NewJeans
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2022年は一言で語ることができないほど激動の1年であったが、そんな2022年にデビューし、いま世の中で最も注目を集めているのがK-POPガールズグループのNewJeans(ニュージーンズ)である。平均年齢16歳というフレッシュなガールズグループの姿に、Bunnies(バニーズ:NewJeansのファンの呼び名)を始め、老若男女を問わない世界中の人々が夢中となっている。軽やかだがどこかアンニュイな雰囲気を感じさせるグループのパーソナリティ、そしてファッションから彼女たちが次時代のネクストアイコンとして輝きつつある理由を探る。
(文:原ちけい)
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NewJeansの軌道と立役者
NewJeansは、MINJI(ミンジ)、HANNI(ハニ)、DANIELLE(ダニエル)、HAERIN(ヘリン)、HYEIN(へイン)によって結成された5人組のグループである。2022年の7月にお披露目されたこのグループは、大手エンターテイメント会社のクリエイティブディレクターであったミン・ヒジン(Min Hee-Jin)が全体的にプロデュースすることで話題を集め、デビュー前より「ミン・ヒジン・ガールズグループ」と呼ばれるほど大きな期待が注がれていた。
ミンジ(MINJI)
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現在はNewJeansが所属しているADOR(HYBEの新レーベル)の代表取締役を務めているミン・ヒジンは、K-POPグループのヴィジュアル/アートディレクションを含めた多岐にわたる仕事をこなし、革新的なディレクション像を絶えず生み出してきたヒットメーカーである。
彼女の仕事は戦略的かつ緻密な"コンセプト"を打ち出すところから、スタイリングやヴィジュアルメイキングを作っていく方法を取っており、それまでのK-POP業界にはなかった、全く新しいヴィジョンを絶えず示してきた。K-POPを話題にすると必ず名前が挙がるコアグループ達を導いてきた彼女は、いわば業界のデファクトスタンダードであるとも言えよう。
NewJeans結成にあたって、
時代やトレンドを問わず老若男女みんなに愛されてきた"ジーンズ"というアイテムのように日常に密接し、時代のNew Genes(新しい遺伝子)”になるように
という願いがグループ名に託された。
2022年7月から8月にかけて公開された楽曲「Attention」「Hype boy」「Hurt」「Cookie」が収録された1stミニアルバム「New Jeans」は、透き通った歌声とグルーヴィーな駆け引き、可愛らしい歌詞、そしてアップビートなメロディで人々を虜にした。そして、真似したくなるアイコニックなダンスや彼女たちのあどけないキュートな姿も話題を集め、公開初日から世界中のデイリーチャートにランクインする注目ぶりである。
その後公開された「Ditto」は、物語の中での視点や時系列が変化するように、Side A/Bの2つのMVが同時に発表された。レトロなビデオカメラで撮られた荒い画質の映像と現在の映像には複数の視点が入り混じっている。最新の楽曲「OMG」では、R&Bを基調とした明るいトラップとスピード感のある軽快なテンポとは裏腹に、メタ的(高次元的)な解釈の余地がMVによって提示されている。
ミン・ヒジンは写真や動画などのイメージを介したコンセプト戦略を得意とし、公式のTikTokやYoutube、instagram、webサイトには連日新たな動画や写真、MVコンテンツがドロップされ続けている。メンバーだけでなく、映像の端に写っている人物やモノのパーソナリティにまで触れることで、全体の世界像がより深まっていく。
NewJeansのパーソナリティとは?
NewJeansの魅力はなんと言っても自然体であどけない可愛さとキラキラと輝いてるまっすぐな姿にあり、見た人に学生の頃の素直で淡いノスタルジーを引き込む。ここで浮かび上がるアイドル像は、強さや美しさを誇示するのではなく、むしろ等身大の自身の姿を表出させ、多様な人々の在り方を肯定する姿勢である。それは自助や慈愛とも言い換えられる「セルフケア」を1人でなく、コミュニティとともに作り上げ共有していくインクルージョンであるとも言える。このようなコミュニティを形成しようとする価値観には、先行する様々なアイドルの存在が大きい。
NewJeansのアイドル性に深く影響を与えているとして考えられているアイドルは、1990年代後半から2000年初期まで活躍したK-POPガールズグループ「S.E.S.」や「fin.KL」である。K-POPの第1世代としてシーンの基礎を作り出した彼女達もまた、彗星の如くデビューし、数々の楽曲を残していった。
歌手のイ・ムジンがMCを務めるYoutubeコンテンツ「リムジンサービス-리무진서비스」にメンバーのHANNIが登場した際、デビュー前のボーカルレッスンにS.E.S.の「Just A Feeling」を用いていたと語り、歌声まで披露している。
S.E.S.やfin.KLの後のガールズグループでは、第2世代に当たる2NE1やSISTARが、女性をも魅了する高らかで美しい女性像として「ガールクラッシュ」というコンセプトを自己言及的に打ち出し、男性的なマッチョさのアンチテーゼとして、セクシーさによる確固たる女性像の確立を目指した。またその後の第3世代に当たるBLACKPINKやMAMAMOOは、ガールクラッシュに自然体な自信を反映し、セルフラブの価値観を大切にしているように思う。その点でNewJeansは個性的や絶対的であることより、もっと素直な姿で見せ合うことの楽しさを、オーディエンスに教えてくれる印象である。それは美しさが本当に絶対的な価値なのかという前提に揺らぎを与える。同世代の第4世代と比較しても、彼女たちは個性よりもグループとしてのまとまりを大切にし、パーソナルな物語を描く点も突出していると言えるだろう。
また、パーソナリティを読み解く上で忘れてはいけないのは、日本のアイドルも参照されていることである。1990年から2000年代にかけてSPEED、SUPER MONKEY'S、Folderなどのカリスマ的なティーングループを数多く輩出し、一時代の芸能を築き上げた「沖縄アクターズスクール」は、若さというフレッシュさやグループの姿勢だけでなく、ストリートダンスの文脈からもその精神が受け継がれている。また、ハロー!プロジェクトのミニモニ。や浜崎あゆみも、MVやスタイリングの中で彼女達の姿が重ねあわせられている。
スタイリング通したパーソナリティと新しいトレンドの息吹
そうしてNewJeansが描くヴィジョンは、彼女たちが身にしているアウトフィットからも見て取れる。特徴的なのは、1980年代後半〜2000年代初頭にかけて流行した青文字系や裏原系のカルチャーが盛んに引用され、当時の渋谷や原宿のストリートシーンが生んだトレンドを「Y2Kリバイバル」として確立している点にある。NewJeansは特に「STREET」「CUTiE」「FRUiTS」などのファッションマガジンで見られる、コーディネートの面白さを感じさせる。
「ヴィヴィアン・ウエストウッド(Vivienne Westwood)」のオーブロゴや「ア ベイシング エイプ®(A BATHING APE®)」の猿モチーフ、「ヒステリックグラマー(HYSTERIC GLAMOUR)」のデニム、「アンダーカバー(UNDERCOVER)」のグローブ、元「ナンバーナイン(NUMBER (N)INE)」の宮下貴裕による「タカヒロミヤシタザソロイスト.(TAKAHIROMIYASHITATheSoloist.)」のスタジャンなどがその一例である。ロゴやアイコニックなアイテムをメンバーがお揃いで身にまとい、ユニフォームのように着こなすアイデンティティには、ストレートにスタイリングの面白さを感じさせる。
「Attention」活動時のスタイリング
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ただ、そうしたY2K的なスタイルもそれだけの枠に収まるものではない。ヴィヴィッドな色使い、またはサスティナブルなアイテムと掛け合わされることで、Z世代らしい"フレッピーかつAesthetic"な装いを提示している点も魅力的だ。フレッピースタイルとは、日本では1960年代に流行したアイビールックを元に、後のアメリカの名門私学生たちがカッチリした制服やアウターを着崩したスタイル。渋カジの源流であるとも言われている、マキシ丈に加工された「シュプリーム(Supreme)」のワークジャケットやタータンチェックのスカートに合わされた「ラルフ ローレン(Ralph Lauren)」など、こなれた印象を与えている。
また、「OMG」のMVでのメンバー全員が着用しているバニースタイルは一度見たら忘れられないインパクトを放ち、彼女たちの現在のシンボリスティックな姿となっている。ロンドンを拠点に活動する「Chet Lo」のポップコーンニットを用いたバニーバッグと、バルセロナを拠点とするW.I.Aのバニーハットが使用されたスタイリングには誰しもが目を引くだろう。このスタイルはNewJeansのアイコンでもあるウサギモチーフを基調としながら、原宿系ファッションのぬいぐるみリュックや、前出したfin.KLの代表曲「To My Boyfriend」のMVでメンバー全員がそれぞれバッグスタイルのオマージュも感じさせる。
公式インスタグラムの投稿より
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現在のファッションのトレンドを日々生んでいるTikTokやDepopなどのSNSでここ数年流行している「Aesthetic」というおしゃれさを表す形容詞や「#Twilight core」、篠原ともえをはじめとするデコラスタイルに通ずる「#Kidcore」のようなヴィンテージスタイルやリバイバルムードも上手く取り込んでいることから、今後もまたスタイルが変化していくことが期待される。
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また、NewJeansの専属スタイリストがいるという事実にも注目したい。プロデューサーとスタイリストが協調してアイドルコンセプトを生んでいくクリエイションは、例えるなら2010年代のトピックでもあった「ヴェトモン(VETEMENTS)」と「バレンシアガ(BALENCIAGA)」のクリエイティブディレクターであるデムナ・ヴァザリア(Demna Gvasalia)とスタイリストのロッタ・ヴォルコヴァ(Lotta Volkova)が生んできたクリエイティブパートナーとしての信頼関係に近いものがある。ここまで徹底してマネジメントされたミン・ヒジンのコンセプトメイキングには驚愕するばかりである。
なぜNewJeansが若者に刺さっているのか
興味深いことにNewJeansは、韓国国内のファンダムからの支持が他と比べて段違いに厚いというデータもある。NewJeansのファンダムの中核を担うZ世代と呼ばれる若者たちは、日々直面しなければならない現実と嘘に翻弄され、規定された価値観のままでは生きることすら立ち行かない状況の中で生活している。特にパンデミック以降の経済不安など、メンタルや自我そのものに過度な負担がかかっている。そうした状況を同じ目線から見据えるNewJeansには、実直なリアリティと憧れの対象として素直に捉えたいと思える魅力が溢れている。それはZ世代だけでなく、ミレニアム世代にとっても、リバイバル的な懐かしさと、ありえたかもしれない未来を提示してくれるという点で他人事とは思えないだろう。
NewJeansの描き出すヴィジョンには、アイドルとしての強さは美しさだけではない、コミュニティや自己を大切にする等身大の意識が育まれている。彼女たちのスタイルにおいてもあどけない少女らしさだけでなく、Y2Kではあるがリバイバルな要素だけでない、スタイリングを通した現代的な魅力も感じさせる。ファッションやMVにも観られるレトロさには、デジタルならではの手触りと心地よさにつながる安心感が備わっている印象がある。こうした魅力が幅広い世代を惹きつけ、世代を超えた繋がりを生んでいることに一つの大きな希望が見出せる。そのような、MZ世代が共感する価値観が提示される彼女たちのパーソナリティには、ミン・ヒジンのプロデュースが大きく関わっている。グループ名に込められた"新しさ"を彼女たちがどのように見せてくれるのか、今後も注目である。
1998年生まれ。写真、ファッション、アートを中心に、幅広い分野でのリサーチや執筆、展示企画等を行う。主に携わった展示企画に「遊歩する分人」(MA2 Gallery,東京,2022)、「風の目たち」(obscura,ジョージア、2022)、「小森紀綱 不在の聖母」(KITTE丸の内,東京,2021)などがある。これまでの寄稿媒体は、POPEYE、IMA、apartmentなど。
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