「毎日のようにコラボが発表されて、うんざりしていた」。そう語るデザイナー三原康裕が手掛けた「ジーユー(GU)」とのコラボレーションアイテムが3月5日に発売される。自身の学生生活に思いを馳せながらコロナ禍にデザインしたというコレクションの背景には、デザイナーとしての真摯な姿勢と覚悟があった。GUとのコラボコレクションに、同氏が込めた想いとは?
—GUからのオファーを受けたのはいつ頃ですか?
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ちょうど一年前くらいかな。GUさんが「ケイタマルヤマ(KEITA MARUYAMA)」とのコラボを発売したくらいのタイミングでした。
—コロナ禍での製作となったんですね。
製作に影響はそこまでなかったですが、まあ、コロナ自体には正直びっくりしましたね。まだ収束していないこの状況で多くを語るのは時期尚早だけれども、会社がやるべきことを見直すこともできたし、考える良い機会になったなという思いはあります。1996年にブランドを始めてあれよあれよという間に20年以上が経ちましたが、過去にもリーマン・ショックだったり東日本大震災だったり、転機になるような大きな出来事はあって。今回は色んなことにチャレンジしようと再確認する時間になりましたね。
あと僕は一部のメディアが言っていたようにそんなに簡単に「ファッションで世の中を明るくしよう」などとは言えないです。コロナで「ファッションは必要か?」と問いたくなっているのかもしれませんが、僕は軽々しく偽善者みたいなことは言いたくないし、そもそも生活する上で服のプライオリティは別に高くない。そんなこと誰もが分かっているのに、今更業界があたふたするのは、正直格好悪いなと思うんですよ。ファッションって不思議な生き物で、流行ったら廃れるわけです。ブームになって満たされたら途端に落ちていく、常に不安と隣り合わせなもので、言うなれば不安があるからこそファッションなんですよね。そういうものだと思っている僕からすると、あたふたしている業界にはとても懐疑的でした。そんなときに、GUさんからコラボの話を頂けてとてもしっくりきた部分があったんですよね。
—しっくりきた部分というのは?
「ミハラヤスヒロ(MIHARA YASUHIRO)」は凄く小さな世界で生きていて、言ってしまえばマイノリティなんです。そんな僕から見ると、GUという大きなブランドが尊く感じるわけですよ。だって僕らみたいなブランドが頑張ったところで、多くの人には届けられないんですから。だから今回GUさんの力を借りて、僕のクリエイションを多くの人に届けることができるというのは、先ほどの話で言う「ファッションで世の中を明るくする」ということが現実味を帯びてくるわけで。僕は「世の中が明るくなれば」と願う代わりに「多くの人にメッセージを伝える」という意味で今回のコラボはしっくりきました。
ー大企業とのコラボとなると、ミハラヤスヒロでは「プーマ(PUMA)」とも協業していましたね。
2000年から15年続けた「プーマ」とのコラボは「スポーツ×ファッション」という新しいカテゴリーを産み出したと思います。ミハラヤスヒロのような小さいブランドと、大企業が協業することで新しいマーケットが生まれていく感覚があったんです。でも今は毎日のようにコラボのニュースが出ていて、コラボじゃないといけないのかというぐらいコラボだらけ。そのほとんどは化学反応が生まれていない気がしています。昨今のコラボにうんざりしていたので、一度ここで意味あるコラボを提案したかったんです。
—どのようなことを考えながらデザインしたんですか?
「若者は大丈夫だろうか?」と考えながらですね。僕はバブルが崩壊した後の就職氷河期の時に学生生活を送っていたので、就職も難しいから自分でブランドを始めたという経緯があるんですが、今の若い世代は、孤独や将来に対する不安を感じていた学生時代の僕と似たような感情を持っているんじゃないかなと思ったんですよね。今の若い子たちは学校が休みになって青春を謳歌できず、この先どうなるかわからないっていう不安も大きいだろうけど、これからの未来を作っていく人たちに違いはない。コロナを経験して社会的な挫折を感じているかもしれないけれど、明るい未来を照らせる人であって欲しいなと思うんです。でも僕のブランドでそのメッセージを出し続けたとしてもリアリティがない。いくらパリコレに出て、20年以上やっていても、多くの人は知らない。だからGUさんっていうテレビのような大きな受け皿を持つブランドでメッセージを発信することに本質を感じたんです。
—若い世代のことを想い製作したものだったんですね。GUからデザインの要望はあったんですか?
僕のクリエイションはGU向きじゃないと思っていたんですが、GUさんには「ミハラヤスヒロ」のデザインが欲しいと言ってもらえて。大きな会社とのコラボってミーティングを重ねれば重ねるほど自分の理想から離れていくことが多いんですけど、今回は気持ちよく仕事をさせてもらいました。加えて、プライベートなコレクションとしてやりたかったので、いつもはチームでデザインしていますが今回は全部一人でやりました。
—GU人気商品のシェフジャケットやシェフパンツをアレンジしたアイテムもありますね。
率直に可愛いなと思い使わせてもらいました。あと「シェフ」っていう言葉の響きも良いなと。アイテムにはパスケース入れ、ペン差し、ノートが入る大きなポケットといった自分が学生時代に欲しかった機能性を担保しながら「ミハラヤスヒロ」のクレイジーなデザインを加えて。GUさんにユニセックスっていうカテゴリーがないからメンズ品番になっているんですが、女性も着られるようにアレンジしています。
—「ミハラヤスヒロ」のコレクションでも特徴的なネームタグやクリーニングタグもデザインされています。
大量生産された服のデットストックには紙タグが付いていることが多いですが、僕は紙タグにマスプロダクション的な要素を感じるんですよ。僕が作る服は多くても数百単位でマスプロダクションと言えないので、皮肉の意味を込めて付けています。クリーニングタグはある日、可愛いなと思ってあえて付けたまま着ていたら、周りから「クリーニングタグ付いてるよ」と笑いながら言われるのが凄く良いなと思って。こちらから何も言わなくても話しかけてくれる、ちょっとしたユーモアなのですが自分の馬鹿げたアイデアをGUさんに共感してもらえ嬉しい限りです。他にも僕がよく使うメッセージも入れいて、今回は「Never bend your head. Always hold it high.(下を向くな上を向け)」というヘレン・ケラー(Helen Keller)の格言をメッセージとして様々なところに使いました。テーマも最初は「The products for Art Student」だったんですけど、「グッドインスピレーション(GoodInspiration)」という誰もがポジティブな内容だと思えるものに変えました。
—コレクションではサステナブルな素材も用いられています。三原さんは昨年サステナブルなスニーカーライン「ジェネラル スケール(General scale)」をスタートさせましたが、サステナブルについてはどう考えていますか?
物を作って売る以上、デザイナーには責任があります。「本当に地球が救えるのか?」というクエッションマークがありながらも、一生懸命みんなサステナブルな新しい産業革命を起こそうとしている。極論として、物を作らないことが1番のサステナブルだと言う人もいますが、経済的持続性、環境的持続性、社会的持続性の3つが関係し合っているためそんな簡単なことでもないわけです。法律も未整備で色々と議論を重ねていかなければいけない段階だと思いますが、今何が大事かと言えばそれはやっぱり気持ちだと思うんですよね。だからGUさんには「できるだけサステナブルでやりましょう」と話しました。
—完璧じゃなくてもいいからできることからやっていく。
まずは問題に直面することが大切だと思うんです。システムから変えていくために、僕らのような小さなブランドと、ファーストリテイリングという日本を代表する大企業が一緒に取り組むことは重要でしょうし、サステナブルをトレンドにしてはいけないという思いもあります。基本的には作る側の責任なので、何を買ってもサステナブルという状況を作らないといけない。買う人は、格好良いか格好悪いかの判断だけでいい。だから大事なのは消費者へのエデュケーションではなくて、供給側が自覚してシステムを作ることなんですよ。
—今回一緒に取り組んだことでどういった学びがありましたか?
「ミハラヤスヒロ」では価格に制限を設けていないので、サステナブル素材が高価でも大丈夫ですが、GUさんは少しでも買いやすい値段にするために凄く努力をしているわけですよ。今回、左右で濃淡が異なるデニムを作ったんですが、「ミハラヤスヒロ」だったら加工したデニムを半分ずつくっつければ良い話。でも価格が上がってしまうということで、プリントで表現しました。そういう発想は、「ミハラヤスヒロ」だけやっていると気づけないもの。学びになりましたし、色々なアプローチを試せて面白かったです。
—今回、ピザーラ(PIZZA-LA)とのコラボアイテムも展開しています。
ピザが好きでよく食べるというのもあるんですけど、自粛期間中に配達員の人に凄く助けてもらったので感謝の意も込めています。あとピザって家族団欒の時間や友達と集まったときに食べることが多いと思うので、そのハッピーな感じも伝われば良いなと。
—GUと組むことで、世の中が楽しくなるクリエイションというものを本当の意味で体現していくということですね。
コロナ禍に孤独を感じたのか、未来に希望を見出せなかったのか、自ら命を絶った若者がいたという話を聞きました。それは一番恐れていたことだし、一番防ぎたいところだった。僕が多摩美出身だから美大の話になりますが、クリエイションに興味がある人が美大に集まるわけで、もちろん辛いことはあるのだけれど、その中で切磋琢磨することは楽しいことだと信じています。デザイナーやクリエイターは神ではないし、人間だから不安を抱いたり、挫折することもある。でも振り返れば同じ時代の学生仲間に多くの才能あふれる人がいて、勇気づけられたんです。未来ある若い人たちがコロナなんかに負けて欲しくないですし、そのために少しでも世の中が楽しく見えるような馬鹿げたことを何かできないか、それがGUさんと一緒にやりたかったことなんです。
(聞き手:林慎哉)
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