ミカゲシンのランウェイに登場したモデル イシヅカユウ
Image by: FASHIONSNAP
ファーストルックは男性モデルだった。イシヅカユウをはじめとする、男性として生まれながら女性のアイデンティティを持っているトランスジェンダーや、ノンバイナリーを公表しているモデル14人がランウェイを歩く。それらの事実だけでも、デザイナー進美影が手掛ける「ミカゲシン(MIKAGE SHIN)」が、「ジェンダーレスでユニセックス」という言葉に向き合っているとわかるだろう。「Rakuten Fashion Week TOKYO 2022 S/S」の初日である8月30日に発表された、ミカゲシンの2022年春夏コレクションテーマは「BUNRIHA」。コロナ禍直前の2019年にデビューしてから2年目を迎えた今季、立ち上げ当初から掲げる「ジェンダーニュートラル」というテーマに、分離派建築会のキーワード「都市と田園」「彫塑的なもの」を用いて改めて向き合ったコレクションとなった。
■コレクションタイトル「BUNRIHA」の意味は?
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今作「BUNRIHA」は、2021年春夏コレクション「インビジブルビジブル」、2021年秋冬コレクション「ザプロセス」から続く、3部作の最終章。1920年に起きた日本で初めての建築運動「分離派建築会」に強く影響を受けたという。
「『我々は立つ』というスローガンのもと、新しい時代と新しい芸術を自分たちで再構築しようとした彼らが生きた時代は、スペイン風邪が流行し、旧態依然としている政治体制への不満や、男尊女卑社会に異を唱える婦人解放運動が活発に行われていた時代でした。奇しくも2021年の我々が生きる世の中と酷似した状況です。コロナ禍である2019年にデビューしてから、『待っていても終わりはこない』『自分たちが世の中を変えていくんだ』という責任と自負が年々強くなっています。100年前ではありますが、クリエイティビティを通して新しい時代を切り開こうとした分離派建築会のメンバーに敬意を表しながら、ブランドとして、現在を生きる個々人の生き方にエンパワーメントできたらと思っています」(進美影)。
■田舎のような素材、都市のようなデザイン
ショー全体を通して浮かび上がるのは、分離派建築の特徴でもある「都市と田園」の二律背反。薄暗い渋谷ヒカリエの会場には、光を受けて乱反射する水面のようなランウェイと巨大なモニターが出現し、小川のような会場をモデルたちが歩いた。
進は「分離派建築は、近代化していこうという世の中の急速な変化についていけず、昔を懐かしむようなノスタルジーな気持ちが『田園』として、そうは言っても近代化せざるを得ないという自覚が『都市』として作品に表されていた」とし、ある種の矛盾を抱えている分離派の作品を「変化に対応していくまでの葛藤を抱えるヒューマニティ」と解釈。進が描き下ろしたというどこか懐かしい田園柄と都会的なグレンチェックを組み合わせたチュニック丈のシャツや、都市建築で用いられる大理石模様のテキスタイルを用いた角張ったスーツ、麻素材のようなリサイクルポリエステルを使用したロングベストなど、「都市と田園」という二項対立による葛藤を思わせるアイテムの数々が登場した。田園柄のテキスタイルや、少しだけ田舎っぽい麻の素材を『田園的なもの』とし、フォーマルな装いという点で、社会において記号的な役割があるスーツやシャツなどを『都市的なもの』として位置づけたという。
また、曲線や流動的なラインが特徴的なアイテムも数多く登場。アーチ状に穴の開いた衣服は、建築における窓の役割を彷彿とさせ、シアーな素材を用いてデザインされたレイヤードやプリーツは、彫刻的な近代建築を思わせる。
■ミカゲシンは、ファッションを悪にしないためにサステナブル素材を選ぶ
同ブランドは今シーズンから、半数以上のアイテムを環境に配慮した素材や、トレーサビリティ認証を得たテキスタイルに変更。素材や共に働く人々との連帯強化にトライしたコレクションになったという。ファッションを取り巻く状況も、かつてとは大きく異なっている。コロナ禍において「装うこと」は大きく揺さぶられ、「サステナブル」という新たな価値観が注目される時代になった。ファッションにおけるサステナビリティの促進は、建築界における近代化、西洋化の波に類似しているようにも思う。進は「ファッション業界自体が向き合わないといけないこともある」とした上で、「個人的にはファッションにおけるデザインの部分が軽視されることは悲しく思っている」と涙ながらに訴えた。
「ファッションには外面から内面を変える力があると思っています。装うことで自信がついたり、自分がどのような人間かを伝えることが出来る。ファッションに救われてきた一人として、ファッションの芸術性をもう一度純粋に楽しんでもらうために、デザインや衣装性でファッションを楽しめるようにしたかった。ファッション以外のコンテクストでその価値を下げたくないんです」(進美影)。
デザイナー進美影は、ファッションを悪にしないために、サステナブル素材を選択する。純粋にファッションを楽しんでもらうために、出来ることから真面目に取り組むミカゲシンの彫塑的な服作りは続く。
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