「とと姉ちゃん」モデルが説く、服を着ることの定義
ADVERTISING
【タイトル】服飾の読本
【著作】花森安治
【発行年】1950年
F:たくさん付箋がついてますね。
樽本:これは私物で。僕がつけた付箋です。友人が営んでいる下北沢の古本屋で購入しました。
F:花森安治といえば、2016年に放映されたNHK連続テレビ小説「とと姉ちゃん」のモデルとなった人物で、暮しの手帖の初代編集長です。
樽本:そうですね。花森は、戦意高揚のために国策広告に携わった人物としても知られています。戦争に加担していた自分の間違いを認め、暮らしを大事にしていなかったあの頃に対する後悔から暮しの手帖を立ち上げたと言われていますよね。これは、そんな花森なりの「服飾について」がエッセイ形式で綴られています。
F:最終的に「服を着る」ということをどのように結論づけているんですか?
樽本:「服を通して自分を知りなさい、そうしないと服はあなたに馴染んでくれないよ」と。例えば「値が高いからといって、美しいモノだと思い込んでいるのは不幸なことだ。重要なのはその人にとって美しいモノは何かである」と書かれています。花森がスカートを履いていたことは有名な逸話ですが、男性がスカートを履いていても、もちろん良い。「物事を変だと決めつけず、どうして美しいのかをちゃんと考えなさい」ということを一貫して説いています。顔の形が違えば心も違うから、ある人にとって似合う服は他の人は似合わなかったりする。当たり前と言えば当たり前の話なんですが、改めて読むと気づかされることがありますね。
このエッセイを読んだ後に、写真家のマイク・ディスファーマー(Mike Disfarmer)の「DISFARMER:THE VINTAGE PRINTS」という写真集を眺めていたら花森が言っていたことがとても腑に落ちたんですよ。ディスファーマーは、農家だった家族を捨てて田舎町で写真館を営んでいた写真家なんですが、死後数年経ったある日、偶然大量のネガフィルムが発見され写真集となりました。ここに登場する人々が着用している服は、決して高級なモノではありません。でも、すごくその人に似合っていると思いませんか?服は着飾るためのものではなく、その人の仕事や動作、癖に合っているものがいいなと思ったんですよね。「働く服」「働いてる服」。それが「似合う服」の定義なのかなと僕なりに解釈しました。
次のページ>>
ADVERTISING
READ ALSO
あわせて読みたい
RANKING TOP 10
アクセスランキング
銀行やメディアとのもたれ合いが元凶? 鹿児島「山形屋」再生計画が苦境