銀座の一等地に位置するブティックでありながらミュージアムのような空間が広がるJIL SANDER GINZA。ネオン煌く夜の街、喧騒から切り離されたかのような静寂な時間が流れる店内で写真家 水谷太郎が俳優 仲野太賀を映し出す。
「自然の温もりを感じながらも、モダンで洗練された特別な空間でした。女性的な要素と男性的な要素が絶妙に共存しているし、有機的なものと無機的なものが調和している感じがして。どこで撮影しても絵になる。この場所自体が舞台のようで、美術館のような空気感を持つ空間だと思います」
ゆっくりとかみしめるように仲野は言葉を紡いだ。ジル サンダーのクリエイティブの根底に、「ヒューマン・ネイチャー(人間性)/ マザー・ネイチャー(母なる自然)」という一見相反する2つの要素の融合がある。この哲学を体現したジル サンダー銀座は、広大な2フロアからなり、石材や木材といった天然素材と、真鍮や再生プラスチックといった人工素材が心地よく呼応する。外からもウィンドウ越しに見える彫刻家レイチェル・ホワイトリードの作品は、スツールでもあり、インスタレーションのためのスペースとして空間そのものがアート作品。そんな閉店後の店内を遊ぶようにめぐりながらシューティングは行われた。
店内はイタリア産トラバーチンといった鉱物素材の地表が顕になっており、二つとないマーブル模様を描く断面は、地球の地質学的な時間を物語り、神秘的で悠久の美しさをまとう。そんな仲野も"母なる自然"に魅了される一人。近年は仲間とともに赴いたアラスカやネパールへのトレイル旅を動画や書籍として発信し、俳優の顔ではない、人間・仲野太賀としての魅力を放つ。そんな仲野にとって、日々の生活から離れ、自然の中で過ごす時間は必要な時間だという。
「都会育ちなので年を重ねるごとに自然の方に関心が向いて行っているのかもしれないです。自然の中に入ると、衣食住の生活や考え方がすごくシンプルになる。電波が届かないとか文明的な便利なもの、都会の生活から一旦離れて、目の前の自然に身を任せることで自分の本能がすごく敏感になっていく気がします。当たり前になっている何不自由のない普段の生活にもありがたみを感じて特別に思えてくるし、都会に戻ってからもその感覚がしばらく残るんです。基本的に自分の想像の範囲外に行きたいんです。それが自分の人生を豊かにしてくれると思うから」
自然の中に身を置き、無駄を省いた必要最低限の"衣食住"を体験したからこそ、ラグジュアリーなもの(=嗜好品)を享受することは仲野にとってまた違った意味を持つ。
「贅沢なものって無くても生きていけるけど、心が奪われてしまったら手にしたくなる。やっぱり心を動かされることに人間は正直なんじゃないかな。衣食住の"衣"で言うと、服って自分の感情にすごく影響を与えますよね。俳優をやっている上では衣装に感化される部分も多いですし、身につける人の感情にすごく密接な気がします。僕自身は特にクリエイターの表現が見えるものに惹かれるんですが、それはその作り手の思いや情熱が形になったものだから自然と心が動かされるんだと思います」
「今回の撮影で感じたのは、服の持つ力と、それを包み込む空間の力。ただ着るだけの服じゃなくて、その背景にあるデザインの意図や物語まで体感できた特別な時間で、それ自体がとてもラグジュアリーだと感じました。僕自身もこの世界観の一部になれたことが新鮮で、新しい感覚を得られた気がします」
水谷太郎がレンズ越しに映し出した仲野太賀。真の表現者同士がもたらした化学反応は、この空間が存在するにふさわしい一つの作品そのものだった。
ニット:13万7500円、シャツジャケット:20万3500円、パンツ:20万3500円、シューズ:17万4900円(すべて税込)
ジル サンダー 銀座
所在地:東京都中央区銀座3-4-1
電話:03-3528-6278
営業時間:11:00〜20:00
問い合わせ:ジルサンダージャパン
0120-998-519
仲野太賀 | Taiga Nakano
1993年2月7日生まれ、東京都出身。2006年に俳優デビュー。映画『すばらしき世界』(23年)で、第45回日本アカデミー賞優秀助演男優賞、第64回ブルーリボン賞助演男優賞などを受賞。昨年はNHK連続テレビ小説『虎に翼』でヒロインの夫役を好演するほか、ドラマ『新宿野戦病院』、映画では『笑いのカイブツ』『十一人の賊軍』など6本の作品に出演し、TVディレクターの上出遼と写真家 阿部裕介との旅行記『MIDNIGHT PIZZA CLUB 1st BLAZE LANGTANG VALLEY』(講談社)が上梓されるなど、多岐にわたり活躍の場を広げている。2026年にはNHK大河ドラマ『豊臣兄弟!』で主演の豊臣秀長役を演じることが決まっている。
model: Taiga Nakano, photography: Taro Mizutani, styling: Dai Ishii, hair & makeup: Kazuma Kimura(skavati) | text & edit: Yuui Imai (FASHIONSNAP)
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