新しい生活様式はもはや日常へと移行し、それに伴い企業の舵取りも大きく変化している。FASHIONSNAPは経営展望を聞く「トップに聞く 2022」を今年も敢行。第19回はジュンの佐々木進社長。2021年の準備・変革期間を経て、ジュンは何を目指していくのか。「第三創業期」を掲げる“攻めの年”に込めた狙いを聞いた。
■佐々木進
東京都出身。米国留学後、エスモードジャポン修了。イベントプロデュース会社のサル・インターナショナルで国内外のショーの演出などに携わる。1989年にジュンに入社。常務を経て、2000年から現職。
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2021年は“蝶”になるための変革期
―2021年はどんな一年になりましたか?
一言で例えるなら「繭」かな。蝶が繭の中で成長していくように、この一年は形を変えて飛躍していくための準備・変革期間だったように思います。実際に、仕入れの仕方やお客様への伝え方などを一つずつ注意深く取り組んだことで、飛躍に向けた“準備体操”に繋がったと総括しています。
―重点的な施策は?
一つは、事業の意義を見据えるために「パーパス経営」を明確にしました。いまは流行りの言葉になっていますけど、僕はブランド経営において以前から「パーパス」と「フォーカス」という言葉を使っていて。パーパスがはっきりしているから、取り組むべき内容にフォーカスできる。逆にやるべきことがフォーカスされることによってパーパスも明確になっていく、という相互関係みたいなものがあると思っています。
あとビジネス的な意味で言うと、独自で考えている指標で「マーケティングキャッシュフロー」があるのですが、販管費など一般的なマーケティングコストに加えて、「値引いた金額もマーケティング費に充てられる」という考え方で、一度算出してみたんです。そうしたら、値引きの金額も相当なわけですよ。今までは在庫を消化するために期末に向けて値引率を高めにする癖があったのですが、2021年春夏頃に見直し、なるべく値引きを抑制しながら、値引きしたものについてはマーケティングなどに使うということに取り組みました。結果的に、粗利が大幅に改善しましたし、2021年9月期の売上高は493億円で収益的には黒字化しました。
―プロパー消化率は秋冬シーズンで62%と進捗しました。
もともと数値としては高くはなかったのですが、大分改善されましたね。仕入れ量も型数で8割ほどに絞りました。
―パーパス経営を明確化する上で、ジュンの存在意義をどう捉えていますか?
ジュンではコロナ前から「YOU ARE CULTURE.(ユーアーカルチャー)」をコーポレートスローガンに掲げていて、カルチャーを作っていくことが存在意義のベースにあります。カルチャーと言っても、ライフスタイルを司る上でのカルチャーですので、アパレル以外を含めた広義なものと位置付けています。
―コロナ禍で物流コストが上がり、サプライチェーンの混乱に各社対応が追われています。
我々も物流コストの上昇と物が入ってこない状況が続いていて頭を悩まされています。これはもう1年ぐらい続くのではないかという見立てもあって。我々ができる大きな打開策って正直ないんですよね。
―製造拠点を国内に切り替えようとする企業も出てきています。
多少はそういう対応をとることもありますが、大部分を国内にシフトするのは業態的に難しいですね。なので、より計画性を持ってやっていくことが大事になります。顔の見えないお客さまに大量に売って売り上げを作っていくというよりは、ひとつずつ吟味をしながら、ある意味トランザクション(商取引)が減っても売上高や粗利高を担保できる体制を整えていく。それはSDGs的な観点としても正しい姿だと思うんです。テクニック的には、社内でも小さいブランドは物流の影響を受けやすいので、規模の大きいブランドに合わせて生産計画を調整するなど、工夫できることはあります。でも、それが全てを解決するわけではないんですけれど。状況が落ち着くまでの辛抱というのは否めないですね。
サタデーズ ニューヨーク シティは事業多角化へ
―足元の状況は?
緊急事態宣言が解除された10月以降はかなり良いですね。売り上げも増えてるし、昨年からの続きで粗利がかなり改善しているので、第一四半期としては手応えを感じています。
―どの事業が好調に推移していますか?
「ソフネット(SOPHNET.)」のような根強いファンのいる事業はコロナ禍でも大きな打撃を受けていないですね。
―長年展開しているゴルフ事業はブームの追い風もあり下支えとなっています。
女性の比率がすごく増えています。今までのゴルフコース利用者の女性比率は5〜6%ほどでしたが、コロナ禍で2割ぐらいに伸長しました。
―一方で他社のゴルフウェア市場参入が相次いでいます。
でも脅威は特に感じていないですよ。市場が盛り上げるのは良いことです。我々はゴルフ場を持つ歴史の中で、1970年代ぐらいから1990年代ぐらいまではプロのトーナメントもやっていましたし、その分ネットワークがあるのが強み。業界やコミュニティの“当事者”でもあると思っています。
ただウェアに関してはメンズが弱い。本来、メンズの方が圧倒的に市場が大きいので、今後はそこをしっかり取っていくことが課題です。2022年春夏は「ハイプビースト(HYPEBEAST)」のゴルフ情報サイト「ハイプゴルフ(HYPEGOLF)」と協業したアパレルラインを始動するほか、「サタデーズ ニューヨークシティ(Saturdays NYC、以下サタデーズ)」でゴルフラインを立ち上げるなどの施策で男性客を取り込んでいきたいですね。
―飲食事業も複数運営しています。
年明けまでは良かったですが、ここのところは厳しいですね。ただ「ブランカ(BLANCA)」や、日本ワインに特化した「ワシュ オフィシャルオンラインショップ(wa-syu OFFICIAL ONLINE SHOP)」、あとは自社運営のワイナリー「シャトージュン (Chateau Jun)」で生産しているワインなどの食物販はコロナの影響は大きくありませんでしたし、ビジネスとしてスケールしていく可能性を感じているので力を入れていきたいなと思っています。
※ブランカ:スペイン料理の名店「アカ(acá)」でオーナーシェフを務める東鉄雄が監修するプレミアムスイーツブランド。「焦げを楽しむスイーツ」をコンセプトにしたシグネチャーバスクチーズケーキを販売している。
―飲食事業の今後の方針は?
サタデーズのカフェを拡張していく予定です。サタデーズのブランドバリューとカフェのあり方に大きなポテンシャルを感じていて、店舗数をある程度増やしてビジネスとしてしっかりやっていきたいと思っています。いまは代官山と渋谷パルコにお店がありますが、それぞれお店のつくりが違うので、多店舗展開してスケールしていくために、まずは他ブランドの店舗を整理しながらマネタイズのための戦略を立てていきたいですね。
―サタデーズの多角化が目立ちます。
ブランドのアイデンティティや目指す方向性が割とはっきりしているので、ゴルフやトレーニング、カフェなど横展開してもブレないんです。プレミアム感がありながら大衆性も兼ね備えている。都会的でスタイリッシュな独自の世界観で他ブランドとの差別化もしやすいと思っています。ブランドが始まって10年ほど経ちますが、無理に大きくしようとしてこなかったんですよね。だからこそ、お客さまと良好な関係ができている。しっかりと根が張れていますから、ビジネスとして大きくしていきやすいとも感じています。
―2020年から振り返ると、複数のブランドが休止しました。
ブランドごとの独自性やフォーカスすべきことなどを見直しながら、ポートフォリオを整理しました。そのフェーズは昨年でいったん終わったので、今のところこれ以上廃止する予定はありません。
■直近2年間で運営を休止したブランド
・メゾン ド リーファー
・アダム エ ロペ ル マガザン
・ザ・コンビニ(※元々2020年秋までの営業を予定していため、予定通りの閉店)
・ラ ブーシュ ルージュ(※運営会社がエドストロームオフィスへ変更)
―新しいブランドを打ち出す計画は?
特に予定していませんが、ブランド内で新しいプロジェクトを立ち上げることはあると思います。2021年春夏に「ビオトープ(BIOTOP)」からデビューした新ランジェリーライン「ヨー ビオトープ ランジェリー(ë BIOTOP Lingerie)」はバイヤーの曽根(英理菜氏)が情熱を持って立ち上げたのですが、いまとても好調なんですよ。人を軸にしたビジネスはどんどん生み出していくのが正しい姿なのかなと思っていますし、会社としてもサポートしていきたいですね。
―ブランドの淘汰がさらに進んでいくと予想されますが、「これから必要とされるブランド」をどのように定義されていますか?
パリコレクションを頂点とした「トレンドの服」はなくならないとは思いますが、コモディティ化しているので、それとは違う価値観をどうお客さまに伝えられるかが大事なポイントになるのではないでしょうか。そういう意味で言うと、「スポーツ」という要素は今までにないポイントになると思います。
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