新しい生活様式はもはや日常へと移行しそれに伴い企業の舵取りも大きく変化している。FASHIONSNAPは経営展望を聞く「トップに聞く 2022」を今年も敢行。今年から加わるビューティは若い世代が関心を寄せる「サステナビリティ」をテーマにトップ及び、キーマンにインタビュー。ブランドの現在地とサステナ経営がもたらすブランド価値について発信する。トップバッターは、イギリス発の自然派化粧品ブランド「ザボディショップ(THE BODY SHOP )」。アニータ・ロディックが1976年に英国ブライトンで創業し、当時から社会問題に切り込み環境、人権、動物などに配慮した商品やキャンペーンを展開する。ザボディショップジャパンの倉田浩美社長にサステナブルなビジネスについて聞いた。
■倉田浩美
米国セントラルワシントン州立大学を卒業後、現地のプライスウォーターハウスクーパーズでコンサルタントとしてリテール業界のグローバル展開などを支援。その後、ギャップジャパン、コーチジャパンを経て、2014年にフルラジャパン社長に就任。2020年10月から現職。
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―ザボディショップの魅力を改めて教えてください。
今でこそ「サステナブル」「SDGs」と言われていますが、まるでそのトレンドを先見の明で見ていたかのように、ザボディショップはブランド創業の1976年からその視点を持って活動しています。そして現在に至るまで45年もの間、サステナブルなモノ作りを続けているのは唯一無二のブランドだと思います。
―例えばどのような取り組みを行ってきていますか。
当時のビューティ業界は“外見だけの美しさ”を追求するという流れがあり、大手の化粧品広告はスーパーモデルばかりを起用していました。しかしアニータは美の固定観念に違和感を持ち、一般的な体型のモデルを起用して“見た目ではなく内面から出る自分らしい美しさ”を訴求するキャンペーンを展開しました。また、彼女は企業が社会そして世界をより良くする力を持っていると信じ、製品開発のために当たり前だった動物実験を反対するキャンペーンを実施し、法律を変えるきっかけを作りました。2017~2018年のキャンペーンでは署名を800万筆以上集め、全世界の法律を変えるべくクルーエルティフリーインターナショナルとともに国連に提出しました。1987年からは世界の貧困地域に経済的自立と自由をもたらしたいと、「援助ではなく取引を!」をモットーに独自のコミュニティフェアトレードを始め、継続して取り組んでいます。
コミュニティフェアトレードの開始の頃から現在まで続けている続けている地域も
固定観念にとらわれない“BUSINESS AS UNUSUAL”の考え方
―今でこそ、各企業もそういったサステナブルな考え、動きを見せています。45年前では伝えることにも苦労があったのではないでしょうか?
一般的にビジネスは、従来に倣って進める“BUSINESS AS USUAL”の考えになりがちですが、彼女は固定観念にとらわれない“BUSINESS AS UNUSUAL”の考えのもと、“より公正で美しい世界のために立ち向かう”というパーパスを持っていました。自身の小さい力ひとつでも、絶対に世の中を変えることができる。だからこそ、どんな失敗を重ねても常にポジティブでファイトし続けていました。それが今のブランドのDNAになっていると思います。
―日本のビジネスは、昨年6月に英国のThe Body Shop International Limitedがブランドを展開するイオンフォレストを買収し本国直轄になりました。さらに昨年10月からは社名をザボディショップジャパンに変更しリスタートを切りました。
子会社化したことで本国とのコミュニケーションはとても密になりましたね。世界的に見ても日本人は感度が高く、そこに対する期待値の高さから本国ではジャパンチームが立ち上がり、いま全世界の中でも日本への優先順位は一番と言っていいほどです。
―まず何を行いましたか?
ブランドとして大切にしているのが、「自己肯定感を高められること」、そして「多様性」です。毎年キャンペーン(社会の問題を世の中に知らせる活動)を行っているのですが、子会社化によってもっと色濃くしていこうとなりました。今年は“セルフラブ”をテーマに「ボディバター」の限定パッケージに自己肯定感を高めるためのメッセージをつけて展開しました。今回のキャンペーンでは動画クリエイターのkemioさんとモデルの長谷川ミラさんを起用しましたが、キャンペーンに参加してくださる方も普段から社会活動を行っていて共感を持ってもらえる人じゃないと、“見せかけ”では消費者は気付きますからね。
―ハード面、ショップ展開も積極的ですが、こちらにもサステナブルな精神が反映させていますね。
グローバルでは2019年からサステナブルで画期的な新ストアコンセプト「アクティビストワークショップ」を採用し、新店オープンしていますが今春、日本でも同様のコンセプトでショップをオープンしました。アクティビストワークショップでは、お客様に我々のパーパスを感じていただきたいという思いで、ストア素材によりこだわり、FSC認証を受けた木材や、グリーン購入法適合品の床材などサステナブルな素材を使用しています。他にも、接着剤を使用せずリサイクルしやすくしたり、店舗にある什器を製造するメーカーはグローバルサプライチェーンにおいてエシカルかつ労働条件の改善に取り組んでいるセデックス認証を取得していなければならないなど、厳しい基準があります。
新ストアコンセプト「アクティビストワークショップ」を採用したザボディショップ 東武池袋店
新幹線車両を再利用、新しい命を吹き込む
―その上で、日本国内ならではの素材、新幹線車両を再利用しています。これには驚きました。
内装を見てサステナブルな素材を使用しているかどうかは、お客さまには分かりづらいですよね。日本人のお客さまに共感いただける素材を使用したいと考えた時、引退した東海道新幹線車両の再生アルミを使用するのはどうかとーー。役割を終えた素材に新しい命を吹き込むことで、よりサステナブルな店舗内装の開発を実現しました。東海旅客鉄道(以下JR東海)の提供する、新幹線再生アルミを店舗内装用建材として使用するのは、JR東海グループ以外では初めてで、ザボディショップが持つDNAに共感してくれたと思います。そして再生アルミを他のアイテムにも広げられないかと考え、クリームタイプの製品を取る際に使用するスパチュラも展開しています。今後も再生アルミを採用したアイテムを検討しています。
お店を訪れた時だけでなく自分に向き合うスキンケアやボディケアの時間の中で、ザボディショップの取り組みを思い出し、ちょっとしたことからでも環境や社会に良い行動を行うきっかけになってもらえればと願っています。
―サステナビリティを背景にした積極的な店舗展開など存在感が増しています。2021年の業績はいかがでしょうか?
コロナ禍でも今年の業績は前年を大きく上回っています。この時期にリニューアルを含む10店舗がオープンしていることもポジティブなことだと思います。2022年もアグレッシブに出店、投資を行います。
1年間の空輸使用回数と二酸化炭素排出量を設定し超えない努力
―ビジネスとサステナブルの両立に悩む企業も多いと思うのですが、考え方を教えてください。
例えば、いまコロナの影響で貨物船の遅延が起き、商品が届きにくい状況が1年以上続いています。そうなると、普通ならコストはかかるけど空輸を選択しますよね。しかしザボディショップはサステナブルな目標を掲げている中で、二酸化炭素の排出量が多い空輸は1年間で使用する回数と量が決められています。だからと言って、「サステナブルが重要だから、売り上げは無視します」とはいきません。商品の品薄はお客さまにご迷惑をおかけすることにもなります。そこで代わりのキャンペーンを組み直すなど臨機応変に対応しています。そして特に重要なのが、こういった事情をきちんと社員に伝える透明性です。そこまでやらないと、ビジネスの目標達成とサステナブルな活動の両立はできません。
―2023年末までに約3700にも及ぶ成分においてヴィーガン認証を取得すると発表しています。
全商品で、実は約3700種もの成分を使用しています。その成分の原料の調達から生産、消費そして廃棄までにいたるまでを明らかにするトレーサビリティは非常に重要です。製品だけでなくすべての成分で認証を取るというこの大胆なアプローチはまさに、人類と地球に対し、よりサステナブルで良いビジネスが何なのかを体現することであるとも言え、まさにビジネスとサステナブルの両者を実現することにもなりますね。
―従業員へのサステナブル教育は?
ブランドにはコミュニティフェアトレードで原料を調達している製品が数多くあるので、その一つひとつのストーリーはトレーニングのマテリアルの中にあります。先ほどの新幹線の再生アルミ素材、貨物船の商品遅延の話も教育というよりコミュニケーションの一環だと思っています。ただ、コロナ禍はなかなか対面で教育ができません。そのため店舗マネージャーとは月に一度、オンライントレーニングを実施しています。コロナが収束に向かえば、ストア全体の従業員のトレーニングもより強化していく考えでいます。そしてひとつ言いたいのは、ザボディショップの従業員はブランドのDNAを理解した上で、ブランドが大好きで商品が大好きな、ファミリーだということ。社会貢献や企業が社会を良くする力があることに共感を持ち、“自慢できる会社”との思いで働いてくれています。
「業績の成長」「消費者のハッピー」「従業員の満足度」「環境にやさしい」。経営に「四方よし」の考え方
―全てのクオリティを高めることが、全てのハッピーに繋がりますね。
「売り手と買い手が満足するのは当然で社会に貢献できてこそ良い商売」という意味の「三方よし」という言葉がありますが、むしろザボディショップは「四方よし」。もちろんわれわれの業績が上がり成長すること、商品を買う消費者がハッピーになれること、環境にやさしいこと、そして従業員がなりたい自分に成長でき明るい未来が待っていること。そこまで考えてビジネスをするのがこれからの時代に求められることですね。
―これからの時代を担う、若い世代に伝えたいことはありますか?
若い世代ほど、その会社がどんなパーパスに基づきビジネスが成り立っているかという点に価値を見出す人が多いという印象です。一緒に働きたい人はビューティ業界の中で、社会貢献をしたいという思いを持っている人でしょうか。そしてコロナ禍で日々状況が変化する中でも柔軟性を持ち、自分らしく楽しく生き生きと働いてほしいと思います。
―最後に、社長が取り組んでいるSDGsは?
個人的に東南アジアのチャイルドスポンサーを約15年間続けています。貧困のため学校に行けない子どものスポンサーをしていますが、その子を助けるためにというよりは自分のためにやっていると思います。そのほか、プラスチック削減ももちろん意識しています。2年前から自宅のプラスチックのごみの量を見直し、小さいことではありますがポリ袋を洗って使い回ししています。当時と比べると、家庭内で出すプラスチックの量は6割ほど減りました。あとはこれから取り組みたいことですが、SDGsには働きがいに関する項目もあります。そこで、自分のこれまでの仕事の失敗など、仕事に対する環境や取り組みを男女問わず伝えていきたいと思っています。
(文:エディター・ライター 中出若菜、聞き手:福崎明子)
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