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セール廃止、ディレクターの退任、福祉業界への参入...創業から22年を迎えた「シンゾーン」の今

シンゾーンの染谷裕之代表取締役

シンゾーン 染谷裕之代表取締役

Image by: FASHIONSNAP

シンゾーンの染谷裕之代表取締役

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セール廃止、ディレクターの退任、福祉業界への参入...創業から22年を迎えた「シンゾーン」の今

シンゾーンの染谷裕之代表取締役

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 「デニムに合う上品なカジュアル」をコンセプトに掲げるウィメンズウェアブランド「シンゾーン(Shinzone)」が、表参道店を移転し、旗艦店としてリニューアルオープンした。新店舗で新たに掲げるスローガンは、「ファッションとウェルフェア(福祉)の架け橋」。2001年の創業から22年を迎える今、新たに福祉活動を始めた理由や、クリエイティブディレクターの退任による社内の変化、セール廃止から5年を経た今の心境について、創業者の染谷裕之代表取締役に話を聞いた。

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“都会の喧騒を離れた一本裏の道で” 新店舗に込めた思い

─まずは、表参道店をリニューアルするに至った経緯を教えてください。

 一昨年、創業から20年を迎えました。コロナになって世の中が大きく変化する中で、これからの10年、20年を考えた時に、現状維持ではなく、進化していく必要性を感じたんです。そう考えるうちに、「シンゾーンの新しい提案を発信していきたい」という気持ちが芽生えたので、新たな発信拠点としてオープンすることになりました。

─リニューアルに伴って、骨董通り沿いに出店していたヴィンテージショップ「プレラブド(Preloved)」を統合しましたよね。

 はい。プレラブドのヴィンテージアイテムを一緒に店頭に並べた方が、シンゾーンの魅力をより発信できるんじゃないかと考えたのがきっかけです。シンゾーンはオリジナルアイテムとヴィンテージのミックススタイルが強みで、以前はシンゾーンの店頭でもヴィンテージアイテムを取り扱っていたんですが、プレラブドをオープンしてからは分けて展開していました。お客様から「(シンゾーンとプレラブドを)一緒に見たい」という要望が根強かったこともあり、統合を決めました。

テーブルに重ねられたジーンズ
ヴィンテージのジュエリー

プレラブドで展開するヴィンテージデニム

─店づくりで大切にしたことは何ですか?

 お客様がゆっくり買い物できる空間を作ること。これまでは、落ち着いて買い物をできる店舗がなかったものですから。

─なかった、というと?

 たとえば、移転前の表参道店はビルの3階で、今の3分の1ほどの面積しかなかったので、お客様が2〜3組入るだけで忙しくなっていました。ルミネに出店している新宿店、有楽町店、横浜店は土地柄、人の出入りが多く忙しない店舗です。そういう意味で、ここは十分な広さがあって天井も高いので、リラックスしてお買い物していただけると思います。

シンゾーン表参道店の店内

表参道店の店内。総面積は約114平方メートルで、移転前の3倍に。

─移転前と比べると、表参道駅から遠くなりますよね。

 はい、駅から少し遠いというのは否めません。ただ、「遠いから来ない」というお客様は少ないと思っています。統合前の「プレラブド」は、表参道駅から骨董通り沿いを10分ほど歩いたビルの4階にあったので、決してアクセスが良いとは言えませんでしたが、沢山の顧客様に支持していただいていました。1号店を表参道に出店した時にも「都会の喧騒を離れた一本裏の道で」というイメージでスタートしましたし、元々そういうロケーションが好きなので、この場所は気に入っています。

福祉をよりよいものにするために、ファッションは役に立てる

─新店舗で新しく発信したいことについて、具体的に教えてください。

 「ファッションとウェルフェアの架け橋」になることです。これは突然思いついたことではなくて、これまでにも、インドとガーナで違法な児童労働の撤廃と予防のための活動を行っている認定NGO法人のACEさんに売上の1%を寄付する取り組みを行ったり、母子生活支援施設のお子さんとお母さん、職員の方々にオリジナルのデニムを作ってプレゼントするといった活動を行ってきました。福祉業界は異業種からの参入障壁が高いと言われていますが、2年ほど前に知り合いを介して児童養護施設とのつながりができて、より本格的な活動が可能になりました。また、昨年7月には、児童養護施設で暮らす子どもたちをサポートするための団体として一般社団法人「いちご言祝ぎの杜」を立ち上げました。新店舗では、里親養育支援を行う一般社団法人のCOCO PORTAさんとタッグを組んで、里親家庭の子どもたちと一緒に内装の一部を制作しました。フィッティングカーテンには子どもたちによるタフティングを刺繍して、店舗で販売するハーブティーにはイラストをデザインしています。

タフティングを刺繍したフィッティングカーテン
ハーブティーのパッケージ

子どもたちによるタフティングを刺繍したフィッティングカーテン

─ファッションブランドとして福祉活動を行う理由は?

 ファッションが持つ「美しい」「かっこいい」というイメージを通してウェルフェアを発信することで、福祉のイメージをより良くすることが可能だと思ったんです。福祉のために私たちは役に立てると気がついて、活動を始めることにしました。

─今後、福祉活動に興味を持つ他のファッション企業のサポート役を担っていくという考えはありますか?

 はい。シンゾーンで掲げているのは「“ファッション”とウェルフェアの架け橋」なので、私たちが中心になって、賛同してくださるアパレル企業にもどんどん福祉の輪を広げていきたいですね。実際に、ある企業から「一緒にやりたい」という連絡をいただいています。

─福祉に力を入れたいと思ったきっかけは?

 福祉に限らず、子どもの頃から人の役に立つことが好きでした。例えば、小学生の頃、母から頼まれたお使いを引き受けると、すごく喜んで「助かったよ」「ありがとう」という言葉をかけられて、僕まで嬉しい気持ちになりました。人の役に立つことで、自分の心が満たされるということが原点になって、そこからずっと「役に立ちたい」という原動力で活動を続けています。

「従業員はファミリー」新体制で意識の変化も

福祉活動について、従業員の反応はいかかですか?

 里子さんとのワークショップでは12人のスタッフが関わってくれたんですが、みんな「良い経験になった」と言ってくれました。言葉にするだけではなく、実際に身を持って体験して初めて、福祉活動をすることの意味を腑に落として理解できると思うので、良い機会になったと思います。「こういう活動ができる会社で働けてよかった」と言ってくれた子もいましたね。

─従業員の存在価値についてはどうお考えですか?

 僕の思いとしては、経営者と社員は平等です。働く仲間であり、ファミリー。とても大切な存在です。従業員のみんなには、仕事を通して「おもてなし」や「人を思いやる気持ち」を育んでもらいたいと考えています。

─従業員の育成にも力を入れている?

 シンゾーンのクレド(理念)では、「仕事を通じて、人としての成長を目指す」「誠実で思いやりがあり、すべてに感謝できる人を目指す」と謳っていて、創業当時から「服だけではなく、人づくりもやっていきたい」という考えのもと、育成を行っています。また、コミュニケーションの場として、全社員と一対一のランチをするのを半年に1回の習慣にしていて、5年続けています。先日、10回目を迎えました。

シンゾーンが掲げるクレド(理念)。モットーは「役に立とう、感謝されよう、心を満たそう(利他心)」。

─2年前、創業時からクリエイティブディレクターを担当していた真太郎氏が退任されましたよね。そのことによる社内の変化はいかがですか?

 ディレクターを中心にした体制から、チーム制に移行しました。今は、クリエイティブディレクターという肩書を設けず、デザイナー、MD、バイヤーがチームを組んでディレクターの役割を担っています。

─新たにディレクターを立てるのではなく、チーム制へと移行したんですね。

 ディレクターの退任を受けて僕自身が一番学んだことは、「1人に頼りきりではいけない」ということ。これからも同じようなことが起こり得るかもしれないので、誰が抜けてもきちんと回っていくような体制にシフトチェンジしました。

─制作チームの変化に伴って、 MDに変化はありましたか?

 指揮を取るのが男性から女性になったので、柔らかいテイストのアイテムが少し増えてきたように感じます。来年のテーマを聞いたんですが、今までのシンゾーンとは少し違った新しい捉え方になっていて、「挑戦してくれているんだな」と感じました。ブランドも時代に合わせて変わっていく必要があるので、その挑戦や変化はポジティブに受け止めています。

創業22年、ブレないアパレル経営の真髄

─コロナを経て、業績はいかがですか?

 コロナ禍を含め、業績は順調です。3年前、2020年7月期の売上高が12億円で、そこから2年後の2022年7月期には19億円に伸長しました。今期の業績は21億円ほどで着地する見込みなので、この3年で9億円近く伸びていますね。

─業績好調の要因は?

 卸事業の強化とECの内製化の2点が大きな理由です。コロナ前から、直営一本だけでなく柱を増やしたいという思いから卸と自社ECに力を入れていたんですが、それが結果に繋がりました。コロナ禍は、実店舗の数字が伸び悩んでいたんですが、その分を卸と自社ECでカバーできました。

─コロナが収束に向かっていますが、実店舗への戻りはいかがですか?

 回復は早い方だと思うのですが、まだコロナ前ほどには戻っていません。元々インバウンドの需要は少ない方でしたが、いまは多少増えている状況です。

─販路拡大に対する現在の考え方は?

 卸に関しては一段落したと思っています。これからは「拡大よりも充実」を掲げて、店舗の売上の成長に時間を当てようと考えているんです。昨年はルミネ横浜に出店して、今年は旗艦店をオープンしました。いろいろな種を蒔いたので、2、3年後にきれいな花が咲くように、当面は水をやったり肥料をあげたりということに専念します。

─2018年にはオリジナルアイテムのセールを廃止していますが、今後もセールをしないという姿勢を貫きますか?

 はい。そもそも、オリジナル商品のセールをやめた一番の理由は「お客様から信頼されるお店になりたい」からです。僕は、ファッション業界全体が消費者から疑問を持たれていると感じていて、その要因の一つがセールだと考えています。例えば最近だと、6月から夏物のセールが始まったり、セールの開始当初は3割引きでも、後から5割引きになったり。買ったものがすぐにセールになったらがっかりしますよね。自分が消費者の立場になって考えた時に、今のセールのあり方を疑問に思って、廃止することにしました。実行するまでに3年くらいの準備期間を設けて、「エッセンシャル」と題した定番アイテム(セール除外品番)の型数を増やす努力をしました。

─それも店舗づくりにおける「安心してお買い物していただくために」という思いに繋がりますね。

 そうですね。セール廃止は、お客様はもちろん、店舗のスタッフにも好評です。例えば、「1週間後にセールが始まる」という時にもスタッフはプロパーで売らなきゃいけないわけですけど、それは心が痛むじゃないですか。そういうストレスがなくなったので、スタッフは喜んでいますね。

シンゾーンの染谷裕之代表取締役

─20年以上シンゾーンを経営されていますが、アパレル業界の変化をどのように捉えていますか?

 私たち作り手にとって、これからはもっと厳しい時代が来ると思っています。現在、日本で売れている洋服の数が年間で14億枚なのに対して、作られているのは28億枚。半分は余る計算です。世間が服で溢れている中、今後は消費者が自身の価値観に共鳴するブランドを選択する時代になっていくと考えています。その中で選ばれるブランドになるために、環境問題や社会への貢献を続けているブランドだということをオープンにすることで、シンゾーンの考え方に共鳴してくださる方が増えれば嬉しいです。

─これからは、「ファッションとウェルフェアの架け橋」を強みにしていく?

 福祉のほかにも、今は「デニムに合う上品なカジュアル」をコンセプトに掲げていますが、これからは「上品」を「上質」に置き換えていこうと考えています。シンゾーンは、メイドインジャパンを主軸にしたものづくりが強みなので、商品のクオリティの高さに焦点を当てることで他ブランドとの差別化を図れると思いますし、お客様からの支持を得られるのではないかと思っています。

以前は「若者のジーンズ離れ」という言葉も耳にしました。

 創業から今まで、何度もデニムが流行したり廃れたりするのを経験していますが、私たちは流行りに左右されず、22年間デニムを提案し続けています。デニムって、100年前にアメリカの農作業用に作られた衣服じゃないですか。それが時を経て、今はパーティーにも着ていけるようなものになっています。誰からも愛される、普遍的なアイテムであり、“シンゾーンスタイル”にデニムは不可欠なので、これからも売れない時期があったり、流行が落ちることもあると思いますが、変わらず作り続けますね。

■シンゾーン 表参道店
所在地:東京都渋谷区渋谷4-1-18 南⻘山ノグチビル1階
営業時間:月〜土 12:00〜20:00/日 12:00〜18:00
敷地面積:114平方メートル
公式サイト

■一般社団法人 いちご言祝ぎの杜:公式サイト

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