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BIGBANGのG-DRAGON、ビリー・アイリッシュ、YouTuberのヒカルなど多くの芸能人やインフルエンサーのファンを持ち、今もなお人気が衰えないアーティスト、村上隆。代表作の一つである《マイ・ロンサム・カウボーイ》は2008年のオークションでおよそ17億円の価格で落札され、当時のアジア人でのマーケットプライスの最高額を記録した。アニメフィギュア調の作品がなぜこれほどまでに高額となり、アーティストとして世界的に認められるようになったのか。そこまでに至る彼の道筋を作品とともに紹介する。
若かりし頃の村上は日本画を学びながらもアニメマニアであり、伝統的な日本画よりも現代アートに関心を寄せていた。それがよく表れているのが、《ヒロポン》(1997)と《Ko²ちゃん》(1996)である。どちらも女性の体をデフォルメしたアニメフィギュア作品で、一般的な人間の身長以上の大きさで再現している。不気味であるはずなのに、すでにアニメや漫画に親しみのある私たちは既視感を感じてしまう。
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展示風景:「STARS展:現代美術のスターたち-日本から世界へ」, 森美術館, 東京, 2020年
もともと漫画やアニメなどに関心を寄せ、アニメーターの金田伊功への憧れを公言していた村上に大きな衝撃を与えたのは、彼がニューヨークへ留学していた時に目にしたアニメ雑誌に掲載されていた『新世紀エヴァンゲリオン』の企画スケッチだった。そこから彼のフィギュアやアニメを下敷きにした作品は次々に誕生し、日本が生んだアニメや漫画などのサブカルチャーが持つ独特の表現様式と現代アートの融合は村上の創作の核となった。
作品制作だけではなく展覧会のキュレーションや若手アーティストの育成の場を設けるなど、アートというフィールドを遺憾なく使いこなし、2000年代に村上が日本の美術に残した功績は大きい。海外での活躍もめざましく、2001年には展覧会『スーパーフラット』でアメリカ各地を巡回。また、ベルサイユ宮殿での個展開催も実現させ、世界的な現代アートのスターへの道を駆け上がっていった。
彼は作家として活動を始めた頃から、日本人がどのようにして世界のアートワールドで生き抜いていくかということに意識を向け、欧米のアーティストとは異なるアプローチを行ってきた。これまで日本の現代美術に対してイメージをはっきり持たなかった欧米に対して、日本の社会や文化で何が起こっているのかを作品や活動を通して表現する際に、様々な独自の用語を編み出したことも特徴的である。例えば、先の「スーパーフラット」は日本美術の平面性をアニメに接続させ、日本流のポップアートを提唱する造語であり、同様に「PO+KU(ポック)」という造語は、ポップ(POP)にオタク(OTAKU)という要素を混ぜ、作品を端的に言い表そうとした。
日本を世界のどこに位置付けるか。自らのスターダムとともに村上の関心はそのような部分にもあったはずだ。2021年1月に閉幕した森美術館の『STARS:現代美術のスターたち』で発表した最新作、俳優の須藤蓮を起用した《原発をみにいくよ》はその一面が垣間見えた映像作品だった。
同作は、2011年の東日本大震災による福島第一原子力発電所のメルトダウンで指定された帰宅困難区域も2020年では徐々に解除され、民間人の立ち入りも可能だが、実際は…?というストーリー。それまでのアニメやオタク的要素は控えめに、村上が歌唱を担当している曲に乗せながら、帰宅困難区域が解除された場所へ旅行に行くカップルの姿を通じて描いている。旅行のプロモーションビデオかと間違うほどに自然の美しさなどをのほほんと和やかな雰囲気で映し出すが、若者の貧困や復興の最中にある福島県と東京都の温度差などを表現し、社会的な問題を国内外に発信したのだ。
村上隆 原発をみにいくよ, 2020年 ビデオ, 8:08
村上隆とは、一貫して日本という小さい国でアートの歴史に名を刻めるかということにマーケットから挑戦していった人物だと言えるだろう。資本主義という大きな流れに乗り成功を収めたが、彼の作品自体は資本主義を肯定するというよりは、それを戸惑いながら受容してしまうような弱さがあると思う。ゆえに、チャーミングで人々を惹きつけるのではなかろうか。
画像:©︎ Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.
■檜山真有(Twitter)
同志社大学文学部美学芸術学科卒、東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科修了。1960年代のコンセプチュアルアートを研究対象とする。現在は美術館に勤務する傍ら、キュレーターやライターとして活動中。
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