左から末安弘明、フィレオ・ランドウスキ(Philéo Landowski)
Image by: FASHIONSNAP
「キディル(KIDILL)」を手掛ける末安弘明が惚れ込む、シューズデザイナー フィレオ・ランドウスキ(Philéo Landowski)の経歴はとても稀有だ。14歳でフィービー・ファイロ(Phoebe Philo)時代の「セリーヌ(CELINE)」の門を叩き、17歳で自身のブランド「フィレオ(PHILEO)」を立ち上げ。21歳となった現在は、自らのブランド「フィレオ(PHILEO)」と並行して、フランス発のシューズブランドである「サロモン(SALOMON)」のアーティスティックディレクターも務めている。キディルの2024年春夏コレクションでコラボレーションシューズを発表した末安とフィレオは、二回り以上年齢が離れ、全く異なる作風ではありながらも、クリエイションへのストイックさで通じ合う友人同士。2人がコラボに込めた想い、クリエイションへのこだわり、フィレオとセリーヌ、サロモンとの関係性を尋ねながら、デザイナーにとってのオリジナリティの在処を考える。
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14歳でセリーヌに自薦 先生は“自分自身”
ーお二人の出会いを教えてください。
末安弘明(以下、末安):2年前くらいにドーバー ストリートマーケット ギンザ(DOVER STREET MARKET GINZA)で、彼のシューズを初めて見ました。いつもショーのスタイリングしてくれてるスタイリストの島田くん(島田辰哉)から「すごくいい靴があるから」と紹介して貰ったんです。その時に見たものがすごく良かった。なので、キディルのショーで彼のシューズを使わせてもらいたいなと思って僕からコンタクトをとりました。フィレオはそれまでキディルのことを知らなかったんじゃないかな。
フィレオ・ランドウスキ(以下、フィレオ):お話をいただく数日前に、ちょうどキディルのインスタをフォローしたところでした。ショーがすごく好きで、ゾンビのシーズンのショー(2023年春夏コレクション)が特に好き。音楽もノイズミュージックで最高でした。なのでヒロさん(末安)からオファーが来た時はすごく嬉しくて。そのため、2023年秋冬コレクションでシューズを貸し出すことも、今回のコラボも即決でした。
ーお互いにとって、相手はどのような存在ですか?
末安:僕の想像の範囲にないことをする人。何度か展示会に行かせて頂いたんですが、その度彼の作るものに驚かされます。靴を専門にしているからこそのフィレオの独創的な発想力にもすごく魅力を感じます。
フィレオ:僕もキディルは、本当に唯一無二だと感じています。キディルのようなブランドは今まで見たことがなかったし、とても新鮮。他とは違うものを生み出す独特の感性があると思います。でもそれは、ただ単に他と違うものを作っているのではなく、本能的な賢さや面白さも含んでいる。そんなところにとても魅了されます。
末安:彼が作る靴を見ていると、見た目はシンプルでも「すごくデザインを考えている人なんだろうな」ってことが伝わってきて好感が持てます。今回のコラボモデルの元になった、フィレオがインラインで展開しているシューズの形もとてもおもしろくて、左右の履き口がアシンメトリーになっていたり、 アッパーは切り替えなく1枚の布で作られてたり、こだわりがすごいんです。僕はパンクが好きだし、過剰にデザインするのが好きなので足し算のアウトプットになるんですが、僕と全く違って「引き算の中からデザインしていく人」という印象を持ちました。
ーそもそもフィレオさんはなぜシューズのデザイナーなることを決めたのですか?
フィレオ:プロダクトデザインに元々興味があって。特に靴と車が好きで、靴はコレクションしやすいというのもあって様々なブランドのものを持っています。靴を買い集めるうちに、結局自分が1番欲しいのは自分で作るしかないなという結論になり、デザイナーを志しました。
末安:フィレオは21歳という若さでブランドを持ち、ドーバーとも協業しているけど、一体何歳からデザインを?
フィレオ:13歳の時にキックボードのブランドを立ち上げたんですが、デザインということで言えばその時からですね。自分が乗りたいものを作りたくて、ホイールやハンドルなどのスペアパーツを自分でデザインして作っていました。
ーその後セリーヌでインターンを経験。
フィレオ:元々セリーヌの全てが好きで、フィービーのところで靴が作りたいと思ったから、14歳の時に履歴書をセリーヌのオフィスに直接持ち込んで自薦しました。「ここでインターンしたい、何かやらせてもらえませんか?」と。当然最初は誰も相手にしてくれなくて。でもオフィスの前でキャンプみたいに寝泊まりを続け待ち続けていたら、オフィスの方がドアを開けてくれて、関係者の方に話を通してくれました。
末安:すごい行動力だね(笑)。
フィレオ:あの年齢だったからこそできたことなんです。子どもだったから「これもやりたい、あれもやりたい」って言えるんですよ。大人ならちゃんと手順を踏まないとだめですが、当時は子どもだったので、パッションだけを見て入れてもらえたんだと思います。あとから知ったんですが、アポ無しで履歴書を持ってきた人はそれまで1人もいなかったみたいです。3ヶ月間ほどのインターンでしたが、とても勉強になりました。
末安:服飾の学校に通ったりはしていないの?
フィレオ:通っていないですね。ブランドをやっていること自体が自分にとって「学校」で、やりながら勉強するのが僕のモットー。自分でやってみて、「こうじゃない」「あぁじゃない」と学んで研究してもう一度作る、これの繰り返しです。
末安:僕もファッションの学校には行ってないから、似てるところがあるかも。ブランドをやりながら勉強している感じが未だにあります。
フィレオ:ミスしても全然恥ずかしくないし。寧ろミスをしないと何も学べないと思う。だからなにかを学びたいならまずやってみることが大事だと思います。
ーセリーヌやフィービーから学んだことを教えてください。
フィレオ:フィービーはセリーヌを退任する直前だったので直接学べたことはあまりなかったかな(笑)。でもセリーヌは、僕にとって初めてのインターンシップでわからないことだらけだったので、その期間は言うならば“ファッションの冒険”のようでした。当時のセリーヌはインターンを受け入れていなかったのでインターンは僕1人で、本来なら外部の工場に依頼するような裁断や縫製を無償で僕が担当することで、Win-Winの関係で仕事を任せてもらえました。そこで裁縫の技術を身につけることができましたね。ファッション業界という世界そのものを体験させてもらえた濃い時間でした。
サロモンとの仕事、コラボとオリジナルの違い
ー自分のブランドを立ち上げるまでは何をしましたか?
フィレオ:自分のブランドを立ち上げるまで2年間準備期間がありました。パートナー探しや資金集め、ブランドを立ち上げるための勉強をしていました。
末安:生産工場など製造に関わる人たちはどうやって見つけたの?
フィレオ:Google検索とか友達の紹介とか。当時はファクトリーに関する情報が少なかったので自分ができる方法は全て使いましたね。
ーサロモンにはどう言う経緯で参画したのですか?
フィレオ:友達が元々サロモンのコンサルティングをやっていて、その友達からプレゼンしてみては?と誘われたのがきっかけ。せっかくの機会なので色々な資料を作ってたくさんデザインを提案しました。サロモンでも「とにかくやってみよう!」というスタンスでプレゼンに臨んだらマッチして、単発の仕事を任せてもらうようになりました。2020年上期からアーティスティックアドバイザーとして正式に契約し「コム デ ギャルソン(COMME des GARÇONS)」とのコラボなど幅広い内容に携わっています。
ーサロモンとフィレオそれぞれでのクリエイションやディレクションを比較するとどのような違いがありますか?
フィレオ:約70年の歴史を持つサロモンのクリエイションをする際は、守るべきデザインコードや決まりがあること、そして機能的であることがマスト。新しいデザインを作る時は、決められたルールの中で小さな変化を加えるようにしています。一方で、自分のブランドでは完全に新しいものを自由に作っています。機能性よりもテクスチャーを重要視しているので、結果的に要素やギミックを削ぎ落としたシンプルなデザインになることが多いですね。
ー今回のキディルとフィレオのコラボではどのようにお互いのクリエイションを擦り合わせていきましたか?
末安:1年前にフィレオの展示会で新作として発表されたシューズを見て、形がおもしろくて好きだなとなって。僕が作る服はカラフルでグラフィカルですが、彼が作るものは基本的にモノトーンで、黒か白しかなかったんです。なので、この靴に対して「アッパーを自分なりのグラディカルにしてみたい」と思ったのがコラボのきっかけ。個人的にレオパード柄が好きだから、フィレオの靴がレオパード柄になってたら可愛いかなと思ってデザインしました。
フィレオ:僕もすごく気に入っていて、毎日のように履いています。ヒロさんが仰る通り、僕は普段はあんまりカラフルなものは作らないから、最初にヒロさんからデザイン案をもらった時は驚きました。黒、黄色、ピンク、白など20色ぐらいのカラーがあって。ある意味そのカラフルな部分は僕らしくはないけれど、そうやってお互いの要素を凝縮して1人ではつくれないものを作るということがコラボレーションする意味だと思います。
ーお二人のクリエイションはどのようなものに影響を受けているんですか?
末安:僕はやっぱり音楽。音楽ってファッションとの結びつきが強いじゃないですか。リアルタイムじゃないんですが、自分が10代や20代の頃に聴いていたような、1970年代や1980年代のパンク音楽は今も好きですし、そこからインスピレーションを受けることも多いので、その軸を変えるつもりはありません。
フィレオ:僕も映画のサウンドトラックをよく聴きます。フランス映画だけでなく世界中の映画作品を観ますね。あと最近は建築が好きで、特にスイスの建築物が大好きです。東京の建物だと、青山の「ミュウミュウ(miumiu)」の店舗の造形が好き。あとは、今代官山に滞在しているので、毎朝代官山の蔦屋でコーヒー買って、本を読むことが楽しいです。パリには図書館は多いけど、ラインナップが充実している書店って実は少ないんですよね。図書館で働いていた祖父が旅行で来日した際にも代官山蔦屋を見て、「世界中を探してもこんなにレアな本が定価で売られている店はそうない」と言っていました。
ークリエイションにおいて大事にしていることを教えてください。
末安:服作りって悩み出すとキリがないんですが、もうそれをやめて、自分が好きな「パンク」っていうカルチャー1本に全振りしていくことを心掛けています。「毎シーズンパンクを突き詰めてやるだけ」とある時から決めました。そこから道がずれないようにしています。
フィレオ:僕が大事にしているのは、クリエイションの幅を広げていくのではなく、深掘り続けること。何かを始めたら絶対に最後までやり遂げるのが大切だと思っています。
ーお二人にとってパンクとは?
末安:パンクって、全然知らない人からすると「安全ピンつけて」「革ジャン着て」「マーチン履いて」みたいな、様式美的なイメージがあるじゃないですか。でもそういうことじゃないんです。作る側からすると、実際は気の持ちようの話で。フィレオがさっき言ったような折れない気持ちや、1回決めたら負けずにやり遂げる意志のような、精神的なものがパンクだと思うんです。表層的なものも勿論大切ですが、それだけを繰り返していても、過去の焼き直しにしかなりません。
フィレオ:僕も全く同じ意見です。周囲と同じようなことをしないこと、自分だけの道を模索して、それが見つかったのならそれに沿って鍛錬していくことかな。
末安:フィレオはミニマリストで削ぎ落としたようなデザインを作りますけど、精神的にパンクみたいなところが絶対あると思う。 そんな感じがするから気が合うのかもしれないね。
ーパンクはカウンターカルチャーなわけですが、反体制のスタンスをとっていることはあったりしますか?
末安:既存の何かに対して対抗する感覚は特にありませんが、最近ようやくパリのオフィシャルスケジュールでコレクションを発表できるようになって、その中で自分がどこまでできるのか挑戦したいという思いがあります。どこからも出資を受けずに100%自分のお金でやっている自分の会社ですし、デザイナーでオーナーというインディペンデントなブランドが、パリでどこまで戦えるのか。5年後どうなっているのかもわからないからこそ、戦闘態勢な気持ちではいますね。次はどう戦ってやろうかなって。パリに来るバイヤーさんは普通のシャツを並べているだけじゃ買ってくれません。「やり切る」って話に通じるかもしれませんが、みんなそのブランドにしか作れないものを買いに来るんです。なので、パリに行ってからは特に、ボヤッとしたものを作らないというか、自分の気持ちを強く持って服を作ろうという気持ちが強くなりました。
頭の中で自分らしさを探すのは「退屈なこと」
ー自分らしさがクリエイションでは大事とは言うものの、自分らしさを見つけるってとても難しいですよね。
末安:そうですね。特にフィレオくらいの歳の頃を思い返すと、自分らしさなんて当時の僕は持っていませんでした。自分らしさを追求して服を作っていこうって感覚になれたのも本当に最近ですし。
フィレオ:僕にとって「自分らしさを探す」ということはすごく退屈なことなんです。自分探しは一生かかるものだし、僕もまだ自分のことが何者なのか、どうなっていくかもわからない。自分はどんな人間なんだろうって頭の中だけで想像しているのはとても退屈なことだとも思います。完璧な答えを出すことなんてそもそも不可能だしね。世界は毎日変わっていくんだから、それに合わせて自分も進化していかなければいけない。自分らしさは、自分で考えることではなくて、自分が体験したことや出会った人によってどのように自分が変化していったか、でしかない。自分が経験したこと全てによって、自分が出来上がっていくんだと思うんです。だから、旅をしたり、新しいものを見つけたり、美しいものを作ったり、こうして今日本にいるこの瞬間もとても楽しい。全てを楽しむことが大切だと思います。
ー今後挑戦したいことを教えてください。
フィレオ:今は靴のデザインを通じて、人々が移動するための手段を提供しているわけだけど、将来的には住居もデザインしたいと思っているから、建築を学びたいです。僕は自分自身のことをファッションデザイナーだとは思っていなくて、あくまでもプロダクトデザイナー。ソリッドなものをデザインするのが好きなので、今後も服を作るつもりはありません。
末安:パリでどこまで成長できるかという挑戦を続けていくことかな。あと、個人的にやってみたいのは、ドーナツ屋さんやケーキ屋さんなど、スイーツ屋さんの監修。スイーツを食べ歩くのが趣味で、パリでもめちゃめちゃ食べ歩いているんです(笑)。それを趣味で終わらせたくなくて。今やっていることとは違うけど、将来的に自分の好きなことを結びつけていけたらいいなと思います。
フィレオ:え!僕も東京でコーヒーストア作りたいって思っていたんです(笑)。ヒロさんのお店の内装ができたら素敵だな。
(聞き手:橋本知佳子)
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