元双子タレントとしてテレビなどで活躍していたHIROMI・FUKAMI(広海・深海)。2人が今、ファッション業界に深く携わるクリエイターとして活躍しているのはご存じだろうか。広海は実業家としてデジタルマーケティング会社Hi inc.を立ち上げ。「ロレアルグループ(L'OREAL)」や「エスティ ローダーグループ(ESTĒE LAUDER)」「P&Gグループ」「資生堂」などのビューティ領域に軸足を置きながら、LVMHグループや「ギャップ(GAP)」など国内外のラグジュアリーブランドのディレクション、クリエイション、キャスティングなどを手掛けている。深海はスタイリストとして国内外のファッションショー、雑誌、テレビ番組、広告、ライブなどのスタイリングを務めるほか、アパレルブランドのクリエイティブディレクションやドラマへのスタイリングアドバイザー、コンサルタントとして幅広いフィールドで活動している。タレントという表向きの仕事から、ある種"裏方"に転身した2人だが、依然高いエンゲージメントを誇り、ファンからの熱量も高い。ファッションやビューティのプロモーションに深く携わる2人に、マーケティングの現在地と高いエンゲージメント力の秘密を聞いた。
ーお二人の芸能界デビューのきっかけは?
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広海:17歳の時に「笑っていいとも!」の素人参加コーナーに出たことがきっかけで、スカウトされました。
深海:ウィキペディアに載っている通りです(笑)。
ーウィキペディアには「芸能人から実業家を目指したのは借金返済のため」と書いてありましたが。
深海:借金返済が必要だったのは広海ちゃんだけなんですが。
広海:25歳の時にリボ払いの上限額まで達してしまって。500万円くらいだったかな。返済できなくなってしまったので、お金を稼ぐために知識をつけようと思って。ご縁があってリデル(LIDDELL)という会社でインターンとして3年間デジタルマーケティングについて勉強させてもらいました。
ー数多くの選択肢の中から、デジタルマーケティングの仕事を選んだ理由は?
広海:正直、お金を稼げたらなんでもよいと思っていたのですが、マーケティングのお仕事には芸能界で得たものが応用できるのかな、と考えたんですよね。
ー広海さんが代表取締役を務めている「HI inc.」では具体的にどのようなお仕事をされているんでしょうか?
広海:プロダクションとして広告の企画・制作を行ったりするので、広告代理店に近いです。テレビのCM枠の買い付けなどはしませんが、テレビCMのキャスティングを担ったりもします。
ー時を同じくして、深海さんもスタイリストに転身しています。
深海:タレントをしている時に「向いてないな」って自分で思っちゃったんです。需要も減っていく中でこのまま続けていても未来はないな、と。だったら自分が好きなことをやってみようと思って、まずはアシスタントとしてスタイリストの仕事を勉強し始めました。自分の好きなことをやってみる過程で、アダストリアでPRアシスタントも経験しましたね。
ーなぜ芸能界が向いてないと思ったんでしょう?
広海:一生懸命自分たちなりに少しキャラを作ったり工夫もして頑張ってみたんですが大成はせず……。食べてはいけても、大金を稼げなかったんです。稼げないということはニーズがないということだと思うし、ということは「向いてないんじゃない?」と。でも少しだけメディアに出させてもらってたくさん貴重な経験もできて、今の仕事に生きる部分もあるので、決して無駄ではなかったです。当時の僕らを気にかけてくれた人にも感謝をしています。
ー双子ですが、価値観が全然違う?
深海:そうですね。私の場合は、タレント以外のお仕事でどれに興味があるだろうと考えた時にやってみたいことがたくさんあったからそれを試してみた、という感覚の方が近いかも。どちらかといえば、やってみたいことをまずはやってみて、それがお金になればいいかな、と。
広海:僕の場合は、生きている中で「やれること」「稼げること」「やりたいこと」の3軸があって。常に3つのバランスをとり続けていられるのがベストなんですけど、プライオリティを付けるとするならば、僕は「稼げること」が一番だった。
ー広海さんが「稼げることが一番だ」とおっしゃる一方で初エッセイ「むすんでひらいて」の印税を三重県の児童養護施設へと全額寄付したり、猫の保護活動団体やボランティア団体への支援を行うなど、寄付や寄贈にも積極的なイメージがあります。
深海:それは広海ちゃんが何も考えずに行動をしているだけ、というか。
広海:なんかそんなに寄付とか寄贈を大袈裟に思っておらず……。グリタオ(2人が飼っている愛猫2匹の名前)グッズは、猫で商売をさせてもらったんだから猫に還元すればいいや、と。本の印税に関しては、ありがたいことに多くの方々に読んでいただけて重版を3回も重ねることができたんですけど、この本も僕らのビジネスというよりかは「少し変わった境遇の僕たちみたいな人もなんとか生きている」ということで、僕らが関わった施設に寄付して喜んでもらえる人がいるなら、その方が素敵かな?って。あんまり深く考えていないですね。
ータレントの時は2人で一緒にお仕事をされていたと思いますが、今は職業も活躍されているフィールドも別ですよね。
広海:一緒だと揉めるのよ(笑)。
深海:(笑)。でも、双子でよかったなと思うことはたくさんあって。仕事を二人三脚でやっているわけではないけど、性格が真逆なので良い相談相手なんですよね。例えば「こんな案件が来たわ。でもこれは受けたくないわ」みたいなことを私が言うと広海ちゃんの視点から「あなたのブランディングに合ってるからそれは受けるべき。それ断ったらあんた終わってる」みたいな率直な意見をくれるんです。
広海:性格は違うけどやっぱり一卵性双生児だから、深海ちゃんができることって僕もできる。たとえ僕ができなくても、深海ちゃんを見ているとできるようになるんです。
深海:学生の頃に水泳部に所属していて。私がバタフライをできるようになったんです。広海ちゃんは一回もバタフライ泳ぎをしたかことがなかったんだけど、私がバタフライで泳いでいるのを見て「OK、そんな感じね」って一瞬で泳げるようになっちゃった。
広海:あれ本当に不思議だったよね。だから例えば、僕がコンペティションに参加して弊社の強みや案件の与件整理、KPI設定とか戦略をプレゼンしていると、深海ちゃんが僕のその振る舞いとかを見て、勝手に吸い上げて、スタイリストでの仕事に応用したりしている。泥棒よね(笑)。
ー「性格が真逆」というお話が何度か出てきましたが、どのような点が異なるんでしょうか?
広海:僕はすごいせっかちで合理的な思考。だから、一瞬で判断とかをあまりしなくて、優柔不断とも言えるかもしれないですね(笑)。深海ちゃんは逆に瞬間的な決断ができる人。
深海:エモーショナルなんですよね。「やりたくない」とか思いがちなんですけど、お金が好きだし稼げるならやります、といただいたお仕事を受けています(笑)。
ーみんなオブラートに包みたがる「お金が好き、稼げるなら引き受けます」をはっきりと言えるのもすごいですね。
深海:丸出しよ。
広海:というか今の日本にはその価値観は合ってないなと思いますね。でも僕、稼ぐのが好きなだけで使うのはそんなに好きじゃないのかもしれない。最近気がつきました。
ー貯蓄に回すんですか?
広海:貯めもしない。深海ちゃんが全部使っちゃう(笑)。
深海:(笑)。
ー理由は違えど、タレントという表向きのお仕事からマーケティング、スタイリストというどちらかといえば裏方仕事に舵を切られたお二人ですが、今の時代は業界内で生き残ることは容易ではないと思います。転職をした上で、実績を残されているお二人ですが、強みはどこにあると分析されていますか?
広海:日本は特に、一つのことを続けることを美学とするじゃないですか。悔しくても辛くても辞めずに続けることが素晴らしい、石の上にも三年と。でも僕たちはそういう態度がまったく向いていなくて。嫌だったら辞めればいいし、トライして上手くいけばそれを頑張ればいい。深海ちゃんは僕よりもそういう感覚が強いんじゃないかな。
深海:例えば、表向きの仕事から裏方仕事に転職したことはもちろん事実なんですが、自分たちにとってはそれ自体はあまり重要なことではないんですよね。だから「強みはなんですか?」という問いに答えるとしたら「今できることの中から最大限の力を発揮できそうなものを自分でチョイスすることが私たちらしい」と知っていることかな。
ー仕事をする上で意識をしていることはありますか?
広海:一番最後に届く人を想像することかな。ターゲットとする人たちが、製品やサービスに対してどんな印象を覚えているのか、彼らがどのようなライフスタイルを送っていて、どんなものにこだわりを持っているんだろうということをすごく考えます。そこから紐解くのが僕は好きだし、得意。
深海:ちょっとだらだらとつまらない話をしないで!FASHIONSNAPって読んだことある?
ー(笑)。スタイリストのお仕事は、マーケティングや代理店との仕事とは異なり、もう少し個人的な表現にとどまると思いますが、深海さんなりの仕事でのこだわりはありますか?
深海:いろんなスタイリストさんがいるとは思うんですけど、私の場合は基本的には媒体ではなくタレントさんに付いていて、ある意味「俗っぽいスタイリスト」という見え方もすると思うんです。専門的に学んできたわけでもないし、キャリアもないからスタイリストという仕事に自信があるわけでもないし、クリエイティブがすごい上手いわけではない。でも、逆に調和力を重要視してコーマシャライズするようにしていますし、それが得意なんです。
広海:クライアントやタレントが求める服があって、その間の空気を読んでベストを尽くすのね。
深海:その通り。なので「私のこだわり」みたいな強いものがないんです。みんなが揉めることなく、ベストなものに決めて、スムーズにフィニッシュできることが重要。だからこそ、自分らしさを貫いて生み出されるクリエイティブ力があるスタイリストさんのことを尊敬しています。
広海:僕たちは「どうせやるなら、一緒にテンパりましょう、ストレスも同じくらい抱えましょう、喜びも一緒に抱えましょう、同じチームとして最後まで完走しましょう」という寄りそうスタンスなんだと思います。
深海:なるべく円滑かつ省エネで仕事を進めるのが一番効率は良いのかもしれないけど、それが良い仕事とは限らないというか。さっき広海ちゃんも言っていたけど「お客さんが求めているものをなるべくみんなでやりましょうよ、めんどくさくても」という気持ちは大切にしたい。一緒に並走してあげることって大事だと思うんですよね。なんでもそうじゃないですか。やっぱり一緒に頑張ってくれる人と仕事したいですよね。
ーもっと自分の自己表現としてお仕事をされているイメージがあったので意外でした。
深海:いい意味でも悪い意味でも変に空気を読んじゃうんです。「あの人が嫌がりそうだからやめとこう」とか。例えば、クライアントが赤色を求めてきても「この人は赤が嫌いなんだよなぁ。……じゃあボルドーで試してみる?」みたいなことを考えます。みんなが一番ハッピーな形を求めちゃいがちなんです、いじめられっこ体質なのかしら。
ークライアントワークを多く経験されているお二人ですが、今の世の中はどのような施策を求めていると感じていますか?
広海:ファッション業界に限らず全てにおいて近年、トレンドが細分化された印象があるので、ターゲットの設定が尖っていれば尖っているほど刺さりやすいと思っています。例えば「夜に飲むサプリです」という謳い文句よりも「夜11時半に飲むサプリです」というキャッチコピーの方が売上が伸びるのかな、と。
ーセグメントを敢えて狭める手法はキャステイングでも同じなのでしょうか?
深海:いつも広海ちゃんが言っていることがあって「人気と認知をみんな履き違えてる。認知されている人を起用すれば、人気が出て売れるという昭和の時代は終わりました」と。今の時代は認知がなくても、人気者ってたくさんいると思うし、どちらかといえばその人気を見極める力が必要なんじゃないですかね。
広海:もっとわかりやすく言うと、100万人フォロワーがいるモデルと、10万人フォロワーがいるモデル、どちらもコアファンを1万人持っているとしたら後者の方が圧倒的にコストパフォーマンスが良いですよね。
ーエンゲージメント力の見極めが重要と言うことですね。お二人も高いエンゲージメント力を持っている印象です。
広海:先ほどの、人気と認知のお話に、もう一つ付け加えるとしたらそれはリアリティだと思うんです。僕らもそうなんですけど、コロナ禍でインスタライブをやろうと決めた時、「このままで良くない?嘘つくのはやめよう」という話を深海ちゃんとしたのは覚えています。
深海:みんながオカマっぽいの求めてそうだからという理由で「ワタシは〜」みたいな演技はやめよう、と。
広海:ありのままですよね。ゲイであると言うことももちろんそうですけど、そもそも一人称は私じゃなくて「僕」だとか。そのリアルさで発信をするようになったらエンゲージメントが高くなりました。
深海:やっぱり嘘っぽいのって気持ちが悪いから。PR表記をつけて発信するものについても正直に言っちゃう。「ごめん、みんな。ここの会社からお金をもらっているからこのアイテムを紹介するわ。でもみんな一緒に試してみて」って(笑)。
広海:コロナ禍以降もトレンドは細分化され続けると思いますが、その中でリアルさというのはやっぱり重要になる気がします。
深海:個人的な見解だし、正解もないと思うんですが、私はファッションは転覆していくと思っていてあまりそこに固執しなくても良いのかな、と。
ー「固執」というのは具体的にどういう意味でしょうか?
深海:肌感ですが、今の時代は「お手本」みたいなものを誰も欲しがっていないのかな、と。本当に愛用しているものをインスタに投稿している一般の方にみんな興味を持つし、デジタルマーケティングの人がうまく仕掛けているローラー作戦とかに我々みたいな専門職は負けちゃう。そうなってくると、みんなの憧れとして機能していたようなスタイリストやエディターの仕事というのが世の中には必要ない気がしてくるんです。だから「憧れ」にならないアプローチでファッションに関わっていかないと、もしかしたらこれからのファッション業界では生き残っていけないかもしれないな、と。
ー憧れにならないアプローチがリアルさ?
深海:「本当のこと」と言い換えることもできるかもしれませんね。「これが流行りそうだから、おすすめです」ではなく「私はこれが好きです」で良いのかな、と。日本の国民性でもある、誰かの真似をするというロジックはこれからどんどん希薄になっていくからこそ、「自分はこう思うし、あなたはどう思うの?」というレスポンスがあるアプローチが、ファッションでは生き残っていくんじゃないでしょうか。日本は均一化の国だけど「少し個性的で、均一じゃない人の方がおしゃれよね」という海外的な意識が広がっていっているから、あともう少しでそういうものがトレンドになるのかなと思っています。
ー2人のキャリアチェンジの理由を伺って「ここではないどこかに行きたい」という願望とそれに伴う行動力と継続力が強いのかなという感想を覚えました。
広海・深海:ないないないない(笑)!!
深海:私たちは逃げただけ。普通の人は勉強をして、資格とかを習得してから仕事を辞めるけど、そういうことを考えないから。今ある環境に対して判断を下して、自分にとってより良い方を選んでいるだけなんです。
広海:ただ、違うものにずっとなり続けたいのかもしれない。僕たちは、変化に対してめちゃくちゃポジティブなんだと思います。
深海:それは認める。
広海:引っ越しとか全然苦じゃない。例えば「明日から今の給料と同じまま、アメリカに行ってきてほしい」と言われたら「オッケー!グッバイ!」とすぐ渡米します(笑)。
深海:でも私アメリカだったらイギリスの方が良いわ。
広海:そういう話じゃない、変化の問題だから!
ー(笑)。変化が怖かったりしないんですか?
広海:新しいものが好きなんです。「小学校6年間、毎日同じ通学路で通うんだ」と思ったらゾッとする感じ。今のビジネス体制を考えても、ずっと同じことをしているのは無理だな、と思いますし。
深海:新しいものもそうだけど、新しいことを始めたい気持ちが強いのかもしれないですね。日本以外の場所に行きたいとか。
広海:多分ですけど僕たちの生い立ちも関係あるんです。実家は無いし、親もいないから帰る場所がないんですよね。ひとつの場所に落ち着くことを知らないから、新しい場所を点々としていた方が僕たちにとっては心地が良い。
深海:新しい場所に訪れた時の高揚感が堪らなく好きだし、ずっと同じ場所に居続けたくない。ずっと点々としながら生きていきたいですね。
(聞き手:古堅明日香)
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