インスタントカメラの写真から人気美容師の日常に迫る連載・第25回。今回は、東京・表参道にあるKATETAYLORから山庄司祐希さんが登場。美容師としてメンズ特化に舵を切った時の思いから、KATETAYLORへの想い、さらには最近始めたという別荘サブスクなど働き盛りの今だからこそ見直したオン・オフの切り替えの話まで語っていただきました。
#25 山庄司祐希 やましょうじゆうき
インスタグラム
1992年4月27日、東京都出身。日本美容専門学校卒業後、1店舗を経て渡仏。帰国後に鹿児島県与論島へ渡った後、ラーメン屋でのアルバイト経験を経てKATETAYLORへ入社。2022年より同店代表に就任。2023年度PREPPYリアルトレンド大賞Men’s PREPPY部門グランプリ受賞。メンズヘアのデザインに定評があり、多くの男性客から支持を集めている。
【店舗プロフィール】
KATETAYLOR ケイトテイラー
東京・表参道にあるトレンドヘアサロン。トレンド感満載の再現性のあるヘアスタイルになれると業界内外で話題。大きな窓から光が差し込む開放感のある店内が特徴的。洗練された技術を持つ美容師が多数在籍し、東京と熊本合わせて5店舗を展開している。
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仕事とプライベートのバランスを見つめ直した2024年
⎯⎯ たくさんの写真を撮ってきていただきましたが、旅行の写真も多いですね。
去年から登録している「SANU 2nd Home」という全国の別荘に泊まれるサブスクリプションなんです。毎月どこかしらの別荘に泊まっていて、この写真は河口湖の別荘に行ったときのものです。これまで山中湖や下田、淡路島、那須、足柄などさまざまなところに行っています。
⎯⎯ そんなサブスクがあるとは…! こちらのサブスクに入ろうと思ったきっかけを教えてください。
実は2023年に忙しすぎて体調を崩してしまって。半年くらい蕁麻疹が治らない状態が続いて大変だったんです。だから2024年は仕事だけではなく、「健康とリラックス」をテーマに過ごそうと思い立ちました。
100%でやっていた仕事を、80%の力でできるように。だからといって仕事の質を落とすのではなく、残りの20%は健康やマインドのケアに使おうと思ってこのサブスクに入りました。SANU 2nd Homeの会費は決して安くはありませんが、自分のリラックスのためにお金と時間を使おうと決めたのも大きな決断だったと思います。
⎯⎯ それまではずっと仕事に100%という感じ?
そうですね。予約もできる限り入れて根を詰めて働いていたのですが、面白いことに売り上げは2024年のほうが伸びたんです。
⎯⎯ すごい! なぜ売り上げが伸びたと思いますか?
これまでは、売り上げが下がってしまうのであまり有給を取らないようにしていたり、休みの日も呼ばれたら店に出たりなど、割と断らずに対応していた部分があったのですが、「休むときはしっかり休む」という切り替えをしたおかげかなと思っています。別荘に行くと泊まりがけになるので、必然的に連休を取らなくちゃいけない。だから有給も有効活用するようになりましたね。
昨年先輩と行ったという那須の別荘。サウナ付き
店に立つ日数は減ったけど、きちんと休んだ分、店に出たときのパフォーマンスも上がったし、体調も安定してフルで予約も取れるようになった。そういうメリハリが売り上げアップにつながったのかなと思います。
⎯⎯ そもそもSANU 2nd Homeはどのようにして知ったのでしょうか?
僕のお客さまである、建築デザイナーの安齋好太郎さんという方に教えていただいたことがきっかけです。コロナ禍の前から髪を切らせていただいているのですが、安齋さんが手がけた建築物がSANU 2nd Home内にあり、安齋さんのデザインした建物に泊まりに行くのが楽しみのひとつになっています。
毎回違う別荘に行って、その別荘を作った人の頭の中を覗けるのは、作り手のヘアを担当している自分だけの特権だなと。「内装はなぜこの形をしているのか?」などと考えるだけで楽しいし、建物の形1つひとつに意味や意図があると思うとワクワクしますね。安齋さんに「今月はここ行ってきました!」とサロンワーク中にお話しするのも楽しいです。
雪の降る那須の別荘。
⎯⎯ 別荘には車で行かれるのでしょうか?
はい。都内近郊の別荘だと、だいたい2時間ほどで着きます。運転している時間も頭を整理する時間になっていいですね。1人で運転しているときは、ぼーっと気持ちを整理することもできます。
昨年購入した愛車は96年製のボルボ850。「古い車のシンプルなデザインが好き。ハンドルはウッドステアリング、シートもベージュですごく好みでした」
⎯⎯ 別荘では仕事もされるのでしょうか?
簡単な作業などは別荘に行ってやることも多いです。同じ仕事でも家でやるのとはまた気分が違っていいんですよね。場所を変えると、内容や頭に入ってくるものも新鮮になるので、僕にとって大切な時間です。
別荘の作業スペースにて。「自分の技術向上と整理のためにオンラインサロンを立ち上げる準備中。最近別荘でよく資料を作っています。オンラインサロンは近々オープン予定です」
⎯⎯ 食事はどうされているんですか?
食事はその土地の特産品を使って料理をしたり、持ち込んだりします。友人をはじめ、先輩や後輩と一緒に行くことが多く、料理を作ってみんなで食べるというのも大切なコミュニケーションの一環です。
⎯⎯ 料理はよくされるのでしょうか?
最近は仕事で忙しくて外食することが増えていますが、余裕があるときは料理をしています。アシスタント時代は単純にお金がなかったというのもあって、ほぼ毎日自炊をしていました。
得意料理は、強いて言うなら納豆チャーハンですかね。コロナ禍にハマってからずっと作っているかも(笑)。ハマったものをずっと食べるタイプなので、もう5年くらい作り続けています。料理番組や料理系のYouTubeも見るのも好きで、「これおいしそう!」と思ったら飽きるまでそればかり作ることが多いです。
⎯⎯ある意味料理もクリエイティブなものですが、仕事と結びつく部分もあったりしますか?
料理をしているときは無心になれるので、仕事のことは忘れていますね(笑)。でも調味料や道具にはこだわるタイプなので、職人気質的なところは仕事と共通しているかもしれません。
⎯⎯ では、仕事道具についても聞かせてください。サロンワークで使用するハサミのこだわりはありますか?
メンズ用とレディス用のシザーズ(ハサミ)は使い分けていますね。写真の上から2つ目にある黒っぽいシザーズがメンズ用。メンズの髪は硬く刃の切れ味が落ちやすいので、マット加工の切れ味が落ちづらいハサミを使っています。
⎯⎯ 山庄司さんのサロンワークスタイルはどのようなものでしょうか?
実はあまりしゃべらず、黙々と切っていくタイプです。接客では、1社目の先輩に教わった「接客はお客さまのツボを押さえること」という言葉が今でも自分の軸となっています。しゃべりたいお客さまもいれば、静かに過ごしたいお客さまもいるので、見極めて接客するように意識していますね。
僕のお客さまはほとんどが男性。時間がない中で来店される方も多く、「素早く切って、素早く帰す」というのも心がけています。スピードや作業効率はすごく意識しているかもしれません。
背水の陣で挑んだ「メンズ特化型美容師」
⎯⎯山庄司さんの考える、支持を集めるメンズヘアの定義とは?
流行るメンズヘアというのは、学生から社会人までできる髪型のことだと思っています。例えばウルフなどデザイン性の高い髪型はもちろん流行りやすいのですが、一方でスーツを着たときには似合いにくかったりする。「オンのときもオフのときも両方キマる髪型」というのが多くの支持を集めやすいのかなと思います。
最近だと、ツンツンと毛先を立ててスタイリングする「スパイキーショート」というベリーショートが流行りましたね。これも髪を大人しくさせれば仕事中の髪型としても十分機能するんですよ。
⎯⎯ メンズのヘアデザインにおけるこだわりはありますか?
メンズヘアって、マス的な髪型とデザインヘアに二極化しやすいのですが、僕はその中間を取れるデザインをつくることを意識しています。マスに寄りすぎず、でもちゃんとデザイン性もあるようなちょうどいいスタイルです。
あとは、再現性のある髪型をつくることも心がけています。インスタグラムに載っているレディスヘアでも「これ本当に家でできるのかな?」というスタイルがよくあるじゃないですか。メンズも同じで、「かっこいいけど、自分でできるかな?」と思われる髪型は受け入れられにくい。だから、再現性のある髪型を提案することが僕のこだわりです。
⎯⎯ 現在のメンズ比率はどれくらいでしょうか?
今は8~9割がメンズのお客さまですね。元々はメンズとレディスを半々でやっていたんですけど、その頃から来ていただいている女性のお客さまも少しいらっしゃいます。
⎯⎯ 元々はメンズとレディスを半々でやられていたのですね。
じつは、メンズとレディスを1対1でやるのが夢だったんです。僕が美容師に憧れていた頃は雑誌の時代。人気美容師さんが毎月メンズとレディス両方の雑誌に出ていて、どちらでもかっこいいスタイルをつくっていたんです。今だと「特化型美容師」というのは当たり前ですが、当時はどちらかに特化する文化がそもそもなくて、両方できて当然、できないとダサいという感覚が自分の中にあって。
僕が25歳でデビューした頃にインスタグラムが普及し始めて、そこから特化したほうが集客しやすい流れになったんですよね。でもどちらかに特化することにはすごく抵抗があって、実行に移せなかった。「メンズもレディスも両方できてこそ美容師」というこだわりがあったので、頑なに両方やろうとしていました。でも、それだとなかなか売り上げが伸びなかったんです。
28歳くらいまでずっと売り上げが思うように伸びず、「本当にこの仕事でいいのかな」と考え始め、一般の転職サイトに登録したこともありました。
⎯⎯ 違う美容室に転職ではなく、一般企業に?
KATETAYLORで結果を出せないんだったら、他の美容室に行っても意味がないと思っていました。ここでだめならきっとどこに行ってもダメだろうって。オーナーの木下(公貴さん)に退職の旨を伝えるメールまでつくりましたが、送信ボタンを押す直前で思い留まったんです。
⎯⎯ なぜ、そこで留まったのでしょうか?
最後の最後に今までやらなかった「メンズに特化する」というチャレンジをしてみようと思ったんです。これがダメだったら本当に辞めようと。
その時にインスタグラムでレディスヘアの投稿を全部消したのですが、その翌月からメンズの新規予約が少しずつ入るようになったんです。ありがたいことに、そこから順調に売り上げにつながっていきました。
⎯⎯ 結局オーナーの木下さんには退職のメールも送らず、退職するか迷っていることも伝えなかったのですか?
伝えなかったです。でも、どうやったら結果が出るかという相談はずっとしていました。その間、オーナーは「山庄司なら大丈夫だ」とずっと僕を信じてくれていたので、退職を迷っていることを言えなかったというのもあります。
約10年前にKATETAYLORの面接を受けて合格をもらったのですが、ちょうど人を多めに採用したばかりの時期で、すぐに入社することができなくて。それでオーナーから「一緒に働きたいから、本当に申し訳ないけど半年待ってほしい」と言われたんです。その間、ラーメン屋でバイトをしながら待つことになって。
⎯⎯ なぜラーメン屋…(笑)?
学生時代に1ヶ月間、ニューヨークにある美容室で研修をしていたことがあって。学生だった僕は毎日厳しく詰められて、打ちひしがれてしまっていたんです。
当時宿泊していたドミトリーに一緒に泊まっていたのが、そのラーメン屋の店主。ニューヨークで出店するために渡米していたのですが、落ち込んでいた僕に晩ご飯を作ってくれたんですよね。そのご縁があってバイトをさせてもらうことになりました。今でも関係が続いていて、時々ラーメンを食べに行っています。
⎯⎯ラーメン屋のバイトで半年待つのではなく、他の美容室に行こうとは思わなかった?
実はその前も、鹿児島の与論島という場所でリゾートバイトをしていて、すでに半年程休んでいたので、もう半年くらいいいかなと思っていました。それに、どうしてもKATETAYLORで働きたかったんですよね。焦って他のところに行くよりも、「待ってでも働きたい場所で働く」という気持ちが強かった。
そうして半年後正式に入社という背景もあり、オーナーの僕への期待はその頃からずっと伝わってきていたんです。20代後半で売り上げが伸び悩んでいるときもオーナーは常に前向きで、「山庄司は大丈夫だから」とずっとポジティブな言葉をかけ続けてくれた。だから、自分から「辞めたい」なんてネガティブな話をオーナーにするのはすごく苦しかったんですよ。
それに、ネガティブな言葉って周りを巻き込むじゃないですか。今、後輩たちを見ていても感じますが、やっぱりネガティブな発言からいいことは生まれない。ネガティブな気持ちを周りに蔓延させるのは避けたいなというのが僕の中にあるんです。だから、辞める話は会社の人にはほぼ話していません。でも昨年、オーナーに打ち明けたんです。
⎯⎯ 木下さんはどんな反応でした?
クールな方なので、「そうだったんだね」という感じでした(笑)。でも伝えられてよかったなと思います。
⎯⎯そもそもKATETAYLORに入りたいという思いはどこからあったのでしょう?
内装やヘアスタイルに惹かれたことがきっかけでしたが、オーナーに髪を切ってもらったときに、「この人から技術をしっかり学びたい」と感じたことが大きいですね。感覚的な話になるのですが、オーナーの人柄やお店全体の雰囲気がすごく良くて、フィーリングが刺さったんです。
1社目で入った美容室がすごく厳しいお店で、少し古風なところがあったので、お店の雰囲気を重視していました。上の人たちがどういう考え方をしているのか、スタッフがどう働いているのかをよく見ていましたね。
KATETAYLORがなければ今の自分はない。会社にもっと貢献したい。
⎯⎯ 2022年からは代表を務められています。代表就任のお話をいただいたときはどう感じましたか?
お話をいただいてからかなり悩みました。代表になれば、表向きはオーナーと肩を並べる立場になるし、本当に僕で大丈夫なのかなというプレッシャーがありました。また、僕よりも先輩たちが多くいる中で受け入れてもらえるのかも不安でした。
でも、KATETAYLORが好きで、スタッフのことも大好きで、「お店をよくしたい」という思いがとても強かった。自分自身にプレッシャーをかけるという意味も込めて、「任せていただけるのならばやろう」と決意しました。
⎯⎯ 30代で代表就任は大抜擢だと思います。ご自身でどういったところが評価されたと考えますか?
売り上げという数字での貢献が難しかったときも、「僕がいることでお店に貢献したい」という思いが強く、後輩とのコミュニケーションや育成など、数字ではない部分で「どうすれば自分が会社に貢献できるか」ということをずっと考えて行動に移してきました。もしかしたら、そういった姿勢をオーナーはずっと見てくれていたのかもしれません。
KATETAYLORがなかったら、今の自分はありません。結果が出ていなかった時期も、周りのスタッフやオーナーの支えがなければ続けてこられなかったと思います。だからこそ、今もこれからも会社に貢献したいという気持ちは変わりません。
⎯⎯ 「会社のために」という思いが強いのですね。
こういった考え方を他に美容師仲間に話すと、珍しいことだと驚かれたりするのですが(笑)。でも、この思いの根源は今いる環境や周りの人への感謝にあると思っています。オーナーがいつも「会社のために頑張ろう」と思える発言をしてくれるというのもあるかもしれません。それに応えたい気持ちもありますし、前を向き続けているこの会社のために自分ができることをこれからも考え続けていきたいです。
⎯⎯ 最後に、今後の目標を教えてください。
オーナーともよく話していますが、会社として10店舗体制を目標に掲げています(現在は5店舗展開)。個人的な目標としては、湘南に店舗を出すこと。湘南は大好きな場所でプライベートでもよく足を運んでいるので、自分の憩いの場にお店を出せたらうれしいです。
熊本にも店舗がありますが、はじめは5席しかない小さな店だったのが、今では2店舗を出店するまで成長しています。僕が構想する湘南の店も、それくらいの規模でやれるように大きく飛躍させていきたいですね。
(写真:山庄司祐希、編集:福崎明子、上玉利茉佑)
編集者、ライター
出版社2社を経て独立。書籍の企画・編集、ブックライティング、記事等のインタビューなど活動中。ペンギンが好き。「now&then」の聞き手、文を担当する。
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