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【連載:現代アートへの旅】値付けのカラクリ編―意外と知らない販売価格の決め方

【連載:現代アートへの旅】値付けのカラクリ編―意外と知らない販売価格の決め方

>>前回掲載「マストアーティスト編―村上隆」はこちら

 『アート作品はなぜ高額か』という記事で、アート作品が決して高額なものだけではなく様々な値段設定があることについて触れたが、作品とはいったいどのように価格が決められているのだろうか。作品の値付けについて知ればアートがより身近なものに感じられるかもしれない。

 アートも衣服や食品などと同様に、商品として仕上がるまでの制作費や人件費などを計算し、その経費に自分の利益を上乗せした値段を定めている。絵画であればキャンバスや絵の具などの材料費と描き手の人件費、作品を描くアトリエの家賃など…。衣服が布や糸などの材料費、作り手の人件費、工場の家賃などによって価格が決められるように、アートもひとつの商品として扱う際には基本的には他のものとは変わらない価格の決め方なのだ。

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 しかしながら、アート作品が時折ニュースになるほど非常に高額に映る一方で、手軽に買える作品も多く流通している。アートの価格はピンからキリまで広がり、私たちにとって不可解に見えるが、その要因は主に2つある。値付けのカラクリを紐解いていこう。

1 - 販売場所へのマージンの上乗せ

 作品はギャラリーや百貨店のほか、近年はセレクトショップやカフェなどでも販売されることが増えた。このように作品の展示会会場となる場所が収益を得る方法は、会場レンタル料を請求する場合と、作品の販売価格の何割かをマージンとして会場に支払う場合の2通りがある。

図解

 前者は、レンタルスペースや貸しギャラリーに代表されるもので、作家が展示したい日程分の会場レンタル料を支払う。後者は作品が売れたらその値段の何割かを渡すものだ。そのため、販売額には仲介料が上乗せされている。特にギャラリーはアーティストと専属契約を交わし、アーティストにマネージメントサポートを行ったり販売の機会を積極的に与える代わりに、販売価格の半分の値段を折半することが慣例。そのため、アーティストは制作費にギャラリーに渡す金額を上乗せしており、販売価格が必然的に高額になっていくのだ。

 このふたつの方法には一長一短それぞれあるものの、作家にとってみれば、作品は制作費や人件費の上にさらにそのような出店料として渡す費用を上乗せすることには変わりない。

2 - 作品、アーティストとしての付加価値

 アート作品というのは高級ブランドと同じように資産価値としての役割も持つために、一度売れた値段から値下げすることは基本的に行わず、値段を上げていくことが多い。なぜなら、価格を下げるということは資産価値が落ちるだけではなく、作品への信頼が落ちることにつながるからだ。ブランド品が材料費や人件費を含めた価格だけではなく、ブランド価値を保つために高額になることがあるが、アート作品も同様のことが言える。そのため、作家やギャラリーはなるべく作品の資産価値を落とさないための価格のコントロールを慎重に行っている。

 例えば、ギャラリーで販売されている50万円の作品があったとする。この場合は、マージンとして半額の25万円をギャラリーへ渡し、残りの25万円で作家自身の生活費や制作費を賄えることになるが、50万円という価格は一般的な感覚ではなかなか手に取りにくいだろう。では「売れる」ために30万円に引き下げればいいではないか、という見方もあるかもしれない。もちろんその選択肢も存在するが、しかし、一度価格を下げてしまうと、作品の資産や価値を引き上げることは難しい。また、作り手であるアーティストの生活もある。よって、値付けはそれらの総合的なバランスの上で決めていかなくてはならない。

図解

 なお、1点数千万円ほどの売り上げをつくる作品の作家には集中的にバブルが起きていることが多い。この規模になるとマネジメントが必要となるためマネージャーを雇ったり、作家と作品の価値を持続させるために多く作品を制作したり、大作を作り上げていくなどの戦略を立てていく。個人としてのアーティストというよりも、会社経営のようなやりくりを迫られていくのだ。

 近年、アート作品の共同購入やNFTなどによって幅広いマーケットが勃興し、作品の販売価格にも大きな変動が生まれつつある。購入する側の値段が大きく変動することはあれど、作品がモノであったり、ブランド的な価値がすでに持っている限り、作品自体の値段は大きく変わることはないだろう。

■檜山真有(Twitter)
同志社大学文学部美学芸術学科卒、東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科修了。1960年代のコンセプチュアルアートを研究対象とする。現在は美術館に勤務する傍ら、キュレーターやライターとして活動中。

「現代アートへの旅」バックナンバー
マストアーティスト編―村上隆
マストアーティスト編―ダミアン・ハースト
マストアーティスト編―ゲルハルト・リヒター
お金のはなし編―アンディ・ウォーホル作品から学ぶ価格の上がり方
まず知っておくこと編―作品鑑賞を楽しむための4つのポイント

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