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【連載ふくびと】第13話 菊池武夫——ファッションを生業に60年「やり切ったと思ったことはない」

菊池武夫

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【連載ふくびと】第13話 菊池武夫——ファッションを生業に60年「やり切ったと思ったことはない」

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第12話からつづく——

 1964年に注文服の制作を始めてから60年、自身のブランド「タケオキクチ(TAKEO KIKUCHI)」を立ち上げてから40年が経った2024年、菊池武夫は85歳を迎えた。新たなレーベル「ザ・フラッグシップ(THE FLAGSHIP)」を立ち上げ、日本独自の素材と技術を駆使した服作りに挑むなど、ファッションに対する情熱は衰えることを知らない。幅広い世代から慕われ、そして影響を与えつづけてきた”タケ先生”が、半生を振り返りながら今思うことは。——「タケオキクチ」のデザイナー菊池武夫が半生を振り返る、連載「ふくびと」第13話<最終話>

あっという間の40年

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 タケオキクチは、2024年に創業40周年を迎えることができました。僕の力ではなく、一緒に走り続けて支えてくれている人、服を買って着続けてくれる人がいるからこそ、ここまで来れたのだと思います。その人たちの心を動かすものが自分の中にあればという気持ちで、僕自身も続けてくることができました。

 本当にあっという間の40年。今、時間はますます早く過ぎていく実感があります。でも、2012年にタケオキクチに復帰した頃とは違い、これまで自分がやってきたことはなんだったのかと振り返る余裕が出てきました。僕自身が過去に感じたこと、そして今思うことを伝える必要があると感じて、アーカイヴを新たに解釈するザ・フラッグシップというレーベルを立ち上げたのです。

ワールド北青山ビル1階に掲出された大型広告

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Image by: TAKEO KIKUCHI

「TAKEO KIKUCHI」「THE FLAGSHIP」公式サイト

初心にかえるホワイトタグ

 ザ・フラッグシップは、通常ラインとは違って白いブランドタグを使っています。ブランドを立ち上げた当初、自分の名前を大々的に表に出すのに抵抗があり、白地に白文字をレタリングしたホワイトタグを使っていたのです。その精神に立ち返り、名前よりもモノの良さや作る意義を考えて世に出していこうという思いを込めて、ホワイトタグを再び使うことにしました。

ザ・フラッグシップのホワイトタグ


 「タケオキクチといえばスーツ」というイメージを持たれることが多いですが、僕がファッションで一番気に入っているのも、やはりテーラードなんです。紳士服の既存のルールに捉われず、どこか新しい。特に好きなのが、着やすいソフトなスーツです。カジュアルウェアとの境が曖昧になり、スーツスタイルと一体化する時代は、いつか来るだろうと考えていました。

 提案しているのはベーシックなスーツだけではありません。例えば、スーツに合わないと言われる色をあえて取り入れる、そういった意外性が好きなんです。緑がかったニュアンスグレーなど、普通は売れないようなカラーがよく売れたこともありました。“正統派を崩す”というテーラードへのアプローチは、「メンズビギ(MEN’S BIGI)」初期のショーケンのスタイルからずっと変わりません。

THE FLAGSHIP 2025 SPRING & SUMMER

タケオキクチのアイデンティティや、アーカイブを掘り下げ、さらに今の時代感も取り込んだ、ブランドを象徴するレーベル「THE FLAGSHIP」。厳選した国内の素材を使用し、日本で最高峰の技術を誇る工場で縫製した品質の良さは、コンセプトの"THIS IS THE JAPAN BRAND"を体現している。洗練されたシンプルなアイテムで彩られたスタイリングは、着る人をより魅力的に見せる。

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「やり切った」と思ったことは一度もない

 実は一度、40歳になる手前で引退を考えたこともありました。当時はまさか、倍以上の歳になるまで現役でいるなんて、思いもよらなかったでしょう。生き方が嫌になると全部リセットして変えたくなったり、新しいものを常に求めてきた人生でした。プライベートの節目と仕事の節目が重なることも多かったですね。

 かつて、僕と1歳違いの篠山紀信さんに「僕らの世代は欲張り。なんでもやりたがるし欲しがる。でも、それができる時代だった」と言われて膝を打ちました。何もなかった時代だからこそ、なんでもできたのかなと。

 大事なのは、生きているということ。毎日ウォーキングを欠かさず、健康第一。充実した日々ですが、ただファッションについては、この道を60年以上生きてきても、やり切ったなと思ったことは一度もありません。失敗したなと思うことが8割。でもその経験を活かして、続けることがものすごく大切なんです。それにはパワーが必要だと、つくづく思います。

 物事に満足することなく、すぐ次の構想が浮かんでしまうタチなので、生涯現役になりそうです。いろいろなものを作ってきた人生でしたが、大好きな車を作ることができなかったのは、ひとつの心残りかな。これだけ元気でいられるのは、やり足りていないことがまだまだあるからなのかもしれませんね。

愛用のApple Watch

歩きやすいスニーカーが欠かせない

菊池武夫、アトリエにて

文:一井智香子 / 編集:小湊千恵美
企画・制作:FASHIONSNAP

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