
Image by: FASHIONSNAP
東京都が主催する、学生を対象としたファッションコンクール「Next Fashion Designer of Tokyo」(以下、NFDT)と、着物等を活用したファッションコンテスト「Sustainable Fashion Design Award」(以下、SFDA)の第3回の最終審査が、3月29日に東京・六本木ヒルズ 大屋根プラザを舞台にファッションショー形式で開催された。若手デザイナーの新たな登竜門として、今日本で注目を集めている同コンクール。「全体的にレベルが高かった」「新しい技術に挑戦している参加者が多かった」と審査員たちが評価した今回、栄えある栄冠は誰の手に?
目次
今注目を集める「NFDT」「SFDA」とは?
両コンクールは、「東京をパリ、ミラノ、ニューヨーク、ロンドンと肩を並べる『ファッションの拠点』としていく」というミッションのもと、東京から未来を担う若手デザイナーを生み出し、世界で活躍できる人材に育てて行くことを目的に、東京都が2022年に創設。日本を代表するデザイナーやジャーナリスト、バイヤーなどの豪華で多彩な審査員をはじめ、応募者全員が審査を通じて受けられるファッション業界のプロフェッショナルらによる講義やワークショップ、販売までを想定した二次審査通過者向けのビジネス体験プログラムなど、世界で活躍できる人材の発掘から育成までを兼ね備えたコンクールであることから、デザイナーを志す応募者から支持を集めている。

昨年に続き、NFDTの審査員長は東京藝術大学長 日比野克彦、副審査員長はファッションディレクターの原由美子が務めたほか、審査員は「アンリアレイジ(ANREALAGE)」のデザイナー 森永邦彦や、「シーエフシーエル(CFCL)」代表兼クリエイティブディレクター 高橋悠介、WWD JAPANサステナビリティディレクター向千鶴に加えて、三越伊勢丹伊勢丹新宿店リ・スタイルバイヤー 橋本航平らが担当。SFDAでは、審査員長のLVMHモエヘネシー・ルイヴィトン・ジャパン合同会社のノルベール・ルレ社長、副審査員長のアーティスト 篠原ともえに加え、アップサイクルブランド「マリオンヴィンテージ(MALION vintage)」のデザイナー 石田栄莉子、ライフスタイリストの大田由香梨、FASHIONSNAPファッションディレクターの小湊千恵美、三越伊勢丹伊勢丹新宿店婦人靴バイヤーの中西祥子らが審査員を務めた。
今年の栄冠は誰の手に?
NFDTには、「フリー部門」と障害のある方のニーズに即した機能性とファッション性を併せ持つ作品をテーマとした「インクルーシブデザイン部門」、SFDAには「ウェア部門」と「ファッショングッズ部門」の各2部門が設けられている。最終審査には、NFDT・SFDAそれぞれでデザイン画による一次審査、デザイン画に沿って制作した1ルックによる二次審査を勝ち抜いた計36組が参加。その中から、各部門ごとに東京都知事賞の大賞1人(賞金100万円)、優秀賞2人(50万円)と、特別選抜賞1人(賞金50万円)の4組ずつ、計16組が選出された。
Next Fashion Designer of Tokyo 2025
今回フリー部門の東京都知事賞大賞を受賞したのは、エスモード東京の二宮櫻壽による作品「Hymne á l' humanité 人間賛歌」。東京都知事賞優秀賞は、文化服装学院の國本和樹による「MES VOYAGE」と、東京大学・バンタンデザイン研究所の増田凌・金田昌也・永田莉紗による3Dプリンタを用いて制作した「Whole-Zip」、特別選抜賞はエスモード東京の濵夏歩による「奇妙な自然」がそれぞれ受賞した。
大賞の二宮の作品について、審査員を務めたアンリアレイジの森永邦彦は「通常ファッションコンテストでは大賞を取らないテイストの服だと思うのですが、彼のコンセプトとディテールへのこだわり、彼自身が持っている形の作り方や色の扱い方というのが、本当に彼の独自の世界でしか生み出せないものになっていて唯一だと感じました」と話した。











フリー部門大賞:二宮櫻壽「Hymne á l' humanité 人間賛歌」
インクルーシブデザイン部門では、昨年に続いて2年連続で同コンテストに挑戦したという東京モード学園の黒田菜々子による、ALSの人が感情を光や色で表現できる服「Thoughts to light─ヒカリへ思いを」が大賞を受賞。優秀賞は、東京モード学園の鞠子涼香による視覚障害者でも色がわかるよう点字で色を表現した「Braille knit」と、二分脊椎症や車椅子利用者も着脱しやすい服「染(ぜん)」を手掛けたデジタルハリウッド大学院大学の矢野目莉奈が、特別選抜賞は明治大学・東京大学・バンタンデザイン研究所の学生チームである加藤海凪・金田昌也・永田莉紗・増田凌による、知的障害者や発達障害者などが汚れを気にせずに着られる服「flexibib」が受賞した。
CFCL代表兼クリエイティブディレクターの高橋悠介は、大賞を受賞した黒田の作品について、「去年もコンセプトや作品の雰囲気自体はすごく際立っていたものの、“それが服である意味”との向き合い方が、他の人に比べると弱い部分がありました。今回はコンセプトや作品と時間を掛けて向き合い、服としての完成度を高められたところが素晴らしかったです」と昨年からの成長を評価した。











インクルーシブデザイン部門大賞:黒田菜々子「Thoughts to light─ヒカリへ思いを」
Sustainable Fashion Design Award 2025
ウェア部門では、着物生地を用いたキルティングダウンを制作した国際ファッション専門職大学の野口キララによる「VIBRANT VEIL」が大賞に選出。優秀賞は、着物を使ってハレとケを表現した神川裕貴の「ハレトケ」と、国際ファッション専門職大学 山田萌永の「花手毬」、特別選抜賞は国際ファッション専門職大学の井芹杏里紗による「面 MEN」がそれぞれ受賞した。
審査員を務めたマリオンヴィンテージの石田は、野口の作品を大賞に選んだ理由について「一番現実的で、ビジネスにちゃんと繋がっていくような作品だったため」とコメント。「着物はどうしても和のテイストが強く出てしまいますが、それだけではない美しさが表現できていた点がとてもよかったです」と評した。











ウェア部門大賞:野口キララ「VIBRANT VEIL」
ファッショングッズ部門で大賞に輝いたのは、帯締めや着物生地を活用した靴を手掛けた藤井大将の「new classic」。優秀賞はJINの「Wa(和)〜ii!プヌバッグ」と杉山こころの「Kimono gem」が、特別選抜賞は東京藝術大学の堀田紗来による「花装」がそれぞれ受賞した。



































ファッショングッズ部門大賞:藤井大将「new classic」
授賞式後には、東京都の松本明子副知事が登壇し、小池百合子都知事からの祝辞を代読。「今回受賞された皆さん、誠におめでとうございます。このコンクールは、東京から未来を担う若きデザイナーを見出し、育てていくために設立しました。東京都は皆さんが世界に羽ばたきさらに活躍できるよう、しっかりと応援していきます。東京をパリやミラノのような世界有数のファッション都市に高め、世界が憧れる存在となるよう、一緒に頑張っていきましょう」とエールを送った。
これからのファッションデザイナーに期待されるもの
最終審査員による講評では、両アワードの審査員長・副審査員長が登壇。日比野克彦は「今年で3回目を迎えましたが、今回は3Dプリンタで制作した作品などもあり、年々いろいろな技術が進化するのを見て、ファッションと若手の能力によってこの東京都をさらに盛り上げていくことを期待しています」とコメント。原由美子は、「現在のファッションは少し前と比べるとサステナブルやインクルーシブなど考えるべきことが沢山あります。このコンテストではそのことにそれぞれが真剣に取り組み、その人ならではの表現を実現しようとしていることに感動します」と話した。篠原ともえは、「今日大賞を取った方たちがご両親や仲間に感謝する言葉を聞いて、『服は一人では作れないのだな、孤独な作業の中でもいろいろな人に支えられながら出来上がるのだな』と改めて感じました」と言及。ノルベール・ルレは、「ファッション業界に入って約35年が経ちますが、私はこのコンテストで若い皆さんの力を見る度に、この業界の明るい未来や雰囲気を年々強く感じています」と将来への期待感を強調した。

(左から)ノルベール・ルレ、篠原ともえ
そのほか、審査中に行われたトークショーでは、「これからのファッションと若手デザイナーへの期待」をテーマに審査員らがトークを展開。SFDAの審査を担当したライフスタイリストの大田由香梨は、「これからの時代にデザイナーになりたいという人は、必ず原料やサプライチェーンを含めた地球の中での循環やビジネスとしてのあり方まで考えてデザインをする必要があります。それがファッション産業の発展になるとともに持続可能なデザインだと思うので、次回このコンテストを目指す方たちには、ぜひその点を意識してもらえたら」と次世代のデザイナーに求められる要素についてコメントした。
NFDTの審査員を務めた森永は「ファッションは変化が大きい業界。その中で、『絶対に変わらない自分の軸』を貫いていける人が残っていけるような世界だと思っています」と言及。また、未来の挑戦者たちに向けて「このコンテストは、様々な業界のプロフェッショナルが審査員として揃っており、ほぼ1年をかけて応募者の皆さんと並走するとともに、仲間たちとの横の繋がりも生まれてきます。受賞だけがゴールではなく、参加を通して築いたネットワークや知見が今後に必ず活きていくコンテストだと思うので、参加すること自体に大きな意味があると思います」とメッセージを送った。








NFDT受賞者と松本明子副都知事、審査員たち
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