パリに現存する最も古い橋でありながら「新しい橋」という意味を持つポン・ヌフ(Pont Neuf)を舞台に、「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」メンズコレクションの新章が幕を開けた。メンズ・クリエイティブ・ディレクターに就任したファレル・ウィリアムス(Pharrell Williams)による、注目の2024年春夏コレクション。ブランド名の頭文字を掛けた「LVERS」をキーメッセージとし、メゾンの歴史を更新するフレッシュなスタイルと、ファッションと音楽のスペクタクルがセレブリティをはじめ1000人以上の観客を魅了した。
人々を結びつける太陽と愛
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今年2月に新たなメンズ・クリエイティブ・ディレクターに就任したファレル。故ヴァージル・アブロー(Vigil Abloh)の後任として、人気ミュージシャンでプロデューサーとしても幅広く活動している彼に白羽の矢が立ったことは世界中で「驚きの人事」として報じられた。ショー開催前には、リアーナ(Rihanna)を起用した初のキャンペーンビジュアルを公開。大きなお腹をあらわにカラフルなバッグを抱えたリアーナのスタイルが話題を呼んだ。
今回のコレクションのテーマは「太陽」。生命の源である太陽の輝きは、文化や信条を超えて人間に活力を与え、癒し、団結させるものであるとコレクションノートには綴られている。ショーのインビテーションもあたたかみのあるステンドグラス風のグラフィック。LVERSのエンブレムはファレルの故郷であるバージニア州のスローガン「バージニアは恋人たちのためにある(Virginia is for Lovers)」にちなんでいるという。
「行動は言葉よりも雄弁だ」
ショー開催に先駆けて公開されたのはショートムービー。コメディアンのジェロッド・カーマイケル(Jerrod Carmichael)がセーヌ川のほとりで、アメリカ人アーティストのヘンリー・テイラー(Henry Taylor)に悩みを打ち明けるシーンで始まる。「僕は時々、恥ずかしがって言い訳をしたりして、本当に自分が欲しいものを口に出せないことがあるんだ」と話すジェロッドにヘンリーは「決まり文句を言うつもりじゃないが、行動は言葉よりも雄弁だ」と諭す。トッド・トゥルソ(Todd Solondz)監督が手掛けたこの会話劇は、新生ルイ・ヴィトンの新たな指針を示しているかのようだ。
パリをジャックしたエンターテインメント
そのアンサーがまさに今回のスペクタクルだ。ゲストはオルセー美術館前などから船でセーヌ川を上ってポン・ヌフへと移動。セーヌ川のほとりに位置するルイ・ヴィトンの本社前を含めポン・ヌフを封鎖して貸し切り、黄金のダミエ柄に染めたランウェイと巨大な照明、オーケストラを配置。史上最大規模の屋外ランウェイとなった。夕陽が沈むと、オーケストラの生演奏に合わせてショーがスタート。中国を代表するピアニストのラン・ラン(Lang Lang)をフィーチャーした曲「Peace Be Still」も披露され、まるでコンサート会場のような盛り上がりを見せた。
ダミエの新解釈やアート作品の引用
冒頭から目を引いたのは、ルイ・ヴィトンの伝統的なダミエ・パターンにカムフラージュ柄を融合させた「ダムフラージュ(Damouflage)」。またダミエのチェッカーボードのパターンを多用し、カラフルなスタイルを作り上げた。アメリカのピクセル アーティスト、ET が作成した8ビットの「アタリ ダミエ」モチーフといったモダンな解釈も光る。
刺繍で描かれた小さな肖像画
肖像画の刺繍が施されたデニムやテーラリングは、冒頭の映像にも登場したヘンリー・テイラーの作品をフィーチャーしたもので、メゾンのクラフトマンシップを印象付けた。ヘンリーは身近な人物からカール・ルイス(Carl Lewis)やジェイ・Z(JAY-Z)といった有名人までを描くことで知られ、サンタモニカ美術館などで個展を開催している。「アーティーカプシーヌ コレクション」に参加するなど、ブランドとはこれまでも関わりの深いアーティストだ。
アクセサリーは、クマの足跡がエンボス加工されたムートンスリッパなどが存在感を放つ。「アルマ」、「スピーディ」といったアイコニックな定番バッグもバリエーション豊かに展開された。ビジューをあしらったハイカットスニーカーやピクセルパターンのスケートボードは、ストリートで映えそうなデザイン。船型のバッグ、テディベアのマスコット、コーヒーカップといったキャッチーなアイテムも満載。また、ウエストバッグのようにして身につけられるポータブルスピーカーやモノグラム柄のレコードプレーヤーなど、音楽関連のアイテムも揃う。ヴァージルの築いた流れを引き継ぎつつも、ファレルらしさの滲むクリエイションとなっていた。
展示会の様子
Image by: FASHIONSNAP
パールやダイヤをあしらったサングラス
フレームにパールをあしらったサングラスもアイコニック。ジェンダーレスなコスチュームジュエリーの取り入れ方は今回のコレクションの重要なエレメントとなっている。また、パールの装飾はウェアやバッグにもふんだんに取り入れられた。
なお、フィナーレに登場したファレル自身が着用していたダイヤモンドのサングラスは「ティファニー(Tiffany & Co.)」によるカスタムデザインで、計20カラットのダイヤモンドを使用したものだという。
意表をつくキャスティング
また、意外性のあるモデルの顔ぶれも見どころの一つだ。デザイナーのステファノ・ピラーティ(Stefano Pilati)をはじめ、スケーターのダショーン・ジョーダン(Dashawn Jordan)、マルチクリエイターのキャム・ヒックス(Cam Hicks)、ラッパーのレジー・スノウ(Rejjie Snow)などがモデルとして参加。キャスティングにも多くのサプライズが仕掛けられていた。
ゴスペル合唱団やジェイ・Zとの共演も
ショー後半には「ヴォイス・オブ・ファイア(Voices of Fire)」が登場した。彼らは、2020年に放映されたテレビのドキュメンタリーシリーズでファレルが故郷バージニアで設立したゴスペル合唱団。彼らとのコラボレーションで生まれたファレルの新曲「Joy(Unspeakable)」が披露され、そのエモーショナルかつ力強い歌声がパリの空に響き渡る中、スタンディングオベーションのフィナーレとなった。ランウェイには今回のコレクションを手がけたアトリエスタッフも登場。ファレルはフロントロウにいた家族とハグを交わし、跪いたり手を合わせたりしながらスタッフやオーディエンスに感謝を伝えた。
ファッションはカルチャー全てを包括しており、それを表現するのはファッションデザイナーだけではない。世界が注目したルイ・ヴィトンの新体制だが、ファレルのスタイルを全力で投影したこのランウェイが彼の唯一無二の才能を証明していた。アフターパーティではファレルとジェイ・Zのパフォーマンスも披露され、ミュージシャンとしての本領を発揮。ポン・ヌフ周辺が、まるでフェスのような熱狂と高揚感に包まれた。
Video by FASHIONSNAP
リアーナ、ビヨンセら豪華ゲストも来場
会場にはリアーナ、エイサップ・ロッキー(A$AP Rocky)、ビヨンセ(Beyoncé)、ゼンデイヤ(Zendaya)、ミランダ・カー(Miranda Kerr)、ジャレッド・レト(Jared Leto)、キム・カーダシアン(Kim Kardashian)、レニー・クラヴィッツ(Lenny Kravitz)といった顔ぶれが揃った。NCTのユウタ、GOT7 ジャクソン(Jackson Wang)、GOT7 ベンベン(Bambam)のほか、日本からはNissy(西島隆弘)も来場した。
会場にはファレルと親交の深いNIGO®の姿も。ファレルが特別に仕立ててくれたというダミエ柄のスーツを身につけて牧瀬里穂とともに出席し、「人柄が出ていたというか、彼らしいショーでしたね。自分も頑張らなきゃと思いました」と盟友の活躍を讃えた。
ヘンリー・テイラー、VERBAL、YOON、Nissy(西島隆弘)、スー・イーミン
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