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河村康輔の制作を裏付ける「選択と集中」 予定調和を脱した先で見えたもの

河村康輔の制作を裏付ける「選択と集中」 予定調和を脱した先で見えたもの

 日本を代表するグラフィックデザイナー・コラージュアーティストである河村康輔。ユニクロのグラフィックTシャツブランド「UT」のクリエイティブディレクターを務め、国内外のさまざまな著名アーティストやコンテンツ作品とのコラボレーションを手掛けながら、自身も世界各国で作品を発表している。

 同氏を代表する表現技法「シュレッダーコラージュ」は、シュレッダーで細かく裁断された写真を再構築して生み出される。卓上の小さな世界で細やかな判断を繰り返す制作、そして事象を俯瞰視する視点が求められるディレクション。さまざまな立場を行き来しながら、同氏はどのように「集中と緩和」を繰り返しているのか。ストイックでミニマムなクリエイションが生まれるルーツを訊ねた。

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“楽しい”と“飽きる”のあいだで

── 河村さんは、コラージュアーティストとグラフィックデザイナーという二つの肩書きで活動されています。職人的な肩書きとデザイナー的な肩書き、またはそれ以外と、さまざまな切り替えが制作中にあるのではないかと思います。コラージュ制作の手法にもシュレッダーコラージュと通常のコラージュがありますね。

 シュレッダーコラージュはコンセプト重視で、普段のコラージュは直感重視。僕の中では全く違いますね。シュレッダーコラージュは、写真1枚でコンセプトが決まります。普段のコラージュは、パズルのように「この手に何を持たせたら面白いだろう」と考えながら、合うものを直感的に選んでいきます。

── シュレッダーコラージュは河村さんの代表的なシリーズとなっていますが、両者の感覚的な違いは?

 コラージュを作ることは楽しくはあるのですが、一つのことをやり続けていると飽きてしまって。慣れてくると完成形が頭に浮かんで、そこに向かって予定調和的に進んでいく感じになるんです。やはり「やったことないことをやる」方がワクワクしますから、それでシュレッダーコラージュをはじめました。シュレッダーコラージュは、多くても2枚しか写真を使わないので、「ここからどうなっていくんだろう?」というワクワク感があります。その感覚を持ち続けるために、今はシュレッダーコラージュがメインになっていますね。

── シュレッダーを使いはじめた経緯は?

 当時、「大友克洋GENGA展」(2012年)のメインヴィジュアルを制作していて、どれだけパーツを増やせるかに挑戦していました。つまりは足し算。ものすごい量のパーツを組み合わせていくというアプローチに対してある種の「やり切った感」がありました。同時に、足し算に限界を感じた瞬間でもあった。貼れば貼るほど、下のものは見えなくなっていくし、増やす必要性もなくなってくる。それは1枚目を作り終えて、2枚目をはじめることと変わりません。

 シュレッダーコラージュは、そうした大量のモチーフの端材を使用して、“一服の休憩”じゃないですが、そうした制作の中の息抜きとしてはじめたんです。

── 本当にシュレッダーをかけられた廃棄する予定のものから作っていた、と。

 そうです。コラージュ用のモチーフを切り抜いた周りのいらなくなった部分をシュレッダーにかけて、テレビのノイズのように直線的に貼っていきました。

 今のように特定のモチーフやイメージもなく、すごくアブストラクトなもので。落ちていた紙の切れ端をランダムに拾って、それをランダムに貼っていくという。

── 予想がつかないものになりそうですね。

 ただ、ノイズっぽいものを10枚作ったところで、柄は違ってもある意味では同じ“作業”。新しい表現を見つけた、と思って楽しく続けていたんですが、10枚20枚と作っていくと、これにも限界を感じるようになりました。

コラージュは絵に勝てないのか?

── そうして、現在の写真を丸ごとシュレッダーにかける手法に辿り着いたんですね。要素としてはものすごくミニマムです。

 そうなんです。そもそもコラージュは人のものに手を加えて作るもの。0から1は生み出せず、必ず1からのスタートになる。だから、1枚だけでは人の写真をただ貼っているだけになってしまい、どんなに引き算しても、最低2枚はないとコラージュは成立しないのだろうと思っていたんですね。ただ、それがどうしても嫌で。

── 嫌、というのは?

 「コラージュでは絵に勝てないのだろうか」、と思ってしまうんです。比べるものじゃないかもしれないですが、「アート」といえば絵画で、やっぱりずっと残っている。どうやったらそうなれるんだろうと考えたときに、現代アートのコンセプチュアルな絵画が思い浮かびました。真っ白なキャンバスに一つ点を描くだけでも、そこに意味合いがあれば作品として成立する。

── それから、イメージを少しだけズラす、という方法にたどり着いたんですね。

 はい。ただ、アブストラクトなイメージでは意味合いを持たせることは難しかった。最初はそこで苦労したのですが、「1枚のイメージを元に戻す」という考え方で試してみたら、モザイクのようになって視覚的にも面白かった。“コラージュでいかに引き算をするか”、それがシュレッダーコラージュのスタート地点でした。いまだにそれを意識して制作しています。

── 貼り付ける素材も、シュレッダーという機械が均一に裁断したものですよね。

 だから、自分の感情がまったく入らないんですよね。入るとしても、写真を選ぶときだけ。そのあとは、刷毛を持って、キャンバスにメディウムを塗って、裁断された紙をただひたすら貼っていく。作業しているときは、無の状態になっています。

── とはいえ、一つ一つ貼るたびに繊細な選択が求められますよね。

 例えば、1000円札を折ると顔が笑って見える、みたいな錯視があるじゃないですか。コラージュをしているとそういう風に変に見えてくることがあって、そうならないようにしようと思うと予定調和になっていくし、元のほうがよかったように思えてきてしまう。だから、シンプルに何も考えないようにしています。ただ、それはそれで、ものすごく疲れてしまうんですよ。無限にできてしまうから、うまく切り替えができないというか。

極度の集中に不可欠な、最もミニマルな休息

── JTとのコラボレーションでデザインされた「プルーム X(Ploom X)」が発売になります。「気分の切り替え」のためにも嗜む人がいるたばこですが、河村さんにとってたばこはどんな存在ですか?

 リカバリー方法として、旅行や買い物があるのですが、いずれもかなり時間を割かないといけない。買い物でも10分で終わるなんてことはあまりないですしね。なので、たばこは、一番短く簡単に休める方法なんです。そして、1本吸うために10分と決めて休むとなぜか罪悪感がない(笑)。全然仕事が進まないときに、YouTubeや漫画に触れているだけだと、そちらに思考が持っていかれる感じがあります。ああ、ヤバいな、この時間で何か考えればよかったなって(笑)。

── わかります!

 たばこを吸っている間は、終わりが決まっているから時間を区切れて、良い休憩になる。視覚的に情報が入ってくるわけではないので、ぼーっとできて、雑念なく次にやることを考えられる時間です。僕はお酒を飲まないので、たばこが唯一の嗜好品。これがなくなったら、休むためにはどうすればいいんだろう?と思います(笑)。

裏原とベランダの思い出

── 河村さんは、ご自身のルーツとして裏原カルチャーにたびたび言及されていて、大きなリスペクトを感じます。そこで生まれた、たばこを介したコミュニケーションはありましたか?

 大きなことでいえば、「バウンティーハンター(BOUNTY HUNTER)」の岩永ヒカルさんとの出会いを思い出します。子どもの頃、最初に僕が興味を持ったのは、パンクロックでした。同時期に裏原カルチャーと出会うことになるのですが、それは自分の中では難しいバランス感で成り立っていて。

── どんなところが難しかったのでしょう?

 当時12、3歳の子どもながら“ジャンル”に縛られていて、「パンクロックが好きなのに、ファッションも好きになってもいいのか」と。音楽好きな友達には隠していたくらいでした。でも15歳のときに、雑誌「warp」のヒカルさんの連載を読んで、パンク好きがファッションについて話してもいいんだとわかったんです。

── 岩永ヒカルさんは「裏原」の仕掛け人の一人と言われていますよね。トイ・ショップをオープンし、パンクロックスタイルのアパレル展開もしていました。

 それが、すごくかっこよかった。そして、スケシン(SKATE THING)さんと対談している回では、しょうもない話ですごく楽しそうに盛り上がっている大人たちがいました(笑)。彼の肩書きにはグラフィックデザイナーと書いてあって、「ア ベイシング エイプ®︎(A BATHING APE®︎)」のTシャツデザインをしていたことを知り、それで自分でもやってみようと上京しました。その後、スケシンさんと出会い、ヒカルさんとはすれ違う程度だったのですが、あるときスケシンさんの事務所にいると「今からヒカルくん来るって」と言われて、実際に来たんですよ。

── ついに……。

 来るやいなや、ヒカルさんは「タバコ吸うね」とベランダに出て、吸いはじめた。そのときチャンスだと思って僕もベランダに出て、何をやっているか、何が好きかを沢山話すことができたんです。それ以来、先輩の中で一番会うくらいには仲良くしてもらっています。とても楽しくて、当時のことは今でもよく覚えています。

── 今後、何かこういうものを作ってみたいというヴィジョンはありますか?

 それがないんですよね。というのも、今やっていることが一番楽しくて、先のことをあんまり考えないんです。同じことをやっているように思えても、1日、1秒ずつ、時間は進んでいくわけだから、1年後は違うことをやっているんだろう、とざっくり考えています。作品制作と同じで、いまやりたい楽しいことをやる。逆にヴィジョンを持たないからこそ、いまを楽しめているのかなと思います。

◾️SPECIAL EDITION STRIPE BLUE BY KOSUKE KAWAMURA
加熱式たばこ用デバイス「プルーム・エックス・アドバンスド」が河村康輔との数量限定コラボレーションモデルを発売。コラボ限定アクセサリーが手に入るキャンペーンも同時開催する。
発売日:2025年3月4日(火)
取り扱い店:CLUB JTオンラインショップ、全国のPloom Shop、全国のコンビニエンスストアなど

ライター/エディター

酒井瑛作

Eisaku Sakai

1993年、神奈川県生まれ。主に写真家へのインタビュー、展覧会レビューなど写真をはじめとした視覚文化・芸術にまつわる執筆活動を行う。近年は、エディターとして展覧会の企画・制作、アートブックの出版などに携わる。

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