MSGM 2021-22年秋冬コレクション
Image by: MSGM
Nico Vascellari(ニコ・ヴァシェラーリ)とNinos Du Brasil(ニノス・ドゥ・ブラジル)が手掛けたテクノミュージックに合わせて、人工雪が吹雪くランウエイをモデルたちが足早に闊歩する。暗闇の中を駆け抜ける演出だから、いつものような底抜けの明るさはないけれど、重苦しい雰囲気というわけでもない。でも、2021-22年秋冬の「MSGM」のコレクションは、想像以上に深い思考から生み出されているのだ。
テーマは「Vertigine」。イタリア語で「強い戸惑いや混乱の感覚」を意味する言葉だ。それがコロナ禍の現在の世界を意味しているのは間違いけれど、マッシモ・ジョルジェッティはその言葉に、極限的な環境の登山、スキーの世界を重ね合わせた。プレスリリースでマッシモはこのように説明している。
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2021年は流れが速く、何ひとつ予想できない年になるだろう。渦中で人々は目眩に襲われる。山の切り立つ急斜面の端に立った時のような麻痺と痺れと、吹雪のような自然の渦に襲われる。純粋なエネルギーは、誰も止める事ができないのだ。
イタリアを代表する登山家ウォルター・ボナッティはかつて、「もっとも高い山は我々の中に存在する」と言った。人生は山に例えられる。内なる空間を完全な形で理解する事も、手なずける事もできない。しかしその空間にある可能性は無限大だ。人間の内面は不安定かつ極端で、アドレナリンを溢れさせる事もあれば、極めて平穏で我々を安心させてくれる場所でもある。
これまでに経験のない時を経て、時間はスピードアップする。そして、都会の喧騒から離れ、山々へ心が動くに違いない。どこかへ逃亡する、隠れ家を作る。そこは息を飲むほどピュアな大自然だ。
こんな思考から導き出した答えは、人間の持つ情熱と自然、そしてアドベンチャーとスポーツの要素をコレクションに投影すること。
そうした要素は、内側と外側の色のコントラストが印象的なダウンジャケット、80年代風のスキージャケット、ノルウェー風のフリースジャケットなどに見て取れる。小物類は山をストレートに連想させるものが多く、ブルーの付属類が印象的なバックパック、本格的な用途にも使えそうなスキーグローブ、アイゼン風のアクセサリーがついたマウンテンシューズなどを並べた。マウンテンシューズは、登山靴やクライミングシューズの専業ブランド「スカルパ(SCARPA)」とのコラボレーションだ。
旧き良き時代の登山を連想させるルックも目立つ。ツイードのジャケットとショートパンツのルック、ローゲージやケーブル編みのニットは、マッシモの言う「ヘリテージ・スローバック(旧き良き時代の物を見直す事)」なアイテム。ホワイトのB-3を軸とした"冬の白"のスタイリング、氷山に閉じ込めて凍ったような加工を施したデニムのセットアップ、シャモニーやサンモリッツなどの1930年代のスキーリゾートの風景をプリントしたアウターなどは、マッシモらしい遊び心に満ち溢れている。音楽と連動した90年代のレイブカルチャー的なカラフルな色使いも目立つ。やや異質に思える「カンゴール(KANGOL)」とコラボしたバケットハットも、その流れを汲んでいるのだろう。
一見するとマッシモらしい軽やかなコレクション。でもその裏には、自然回帰、人間回帰への強いメッセージが隠れていた。
文・増田海治郎
雑誌編集者、繊維業界紙の記者を経て、フリーランスのファッションジャーナリスト/クリエイティブディレクターとして独立。自他ともに認める"デフィレ中毒"で、年間のファッションショーの取材本数は約250本。初の書籍「渋カジが、わたしを作った。」(講談社)が好評発売中。>>増田海治郎の記事一覧
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