デザイナー末安弘明が手掛ける「キディル(KIDILL)」が、パリメンズファッションウィークの公式スケジュールで2022-23年秋冬コレクションをオンライン上で発表した。東京・文京区にある洋館である鳩山会館で撮影した動画を、1月18日(パリ時間)に公開。14日には鳩山会館でランウェイショーを開催し、関係者に向けて披露した。
ヘンリー・ダーガーという孤高の画家
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「The Outsider」と題したコレクションは、アウトサイダー・アート(西洋の正規な芸術の美術教育訓練を受けていない者が制作した美術)を代表するアメリカの画家、ヘンリー・ダーガー(Henry Darger)の作風や生き方から着想を得た。1892年にイリノイ州シカゴ市で生まれ、1973年に81歳で生涯を閉じたダーガーは、清掃員として生計を立て、生前は誰に見せることもなく一人で1万5000ページもの作品を描き続けた。その膨大な作品が日の目を見ることになったのは作者の死後。ダーガーが住んでいたアパートの大家であったネイサン・ラーナー(Nathan Lerner)が部屋の整理をした際に発見し、展覧会などでの展示を行ったことで世界的に評価を得ることになった。今回のコラボレーションは、発見者ラーナーの妻であるキヨコ・ラーナー(Kiyoko Lerner)の協力を得て実現。キディルはダーガーが遺した図案を、織りや編み、プリントへと取り入れて、新しい命を与えた。
ジェンダーの概念を超越したファンタジーの世界
ダーガーの代表作である「非現実の王国で(In The Realms of the Unreal)」は、男性器を持つ7人の少女たち”ヴィヴィアン・ガールズ”が子どもの奴隷制度に立ち向かうというストーリー。キディルはそのストーリーを読み解きながら、ジェンダーの概念を超越して、ファンタジーのデコラティブな要素を加えて、自身の創作として表現する。リボンやチュールで装飾したピンクのシャツ、フロントが露わになったプリーツスカートなど、多様なモデルたちが着こなす。キーカラーはダーガーが好んだ淡いパープルとイエロー。キディルが得意とするパンクやテーラードの要素も健在で、脱色やダメージ加工で表現したトップスをはじめ、スタッズ付きのチョーカー、ボンテージパンツ、ペイントを施したトレンチ、クレイジーパターンのチェック柄などを盛り込んだ。
ディッキーズやカシラ、 ルルムウとのコラボも
終盤に差し掛かると、ゾウなどの動物をかたどったヘッドピース、人形のようなオールインワンなどが登場。ぬいぐるみは人形作家のドールズサン(DOLLSSAN)によるもので、孤高のアーティストの狂気的な表現や、退廃的でダークな雰囲気を醸し出す。この他にも「ディッキーズ(Dickies)」とのウェアや、「カシラ(CA4LA)」との帽子、東佳苗が手掛ける「ルルムウ(rurumu:)」とのニットウェア、「マルコム ゲール(Malcolm Guerre)」とのジュエリーなどのコラボレーションも発表。足元はコーディネートとして「ドクターマーチン(Dr.Martens)」のブーツを合わせた。
アウトサイダー 末安弘明
ダーガーの作品は、「他の誰のためでもない、ダーガー自身のためだけの世界」と語られていることが多い。末安は「ダーガーの創作の孤独や沈黙、秘密に深く共感した」という。ロンドンに単身で渡り、独学で服作りを始めた末安は、ファッション界の“アウトサイダー”とも言えるだろう。ダーガーが貫いた創作やモノづくりへの衝動や情熱、アートセラピー、自己浄化であるクリエイションを、このコレクションに重ねてみせた。
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