東京都が主催する、学生向けのファッションコンクール「Next Fashion Designer of Tokyo」(以下、NFDT)と日本独自の着物などの文化、伝統を現代のファッションの力により新たな形で世界に発信していく「Sustainable Fashion Design Award」(以下、SFDA)。今年で2回目の開催となる両アワードには、NFDTが約1300件、SFDAが約1000件と、昨年から4割増となる約2300件の応募が集まり、その数は国内の歴史あるファッションコンテストに匹敵する。
東京をパリ、ミラノ、ニューヨーク、ロンドンなどと肩を並べる「ファッションの拠点」としていくため、未来を担う若手デザイナーを発掘、育成することを目指して開催された両コンクールは、どのように“東京発ファッション”の可能性を広げうるのか。
応募者数が急増、その背景は?
最終審査会に駆けつけた小池百合子 東京都知事は、応募数が昨年から4割増したことに言及し「回を重ねるごとに注目度が増し、応募者数だけでなく、応募作品の内容もますます良くなっていくことを示していると思う」と語る。両アワードが応募者たちから注目を集める理由は大きく3つある。1つ目は豪華な審査員陣。今年度のNFDTの最終審査員は、昨年から継続する東京藝術大学学長の日比野克彦とファッションディレクターの原由美子、新たに「アンリアレイジ(ANREALAGE)」のデザイナー 森永邦彦、ゲスト審査員の「シーエフシーエル(CFCL)」の高橋悠介が務めた。そしてSFDAの最終審査は、LVMHジャパン代表取締役社長のノルベール・ルレ(Norbert Leuret)とアーティストでデザイナーの篠原ともえ、ゲスト審査員としてメルカリの取締役会長 小泉文明が担当した。
2つ目は魅力的な賞金。両アワードとも2部門が設けられ、それぞれ東京都知事賞の大賞1名(賞金100万円)、優秀賞2名(50万円)、特別選抜賞1名(賞金50万円)の計4名が選出される。
そして3つ目は、同アワードの目的である「未来を担う若手デザイナーを発掘、育成する」という言葉の通り、応募者に提供される教育プログラム。全応募作品の中から一次審査を通過した計60組(NFDT、SFDA共に30組ずつ)には、様々なアドバイザーによるワークショップ、プロのマーチャンダイザー(以下、MD)やパタンナー、デザイナーによる個別のアドバイス会が提供され、上限5万円の材料費が補助される。そうした制作補助の機会を経て新たに制作した1ルックで二次審査が行われ、約半数に絞られた通過者たちにはプロのMDと協働した商品化体験やプロモーション体験が提供されるほか、海外デザイナーを招いてのワークショップが実施されるなど、ただアワードで評価されるための指導ではなく、クリエイターとしてのものづくりの視点から、デザイナーとしてブランドを立ち上げるために必要なビジネス面の視点まで、今後デザイナーとして活躍できるよう幅広いプログラムが組まれているのも両アワードの大きな特徴だ。
最終審査で求められた「世界に出ていくために必要なもの」
「NFDT 2024」の結果は?
NFTDは、フリー部門と、障害のある方の着用を前提としたデザインを募集したインクルーシブ部門の2部門を設定。インクルーシブ部門のファイナリストには先述のワークショップで当事者の視点やニーズをヒアリングする機会が与えられる。
フリー部門の大賞は文化服装学院の立澤拓都、優秀賞は同校の千脇倫太朗とESMOD TOKYOの毛利壽乃、特別選抜賞は文化服装学院の山岡寛泳がそれぞれ受賞した。
新ブランド「アンリアレイジ オム(anrealage homme)」のジャケットを着て登場した森永邦彦は最終審査を終え「世界で活躍するデザイナーの輩出を目指す賞ですが、現時点では外の世界を見るのではなく、より内なる自分の中の世界を強く持ち、それを揺るぎなく表現していた方を選びました。受賞を逃した方も、それが負けたことではないと思っておりますし、あなたの世界を否定するものでもありません。このコンテストに向けて培ってきた自分の世界をこれからもしっかりもって諦めずに続けてください」と参加者を労った。
大賞:立澤拓都「ほころび」
インクルーシブデザイン部門の大賞は東京モード学園の速水美里、優秀賞は同校の佐藤愛海と文化服装学院の松本優美永、特別選抜賞は東京モード学園の阿部若菜がそれぞれ受賞した。
昨年から継続する審査員の原由美子は「インクルーシブというテーマに馴染みがない学生も多いと思いますが、今回は初年度以上にコンテストの趣旨を理解した作品が増えたように感じ、見応えがありました」とコメント。ワークショップを開催した一般社団法人mogmog engine代表の加藤さくらは「インクルーシブデザイン部門を対象にしたワークショップに熱心に参加してくれた学生が多かったのが印象的。その経験がデザインに取り入れられていることが伝わってきました」と話す。
大賞:速水美里「あべこべ」
「SFDA 2024」の結果は?
SFDAは、服のみを対象とした「ウェア部門」とバッグや帽子などを対象とした「ファッショングッズ部門」の2部門で構成されている。
ウェア部門の大賞は文化服装学院の並木力也、優秀賞は国際ファッション専門職大学の赤間隆太郎と文化服装学院の田村香奈、特別選抜賞は一般応募の赤塩葉月と岩間夢々のユニットがそれぞれ受賞した。
審査に参加したLVMH/ショーメ CSR・文化事業ディレクターの蒲谷直子は「『価値ある着物が、需要がないことを理由に安価でやり取りされている』という学生のコメントが印象的でした。若い方々が普段関わる機会の少ない自国の文化に向き合う機会を創出しており、この賞の日本文化に対する高い貢献度を感じます」と審査を振り返る。
大賞:並木力也「流」
ファッショングッズ部門の大賞は一般応募の末永るみえ、優秀賞は東京都立城東職業能力開発センターの猿田奈央と文化服装学院の山上大成、特別選抜賞は東京モード学園の西吉絢海がそれぞれ受賞した。
着物の作品で第101回ニューヨークADC賞を受賞し、当日も着物姿で登場した篠原ともえは、着物の帯に着想を得たコルセットを提案した猿田に対し「完璧な柄合わせなど、丁寧な仕事にも感銘を受けました。これからも着物を着続けて、盛り上げていきましょう」とエールを送った。
大賞:末永るみえ「NEW Knows OLD」
東京が「デザイナーが育つ街」になるために
審査中に実施されたトークセッションでは、このアワードが生み出すインパクトについての意見が交わされた。CFCLの高橋悠介は「世界で活躍する優秀なデザイナーを発掘するためには、モチベーションが高い応募者の数がさらに増えなくてはいけません。今回は2回目ですが、今後さらに多くの人が参加し、盛り上がっていってほしいです」とコメント。加藤さくらは「この賞を通じてインクルーシブという視点を学んだ学生たちが今後デザイナーとして活躍していくことで、数年後にはインクルーシブな視点で作られたアイテムが当たり前のように店頭に並ぶようになることに期待します」と話す。ノルベール・ルレも「今回が2回目の参加となりましたが、今年の作品もとても良かったと思います。この賞の今後に期待ができると感じました」と太鼓判を押した。
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