Image by: 木村あつ子
人気ヘアスタイリストに迫る連載の第4回。今回は、ファッショナブルなセンスで人気を博しているSENSE OF HUMOUR 木村あつ子さんにインタビュー。今回も使い捨てカメラで木村さん自身が撮影した画像を見ながら、若手必見の“ストレスの交わし方”、そして毎日できるセンスの磨き方についても教えていただきました。
#4 木村あつ子 きむらあつこ
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福岡県出身。大村美容ファッション専門学校を卒業後、都内サロン2店舗を経て、現在SENSE OF HUMOURのトップスタイリストに。おしゃれで品のあるラフなヘアに定評がある。
SENSE OF HUMOUR センスオブヒューモア
表参道駅徒歩5分に位置するヘアサロン。オーガニックビューティブランド「SENSE OF HUMOUR」初の直営店としてオープン。有名サロン出身のスタイリストが多数在籍し、再現性の高いカットとダメージレスなカラーリングが人気。
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木村あつ子さん(SENSE OF HUMOURにて)
―美容師になった理由を教えてください。
小学生のころからサロンに行くのが大好きでした。髪を切っているところを見るのがとにかく楽しかったことを覚えています。本気で美容師になろうと決めたのは、高3の春ごろ。進路選択を迫られたとき、大学ではやりたいことはないなと思い、美容学校に行くことを決めました。当時、雑誌やファッションのテレビをよく見ていたので、美容やファッションに興味があったんです。
―ファッションの道ではなく、美容の道に進まれたのですね。
指先で何かをしたかったんでしょうね。職人のようなことを極めたくて、選んだんだと思います。学生時代は、福岡から毎月一度は東京に行き、行きたいサロンに通い詰めていました。入りたいサロンはあったものの、「本当にここでいいのかな?」といろんなサロンへ見学に行ったりして。入ってみて違ったら嫌じゃないですか(笑)。妥協ができないタイプだったというのもあるんですけどね。
―結局そのまま入りたいサロンに入社されたのでしょうか?
希望していたところは作るヘアスタイルが好みで髪を切ることへのストイックさがとてもかっこいいサロンだったのですが、アシスタント期間が10年かかるというサロンでもありました。ありがたいことに希望していたサロンに入社できそうだったのですが、直前まで悩んでセンスを磨きつつ3年でデビューできるカリキュラムのあった別のサロンに入社することに決めました。
―アシスタント時代はどう過ごされましたか?
先ほども言ったように、1社目のサロンはカリキュラムがしっかりして、アシスタント同士で仕事の奪い合いがあるようなアグレッシブな場所でした。でも、今思うとそれがよかったなと思います。いい緊張感があったし、泣きながら帰ったこともあるし、先輩は厳しかったし、でもだからこそ「抜かしてやろう!」って先輩に対しても思うこともできました。自分が退いたらもう終わりだと思っていましたね。とにかく早くデビューしたくて頑張って、アシスタント期間3年を経てデビューできました。
ー何を意識して仕事をしていましたか?
当時は気持ちを切り替えること、自分自身を振り返ることを意識していました。指摘を受け、落ち込んだときは前の自分と比べます。そこで自分の変化に気づくことができ、「しっかり前に進んでいるぞ」という感覚を掴み、自分を奮い立たせることができました。
―そういった過酷な状況に心が折れてしまう人もいるかと思います。木村さんはどのように踏ん張ったのでしょうか?
当時、理不尽な物言いをしてくる先輩がいたのですが、それは“不要なストレス”だと理解してある程度スルーするようにしていました。うるさいなあ、くらいに流せるスキルを持つのがいいんじゃないかなと考えています。“不要なストレス”は、我慢しなくていいものなので、そこから抜ける手段を考えたほうがいい。その一方で、私がアシスタント時代に感じた同期同士の闘争心なんかは、“必要なストレス”だったんじゃないかなと思います。自分を成長させるためにはある程度ストレスが必要なので。
もちろん相談に乗ってくれたり、声をかけてくれたりする上司もいて、指摘してくれたことも私の成長のために言ってくれていると理解していたので頑張れました。
長野の乙女滝。「疲れたときは自然にふれてリフレッシュ」
―“必要なストレス”と“不要なストレス”があるということですね。
向上するための“必要なストレス”と、我慢しなくていい“不要なストレス”。この2つを自分の中でうまく棲み分けて行動していけば、厳しい状況でも踏ん張れるかなと思います。自分で考えて行動できれば、きっとうまくストレスを感じ分けられるはずです。
―デビューされたときのことを教えてください。
銀座にある店舗でデビューをしたので、マーケティングをするために雑誌を読み漁ったり、街を歩いて銀座の街が求めるものを勉強しました。そのため売上を伸ばすことができたのですが、常にビジネスのことを考えていたり、スピード勝負だったので、効率よくサロンワークを回すことで頭がいっぱいになり、心が死んでいく感じがしました。
売上を上げれば評価が付くというのは一般企業にとって当たり前ですが、せっかくファッション、ビューティが好きでこの業界に入ったのに、売れるヘアのことばかり考えている自分に嫌気がさして、一旦数字社会から逃れたいと退社することを決めました。
―1社目を退社されたあとは別のサロンに移ったのですか?
2社目に入ったのはサロンでは、「センスを磨くということ」や写真の撮り方、ヘアのバランスやファッション、それ以外にも物事を深く掘り下げることを学ばせていただきました。本当にストイックな方々がいたので仕事に取り組む姿勢そのものが勉強になり、そこで学んだことを活かしながらやりたいことをするためにフリーランスになることにしました。そのあたりから、自分の好きなテイストでヘアを作るようになったんです。でも最初はどうしても売上が下がるんですよ。そのときが一番つらかったのですが、こればっかりは踏ん張るしかないと思って頑張りました。
―その後、現在のSENSE OF HUMOURに入社されたのですね。
はい。SENSE OF HUMOURがオープンすると聞き、履歴書を送りました。今年で3年目ですが、とてもフレックスな感じで居心地がいいです。日々センスを磨きながら、自由にのびのびとやらせていただいています。
お気に入りのCLEMENSのスニーカー。「サロンワークはほとんどスニーカーか平らな靴です」
―“センスを磨く”ということは、大切だけど難しいことだと思います。どのようにセンスを磨かれているのでしょうか?
私は、細かくジャンル分けをしてPinterestに写真を保存し、いいなと思った写真に対して「なぜいいと思ったのか」を深堀するようにしています。「顔周りがかわいい」「世界観がいい」「光の入り方が素敵」など理由はさまざま。ちょっと深堀するくらいでいいんです。30ジャンルくらいに分けていて、気づいたらもう5000ピンくらい溜まっています。いいなと思ったスタイルを掘り下げられないとなんだか薄っぺらい人になってしまう気がするので…。
―なるほど、そうするとモノのよさがわかってきそうですね。
例えばInstagramはドキッとしたら「いいね」を押すと思うのですが、でも私は、そこでなぜドキッとしたのかを考えていかないと自分のものにはなっていかないと思うんです。80’sのスタイルが好きだったら、そのよさのルーツを理解したい。それがセンスを磨くことに繋がっていくんじゃないかなと思います。
―Instagramでの発信のこだわりはありますか?
バズリやビジネスライクに考えると邪念が入り、ブレてしまうのでInstagramには自分がいいと思ったものしか載せていません。そうすると、お客さまも自分と同じジャンルの方がたくさん来てくれるようになり、カウンセリングもスムーズに。同じ感覚を持っている同士なので、私自身もとても居心地がいいです。
―最近は生花を習いに月一で京都に通われているとお聞きしました。これもセンスを磨くことに通じているのでしょうか?
コロナ禍でどこにも行けない状況が続き、インプットがSNSだけになってしまったなと悶々としたタイミングがありました。自分のやっていることが偽物みたいに感じてしまったんですよね。日本人なのに海外の文化ばかり見ていて、現地に行くこともなく、モノの本質にも触れられない。そう思ったときに、日本人として日本の文化に触れるのが一番なんじゃないかと考え、以前から興味のあった生花を習い始めたんです。
毎月通っている京都の生け花教室。「自分のインスピレーションになっているし、バランス感覚が養われます」
京都に行くたび必ず立ち寄るお香屋さん
―習い始めて変化はありましたか?
生花は、立体的なバランスや美意識を大事にするので、髪を切っている感覚と同じなんですよ。そういうことも自分のインスピレーションになっているし、シンプルにバランス感覚も養われています。将来は、こういった日本の文化を発信できる美容師になりたいなと今漠然と考えているところです。
―では最後に、美容師を目指す人、若手美容師、さらにこの記事を読んでいる方へメッセージをお願いします。
若いころは、“誰をどのジャンルの師匠にするか”を考えていったほうがいいと思います。例えば、売上の上げ方ならこの人、ヘアのことを聞くならこの人、ファッションならこの人…というように分けるといいですね。結構多いのは、同じカテゴリのことをいろんな人に聞いちゃう人。それだと絶対自分の軸がブレると思うので、”この人はこのジャンルに長けている”というのを見極めて聞いていくのが早く成長できるカギだと思います。あとは、受け身じゃなくて、能動的に動くこと。自分で考えて行動していくことは必須です。
(写真:木村あつ子、企画・編集:福崎明子)
■宮本香菜
編集者、ライター。出版社2社を経て独立。書籍の企画・編集、ブックライティング、記事等のインタビューなど活動中。ペンギンが好き。今回の「now&then」の聞き手、文を担当する。
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