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書店であなたを待つ「文化的雪かき本」を探しに:「スノウショベリング」編

村上春樹 スノウショベリング おしゃれ 本屋 古本屋 ブックカフェ

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書店であなたを待つ「文化的雪かき本」を探しに:「スノウショベリング」編

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たった4号で発売禁止された雑誌、その中身は?

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【タイトル】EROS Summer
【著作】RALPH GINZBURG
【発行年】1962年

F:「summer」と謳っているくらいですから、「winter」号も存在するんですか?

中村:「spring」「summer」「fall」「winter」と4号発行され、winter号が発売されたタイミングで発売禁止になりました。だから、1962年から4号だけしか発行されていない雑誌です。

F:発売禁止になるような過激な内容だったということですか?

中村:タイトルの通り、エロティシズムをコンセプトにした雑誌です。所謂「エロ本」ではなく芸術表現としてのエロスに取り組んでいるんですよね。でも、1960年代というのはそこまで性がオープンに語られていなかった時代。どれくらいオープンじゃなかったか、というと「裸の人が出る」というだけでもご法度。ホモセクシャルを肯定するようなものなんて言語道断です。そんな時代の中、黒人と白人がまぐわっている写真などが掲載されているこの雑誌は「過激すぎる」と評価され、発売を差し止められたわけです。1945年に第二次世界大戦が終わってから間もなくして新しい文化が数多く開花するわけですが、その過程の中で新しい概念が多く誕生したのも50年代。個人的に60年代というのは、50年代に生まれた概念に対して「本当にこれでいいの?」と一度立ち止まった破壊と創造の年代だと思っています。そういった意味で、とても60年代的な雑誌の一つだな、と。

F:たった4号しか出版されていないこの雑誌の存在をどのように知ったんですか?

中村:グラフィックデザインを勉強する過程で出会いました。僕は、本屋さんになる前は広告業界でグラフィックデザインを作っていたんですよ。

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F:確かに読み進めているとタイポグラフィー的な要素も感じます。

中村:この雑誌のアートディレクターを務めているハーブ・ルバリン(Herb Lubalin)は、グラフィックデザインを勉強する人なら一度は通る有名人です。当時の時代背景を少し説明しておくと、モノクロからカラーに移り変わる時期で表現方法に大きな変化があった時代。「カラーという自由を得た当時の人たちはどういうことをやろうとしていたんだろう」と今でも勉強になる部分があるんですよね。

F:アートディレクターとは別にラルフ・ギンズバーグ(Ralph Ginzburg)という人物が編集に入っていますね。

中村:ラルフ・ギンズバーグは「エロス(EROS)」の発行人でもあり編集者です。ラルフ・ギンズバーグとハーブ・ルバリンは、この後も様々なことをやらかしていく黄金コンビとして知られています。

F:どんなことをやらかすんですか?

中村:作った本は大抵発売禁止になっています(笑)。所謂カウンターカルチャーと呼ばれるような態度や、反体制的なことをしてきた黄金コンビなので、このお店の姿勢としても支持したいなと思って入荷するようにしています。

F:元グラフィックデザイナーという視点から見て、この雑誌の魅力はどのようなところにあると感じますか?

中村:「もうここから進んでないな!」と思わず考えてしまうくらいやり切っていますよね。グラフィック表現として「ここで頭打ちなんじゃないかな」というくらいぐうの音も出ない。と、偉そうにグラフィックデザイナーを辞めた奴が言うなって話なんですけどね(笑)。

F:「すごい」と思う部分は具体的に?

中村:雑誌は基本的にフォーマットに沿って作っていくものだと思うんです。なぜならそっちの方が効率的だから。でも「エロス」はフォーマットというよりかは、ページごとに全く異なる斬新な試みをしているなと感じます。当時の雑誌制作は「表現」とは遠いところにあって、どちらかと言えばジャーナリスティックに情報を伝えることに重きを置いていたと思うんですよ。でもこの雑誌は「芸術表現」として発行している。アート作品ではないですが、態度や生み出したものはとてもアート的だなと思っています。

F:中村さんの考えるラルフ・ギンズバーグとハーブ・ルバリンの黄金コンビにおける評価は理解できたのですが、一般的な評価はどのようなものなんでしょうか?

中村:そもそも出版禁止になっているものばかり発行しているので評価が難しいですよね。だからカウンターカルチャー好きの僕らが褒めすぎるのも多分良くなくて。時代感も相まって「この人たちはただおかしなことをしようとしていただけなのでは」とも言われています。

F:「かっこいいことをしよう」ではなく「一般的な道から外れていればそれでオッケーだったのでは?」という書評もあるということですね。

中村:そうですね。2人の評価は今の時代と比較してみても面白くて、例えば現在の80年代カルチャーの再評価と少し似ているな、と個人的には思ったりもします。具体的には80年代の浮ついた空気とか、80年代音楽でいうと少しだけ安っぽい音や軽い歌詞を今の時代の人たちは評価しているんだと思うんですが、当時の人たちは「浮かれている」なんてこれっぽっちも思っていなかったんじゃないかなって。

ラルフ・ギンズバーグとハーブ・ルバリンの黄金コンビが手がけた雑誌「アバンギャルド」

F:なるほど。ちなみにこの黄金コンビはどのような終焉を迎えるんでしょうか?

中村:この後「アバンギャルド(AVANTGARDE)」という雑誌を発売し、これも12号目で発売禁止となって解散します。ちなみに「アバンギャルド」は、タイトルで使用されていたフォントが「アバンギャルドフォント」という書体になって流通するほど後世に影響を残しています。僕個人としては、技術的に優れているクリエイターだけを評するのではなく、思想犯というか「世界や社会に対して扇動していた人たち」を面白がりたいし、評価される世の中であって欲しいなと思っています。そういう敬意のような気持ちを込めてこの2人の作品は仕入れてしまいがちですね(笑)。

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