「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」のビューティラインが4月、日本に上陸した。ビューティアイテムのローンチが発表になった時から、その感度の高いパッケージからもSNSでは大きな反響が生まれ、日本への導入を臨む声も多く聞かれていた。ドリス ヴァン ノッテンのほか、「ラバンヌ(Rabanne)」や「ジャンポール・ゴルチエ(Jean Paul Gaultier)」、「ニナ リッチ(NINA RICCI)」、「クリスチャン ルブタン(Christian Louboutin)」などのファッションとビューティのほか、「バイレード(BYREDO)」「ラルチザン パフューム(L'Artisan Parfumeur)」などを擁するプーチ(PUIG)のアジア太平洋地域ビューティアンドファッション担当副社長 アドリアーナ・ヴィエホ (Adriana Viejo)氏に、ドリス ヴァン ノッテンのビューティラインの進捗を中心に、プーチの現状と戦略を聞いた。
ADVERTISING
■アドリアーナ・ヴィエホ (Adriana Viejo):アジア太平洋地域ビューティアンドファッション担当副社長
バスク地方出身スペイン人。シンガポールに在住。ニューヨーク大学経営大学院のMBA取得。18年前にプーチに入社。うち11年間、ラグジュアリーなビューティ&ファッションのアジア太平洋地域の事業を率いてきた。「担当地域をあちこち飛びまわることも多く、周囲を取り巻く多様な文化を日々楽しんでいます。読書家で、人生は勉強の連続。これまでヨーロッパ、アメリカ、アジアで勉強し仕事する機会に恵まれました」。
ーまずは日本展開がスタートしたドリス ヴァン ノッテンのビューティラインについてお聞きします。そもそもローンチした理由を教えてください。
ドリスが持つ独創的なカラーとテクスチャーの世界観をまったく別の新しい製品に落とし込み、他と一線を画したビューティラインを作り出すことは、ドリス本人にとって夢のプロジェクトでした。
彼がやりたかったのは、花やアート、文化、時代を超えた夢の情景から受ける刺激が生み出す情熱や感情を表現すること。フレグランスラインに関してドリスはさらに探求し、こういったものを香りで表現しようと考えました。
ーメイクアップアイテムも展開しています。
ドリスが巧みな色使いや強い情熱を持っていることは皆さん、知っていますよね。カラーやテクスチャーの意外な組み合わせを生み出す魔法のような力があることを考えれば、製品構成にメイクアップが加わることは自然ななりゆきでした。唯一の条件として、すでに世の中にあることとは異なるやり方で、これまでにない製品を生み出すことでした。
最初に手に取るのは「リップスティック」
ーグローバル展開は2022年3月にアントワープやパリ、ロサンゼルスなどの一部ショップからスタートしています。ローンチ後の状況は?
ローンチ後、「The Business of Fashion(BOF)」や「ヴォーグ(VOGUE)」などのトップメディアをはじめ、世界各国のメディアで驚くほど幅広く取り上げられました。まだ試行錯誤を繰り返している段階ですが、予想以上に好評ですね。ローンチ後の数カ月でフレグランスとメイクアップは目標を大幅に上まわる成功を収めました。地域ではヨーロッパとアメリカ市場で大きな成功を収めています。
アイテムでは、フレグランスが当社のビジネスの基幹でもあり、高く評価されていますが、実は多くのお客さまが最初に手に取っていただけているのがリップスティックなんです。ラインにアクセサリーを加えたことで差別化ができていて、ファッションとの強いシナジー効果が生まれたことが、後押ししていると思います。
ー導入店舗は限られているように思います。
店舗に関しては、エクスクルーシブなアプローチを維持しています。そのため主要な取引先でプレミアムなスペースを確保することができているのではないでしょうか。当社の展開には2つの大きな柱があり、1つはドリス ヴァン ノッテンのブティックやオンラインショップを通じたDtoC。もう1つは、「ル・ボン・マルシェ(Le Bon Marché)」、「セルフリッジズ(Selfridges)」、「サックス・フィフス・アベニュー(Saks Fifth Avenue)」をはじめとする高級店舗での展開です。この2つの販路に注力することで、ブランドの知名度を活かしつつオンラインと実店舗でのショッピング体験を提供しています。今後もこのエクスクルーシブな戦略で、新たな市場に進出しブランドを拡大していく予定です。
ーではアイテムはどうでしょうか。新しい展開は?
もちろん、製品ポートフォリオの設計と開発についても進んでいます。実は当初の計画は現在より控え目で、時間をかけて各カテゴリーを育て、メイクアップとフレグランスに集中し、ベストセラーを中心にブランドを活性化するというものでした。またポートフォリオに独自性を加えるためにアクセサリーもローンチし、ファッションからのストーリーを取り入れ、異なるカテゴリーの商品との間に強い一貫性を持たせました。ローンチから1年以上が経ち、ドリス ヴァン ノッテンがファッション界だけでなくビューティの世界にも大きく貢献できることが証明された今、さらに大きな目標を掲げることにしました。
ラインナップを拡充し、売上、認知ともにアップへ
ー大きな目標とは?将来に向けた戦略を教えてください。
ビューティの商品のラインナップを増やし、各カテゴリーの売上を伸ばして、認知度と人気をさらに高めることです。
まずは、最高品質の原材料(自然由来の成分90%以上)と、非常にエクレクティック(折衷的)なデザインを投入し、フレグランスラインの強化を目指しています。フレグランスは自己表現の手段であり、使う人が周囲に同化するのではなく、際立つためのになると、確信しています。 そしてメイクアップ製品ですが、これまでと同様に、成長をけん引する大きな力の1つとしてリップスティックが中心となります。リップスティックは、ブランドの存在意義を維持し、ブランドの哲学でもある、インパクトのある色使いを表現する重要な柱でもあります。
最後にアクセサリーですが、ドリス ヴァン ノッテンのファッションとのつながりを強める役割を果たすことからも、もっとスポットライトを当てたいと思っています。
ーようやく日本でもローンチされ、話題を集めました。
青山にあるブティックの旗艦店にビューティラインを導入しましたが、フレグランス、メイクアップともに目を見張る成果を出しています。日本ではドリス ヴァン ノッテンの美しいプリントと大胆な色使いが高く評価されているため、ビューティラインもまた、厳しい審美眼を持つ洗練された日本の消費者に受け入れられると確信しています。
22年度は純利益71%増と伸長、25年に7000億円以上へ
ーここからは、プーチ全体についてお聞きしたいのですが、現在のビジネス規模を教えてください。
2022年の当社の営業収益は前期比40%増の36億ユーロ(約5611億5000万円)を超え、純利益は同71%増の4億ユーロ(約623億4000万円)でした。この伸びを受けて、2025年の収益目標45億ユーロ(約7015億9000万円)達成の見込みが強まりました。
当社の事業は全地域において2021年比で30%を超える成長を達成しています。収益の10%を占めるアジア地域では、2022年は前期比41%増を記録。今後、日本では当社のニッチブランドに集中し、ファションとビューティ事業の展開を加速する予定です。
ー日本ではメイクアップやフレグランスを展開するクリスチャン ルブタンやバイレードが、フレグランスのラルチザン パフューム、「ペンハリガン(PENHALIGON'S)」も人気があります。またこのほどブランド名を変更したラバンヌからもメイクアップのローンチが発表されました。プーチ傘下の他ブランドの状況は?
2022年、選択的流通によるフレグランスの世界市場で、当社はシェア10%という画期的な成果を収めました。この成功は、世界でトップ10に入るラバンヌと「キャロライナ ヘレラ(Carolina Herrera)」の2大ブランドをはじめとする当社のブランド力によるものです。
同様に、直販事業に注力するニッチブランドも、ペンハリガン、ラルチザン パフューム、バイレード、クリスチャン ルブタン、ドリス ヴァン ノッテンを中心に、アジア地域における成長計画を着実に進めています。ファッションも当社の他部門と同様に成長を続けており、特にアジア地域では業界の指標の1つとなったドリス ヴァン ノッテンに引き続き注力していく予定です。
クリスチャン ルブタン
ー今後3~5年後の売上目標は?
2021年3月発表の当社の3ヶ年計画では、2023年に売上30億ユーロ(約4677億6000万円)、2025年に同45億ユーロ(約7015億9000万円)を目標としていました。つまり2020年の売上を3年で2倍、5年で3倍にするという計画です。過去2年の成長によって2020年の純収益を倍増するという目標は1年前倒しで達成し、2025年の収益目標45億ユーロ達成の見込みが強まりました。
ー最後に、ビジネス戦略におけるサステナビリティの取り組みについて教えてください。
主要な世界戦略手段の1つが、ESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組みです。そのために2つの主要な取り組みを通じて業界におけるサステナビリティの指標になることを目指しています。1つは、パリ協定に基づき、2030年までに地球温暖化を1.5℃に抑えること、もう1つは2050年に温室効果ガス排出量を実質ゼロにすることです。2022年、この目標を出発点として、各ブランドのアイデンティティと世界戦略に基づき、ESGの観点からブランド毎に具体的な目標を定めました。
また、2030年ESGアジェンダのロードマップをもとに生物多様性戦略を策定し、ESG運用の主要方針を新たに定めました。達成された目標の中で特記すべきは、使用電力の50%が再生可能エネルギーを使用していること、フレグランスの全生産工場から埋め立てごみが一切排出されていないことです。
社会的責任に関しては、影響力の大きいプロジェクトの指導や資金援助をサポートするインビジブル・ビューティ・メーカーズ社会貢献プログラムを引き続き進めていきます。7期に入ったこのプログラムは、平等、女性のエンパワメント、環境に配慮した生産や消費を支援するための協働や提携を生み出すことに主眼を置くものです。2014年の創設以来、ヨーロッパ、ラテンアメリカ、アメリカ、アフリカ、アジアの50を超える組織がこのプロジェクトに参加し推進しています。
(聞き手:福崎明子)
ADVERTISING
PAST ARTICLES
【インタビュー・対談】の過去記事
RELATED ARTICLE
関連記事
READ ALSO
あわせて読みたい
RANKING TOP 10
アクセスランキング
銀行やメディアとのもたれ合いが元凶? 鹿児島「山形屋」再生計画が苦境