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トレンドの最前線を行く者、映画の最新作も気になるはず──。今月公開が予定されている最新映画の中から、FASHIONSNAPが独自の視点でピックアップする映画連載企画「Fスナ映画部屋」。
今回は、豪華キャストで送るファッショニスタ待望の映画「ハウス・オブ・グッチ」をセレクト。長らくファッション業界のタブーとされていたグッチ一族の確執の中で起きた実際の事件「マウリツィオ・グッチの殺害事件」はどのように描かれているのでしょうか?編集部員によるゆる〜い座談会付きで、今月絶対に見てほしい注目の映画を紹介します。
目次
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「ハウス・オブ・グッチ」
気になるあらすじは?
グッチ一族の確執の中で起きたグッチ創業者の孫「マウリツィオ・グッチの殺害事件」。謎めいた女性パトリツィア・レッジアーニとマウリツィオ・グッチの出会いから、その崩壊までを描く。
■ハウス・オブ・グッチ
日本公開日:2022年1月14日(金)
監督:リドリー・スコット
脚本:ベッキー・ジョンストン、ロベルト・ベンティベーニャ
製作:リドリー・スコット、ジャンニーナ・スコット、ケヴィン・J・ウォルシュ、マーク・ハッファム
出演:レディー・ガガ、アダム・ドライバー、アル・パチーノ、ジャレッド・レト、ジェレミー・アイアンズ、サルマ・ハエックほか
公式サイト
一足先に「ハウス・オブ・グッチ」を観た、同い年編集部員2人による ゆる〜い座談会
普段はアートやカルチャー関連のほか、東京のデザイナーズブランドなどを担当。海外ドラマ「ガールズ(GIRLS)」でアダム・ドライバーにガチ恋した大学1年生の冬。ガチ恋は継続中です。
マサミーヌ:グッチ家で起こった家庭内のイザコザについては「あまり話してはならない」という暗黙の了解がなんとなくあったんだけど……。
フルカティ:リドリー・スコットがついに映画化したね。意外と国内ではこの事件のことを知らない人が多いのかもしれないけど、1995年に実際に起きた「グッチ(GUCCI)」3代目当主マウリツィオ・グッチの殺害事件が物語の着想源となっている。
マサミーヌ:リドリー・スコットは「エイリアン」と「ブレードランナー」を作った人だけど、とても同じ監督が制作したとは思えないよ。
(「ハンニバル」も「グラディエター」も「ロビン・フッド」も「アメリカン・ギャングスター」も「オデッセイ」も「最後の決闘裁判」もリドリー・スコット監督作品!)
フルカティ:リドリー・スコットが監督した映画は「とても同じ人が作ったとは思えない」と感じるほどの"テーマの振り幅のでかさ"が魅力だよね。今回に関してはリドリーの妻で、本作のプロデューサーでもあるジャンニーナ・スコットが20年前に原作を読んだことがきっかけらしいから、リドリー・スコット本人よりも妻の熱量の方があったのかも。
マサミーヌ:スコット・フリー・プロダクションズ※の社長でプロデューサーのケヴィン・ウォルシュが「本作が完成したのはジャンニーナのおかげだ」とコメントしていたしね。
※スコット・フリー・プロダクションズ:1995年に設立したイギリスの映画製作会社。前身はリドリー・スコットと弟のトニー・スコットによって設立された「パーシー・メイン・プロダクションズ」。
マサミーヌ:本作の舞台はイタリアとニューヨークの2ヶ所が主だけど、本作は全編イタリアロケ。ニューヨークを舞台としたシーンは全部セットらしい。
フルカティ:そういう予備知識があると楽しめる映画だよね。本作では折に触れて「当時のファッション業界」みたいな描写がちょこちょこ出てくるから、「ファッション業界にまつわる事前知識」があるとより楽しめる作品かも。
マサミーヌ:たしかに。例えば本作でも描かれている80〜90年代は、イタリア発のブランドである「グッチ(GUCCI)」のクリエイティブディレクターにアメリカ人のトム・フォード(Tom Ford)が就任したり、フランス発のブランド「シャネル(CHANEL)」のアーティスティックディレクターに故・カール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)が就いたりと、伝統を重んじる歴史あるブランドの転換期でもあった。
フルカティ:キャスティングのトリビアでいうと、パトリツィアと手を組む占い師ピーナ・アウリエンマ役を演じたサルマ・ハエック(Salma Hayek)は、ファッション業界最大のコングロマリットの1つで、現在のグッチが所属しているケリングの会長フランソワ=アンリ・ピノー(Francois-Henri Pinault)の妻。
マサミーヌ:フランソワ=アンリ・ピノーが大富豪すぎるから、サルマ・ハエックは度々「お金目当てで結婚した」と疑われているよね。
フルカティ:パトリツィアと境遇が少しだけかぶるよね(笑)。
マサミーヌ:映画「エターナルズ」で重要な役どころであるエイジャック役を演じたことも記憶に新しい。
フルカティ:もう一つキャスティングで興味深いのはパオロ・グッチを演じたジャレッド・レト(Jared Leto)。彼は今や「グッチのミューズ」といっても過言ではないから。
マサミーヌ:アレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)が手掛けるグッチになってからは、ほぼ毎シーズンモデルとしてランウェイを歩いているイメージがあるね。
フルカティ:ちなみにジャレッド・レトは自らパウロ・グッチ役を志願したらしい。
マサミーヌ:そうなんだ!すごい特殊メイクで、知らずに見たら誰もジャレッド・レトは気づかないんじゃないかな。
フルカティ:ジャレッド・レトが「パウロ・グッチ役をやりたい」とアプローチした時「どのように演じるのか?」とリドリー・スコットは尋ねたらしくて。それに対して「特殊メイクだ」と答えたんだって。特殊メイクをするにしても「自分だとわかる範囲」でのメイクを望む俳優が多い中で、ジャレッド・レトは「自分とはわからないくらいメイクしてくれ」というオーダーを出したらしくて。現場入り初日は「スタジオに不審者が侵入した!」と騒然としたらしいよ(笑)。
マサミーヌ:夢見がちだけど、情があり、哀れなほど悪意がないパオロ・グッチの役を演じることは本当に難しかっただろうなと思うよね。
フルカティ:パオロ・グッチの父親であるアルド・グッチを演じたアル・パチーノ(Al Pacino)とジャレッド・レトの掛け合いは、どちらかというと風刺的に描かれていてコメディを見ているようでもあったね(笑)。
マサミーヌ:本作は題材もさることながら、関係者からは酷評を浴びていることでも話題になったけど……。
フルカティ:「低迷していたグッチを救った」とも言われているトム・フォードもアメリカのデジタルマガジン「AIR MAIL」で酷評していたね。寄稿文の出だしは「私は最近、"ハウス・オブ・グッチ”という2時間37分の映画の上映を生き延びた。(I recently survived a screening of the two-hour-and-37-minute film that is House of Gucci.)」。
マサミーヌ:なかなか痛烈な書き出し(笑)。
フルカティ:ただ、デザイナーとしても、映画監督としても評価されているトム・フォードが衣装やセットについては「申し分ないし、美しかった」とコメントしているので、映画としてのクオリティは折り紙付きだよ!!
フルカティ:トム・フォードが言うように、ブランドとしての「グッチ」の話ではない。「イタリアの由緒正しい家庭内で起きた殺人事件を描くエンタメクライム映画」として観るのが良いと思う。ただ、実在した人物を描いているので、トム・フォードのように描かれた本人と関わりがあった人からしてみれば消費されているように感じるのかもしれないね。
マサミーヌ:”ほぼ”実話に基づく話だからね。
フルカティ:ブランド「グッチ」を知りたい人が観ると、「思っていたのと違う」となりそう。繰り返しになるけど、エンタメ映画として観れば楽しめるはず。
マサミーヌ:クリエイションとかデザインの話ではないからね。
フルカティ:そうだね。そもそも創業者の話ではないし。
マサミーヌ:極論「ファッションを題材とした映画」でもないかも。エンタメ映画としては衣装もセットも素晴らしいけど、「グッチの名前がタイトルについているし、ファッションにフォーカスした作品かも!」と思って観に行くと肩透かしを食う。
フルカティ:パトリツィアの衣装の内、グッチのアーカイブを着用しているのは2シーンのみだったね。
フルカティ:エンタメ&クライム映画として観れば、大変素晴らしい衣装だと思う。パトリツィアの性格や感情の起伏がセリフだけではなく、服や髪型などで表現されているのは本作の見どころの一つかもしれないね。胸とお尻が強調される服を着ているパトリツィアは、歩くだけで誘惑しているようにも見えるし、あるシーンでは傲慢さも感じる。
マサミーヌ:「ファッション界の一大スキャンダルを描く」という意味では、「ヴェルサーチェ(VERSACE)」の創業者ジャンニ・ヴェルサーチェ(Giovanni Versace)を殺害した連続殺人犯アンドリュー・クナナン(Andrew Cunanan)を描いた海外ドラマ「アメリカン・クライム・ストーリー/ヴェルサーチ暗殺」と近い。
フルカティ:アメリカン・クライム・ストーリーは海外ドラマで、映画よりも長く人物を掘り下げる時間がある分、本作よりもさらに丁寧かもね。
フルカティ:物語にはあれこれ文句を言っていたトム・フォードだけど、アダム・ドライバー(Adam Driver)とレディー・ガガ(Lady Gaga)の演技については絶賛していた。
マサミーヌ:今でこそ映画「アリー/スター誕生」でアカデミー賞やゴールデングローブ賞で主演女優賞にノミネートされたレディー・ガガだけど、映画「マチェーテ・キルズ」ではゴールデンラズベリー賞※に最低助演女優賞に選ばれていたんだよ。
※ゴールデンラズベリー賞:毎年アカデミー賞授賞式の前夜に「最低」の映画を選んで表彰するもの。ラジー賞とも呼ばれている。
フルカティ:今作では、ガガの演技は高い評価を受け、第79回ゴールデングローブ賞主演女優賞(映画・ドラマ部門)でノミネート。ニューヨーク映画批評家協会賞では主演女優賞を受賞した。愛と権力の間で揺れ動く上昇志向の強い女性を台詞だけではなく、目や歩き方で表現していたのが印象的だったな。
フルカティ:情けない青年から、権力を欲する男性になるまでを演じ切ったアダム・ドライバーも最高だった!
マサミーヌ:マウリツィオが「側から見たら多少傲慢すぎるパトリツィアに何故惹かれたのか」がわかるくらい、マウリツィオの細かな心情変化を演じていたね!
フルカティ:パトリツィアとマウリツィオの結婚式でジョージ・マイケルの「FAITH」という曲が流れるんだけど、その歌詞の意味を知っているとまた味わいが変わるかも?
【もう観た!? Fスナ映画部屋アーカイブ】
・ロバート・パティンソンとウィレム・デフォーのW主演映画:「ライトハウス」
・フランス映画がアツい:「Summer of 85」
・UA栗野とミキオサカベが語る:「マルジェラが語る"マルタン・マルジェラ"」
・令和のスター・ウォーズ誕生:「DUNE/デューン 砂の惑星」
・あなたも"やられた!"と思うはず?:「アンテベラム」
・完全"復活"を世界最速考察:「マトリックス レザレクションズ」
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