ドゥクアタス駅前
Image by: 横堀良男
東南アジアの最新情報を綴るコラム「ジャラン ジャラン アジア」。1年間の3分の2以上を東南アジア諸国で過ごし、契約バイヤーのほか、ポップアップショップ、展示会出展、ファッションショーの代理店などを行う横堀良男氏が現地の情報をレポートします。
(文・横堀良男)
第12回でインドネシアのスーパーアプリ「Gojek」について書きました。9月6日7時過ぎにJ-WAVEの有名ラジオ番組、別所哲也さんの「TOKYO MORNING RADIO」でもGojekについてお話しさせていただきました。9月12日まで「Radiko」のタイムフリー機能がありますので良ければ聴いてみてください。
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■Radiko:TOKYO MORNING RADIOタイムフリー
◇ ◇ ◇
コロナ陰性になったので日本に帰国しました。心配で何度もPCR検査を受け、帰国してもまだ心配でその後も2回PCR検査を受けました(笑)。
日本は素晴らしいですね。とにかくすべてのご飯が美味しいです。親しい友人に会ったり、展示会に行ったり、ミーティングをしたりしています。ちょうど先週は楽天ファッションウィークが開催されていて、ファッションショーや合同展示会がたくさん行われていました。今週は「ニュー エナジー(NEW ENERGY)」がありまして、そちらには出展という形で私も参加します。何回体験してもイベントというものは、出展者でも来場者でもワクワクして楽しいですよね。
◇ ◇ ◇
今回はそんなイベントのような、イベントじゃないようなお話です。2022年のとある日、インドネシアのSNS上で突如話題になったハッシュタグがあります。それは「#citayamfashionweek(チタヤム ファッションウィーク)」です。
パリ、ニューヨーク、東京など大きな都市ではファッションウィークがあります。ファッションウィークとは、ファッションショーと合同展示会などがまとめて開催されるイベント週間のことです。海外からも関係者がたくさん来ます。ファッション産業の売上も上がりますから、大きな経済効果がありますし、政府がバックアップしたり、大企業のスポンサーが付いたりと大きな催しです。
インドネシアにもファッションウィークを名乗る団体は2つあります。ジャカルタファッションウィークとインドネシアファッションウィークです。この「#citayamfashionweek」のハッシュタグをインスタグラムで見つけた時、最初は「なんのことだろう?」と思いました。というのも、チタヤムファッションウィークとは有名な2つのファッションウィークのどちらとも関係がないのです。そもそも"チタヤム"という言葉にも馴染みがありません。調べてみると、治安が良くないため避けていたジャカルタ郊外にあるエリアの駅名でした。
この話題の発信地は「とある横断歩道」です。そこはチタヤムではなく、ジャカルタにあるドゥクアタス駅という地下鉄の駅の前です。この駅はBNIシティー駅に隣接し、乗り換え地点として知られていて、駅前には多くの若者がたむろしています。東京でいうなれば、トー横、渋谷ハチ公前、ラフォーレ原宿前など世代によって異なるかと思いますが、イメージできますでしょうか?
そのドゥクアタス駅前の横断歩道で動画を撮影すると「オシャレに見える!」と注目され、どんどん噂が広がりました。結果「ティックトック(TikTok)」や「インスタグラム(Instagram)」の撮影のために若者がこぞって集まるようになりました。
私が行った時間が遅かったため、人の姿はまばらでした(これは人がいない方です)。ここに集まる若者たちは、あまり学歴も高くはなく、所得は中間層以下と見られています。貧富の差が大きいインドネシアでは、この中間層以下の若者たちは高級なブランド品を購入することができません。しかし手持ちの洋服を工夫して、精一杯オシャレに見せています。これがSNS上で揶揄されるようになりました。
「ジャカルタのど真ん中で撮影しているものの、彼らはジャカルタっ子ではない」
「彼らはチタヤム出身の子だ」
チタヤム=郊外で治安が良くないイメージの街です。つまり、少しディスられたわけです。しかしこれが逆にSNS上でムーブメントになっていきました。揶揄されていることに反発するように、どんどんどんどん若者が動画やスナップをSNSにアップしていきます。自ら「#citayamfashionweek」を掲げて。
インスタグラム:#citayamfashionweek
※現在はショッピングアカウントにタグ付けされまくっています。
この話題に便乗したYoutuberやインスタグラマーが、自身で歩いてみたりするなどして話題作りをしました。プロのモデルが歩いて、そこにいた若者と一緒に撮影をしたり、ファッションブランドがゲリラでミニファッションショーを開いたこともありました。政治家がオシャレをして撮影したことで、話題にもなりました。
もちろん、プラスのことばかりでもありません。某副知事が「チタヤムファッションウィークはゲイを助長する」という旨の発言をして非難されました。某ユーチューバーは「チタヤムファッションウィーク」という知的財産権を申請し、炎上して取り下げました。また、夜中にたむろする若者が駅前でごろ寝していることがニュースになったり。マイナスニュースが頻繁に取り上げられるほど、勢いがあるのです。
今日のジャカルタでは、誰でもない若者たちのパワーがファッションという媒体を通していろいろな方向に発信されています。これから確実にインドネシアに訪れるであろう、ファッション戦国時代。この様子を見て、私が思い出したのは、1990年代の原宿です。裏原宿と呼ばれるエリアを中心に、たくさんのブランドやショップが生まれました。
ストリートスナップ誌の「フルーツ(FRUiTS)」などが創刊し、原宿の神宮前の交差点には派手な格好の若者で盛り上がっていました。チタヤムファッションウィークの若者たちは、まるでパワーが溢れまくっていたあの頃の原宿にいた若者のようです。
日本の1990年代は、まさにファッションが売れまくった時代。もしあなたが1990年代の裏原宿カルチャー体験者であれば、あの頃に買っていた・人気のあったブランドを思い出してください。次はあなたのブランドが、1990年代の原宿のようにインドネシアで売れるかもしれません。ビジネスの視野をインドネシアまで広げてみてはいかがでしょうか?
東京都江東区出身。高校在学中からアパレル業界で働き始め、 その後、アッシュ・ペー・フランス株式会社に入社。27歳で若手ブランドの営業代行業、showroom SIDEを設立、代表に就任。 32歳で海外進出、現在は1年間の3分の2以上を東南アジア諸国で過ごし、契約バイヤーとして活動。 日本からアジア・アジアから日本のポップアップショップ、展示会出展、ファッションショーの代理店も行う。
■コラム「ジャラン ジャラン アジア」バックナンバー
・vol.1:そうだ、東南アジアで生きていこう。借金抱えて自分探しの旅
・vol.2:高級モールは世代交代?ジャカルタのアシュタはなぜ成功したのか
・vol.3:なぜ東南アジアでは合同展示会が少ないのか
・vol.4:イスラム教徒のファッションは?人気の新興3ブランドも紹介
・vol.5:シンガポールのストリート事情、人気のブランド紹介
・vol.6:業界人はここに行くべき!シンガポールのおすすめスポット
・vol.7:実は進んでる?フィリピン マニラのファッション事情
・vol.8:夏休みに東南アジアに行く方法
・vol.9:インドネシアの三越?最も歴史のある百貨店がリニューアルしたので行ってみた
・vol.10:海外進出のヒント?インドネシアで寿司を食べてみた
・vol.11:ECで稼ぐならインドネシア?
・vol.12:インドネシアのECを後押ししたスーパーアプリとは?
・vol.13:4日間で8万人が来場、インドネシアのポップアップショップについて
【最新話はこちら】
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