ビューティ業界で注目を集めるトップランナーとして走り続ける人たちの、幼少期から現在までをひも解く連載「美を伝える人」。企業編の第5回は、パリ発ヴィーガンネイルブランド「マニキュリスト(mamucurist)」代表のガエル・ルブラ・ペルソナージュ(Gaëlle Lebrat-Personnaz)氏。「幼いころから、夢は化粧品ブランドを作ること」と言いながら、法律を勉強し、ラグジュアリーファッション企業で働くというユニークな経歴を持つ。ネイルの会社を経営する両親の後を継ぎ、さらに進化させた爪にやさしい自然由来素材の採用と環境にも配慮したモノづくり、そして「色」にもこだわるマニキュリストに至った経緯について、幼少期をひも解きながら聞いた。
■ガエル・ルブラ・ペルソナージュ代表
フランスモード研究所でMBA(経営学修士)を取得。卒業後、「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」、「プラダ(PRADA)」、「サンローラン(Saint Laurent)」で”ファッションの世界”について学ぶ。両親が1996年に創業したネイルケア事業を2015年に継承。幼いころからネイルポリッシュが身近にある環境で育ったことから、ネイルポリッシュがどれだけ有害な性質や化学物質を多く含んでいるか理解。「環境にも地球にもやさしい製品を作りたい」という想いからが新たなブランディングで「マニキュリスト(mamucurist)」を成長に導く。
■マニキュリスト
植物由来成分処方にこだわりを持ち、人、動物、環境に配慮した製品を展開。カラーバリエーションや輝きにおいても一切妥協せず、爪を美しく健やかに保つことができるように処方する。4つの約束として、・有害成分不使用・植物由来成分使用・クルエルティフリー・MADE IN FRACEを掲げ、ヴィジョンは「世界中の人に安全な製品をお届けし、ハッピーにすること」。
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幼少期の夢は化粧品のオリジナルブランドを作ること
ーまず最初に、幼少期はどんなお子さんだったのでしょうか?
どちらかというとボーイッシュで活動的な子どもだったと思います。でも活発すぎて何か怒られるようなこともなかったですし、両親は割と自由に育ててくれたと思います。いい子でした(笑)。
ーご両親がネイルの会社を経営されていました。小さいころからネイルの道を思い描いていたのでしょうか?
幼いころから化粧品ブランドを作りたいと思っていたんですが、自分のブランドのパッケージデザインを考えたり、描いたりすることもありましたね。美容の世界で活躍したい、そんな夢は昔からありました。
それは母の影響が大きいと思います。とても知的でいつも身だしやお化粧もきれいにしているエレガントな人なんです。そんな母のドレッサーをこっそり開けては、何を使っているか見たりして(笑)。
大学ではより具体性を求め法学部に
ーでは大学は、化粧品につながるような学部に進学したのですか?
それがそのころは、大好きな化粧品は仕事にするものではないと(笑)。より具体性があると考えて法律の道に進むことにしたんです。法学部で5年間、勉強しました。
ー法律!? それままた全然違いますね。そこからなぜ現在の方向に?
全然違いますよね。転機となったのは大学5年生のときに、ファッション業界で働く友人が関わるイベントにアルバイトで入ったことなんです。さまざまなファッションブランドやモード誌の人と関わりすごく刺激を受けて、こういった道に進みたいと。それで友人に「何を勉強してこういう仕事をしているの?」と聞いたら、フランス屈指のモード学校「IFM」を卒業したと。だから、IFMに入りました。
ーそれはまたすごい(笑)。法律を5年も勉強したのに?
無駄ではなかったですよ。法律5年、IFMで1年過ごしましたが、いずれもファッションを軸にしたマーケティングも学びました。それで卒業後はまず「ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)」に、その後「プラダ(PRADA)」「サンローラン(SAINT LAURENT)」で働きました。
キャリアスタートはファッションブランド 学びは「色」
ーファッションの部門で働いたのですね?
はい。ファッションとビューティは非常に近い存在だと思っています。すでに両親がマニキュリストを経営していて、その手伝いもしていまし、モードなファッションとの共通点を感じながら続けましたね。とても勉強になったと思います。振り返ると、ファッション業界で1番の学びになったのは「色」ではないでしょうか。この色の学びがマニキュリストでの表現に最も生かされていると思います。
ー当時、マニキュリストを手伝っていたということは、継ぐことを視野に入れていたのですか?
「継ぐ」という明確な夢を追っていたというよりも、子どものころからずっと描いていた、自分の化粧・美容に関係するブランドを作りたい、という夢をずっと持っていたということですね。ただ実際、ファッションの仕事と母の仕事を続けていく中で、母が築いたノウハウを生かして商品が作れたらと思ったんですよね。母の会社は海外との取引もあり、マーケティング等も分かっていました。ラグジュアリーブランドでも働いていましたし、どういった商品が売れるか、どんなイメージが良いのか…。それぞれでノウハウを持っていた。それを生かして自分自身のブランドを作ることは可能だと考えました。
両親が経営していたネイル会社を継承
ー引き継いだ後、ヴィーガン、サステナブルに向かいます。その理由は?
一般的には15〜20年前から環境への危機感はすでにあり、地球規模での課題になるということが見えていた時代ではあったと思います。ですがそれでも時間が掛かることで、また多くのファッションブランドはそこまで意識していたとは思いませんでした。ただビューティは体に直接つけることもあり、ホルモンの働きに関わる成分が入っていないか、処方がどう身体に影響を与えるかなどの意識が高まっていて、ヴィーガン、クリーンな動きは強まっていったのではないでしょうか。それと並行して規制も年々厳しくなり、より使用できる成分が制限されるようにもなっていったと思います。処方を含め商品の内容がクリーンであっても、作り方が環境に対して悪い影響を与えていないか、またリサイクルできないような容器を使っていないかといったサステナブルな取り組みも進んでいったと思います。
私自身もずっと環境や人体に対して敏感で、このままではいけないと勉強を続けていたんです。なので当時からはっきりと作りたいものは決まっていました。
ー市場の変化もあると思いますが、仕事を続けていく中で、環境や人体への配慮をより意識したということでしょうか?
そうですね。先ほど言った通り、約20年前はファッション業界ではそこまで大きく目に見える取り組みはなかった…。だからこれで良いのだろうか?という疑問を持っていましたね。それに加え、両親がネイルの会社を経営していましたから、ずっとネイルに囲まれて育ち、匂いからも身体によくない有害な性質や化学物質が含まれているのかも感じていました。そういったことがベースとなり、現在のマニキュリストを作ろうと考えたんです。
ー現在のマニキュリストを立ち上げるまでにどれぐらい掛かったのでしょうか?
環境、人体に悪影響を及ばさないよう、ヴィーガンで作ることを目指しましたが、ファッションの世界で学んだ「色」にもこだわりたい。なので何年もの間、サステナブルなモノづくりができる工場を探し、また色の研究にも注力して情報を収集しました。最初の商品「グリーン」は2017年に発売しましたが、5〜6年は開発に掛けたと思います。
マニキュリスト ラインナップ
「グリーン(green)」:スタンダードなネイルポリッシュシリーズ。人と環境に配慮した9フリーの植物由来成分処方
「グリーン フラッシュ(green flash)」:ネイルポリッシュでもなくジェルネイルでもない新ジャンルのジェルポリッシュシリーズ。人と環境に配慮した植物由来成分処方。ネイルポリッシュよりも長持ちし、ジェルネイルよりも薄付きで爪を削らずに専用のリムーバーで簡単にオフすることができる
「ケア(care)」:ネイルケアシリーズ。ネイルブランドならではのこだわりを詰め込んだハンドケアもご用意
「ペティット マニキュリスト(petite manucurist)」:子ども向けネイルポリッシュ。 毒性のある成分は一切不使用、石けん水やお湯で簡単に落とすことができる
ー開発に5〜6年。規制も厳しくなる中で、苦労した点は?
特に、グリーン フラッシュに大変苦労しましたね。ポリッシュだと1週間と経たないうちに剥がれてしまいますが、ジェルだとサロンに行く必要がありますし、剥がすときを含め爪への影響も心配です。ポリッシュのように簡単にセルフで塗れて、長持ちし、さらに爪に優しい。そんなアイテムが作れたらと思っていたんです。グリーン フラッシュはそれを叶えた製品で、2〜3週間保ち、オフ時の爪への優しさもクリアしました。
ー剥がすときの除光液が爪に悪影響を与える可能性があるということですが、悪影響が少ないものを開発したということですか?
そうですね。フランスの工場とリサーチ、研究を続けていった結果です。消費者と工場で働くスタッフの両方に害のない商品がどうしたら作れるのか、かなり苦労しました。少し化学的な難しい話になってしまうので、簡単に言うと、今までになかったような化学組織が開発できたということですね。身体に悪い影響があるとされるモノマーを、入らないようにしてさらに取る際にも簡単に取れる、そんな処方ができたということです。
マニキュリストはクリーンとグリーンビューティのどっち?
ー日本語で聞いても難しい話ですが…すごいことだというのは分かりました。少し話はズレるのですが、どうしてもお聞きしたいことがあり…。今の市場に、クリーンビューティとグリーンビューティの2つの言葉がありますが、この違いについて理解できてない人が多いと思います。その違いについて教えてもらえますか?
クリーンビューティは健康、使った時に害がないことにフォーカスし、グリーンビューティは自然由来の原料を使っていることにフォーカスしていると思います。クリーンの害がないと考えると自然由来も意識していますよね。だから非常に似ていると思いますが、ただ考え方が少し違うということでしょうか。
ーマニキュリストはどっち?
まず商品はグリーンで、自然由来の処方です。ですがより進化していると思います。悪いモノマーを外し、身体に害のないものを作ることが先んだっていますし。だから使ったときに害のない、クリーンな商品でもあります。
売上は毎年2倍に成長中
妥協しないモノづくりで、ビジネスも拡大していますね。
そうですね。とても成長していると思います。毎年、前年比2倍の売上を記録しています。現在、フランスをはじめアメリカ、イギリス、韓国、オーストラリア、イタリア、ドイツ、ベルギー、オランダ、日本など50ヶ国で展開しています。
ー毎年2倍! サステナビリティとビジネスの両立は難しいと思っていました。
まず第1の目標は、自然由来成分でできた商品を届けること。ユーザーの方々が使ってみて、おしゃれなカラー展開で、簡単で、使用感も良い。さらには環境にも配慮されていると分かると、もっと健康的な美容を目指すきっかけになると思うんです。そういったことが相乗効果になっています。当たり前ですが、商品自体がしっかりしたものでなければ、長い目でみると期待できないですよね。
ー日本では京都バルにショップを構えています。今後の展開を教えてください。
他国の戦略と同様になりますが、今後はラグジュアリーホテルのスパへの導入や販売も視野に入れたいですね。百貨店やオーガニック化粧品などを取り扱っているショップにも広げていきたいとも思っています。東京にもお店が構えられたらいいですね。
(聞き手:福崎明子)
■マニキュリスト:公式サイト
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