新しい生活様式はもはや日常へと移行し、それに伴い企業の舵取りも大きく変化している。FASHIONSNAPは経営展望を聞く「トップに聞く 2022」を今年も敢行。第2回は三陽商会の大江伸治社長。赤字が恒常化する同社の社長として外部から招聘されてまもなく2年、現在推進する再生プランの進捗とは。
■大江伸治
1947年生まれ。京都大学卒業後、三井物産に入社し繊維部門を歴任。2007年にゴールドウインの取締役専務執行役員に着任し、業績回復に貢献した。その実績が買われ、2020年3月に三陽商会に入社。同社副社長を経て同年5月から現職。
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コロナの“防衛戦”で得たこと
―2021年はどんな1年でしたか?
去年に引き続きコロナに翻弄された一年だった。7月以降はコロナの収束に向かって市場も正常化するであろう、という想定のもとで計画を組んだわけですが、しかしながら実際は想定を大きく超えて拡大し、かつ長期化してしまった。前提条件において大きな誤算が生じ、それに対する対応を迫られたということです。
―今期(2022年2月期)は2年タームの「再生プラン」の最終年度になります。
上半期決算においては事業構造改革が非常に進捗して、売上未達ではあったんですが営業利益をはじめとする収益面では若干上回って着地できたのは安心しました。厳しい状況の中で“防衛戦”を必死に戦ってなんとかしのぎ、戦線を維持することができたと総括しています。
■2022年2月期上期(3〜8月)累計期間の連結決算 ※()は計画差
売上高:164億3600万円(−17億5000万円)
営業損益:20億3300万円の赤字(+1億1000万円)
経常損益:18億7600万円の赤字(+2億7000万円)
四半期純損益:19億1000万円の赤字(+2億6000万円)
下半期以降は緊急事態宣言が延長されたこともあり、上半期に引き続き非常に苦しい戦いを強いられました。10月の宣言解除後は我々が期待したような市場の回復は実際にはなく、割とスローなスタートだった。ただ後半は、気温の低下とともにグッと売り上げが上がってきてね。結果として10月に関しては前年超えをクリアでき、11月は前年同月比112%まで回復できた。12月に入ってからも防寒衣料の動きが良くなったこともあって、まあまあの数字で推移しています。第3四半期決算(9〜11月)に関してはほぼもくろみ通り。特に粗利率がものすごくいいんですよね。これは徹底してセールを抑制して、プロパー販売にこだわったということ。
つまり総括すると、前半は防戦一本、後半の10月以降は少し攻めのスタンスをとれるようになって、徐々に良くなってきているという状況です。
―プロパー消化率は?
昨年は40%台をうろうろしていたが、今上半期は57%に、そして第3四半期には71%で着地した。この粗利率は下半期の目標に対して1.5ポイントほど上回っていますから、今の状態が第4四半期も継続できれば、目標である通期の黒字化も見えてくるのではないかと。
■三陽商会 2022年2月期通期予想
売上高:415億円
営業利益:1億円
経常利益:5000万円
当期純利益:ブレイクイーブン
―プロパー販売が進捗した要因をどのように捉えていますか?
まず1つは、経営方針の問題ですよね。先ほど申し上げたようにセールをできるだけ抑制することに徹底した事と在庫管理の強化ですね。今年から仕入れの方式を少し変えており、初回発注を全体の予算に対して8割程度に留め2割を保留する形で調整し、下振れた場合には余計なものを仕入れない体制に変更しました。
商品企画に関してはご承知の通り、品番・SKUを徹底して絞り込んでいるんですが、商材を絞り込んだことによって仕入れの真剣みが増したと思う。これまでが真剣じゃなかったというわけではなく、限られた商品を売り切らないと数字を作れない、ということで編集力が上がったと思いますね。
アウトレットの好調を支える「専用商材」
―緊急事態宣言が明けてから、消費者の動向に変化は?
北米と違って、日本は外出について解禁ムードになっていないというか。百貨店の集客を見ても前々年実績に達していないでしょう。昨年よりは良くなっているけど、コロナ前に戻ったわけではないという状況だと思います。
■2021年11月の前年比実績
百貨店:117%
直営店:89%
EC・通販:93%
アウトレット:120%
―直営店も回復に遅れが出ているように感じますが。
百貨店に比べると回復が遅いかなという実感はありますけど、店舗数を減らしたことが数字的には影響していますが、実際は個別店ごとの実績は悪化してないですから、大きな問題とは捉えていないですね。
―一方でアウトレットは好調ですね。
在庫をぐんと減らしたものですから、プロパー店からアウトレットに回る球数が不足しちゃったんですよ。ですので、どのブランドも積極的にアウトレット専用商材を投入していて、その比率はブランドによっては半分くらいになっていましてね。専用商材はプロパー並みの粗利が確保できるので、アウトレットの粗利率が驚くほどものすごく良くなっている。
―アウトレット専用商材ではどういった商品を打ち出しているんですか?
いわゆるプロパー店でよく売れた商品のスペックを少し変えて、値段を抑えて販売しています。アウトレットは極めて合理的な市場ですよ。
―好調の事業は?
おしなべてどのブランドも割と良いですけど、「ポール・スチュアート(Paul Stuart)」はすごく良いですね。リモートワークが定着したことでカジュアル化にシフトするブランドが多いですが、逆にポール・スチュアートはコア商材であるテーラードラインをしっかりラインナップし、実際にすごくよく動いていますよ。女性でいえば通勤用のジャケットやセットアップなんかが人気ですね。メンズについてはパーソナルオーダーのスーツが特に好調で。汎用的なスーツは市場的にも調子が良くないと聞いたけど、我々のようなグレードの高い高額なスーツは割と売れてますね。
―不採算事業として挙げている「ラブレス」の進捗はいかがでしょうか?
戦略的に縮小均衡策をとり、均衡点はどこにあるのかを探っていたが、やっとそれが見えてきた。あとは店舗数と品番数も減らしたことによって、僕自身としてはラインナップがすごく良くなったと感じていますね。
―具体的にどのように改善されたのでしょうか?
お客さんに「どこに差別化要素があるか」と意見を聞いたら、「三陽商会のセレクト型ショップ」というのが一つの付加価値になっていたことがわかってね。それで三陽商会を象徴する商品として「100年コート」を置くように指示を出したら、割と動きが良いんですよ。ポール・スチュアートの(日本におけるディレクターを務める)鴨志田康人氏のディレクションによるカプセルコレクションも売れていますね。あとは、テレビドラマで有名なタレントが着用した商品がネットで話題になって追加生産が続いたり。事業としての損益分岐はまだクリアできていませんが、今の流れで行けば、来期あたりには少なくとも先の展望が見えてくるんじゃないのかなと考えてます。
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