元AKB48の小嶋陽菜がプロデュースする「ハーリップトゥ(Her lip to)」が6月20日に5周年を迎える。AKBを卒業し、ファンと自分の好きな世界観を共有するために始めたコレクションも、順調に売り上げを伸ばしてアパレルブランドとして広く認知されてきた。さらにはコスメやランジェリーと世界観を広げ、ライフスタイルブランドとして確立した。小嶋は、毎シーズン最新コレクションをまとって自らモデルを務めるなど表舞台に立つ一方で、「ハートリレーション」の代表取締役CCO(チーフクリエイティブオフィサー)」として、表でも裏でも会社とスタッフを支える。ブランドの顔として、また会社役員として、ハーリップトゥをどのように成長させてきたのか、そして次の10周年に向けてどのような未来を描いているのか語ってもらった。
ブランド認知のきっかけは、チェリー柄のワンピース
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ー5周年おめでとうございます。率直な今のお気持ちを聞かせてください。
もう5年なのか、まだ5年なのか、よくわからないですが(笑)、毎日いろんな事が起きて、密度が濃すぎる5年間でした。自分が好きなものを発信しようと、小さな発想から始まったことなので、こんな大きなブランドになるとは5年前は想像もしていませんでしたし、今の状態をすごくありがたいと思っています。
ー5年間でキーポイントになったことを教えてください。
ハーリップトゥは、私がアイドルを卒業したあともファンの皆さんとコミュニケーションを続けていきたいと思ったのをきっかけに、2018年にスタートしました。それがお洋服だったわけですが、ファーストコレクションでキーアイテムとなったのがチェリー柄のワンピース。遊び心のあるチェリー柄を大人のシルエットで着たら可愛いだろうな、と思って作りました。スリットが入っていて、胸元がキレイに見えて、可愛い中にちょっと色気がある…。当時、30歳だった私が理想とする女性像をイメージしたものです。このワンピースがすごく好評で、ブランドの認知が上がりました。それからはワンピースで柄を替えたり、セットアップやキャミソールワンピなどデザインを替えたりして毎年リリースし、今年もとても好評です。
ー洋服で5年も同じデザインを展開するのは珍しいですね。
このドレスをきっかけにブランドを知ってもらえることも多く、「全シーズン、購入した」とおっしゃってくださる方もいらして…。5年間愛される代表アイテムがあるのは、ブランドの強みになっていますね。
ー次のキーポイントはいつでしょうか?
2019年に発表した「ホリデーコレクション」です。私自身も12月のホリデーシーズンは気分が上がりますし、そんな気分を楽しみながらお洋服が買えるっていいな、と思ってスタートしました。ハーリップトゥはワンピースが中心のブランドで春のキャンペーンが一番盛り上がるのですが、その次が12月初旬に開催するホリデーコレクションのイベントなんです。すごく好評で、毎年ブランドとして大切にしています。
ステイホームに合わせたMD変更が好評
ー次の転機は、2020年1月にハートリレーションを立ち上げ、すぐにコロナ禍になったことでしょうか?影響も大きかったのでは?
そうですね。会社を設立してから初めての春のイベントに向け、不安を抱えながらも準備をしていましたが、結局中止となりました…。先が全く見えない状態でしたが、MDを変え、お家で着られるように作ったTシャツやシルクマスクがすごく好評だったんです。Tシャツは右胸には「Social Distance」、左胸には「MY HEART WILL ALWAYS BE WITH YOU」と、ブランドらしい遊び心を入れたんです。
ー機転をきかせ、ピンチをチャンスに変えたんですね。
はい。実はビューティアイテムも開発していた時期でもあったんですが、当初はリップを想定していましたが、より自分を大切にしたり、自分と向き合う時間が大切だと思うようになって、2020年7月に「パフュームオイル」を先にリリースしました。
ーその時期はおこもり美容が流行しだし、好評だったのではないですか?
「セルフケア=セルフラブ」というメッセージが私たちにはあるのですが、それがお客さまに響いたのだと思います。それまで、「セルフラブ」という言葉を耳にしたり目にしたりしても、意味を実感することはあまりなかったのではないでしょうか。それがコロナ禍で実感できたからこそ、受け入れてもらえたのかなと。最近は、マスクを外す方も増えてきましたし、またリップの開発にも挑戦したいです。
ーコロナ禍でもチャレンジを続けていましたね。
そうですね。2021年12月に代官山のカフェ「カシヤマ ダイカンヤマ(現・チャコット代官山本店)」とコラボレーションして「ハーリップトゥ カフェ」を期間限定でオープンしたのも印象深いです。それまでイベントでドリンクをサービスしていてすごく好評で、そこからこのカフェへと発展したのですが、洋服を販売するだけでなく、その先の体験も作りたい、とずっと思っていたことが実現し始めたのがこの時期です。
「お客さまの期待に応えたい」との想いから経営体制を刷新
ー次のターニングポイントは?
2022年2月22日に、経営メンバー迎えたことです。「お客さまの期待に応えたい」「お客さまが求めるものをお届けしたい」となった時に、自分たちの力だけでは実現できないと思ったんです。経営面においてもプロに入ってもらう必要がある、そう思い経営体制を刷新しました。
振り返ると、新体制になっていなければ、こんなに組織も大きくならなかったですし、自分の考え方もアップデートされていなかったと思います。おかげでCCOとしてクリエイテイブに集中し、責任を持てる環境ができました。
ー新体制発表の日にち(2022年2月22日)には何か意味があるのですか?
実は、私のAKB48の卒業コンサートが行われたのが、2017年2月22日なんです。当時、卒業後にやりたいことが何も決まっていなかったし、グループ以外に大切なものが見つかるかわからない…。そう思っていたけれど、「(ファンの)みんながいてくれるから、卒業します!」とステージで宣言しました。それから5年が経ち、大切なお客さまはもちろん、一緒に経営する仲間、一緒に仕事をする仲間も増え、成長した自分の姿を同じ2月22日に皆さんに見てもらいたい、と思ってこの日を選びました。
ーそして初の直営店「ハウス オブ エルメ(House of Herme)」をオープンします。もうすぐ1年ですが、手応えは?
コロナ禍で、貴重な外出の時間にお店に足を運んでくださるのだから、「最高の体験をしていただきたい」と思ってオープンしたのですが、お客さまとつながる場所を作る、という想いは実現できていると思います。併設するカフェでシーズナルドリンクを出したり、季節ごとのイベントで盛り上がったり、リアル店舗はいいなあ、と思うことがすごく多いです。
ー一方で、店舗を運営するにあたって想定外に苦労したことはありますか?
人材の採用でしょうか。アパレル販売員の採用全般が厳しいとも聞きますが、ハウス オブ エルメは唯一の直営店でコンセプトストアですから、ブランドを深く理解し、ブランドに対して熱意のある人じゃないとお客さまに伝わらない。そうでないとファンの方からは「あれ?」と思われてしまいます。そのため、弊社では社員化に力を入れています。アパレル出身者だけでなく、ホテルなど異業種から転職して活躍してくれている人もたくさんいて、とてもありがたいですね。
ー店舗運営以外でも、大変だったことはありますか?
色々ありますが(笑)、イベントのチケット発売の瞬間は、まるで生中継が始まる前のように毎回ドキドキです。ハーリップトゥのイベントは毎回チケット制で、どうしても発売時にアクセスが集中してしまいます。試行錯誤を繰り返し、システム会社と連携して完璧に準備をしてきたつもりでも、想定をはるかに超えるアクセスでサーバーがダウン…。お客さまにご迷惑をかけることもありました…。
ようやくですが、システム担当者に入社してもらい、システムを自社開発して万全の体制を取ることができ、一安心しているところです。もちろん、早くそうしたかったのですが、それだけの技術がある人を採用し、システムを構築するのには時間がかかりました。
ー小嶋さんはずっと、「人がカギ、チーム作りが重要」とおっしゃっていますね。
この5年間で、それをすごく学びました。私自身、クリエイティブに関わる人や、事業部のマネージャーなど要職の採用は、最終面接を行います。おかげで、弊社にはガッツがある人が集まってくれたと思います(笑)。
ー現在はコスメブランド「ハーリップトゥ ビューティ(Her lip to BEAUTY)」に加え、ランジェリーブランド「ロジア バイ ハーリップトゥ(ROSIER by Her lip to)」も手がけています。
顧客の方々は、20代後半から30代の、ほぼ私と同じ世代の方が中心ですが、ビューティやランジェリーのお客さまはそれよりも幅広く、40代で愛用してくださる方もいらっしゃいます。4月に行った伊勢丹新宿店でのロジア バイ ハーリップトゥのポップアップイベントでは、上の世代で手に取ってくださる方も多く、手応えを感じました。新規のお客さまとの接点を増やすためにも、今年はビューティやランジェリーを中心にポップアップイベントを多く開催する予定です。
ビューティの常設店、リワードプログラム開始と常に進化
ービューティでは常設店もオープンしますね。
はい、夏に大阪にオープンします。「バラエティショップとかで買えないの?」との声も多く、幅広い層にリーチするとなると、手に取っていただく場所が必要なのだと実感しました。卸しも検討していて、多くの方が手に取ることのできる環境を整えたいと思っています。ロジア バイ ハーリップトゥもフィッティングしてもらうと、購入率がほぼ100%というくらい、良さを実感してもらえる自信作なので、販路を拡大して、たくさんの方に届けたいです。
ーそして今年5月にはブランド初となる浴衣の予約販売もスタートしました。
おかげさまで、すごく好評です。実はコロナ前に計画していたのですがストップしていました。「今年は浴衣を着てお出掛けしたい」と私自身が思ったので、新たに柄探しから始めて、すごく素敵ないいものができたと思います。大人の柄で、手に取れる程よい価格帯のものって、なかなかなかったり…。着る機会を増やして欲しいし、ドレスのように選んで欲しい、と思い、価格もそのように設定しました。
ー5周年で行うことは?
まずは5周年の軌跡を振り返る展覧会を東京と大阪で開催します。ワンピースのアーカイブなどを展示する予定です。またコロナ禍でさまざまな規制がある中、お買い物体験が楽しくなる場所としてハウス オブ エルメをオープンしましたが、外出の制限がなくなった今、今度はECのお買い物体験を向上させたいと思って新しい提案も始めます。元々ECで始まったブランドですし、お買い物だけじゃない特別な体験をお客さまにしていただきたいとの想いから、「クラブハーズ(Club Hers)」というリワードプログラムを9月から開始します。購入金額に応じてギフトが届いたりサービスが受けられたり、会員限定のイベントを開催したり、これまでもこれからもブランドを愛してくださる皆さんと、大人のステキなコミュニティを作っていきたいと思っています。
10周年に向け、長く続けるための組織作りを
ー10周年に向けやりたいこと、達成したいことは?
長く続けるための組織を作っていきたいと思います。たくさんの社員もいますし、楽しんでくださるお客さまもいらっしゃるので、私自身は長く続けたいと思っています。
ハーリップトゥはライフスタイルブランドですから、これからどういう広がりをしていくのかは、まだ未知数。時代に合わせた感覚をシェアするスタンスで、いろんなことを試したり、好きなものを探したりしながら、ブランドを育てていきたいです。
(文:ライター・川原好恵、聞き手:福崎明子)
ライター・エディター
文化服装学院卒業後、流通業界で販売促進、広報、店舗開発を約10年経験した後、フリーランスとして独立。下着通販カタログの商品企画などを経て、現在はランジェリーやビューティを中心に、雑誌、新聞、ファッションウェブサイトなどで執筆・編集を行う。
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