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【連載ふくびと】第7話 菊池武夫——ブルース・リーも着た「メンズビギ」

菊池武夫のアトリエ

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【連載ふくびと】第7話 菊池武夫——ブルース・リーも着た「メンズビギ」

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第6話からつづく——

 1975年、菊池武夫が35歳の時に「ビギ(BIGI)」から独立し、メンズブランド「メンズビギ(MEN’S BIGI)」を設立。自身が代表を務め、新たなメンバーでスタートを切った。当時まだ珍しかったメンズコレクションのショーを開催するなど、手探りながら精力的に活動を広げていく。そして、ドラマ「傷だらけの天使」でショーケンこと萩原健一の衣装を手掛けたことをきっかけに、爆発的ヒット。DCブランドブームの先駆けとなり、社会現象にまで発展していった。——「タケオキクチ」のデザイナー菊池武夫が半生を振り返る、連載「ふくびと」第7話

不思議な縁 ブルース・リーのスーツ

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 初期のメンズアイテムは、ウィメンズ中心だったビギの店内に、サンプル品としてシャツやスーツ、ジャケット、ネクタイなどを置いていました。「メンズビギ」の前身となる「ビギ・メンズ」タグのものです。

 ある時、香港からバイヤーが来店して、そのメンズサンプルを一式買ってくれたことがありました。ビギのショップオープンから半年も経たない頃。そのバイヤーが「顧客に有名な俳優がいる」と言っていたようですが、僕は海外の著名人についてよく知らなかったので、そのことはすっかり忘れていました。

 数年後、「燃えよドラゴン」(1973年12月・日本公開)が上陸し、銀座のテアトルシアターに観に行ったらびっくり。主演のブルース・リーが、見たことのある服を着ていたんです。紛れもなくビギ・メンズの3ピーススーツでした。

 彼にとって本格的な世界進出作品だったので、スーツを着ることに思い入れがあったと後から聞きました。サイズもぴったりだったそうで。サンプルは僕自身の身体に合わせて作っていたんですが、不思議な縁で、彼は僕とほぼ同じ体型だったようです。プライベートでも着ていたそうで、気に入ってくれたのであれば嬉しいですね。

アトリエの棚に飾られているブルース・リーのフィギュア

アトリエの棚に飾られているブルース・リーのフィギュア

ショーケンとの出会い 「メンズビギ」始動

 ビギのスタートから4年ほど経った頃、ブランドは順調でしたが、僕自身はというと、なんだかモヤモヤとしていました。離婚に至ってしまったのもその時期で、いろいろなことが重なってビギを去ることにしたんです。それでメンズウェアに専念しようと、立ち上げたのが「メンズビギ」。

 僕は紳士服を学んだことはありませんが、立体裁断で身体に合わせる服作りをずっとやってきたので、それをメンズウェアに活かしていました。作りとしては珍しかったかもしれませんね。参考にしていたのは、映画や街中で着ている人の着こなし。立ち上げと同時に青山のキラー通りに1号店を開き、白金プリンス迎賓館(現・東京都庭園美術館)で最初のショーを行いました。

 当時の僕は、昼間は目一杯仕事をして、日が暮れると街に繰り出して夜通し遊ぶという生活。ただの遊びではなく”夜の仕事”という意識でした。色々な業界の人に会い、交流することが何かにつながると思っていましたから。

 ショーケンと出会ったのも、赤坂の「ビブロス」という会員制ディスコ。僕は、彼のちょっと不真面目な感じや、音楽への姿勢が好きでしたね。ある時ショーケンから、「衣装を担当してくれないか」とオファーを受けました。日本テレビのドラマに主演するとのこと。まだメンズビギを本格的に立ち上げる前の年でしたが、すぐに快諾しました。

 それが「傷だらけの天使」(1974年10月~1975年3月・放送)。配役やストーリーに合わせて特別に衣装を仕立てるのではなく、販売するために作っていた製品を提供することにしました。アウトローなストーリーは、正統派じゃないメンズビギと相性が良かったからです。

反対された新宿丸井で記録的売り上げ

 ドラマは大ヒットして、結果的にメンズビギも売れに売れました。新宿丸井に出していた店では、ショーケンが着たスーツが1週間に100着も売れ、ショップの月間売上が3000万円近くに上ることも。今のようにSNSなんて無い時代ですから、テレビの影響や口コミで広まっていったのだと思います。

 ただ、僕自身は相変わらず昼も夜も忙しい毎日を送っていたので、社会現象になっているという実感を噛み締める余裕はなかった。ただ目の前のことに必死でした。メンズファッションはまだ業界の規模も小さく、一世を風靡したアイビーブームも失速し始めていた頃(ブームを牽引していたVANは1978年に倒産)でしたが、「メンズのビジネスで成功させたい」という気持ちを強く持っていたからです。

 振り返れば丸井への出店も、最初は周りの皆に反対されましたね。割賦販売に対して否定的な人が多かったのだと思います。でも僕はマーケットに浸透させたいという思いが強く、出店しないという選択肢はなかった。意思を貫いたことで、世の中にインパクトを残せたのかもしれません。——第8話に続く

TAKEO KIKUCHI アーカイヴ集

1980年代後半から90年代のブルゾン

ウール地にレザーのモチーフがアシンメトリーに施されている

エンブレムロゴ

【毎日更新】第8話「パリで前例のない挑戦 葛藤と焦り」は3月5日に公開します。

文:一井智香子 / 編集:小湊千恵美
企画・制作:FASHIONSNAP

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