Spiber 関山和秀代表
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20年後のアパレル業界 「資源循環が当たり前」の世界に
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―新型コロナウイルスの感染拡大に伴う影響はどの程度ありましたか?
米国のプロジェクトではコロナで投資家の方々と連絡が取れなくなり、資金調達どころではなくなってしまって。その状況が半年くらい続きました。タイのプロジェクトもデルタ株の感染拡大時は東南アジア全体が大変なことになってしまって、日本人のメンバーには一旦帰国してもらったりしたので、立ち上げ準備が4ヶ月ほど遅れてしまったりと、緊迫した状態がずっと続きました。実験のペースも落ちてしまいましたし、我々は保育園の運営もしているので、そこの対応にも追われました。それぞれの現場の人たちがうまく舵取りしてくれたので、何とかここまで来れたという感じです。
―足元の状況は?
引き続き一部プロジェクトに遅れが発生している状況ですね。でも、コロナで世の中の意識がサステナビリティの方向に一気に加速したことは、中長期的に見ると追い風になったと思っています。私たちの素材に対するニーズや期待値はより大きくなっていると感じていますし、実際に引き合いもかなり増えました。
―今年春にはタイの工場での生産が本格的に始まります。日本にあるラボとはどのように棲み分けをしていきますか?
タイと米国の工場はタンパク質のポリマーを作る工場になります。国内のラボは基本的に研究開発拠点としての位置付けですね。長期的な観点で見ると、地球規模で生産拠点が必要になってくると思います。
―商品化されるまでのプロセスは?
まずタイと米国でタンパク質ポリマーを作り、その後繊維にする工程があるのですが、当面はそれを日本に運び、鶴岡にある紡糸設備で紡糸します。加えて、化学繊維を作っているメーカーの紡糸設備をうまく活用させていただくなど、基本的には既存のインフラを利用していきたいと考えています。化学繊維を作るメーカー側にとっても、ポリマーを変えれば今の設備を生かしながら、よりサステナブルで付加価値の高い素材に事業に転換していくことが可能になります。
―赤字が続いていますが、黒字転換はいつ頃になりそうですか?
現段階でオフィシャルに申し上げられるものではないのですが、米国の工場が稼働してくるとそれなりの大きな売上利益になっていくはずです。早ければ2023年頃から米国のプラントの稼動を始められるという想定でスケジュールを今進めていますので、それ以降になると思います。
―今年で創業15周年。この一年で何に重点的に取り組んでいきますか?
タイの工場稼働もあり、段階的に製品の発表や販売ができると思います。より多くのお客さまにいち早く素材をお届けできるように、引き続き量産準備を進めていきます。タイが本格的に稼働し始めると生産量は現在の数十〜数百倍になるので、研究開発のスピード感もだいぶ変わってくるのではないかと思います。
―日本のアパレル市場は縮小傾向にあります。
僕はものすごくチャンスがあると思ってます。ただそれはビジネスチャンスというよりは、世の中をより良くしていくための機会が膨大にあるという風に捉えていて。すごく簡単に言うと、いまは資源循環が前提の設計になっていないんですよね。僕たちの技術はこれを大きく変えるチャンスがあると思っています。2040〜50年ごろには、循環が当たり前の世界になっているんじゃないでしょうか。その世界を実際に作り上げていくための基盤が整ってきているので、ここから転換していくフェーズに入っていくことに、個人的にはとてもわくわくしています。
―タンパク質の素材もリサイクルできるんですね。
もちろんです。大きな自然のエコシステムの中に私たち人間も組み込まれていて、人間が作ってきた産業も自然の循環の仕組みにうまく組み込まれるように設計していけば、循環型の社会が簡単に作れると思っています。その中でキーになる技術や材料が、セルロースであったり、タンパク質なんですよね。コットンや木材といった植物由来の物質はセルロースから成り立っていて、分解されれば糖になります。一方でタンパク質は分解するとアミノ酸になり、様々なものの材料に再活用できます。セルロースはすでに社会の中で材料として浸透していますが、それをうまく循環させていく資源として活用していく仕組みはできていません。タンパク質に至っては、全く使いこなせていないという。循環資源としてさらに使えるようになった時に、どういう世界がデザインできるのか。そこにものすごい可能性を感じていて、お正月も自分ひとりで考えて盛り上がっていました(笑)。もちろんこれは我々だけでできることではないので、業界全体と連携しながらアップサイクルしていける仕組みを作っていきたいですね。
―アパレル以外では、アデランスと毛髪素材の開発を進めています。
開発自体は順調に進んでいます。早ければ年内に進捗を発表する可能性もあるかと思います。
―毛髪以外に化粧品の分野で取り組めることはありますか?
あると思います。実際にマイクロプラスチックの課題はありますし、「何か良い素材を」と常に探索されている方はたくさんいるので、我々も可能な範囲で取り組んでいきたいですね。例えばファンデーションやマスカラ、洗顔料といったマイクロファイバーやマイクロビーズが使われる領域では貢献できそうです。
―ゴールドウインとは、バンブーとブリュード・プロテイン素材を組み合わせてスケートボードを作るプロジェクトを発表していますね。
カリフォルニア発のロングスケートボードメーカーのローデッド・ボード(Loaded Boards)を迎えた3社で取り組みました。最終的な着地点は関係各所と調整が必要ですが、個人的には商品化されると嬉しいですね。
―IPOは視野に入れていますか?
もちろん投資してくださっている方々もいますので、イグジットの機会を提供する必要がありますし、我々としても量産化が始まるとはいえ事業としてはまだスタートラインです。今後、さらなる大規模な投資が必要になってくると思うので、そういった意味でもIPOは重要です。
―最後に、関山代表が求める人材とは?
世の中を良くしたい、自分の人生の時間を使って世の中に貢献したいという方であれば領域を問わずです。365日応募を受け付けています(笑)。
(聞き手:伊藤真帆、福崎明子)
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