snap inc. 日本支社 長谷川代表
Image by: FASHIONSNAP
2011年に誕生した写真共有ソーシャルアプリ「スナップチャット(Snapchat)」。同アプリを手掛けるSnap inc.が日本法人を立ち上げ、今年3月に東京・原宿にオフィスを設立した。犬やレインボーなど多彩なモチーフのフィルターを用いて自撮りが楽しめることで知られているが、日本法人の長谷川倫也代表は「単なる自撮りアプリではなく、全く新しい形のコミュニケーションツール」だと話す。スナップチャットの現在地や、日本市場における今後の展望について長谷川代表に話を聞いた。
Snap inc. 日本法人 長谷川倫也代表
ソニー株式会社でソフトウェアエンジニアとしてキャリアをスタート。2013年にアマゾンジャパンに入社し、日本におけるビデオサービス(現プライムビデオ)の立ち上げメンバーとして、コンテンツオペレーションを統括。その後、モバイルショッピングのプロダクトマネージャーを歴任した。2017年にフェイスブックジャパンに入社。グロース責任者としてフェイスブック、インスタグラムの成長を推進。2021年8月より現職。
"自撮りアプリ"からのイメージ脱却
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ー2011年に米国でリリースされたスナップチャットは、若年層を中心に日本でも人気のアプリのひとつですね。
はい、特に犬のレンズ*や口から虹が流れるレンズなどは一度は見たことがある方は多いのではないでしょうか。日本の漫画からインスピレーションを得た、被写体の顔がそのままアニメタッチになる「Anime Style」レンズなども世界中で人気を集めています。
*スナップチャットのアプリ上で提供するフィルター。
ースナップチャットのユーザー数は?
グローバルでは3.2億人程のデイリーアクティブユーザー*がいます。欧米の利用者数が高く、特にアメリカ、イギリス、オーストラリア、フランス、オランダなどの国では、いわゆるZ世代と呼ばれる若年層の浸透率は約90%です。アメリカのティーンズの間では他のメディアを抑えて最も支持されているアプリのひとつとなっています。9割というと日本のスマートフォンの所有率と同程度の数値ですね。
*1日に1回以上、スナップチャットを利用しているユーザー
ー日常的に使用するアプリとして支持されているんですね。
ユーザー動向を詳しく見ていくと一般的なユーザーは1日あたり平均して30回程度、スナップチャットのアプリを開いていることがわかっています。スナップチャットというと、やはりユニークなフィルターで自撮りを楽しむアプリといった印象をお持ちの方も多いのではないでしょうか。ですが、我々は全く新しい形のコミュニケーションツールであると捉えています。この数値からもわかる通り、"単なる自撮りアプリ"でしたらここまで日常に浸透することはできません。
ーこの数値についてどのように受け止めていますか?
単に面白い顔を撮ってシェアするアプリであれば毎日使おうとは思わないですし、1日30回も開かないですよね。どれだけ面白いアプリでも、多くの人は毎日変顔を撮らないと思うので。スナップチャットのアプリを通じて、コミュニケーションが活発に行われているということが起因していると考えています。また、多種多様なレンズフィルターやARを用いたバーチャル試着など多彩な機能が活発なコミュニケーションを生み出すきっかけとなっているのではないでしょうか。スナップチャットは世界一のARプラットフォームであると私たちは自負しています。
ーAR技術がどうして人々のコミュニケーションを加速させることに繋がっているのでしょうか?
一見するとコミュニケーションツールとAR、それぞれ関係の無い話をしているようにも聞こえるかもしれません。コミュニケーションツールにおいて重要な事はいかに多くの情報を少ない時間で届けられるか。つまり"情報のスピード"が重要なんです。我々が日々手にする情報には便利さや価値があり、なおかつ人々の気持ちが乗せられている。それをいかに少ない時間と労力で届けられるか。こうした観点において、ARは最も効率的に情報を届けることを可能とするツールとなり得ると感じています。実際、脳科学分野の研究でも、ARが脳に与える作用はテレビと比較して約45%高く、記憶の定着率に関しては70%程度高いことが分かっています。
ー多種多様なSNSが台頭していますが、スナップチャットのように気軽な距離感でコミュニケーションを図れるアプリは少ないように感じます。
まさに、私たちは友人と向かい合って気軽に雑談しているようなユーザー体験を追求しているので、スナップチャットには「いいね」やコメント機能は基本的には実装していません。承認欲求に紐付くような装置は外しています。
ー競合他社のSNSを意識する部分はあるのでしょうか。
インスタグラムやティックトックなど他社のSNSはいくつかありますが、スナップチャットとそれらのアプリとではレイヤーが異なると考えています。インスタグラムの場合だと、例えばお洒落なレストランに行った時の料理をシェアするなど、非日常感のある写真を投稿する人が多い傾向ですよね。現在のインスタグラムは、ソーシャルメディアというよりは"ステータスメディア"といった印象です。ティックトックに関しては、一部のタレントが情報を発信する一方で、多くの一般ユーザーは閲覧するのみに留まっている。それとは対照的に、カップラーメンやおにぎりを食べている場面のような、日常のごくありふれたシーンを気軽にシェアできるのがスナップチャットなんですよね。
ーSNS疲れという言葉があるように、昨今は他者からの評価や承認欲求に囚われずに使えるアプリこそ求められているのかもしれません。
スナップチャットは何かを誇示するためのステータスメディアではなく、純粋に気の合う友達と気軽に話すためのツールなのでプレッシャーもストレスも感じることはありません。基本的な仕様として送ったテキストや写真、動画は1回見ると消えようになっています。街でばったり友達と遭遇して会話を交わした時に、それをわざわざ録音して帰宅してから聞き直すことは普通しませんよね。そう考えると、会話の履歴がすべて残るチャットでしたり、既存のツールの方が実情を表していなのではないのかなと。ユーザーが一番自分らしくいられる場所でありたいと願っています。
我々のアプリはソーシャルメディア、ソーシャル疲れの処方箋であると考えています。調査によるとスナップチャットを利用しているユーザーのうち95%が「このアプリは自分を幸せな気持ちにする」と回答しているそうです。既存のSNSですとライク数やコメント数が気になったり、自分のフォロワーにどのような人がいるかという部分が常に念頭にあると思います。例えば、自分の上司がこれを見ているかもしれないとか、何か言われるかもしれないとか。こうしたマインドでいると投稿内容も自ずと左右されてしまう。基本的にすべてのメディアは、オーディエンスによって自身のクリエイティビティが少しずつ歪曲されてしまっているところがあると思うんですよね。
日本市場のポテンシャルは?
ー東京・原宿に新たな拠点を開設し、日本での本格展開を開始しました。日本への本格進出の背景と、長谷川代表がトップに抜擢された経緯について教えてください。
欧米での人気を受けて、Snap Inc.では欧米以外の地域での展開拡大も進めており、近年ではインドで成功を収めています。インドでの成功事例により、スナップ本社として後発の市場参入であっても十分に成功しうる確証を得たことから、アジア地域の強化にも着手するに至りました。代表に抜擢されたのはソーシャルメディアやグローバルで展開するアプリを日本で手掛けてきた実績を評価して頂けたのではないかと考えています。
ー日本市場での課題は?
地域別のユーザー数は非公開のため具体的な数値はお伝えできませんが、スナップチャットの本質的な価値や使い方に対して、まだしっかりと浸透していないように感じています。どちらかと言えば日本ではまだ自撮りアプリとして認知されているため、そこのイメージの払拭といった部分が課題ではないかと考えています。
ただ、スナップチャットが日本にまだ浸透していないのは、プロダクトマーケットフィットという観点においてフィット感が全くないからではなくて、まだ真の使われ方、つまりコミュニケーションツールとしての使われ方が理解されていないだけだと感じていて。ありのままの自分を気兼ねなく見せる事ができるスナップチャットは、むしろ現代の日本人にフィットしているので、スナップチャットのコアバリューをユーザーにしっかりと伝えていくことが必要であると考えます。
ー日本独自の施策も打ち出していくということでしょうか。
スナップチャットが提供する価値というのは、基本的にはグローバルでワークすると思っていますので、日本独自に全く新しい機能を実装するといったことは計画していません。ただし、まだ日本向けのコンテンツというのものが少ないので、その辺りはローカライズしていく方針です。資生堂など既にスナップチャットを活用して頂いている日本企業は増えていますので、今後も日本国内でのパートナーシップは加速させていきます。
ー具体的に計画しているローカライズ施策は?
日本ならではのイベントや祝日に合わせたレンズ、日本の大学生とタッグを組んだレンズ制作に取り組むなど、日本向けの施策やコンテンツを増やしていく予定です。このほかスナップチャットには、いわゆるインフルエンサーの方々を「スナップスター」として認定する仕組みがあるのですが、日本のスナップスターとコラボした企画なども検討しています。
ーレンズは手軽に作れるものなんですか?
実はシンプルなデザインのものであれば割と簡単に制作できるんです。既に早稲田大学や上智大学の学生の方に、サークル内でスナップチャットを体験してもらったり、学校のロゴを取り入れたレンズを作成してもらうなど、さまざまな活動に参加して頂いています。若年層の方はLINEスタンプを自作する人も一定数いるので、そういった感覚で気軽に作って仲間同士で使ってくれている印象ですね。スナップチャットの体験価値を感じ取ってくれている印象があり、手応えを感じています。今後は、学生だけではなくクリエイターの方も巻き込みながら、クリエイティビティを発揮する場を提供していきたいと考えています。
ーグローバルと日本の市場を比べた時に、ユーザーの傾向に違いはありますか?
今現在は大きな差異は感じていません。友達と素のコミュニケーションを図りたいというマインドは日本もそれ以外の国でも共通しているように思います。
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