晩年は卒業アルバムを撮影していた写真家 唯一の作品集
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【タイトル】這根
【制作】福島彰秀
【制作年】1973年
樽本:福島さんは当時多くのアマチュアカメラマンが参加した、写真によって社会を変革させようという運動「日本学生写真連盟」に参加していた1人です。
F:写真集に写っている人物は福島さんですか?
樽本:そうです。肩に巻いている旗は自分の父が戦争に持っていったモノで、帽子も父親が被っていたモノだそうです。戦争や父親の上に成り立っている自分や社会というのを強く表現していますが、一方で自分は「日本学生写真連盟」の1人として、現状の社会を否定しなければならない立場だったわけです。
樽本:運動が破れたあとは、商業カメラマンとして卒業アルバムなどを撮影していたそうです。卒業アルバムに、福島さんの名前は載っていませんが。
F:ではなぜご存知なんですか?
樽本:ご本人に「これも縁だから」といって卒業アルバムも譲ってもらったからです(笑)。アルバムは個人情報の問題があるので流石に販売はできませんが、お店に置いてあります。この仕事の醍醐味は、作品制作後や、運動後のその人の人生を知れることだと思います。本を通して人の生活史を覗かせてもらえるんです。お金になるものじゃないけど、それでもいいと思っています。
【ミニインタビュー】店名の由来と、「百年」が目指す古本屋の姿とは?
F:百年というお店の名前の由来は?
樽本:内田栄一監督作品「きらい・じゃないよ2」という映画の舞台である、死者の都「百年まち」から取りました。
F:死者の都から命名したのはなぜでしょう?
樽本:僕は本を「幽霊みたいだな」と思うことが多々あるんです。特に古本特有の「持っていた本を手放す」という行為は、言うなれば本の仮死状態で、誰かが見つけて手に取ってくれることで息を吹き返す、そんなイメージです。
F:吉祥寺には、百年のほか「一日」という姉妹店があります。
樽本:一日は、2017年にオープンしたので今年で5年目ですね。正直な話、あの物件はたまたま不動産屋から勧められて条件的に悪くなかったから入居したというだけなんだけど、10年以上百年を営んできて、お客さんと吉祥寺に何か恩返しをしたい気持ちになったんですよね。それで、比較的に安い条件で場所を貸し出すギャラリーのようなものを作ろうと思ったんです。吉祥寺にはクリエイターの方も多いから、もう少し気軽にやれる場所を作ってあげたいなと。誰かの背中を押すような場所にどんどんなってくれれば本望です。
F:古本といえば、神保町を連想する人が多いと思います。なぜ吉祥寺に出店を?
樽本:これもたまたま物件を探していて、条件が揃ったのが吉祥寺だったというのもあるんですが、元々知っている街だし結果的に良かったと思っています。吉祥寺という街は、肩肘を張らなくていいんですよ。いい意味でゆるく、悪い意味でもゆるい(笑)。たまに渋谷や新宿に行くとみんなが主張しすぎていてすごく疲れるんです。それに比べると吉祥寺は主張しすぎず、穏やかで僕に取っては居心地の良い街なんですよ。
F:古本屋をはじめたきっかけは?
樽本:一言で言えば「仕方がないから自分でやろう」です(笑)。今でこそ古本屋にも種類がたくさんありますが、2006年頃は気軽に入れる古本屋は少なかったと記憶しています。妙に敷居を高く感じてしまったり、たとえ入店できたとしても「おしゃれだな」と思うだけで、僕の欲しい本にはなかなか巡り会えなかった。「ないならやるしかないな」と思ったのが最初の動機ですね。
F:では樽本さんが目指す「理想の古本屋」とは?
樽本:コミュニケーションを取る本屋です。僕は、話すだけがコミュニケーションじゃないと思っています。うちが目指している「コミュニケーション」とは、対象である本の正しい価値を通じて、顔も知らない人の生活史を覗き見ることです。同じ「顔が見えない」でもオンラインストアで購入するような不透明さではなく、元々持っていた人や生活に思いを馳せられるような関係をお客さんと作っていきたいなと心から思っています。
(聞き手:城光寺美那/古堅明日香)
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