菊池武夫のアトリエ
Image by: FASHIONSNAP
第4話からつづく——
菊池武夫にとって初めての異国の地。まずはヨーロッパの国々を巡り、モードの本場であるパリへ。現地のファッションハウスで働く三宅一生を頼り、煌びやかなオートクチュールの世界も目の当たりにした。しかし、世界一周の旅で最も印象に残ったのは、ロンドンのストリートスタイルだったという。——「タケオキクチ」のデザイナー菊池武夫が半生を振り返る、連載「ふくびと」第5話
三宅一生が働いていたジバンシィのショー
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ヨーロッパを最初の旅先に選んだのは、世界に出るなら服の基礎を絶対に見なくてはいけないと思っていたからです。デンマークのコペンハーゲンを出た後は、フィンランド、イタリア、フランス、イギリスの主要都市を巡りました。
一番印象に残った場所はロンドン。ストリートのカルチャーとファッションが抜群に濃かったから。その頃のロンドンは「ビバ(BIBA)」が全盛を迎えていました。街を歩くと、若者たちがみな同じような格好をしていて、驚くほど流行っていましたね。
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パリでは一生くん(デザイナー三宅一生)と連絡をとることができ、当時彼が働いていた「ジバンシィ(GIVENCHY)」のショーに招待してもらえることになりました。イタリアで買った一張羅のスーツを着て、初めてのサロンショーへ。一生くんはバックステージで忙しくしていたため会えませんでしたが、オートクチュールならではの雰囲気に圧倒されました。
ただ、ショーの最中に気になったことがありました。フロアを歩くモデルが僕のことを見て、バックステージに戻りケラケラと笑い合っているように見えたのです。「ロン毛の変な東洋人がいるぞ」と嘲笑していたんじゃないかと思います。どんなに美しいコレクションだったかは覚えていないのに、その恥ずかしかった記憶だけは鮮明に覚えているんですね。それまでの旅路で何度も偏見の視線を浴びましたが、あの時が一番ヘコんだかもしれません。
ファッションに国籍はない
ニューヨークでは友人宅に居候させてもらい、20日間ほど滞在しました。物騒なことに放火が多発していて、毎日のようにサイレンが鳴りっぱなし。治安は最悪でしたが、それでも自分はファッションを見に来ているので、街を歩かなければ帰れません。
現地で見たかったのは、まず僕が好きだった「ブルックス ブラザーズ(Brooks Brothers)」。それから、有名なニューヨーク五番街の「ティファニー(Tiffany)」本店にも行きました。
ティファニーでは、日本でお留守番の妻にお土産を買いました。確かシルバーの何かだったと記憶していますが、その時に担当してくれた店員が、勢いよくショーケースを叩き出したので驚きました。客が商品を買ったという合図だったのか? 結局その時はよくわかりませんでしたが、実際に現地で体験するからこそのカルチャーショックを色々な場面で受けました。
日本を出てから約2ヶ月。立ち寄ったそれぞれの国で流行りのスタイルを見て、そして必ず服を買い、家族にもたんまりとお土産を買い込んで、手持ちの資金を全て使い切り帰国の途につきました。世界をぐるりと周って思ったのは、トレンドというものは「どこも変わらないんだな」ということ。どの都市でも流行に敏感な若者たちが皆、ベルボトムのパンツを履いていたのが印象深かったのです。「ファッションに国籍はない」というスタンスは、この後のクリエイションで貫くことになります。
僕自身もロングヘアのヒッピースタイルになって帰ってきて、日本にはまだ入ってきていなかったベルボトムパンツを急いで作ることにしました。これが後の「ビギ(BIGI)」で、大ヒットを生むきっかけになったのです。インターネットのない時代ですから、実際に自分の目で見たもの、体験したことは、その後の大きな糧になりました。——第6話に続く
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1968年、30代の頃
TAKEO KIKUCHI アーカイヴ集
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6ポケットのテーラードスーツ。タケオキクチは1987年からスーツライン「SUITS TAKEO KIKUCHI」、1991年からテーラーメイドのオーダーの展開を開始した。
【毎日更新】第6話「リアルクローズを追求 『ビギ』始動」は3月3日に公開します。
文:一井智香子 / 編集:小湊千恵美
企画・制作:FASHIONSNAP
【連載ふくびと】デザイナー 菊池武夫 全13話
第1話—大病と戦争 「生きる喜び」を知る
第2話—生涯の友と将来の道を見つけた場所
第3話—型紙の服作りを習ったことがない
第4話—伝説的ショップ「カプセル」に出品
第5話—世界一周 モードの都で浴びた洗礼
第6話—リアルクローズを追求 「ビギ」始動
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