ、ロゴってそう簡単にはいじれない。そのレギュレーションをクリアするのは大変だとわかっていたので、いかにTとDを入れ替えることが有効且つ重要なのかわかってもらうために、言葉よりもダイレクトに視覚で訴えた方がインパクトがあるなと思ったのでアニメーションにしたんです。意外とすぐにトッズのリアクションが「面白い!」となったので、その時点で色々なアイデアがすでにわーっと浮かんできましたね。ヴィジュアルやムービーといった全体的なコミュニケーションのイメージとか。
ーアイデア勝ちですね。
でもそういった突発的なアイデアが僕らの表現の中ですごく重要な要素の一つでもあるんです。なので最初に思いついた時には「すでにやっている可能性もあるな」とも思ったんですよ。シンプルですごく明解で誰にでもわかるアイデアではあるので。結果、前例がなく、トッズ側もノッてきてくれて内心ほっとしました。
言葉遊びはもともと好きで、見る角度を変えたり、見方を変えると違うものが見えてくる、というようなことはこれまでにもブランドを通してやってきたことなんです。僕らライコス(laicoS)という会社名もソーシャル(Social)という言葉をフリップしたもの。「社会」という言葉をフリップすると「会社」になるという意味など、様々な意図が込められています。
ー今回のアイデアも今までエンダースキーマでやってきたことの延長線上にあるものだったんですね。
ベースの考え方は自分の中にもあって、ブランドの中にもある程度得意な型みたいなものが積み重なってきた中で、言葉遊びは割と得意で好きなことなのかもしれないです。
ー今回のコラボレーションを経て、今後エンダースキーマとしてどのようなものづくりを目指していきますか?
今やっていることを地道に積み上げていくことが大事なのかなと。コロナの状況で世の中の価値観をはじめ、色々なことが変わりつつあるタイミングだと思うのですが、世の中の流れに身を委ねるのではなく、「自分たちにとってはどうなのか」ということを、都度主体的に考えていきたいです。それこそが一番強度を持ったエンダースキーマとしての表現活動になっていくんじゃないかなと思っています。
(聞き手:今井 祐衣)
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