馬喰町の問屋街の一角にひっそりと店を構える「ヒスト(HYST)」。オープンは週に1度。驚くほどの低価格設定と毎週様変わりする商品ラインナップで、毎週オープン前には行列ができ、多い時には50人以上が開店を待つ知る人ぞ知る人気店だ。ヒストの商品は、一体どこからやってきてどのように値段が付けられているのか?その秘密を探るべく事業メンバーの1人である石浦明莉氏に話を聞いた。
撮影スタジオから古物店に、HYSTに込めた想い
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ーまずは、ヒスト誕生の経緯について教えて下さい。
現在ヒストがあるスペースは、元々撮影スタジオとして運営していました。2018年12月に2階のみで古物の販売をスタートすることになり、それでヒストが誕生して。その後、たくさんの方が来てくれるようになり、1階での販売もスタートしたことで現在の形になりました。
ー「HYST」という名前にはどのような意味があるのでしょうか?
「誰にも知られたくないお店」というコンセプトから、"静かにしなさい"を意味する英単語「HIST」から発想して、綴りをアレンジして今の名前にしました。古物を扱うお店なので「HISTORY(歴史)」の意味も持たせています。スタート当初のコンセプトは現在も一貫していて、何があるのか分からない"洞窟"に入っていくようなワクワク感を演出する為、お店の入り口は黒幕で覆い、看板もあまり目立たせないようにしています。また、インスタグラムでも必要以上の情報は出さず、お店に来た時に新しい発見と出会いがあるよう心がけていて。情報をオープンにすることは簡単ですが、分からないからこそ魅力的に感じることも多いと思うので。
魅力的な商品はどうやって仕入れている?
ー週1日営業というスタイルはオープン当初から続けているんですね。
少ない人数で効率的に運営していくと考えると、週1日営業でないと中々難しくて。ただ今では「週1日しか開かないお店」ということがヒストの看板となり、支持してくださるお客様も増えたように思います。
ー週に1度の営業にも関わらず、毎週ガラっと変わる商品ラインナップに驚かされます。仕入れはどのように行っているのでしょうか?
仕入れに関しては、撮影スタジオ時代からお世話になっている古物のキュレーターの方と意見交換しながら行っています。老朽化が進んだ公共施設や旅館、病院、古民家などの解体現場に残された家具や雑貨をピックアップし、HYSTまで直送してもらいます。仕入れ先は都内が中心ですが、時には東北まで行くこともあるそう。あとキュレーターが持ってきてくれたものは、基本的にすべて店頭に出すことに決めています。複数人でセレクトしすぎないことでアイテムのカテゴリや雰囲気にも幅が生まれ、スタッフの私たちが「どんな商品が入ってくるんだろう」と、ワクワクしながら商品の入荷を待ち、またお客様と同じ温度で商品を扱う感覚を大事にしています。
ー営業日以外はどんな業務を行っているんですか?
火曜日から作業がスタートし、そこから清掃、修理、商品撮影を行っていきます。そして金曜日に1日かけてディスプレイを行い、土曜日の開店に向けて準備を進めていきます。
ー土曜日のヒストの店内は所狭しと商品が並べられていますが、平日はがらりと雰囲気が違いますね。
店頭以外にスペースを持っている訳ではないので、商品を移動させてスペースを作りながら修理などの作業をしているんですが、丁寧に作られた家具はかなりの重量があるので、移動するだけでも大変で(笑)。平日のヒストの様子は言ってしまえば作業場なので、違いに驚く方も多いかもしれません。
ー食器棚や引き出しの中にもお皿や小物が並べられていたりと、ヒストのディスプレイは隅々まで探す楽しみがあります。
ヒストでは「古物の博物館」をテーマにディスプレイを考えています。通常の博物館では眺めることが殆どですが、ヒストはお店なので「触れることができる博物館」を目指しています。古物はそれぞれの質感や重量感に魅力があると思っているのですが、それは触れてみなければ分からないですよね。また、古物なのでダメージもたくさんありますが、手に取ることでそれが"愛嬌"に見えてきます。ヴィンテージを身近に感じてもらえるよう、そして発掘する楽しさを店頭で感じて頂けるよう、こだわりを持ってディスプレイしています。
ー何度かヒストにお伺いしたことがあるのですが、開店時には行列客が一斉に入店するので、商品が倒れたり壊れてしまうのではないかと心配になります(笑)。
確かにヒヤっとする場面も多々ありましたが、今はもう慣れてしまいました(笑)。来て下さるお客様を信頼しているので、どんどん商品に触って古物の良さを感じて欲しいと思っています。
ヴィンテージ初心者でも手に取りやすい価格帯
ーヒストの商品には、年代やデザイン性にある程度統一感があるようにも感じられますが、キュレーターの方にヒストで扱う商品の条件を伝えているのでしょうか?
「経年40〜70年のもの」を基準に選んでもらっています。それ以降になるとデザインや色味からレトロ感が強い印象になってしまうので。経年40〜70年のものは、モダンでお洒落なデザインのものが多く、今の住空間に置くとすごく馴染むんですよね。また、90年代頃のものになると大量生産で素材が軽くなっていきますが、ヒストで仕入れている年代のものは一つ一つ職人が手作業で作っていた時代のものなので、素材がすごく良質です。その分重量感もあり移動などが大変ですが、手が掛かるということもヴィンテージの魅力だと考えています。
ー良質な商品を揃えているにも関わらず、安い価格設定に毎回驚かされます。実際に購入させて頂いたサイドボードも、10万以上するだろうなと思い価格を見たら5万円台と破格の金額で。値段を間違えてるのでは..?と思いながら購入させて頂きました(笑)。値付けはどのように行っているのでしょうか?
スタッフで分担しながら値付けを行っているのですが、安すぎると心配して下さるお客様もたくさんいます(笑)。ではなぜ安くご提供できているかというと、ヒストはバイヤーやディーラーを介さず、解体現場から直接回収してきていることもあって安い価格帯を実現できていて。もちろんもっと値段を上げることは出来なくはないのですが、解体現場に残されたものを、今の時代の人に受け継ぎたいという思いから始まったヒストだけに、購入のハードルを上げてはならないというこだわりもあるんです。
ーヒストで初めてヴィンテージ家具を買う方も多そうですね。
「チェア一脚からヴィンテージを」というコンセプトを掲げているので、「この値段であればヴィンテージを買ってみようかな」という気持ちになってくれる方が1人でも増えると嬉しいですね。
ー最後に、今後の展望などあれば教えて下さい。
空きスペースを活用した短期間の店舗出店の企画に取り組み始めています。2021年は10月から12月までの3ヶ月間「ディグ(DYG)」という店舗を日曜日限定で渋谷に出店しました。そして2022年は「ヒストリウム(HYSTRIUM)」と名付けたポップアップショップを、9月6日から3日間限定で青山一丁目に出店します。そのほか様々な企画が進行中ですので、いろんな場所でヒストの商品に触れて頂ける機会もでてくるかと思います。
そして、これからも時の流れを定点観測しながら、タイミングと出会いに身を任せてヒストが少しずつ広がっていけば良いなと思っています。売り上げを求めることも出来ると思うのですが、それよりも今の価格設定で来て下さるお客様とのコミュニケーションと、そこから広がっていく繋がりがヒストにとっては重要なんじゃないかなと。お金では得られない価値をこれからも大切にしながら、ヒストらしく時代に寄り添っていきたいなと考えています。
(聞き手 : 城光寺美那)
■HYST
営業日 : 毎週土曜日
時間 : 11:00〜17:00
住所 : 東京都中央区日本橋馬喰町1-5-15 azuro bakuro 1F・2F
>> HYST Instagram
■HYSTRIUM|ヒストリウム
日程:9月6日(火)〜8日(木)
時間 : 14:00〜20:00
場所:THE VENT(東京都港区赤坂7-4-12 2F)
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