ファッションを取り巻く人の趣味を深掘りする連載「ファッションに関わる人の偏愛白書」。第3回となる今回ご登場いただくのは「モトカレマニア」「臨死!! 江古田ちゃん」などの作品で知られる、漫画家の瀧波ユカリさん。4年前に古着屋で偶然出会ってから沼にハマり、現在では100点以上をコレクションする「オールドケンゾー(OLD KENZO)」の魅力について語ります。自身を「KENZO研究家」と称する瀧波さんの偏愛と、自慢のケンゾーコレクションとは?
目次
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高田賢三は「偉人」、瀧波ユカリが語るオールドケンゾーの魅力
古着屋でワンピースを購入してどハマり、オールドケンゾーとの出会い
私がケンゾーと出会ったのは、新型コロナウイルスのパンデミックが起こっていた2020年。高円寺の「即興/SOKKYOU」という古着屋さんのオンラインストアで1980年代のワンピースを見つけたのがきっかけでした。デザインはもちろんのこと、外から見えないようなところにレースをあしらうなど、細部までこだわり抜いて作られているのを見て「明らかにこれまで私が見てきた服とは違う」と衝撃を受けました。当時そのワンピースの値付けは3万円台でしたが、手間や素材を惜しまない贅沢な服作りに価格以上の価値を感じてすぐ購入を決めました。服好きだった母の影響で人並み以上には服に興味がありつつもこれといって好きなブランドはなく、点数もあまり持っていなかった私ですが、その日から「オールドケンゾー沼」にどハマり。現在までに100点以上を蒐集しました。
一度気になると年代を遡って物事や時代背景についてdigりたく(深掘りしたく)なってしまう性分なので、色々調べました。オールドケンゾーのアイコンのひとつでもある花柄バッグは国内でのライセンス生産で「高価な服は買えなくてもバッグなら買える」と人気に火がついたことや、ケンゾーのタグは作られた年によって細かくデザインが変わっていて年代を特定する指針になること、当時のファッションシーンは色鮮やかなアイテムが多く、ヴィヴィッドなワンピースも違和感なく街に馴染んでいたこと。「私がこの服を買うまでには一体どんな人がどんなコーディネートで街を歩いていたんだろう」と当時の風景に想いを馳せるのは本当に楽しいです。
「想像が膨らむ🟰楽しみが多い」瀧波ユカリがオールドケンゾーに惹かれるワケ
オールドケンゾーの魅力の1つは、服の作者が「高田賢三」だとはっきりしていることですね。これは漫画にも言えることですが、作者が明確になっているということは「この服は何を考えて作られたのか」という部分が想像しやすいということです。兵庫県生まれの賢三さんが東京に出てきて装苑賞を獲って、フランスに渡りパリで女性のための服を作ってお店を開いた、という半生を踏まえて服を見ると制作過程や込めた想いなど、色々と想像が膨らみます。これは私の持論ですが、想像が膨らむということは楽しみが多いということだと思うんです。
デザイン面では、どの服からも現状に満足しないチャレンジ精神を感じられるところが好きです。例えば、オールドケンゾーの代名詞とも言えるであろうフラワーパターンでは、東欧っぽさを感じるもの、色々な文化をミックスさせているもの、花瓶といった道具類をパターンに組み込んだものなど、どのアイテムにも「ただの花柄」にならないような工夫が施されています。そのほか「ここまでするんだ」と思うような細部へのこだわりもあり、賢三さんの服作りへの純粋さ、ひたむきさがオールドケンゾーからは伝わってくるんです。
また、機能的な話で言えば、今日持ってきた服全てがそうであるように、オールドケンゾーのほとんどのパンツ、スカート、ワンピースにはポケットが付いています。特にウィメンズウェアにおいてポケットは「ないほうがミニマルで美しい」といった理由でブランドによってはカットされてしまうこともありますが、機能性を考えたらポケットはあった方が絶対的に便利。偶像化された女性ではなく、あくまで現実を生きる女性のために実用性を考えてデザインしてくれていることが伝わってくるのも魅力的ですね。
ちなみに私の中のオールドケンゾーの定義は、「高田賢三が第一線でデザインをしていた頃のケンゾー」。具体的にいつまでとは決めていないし、もちろん買う時に年代を調べてから購入するわけではないんですが、なんとなく気に入って買ったものを後からチェックすると1970〜1980年代中盤のアイテムがほとんどです。常にチャレンジングな姿勢で自分のクリエイションを追求しながら、ビジネスとしても国内外で大成功を収めた高田賢三という人物は、皆さんにとってエジソンやアインシュタインなどがそうかもしれないように、私にとって「偉人」。今回は数多くの私のオールドケンゾー・コレクションの中から、特に気に入っているアイテムをピックアップして紹介します。
最初に買ったケンゾー「KENZO PARIS 1980's スタンドカラーロングワンピース」
Image by: FASHIONSNAP
最初に紹介するのは、先ほど私がケンゾーにハマるきっかけになったと話した「KENZO PARIS」のロングワンピース。詳細な発売時期は分からないんですが、私が蒐集の参考にしている「高田賢三ファッションデザイン画アーカイブス」や2021年に開催された高田賢三回顧展の図録と照らし合わせると1985年秋冬シーズンのルックに同柄別色の生地が使われているので、そのシーズンかなと。オリエンタルな襟の形と、繊細な花柄で構成されたコレクションラインのひとつだろうと思います。洗濯表示のタグがフランスなので、日本では販売されていなかった商品かもしれません。私は基本的に毎日メルカリやヤフオク、ラクマといった通販サイトでオールドケンゾーの新商品をチェックしているんですが、これと同じ型は今まで見たことがないです。
ちなみに、私のサイト別購入割合はメルカリ60%、ヤフオク30%、ラクマやベクトルパークなどその他10%くらい。リユースショップの実店舗ではオールドケンゾーに出会うことが中々なく、古着屋を回るのは非効率なので、オンラインを中心に見ています。良いアイテムに巡り合うために重要なのは、とにかく全部のケンゾーウィメンズ商品をチェックすること。最初は「オールドケンゾー」「花柄」などのワードで検索をかけたりしていましたが、どうしても検索漏れがあったりして出会いを逃してしまいがちだったのでやめました。大変だと思う人もいるかもしれませんが、毎日チェックしていれば意外と大した負担にはなりません。
閑話休題。服の話に戻りますが、1番のポイントはターコイズブルーの襟元です。スタンドカラーではあるのですが、襟を寝かせるとブルーの面積が広がって更に華やかな印象になるので気に入っています。最近は若い人でもモノトーンやくすみカラーなど、色味が控えめの服を着る人が多い気がします。もちろん好きで着ているならいいのですが、そういった服のほうが仕事にも遊びにも着回せて使い勝手がいいという背景もありそうです。就活スーツといい、今のご時世多様性を謳っているのに「普通」が求められる機会が多すぎるし、ブランドもそれに追従しています。服作りもビジネスなので理解はできますが、街を歩いていると「ファッションの画一化」を感じて一抹の寂しさを覚えます。個人的には、服はその人のパーソナルスペースを占める割合が大きいので「どうせなら柄物、色物を着た方がハッピーだよね」と思います(笑)。
高田賢三こだわりの丸襟?「KENZO PARIS 1980's コーデュロイワンピース」
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2点目に紹介するのは、「KENZO PARIS」のコーデュロイワンピース。先日たまたま海外の古着屋の商品などを購入できるグローバルマーケットプレイス「エッツィー(Etsy)」を眺めていた時、ドイツの古着屋さんが取り扱っているのを見つけて購入しました。「高田賢三ファッションデザイン画アーカイブス」にもこのワンピースの形に近いデザイン画が載っていて、ずっと探していたのでラッキーでしたね。また、このタグはオールドケンゾーの中でも古いものなので、ここからおおよその年代が推定できます。このように複数の資料と照らし合わせてみると、これはおそらく1981年のアイテムだということが分かります。
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特徴的なのが、この丸襟。立体的な丸襟デザインは別の年のコレクションにも度々登場しているので、おそらく賢三さんこだわりのデザインだったのではないかと思います。元々中世の舞踏会を彷彿とさせるような意匠ですが、襟を立てることによって更にその印象が強まりますね。襟裏にブラックを配しているのも気が利いています。
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当時の写真を見ると、このワンピースは実はこのまま着るのではなく、ベルトを巻いてブラウジングするのが本来の着方のようです。ただブラウジングすると裾が上がって若い子のファッションぽく見えたりもするので、その日の気分やTPOに応じて使い分けていきたいです。
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入学式の礼装にした「KENZO PARIS 1980's ペイズリーセットアップ」
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3点目は「KENZO PARIS」のペイズリーセットアップ。このアイテムは何年のものかタグだけでは判別できないんですが、1984年秋冬コレクションにペイズリー柄のスーツがあるのと、襟の形などから1984年のアイテムではないかと推測できます。蒐集を始めたての2020年冬くらいにセカンドストリートで偶然スカートを見つけ、約4000円と破格だったので迷わず購入したんですが、単体のインパクトが強かったのでどうやってコーディネートしたものかとしばらく悩んでいました。そんな時、メルカリにセットアップで着られるブラウスが出品されていて。色まで一緒というのがなんだか運命的に思えて、嬉しかったですね。
スカートだけで着用していた時は、この色合いや柄も相まってヒッピースタイルのような見え方になっていると感じていたんですが、セットアップで揃うと急にフォーマルドレスのような洗練された雰囲気になりました。やっぱりセットアップで作られているものは、組み合わせて着ることで真価を発揮するんだなと身をもって実感しましたね。娘の中学校の入学式にこのセットアップを着て出席したのは良い思い出です。
オールドケンゾーの細部へのこだわりにはここまで何度か触れていますが、このスカートにも賢三さんのモノづくりへの信念が表れています。プリーツの幅のバランスもそうですが、特筆すべきは裾部分。下の10センチほどが別の布で切り替わっています。こんな面倒なことをしなくても十分に素敵なアイテムですが、ここに赤が入ることでアクセントになって、全体の印象が引き締まるんです。色だけではなく生地まで切り替えている理由は私には分かりませんが、おそらく賢三さんや、彼の信念に基づきパターンやデザインを担当したチームケンゾーにとってここは譲れない部分だったのではないかと。そういった部分まで含めて、着ていて気分が上がる一着です。
ネール・ルックの流れを汲む「KENZO JAP 1970's タックプリーツロングワンピース」
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次に紹介するのは「KENZO JAP」のロングワンピース。賢三さんは1973年に「ケンゾー」をデビューさせましたが、その前は「ジャングルジャップ(JUNGLE JAP)」というブランド名でコレクションを発表していたんです。今はなき「KENZO JAP」は「KENZO PARIS」「KENZO JEANS」などと同じくケンゾーというブランドの中の1つのラインなんですが、名前に「ジャングルジャップ」の名残を留めていますね。
このワンピースは、タグと形から1978春夏コレクションで発表された「ネール・ルック」の系統と推定されます。1985年出版の写真集「高田賢三作品集」によると、インドの初代首相 ジャワハルラール・ネール(Jawaharlal Nehru)氏が着ていた「コル・オフィシエ」と呼ばれるスタンドカラーのスーツ「ネール・スーツ」からヒントを得たルックだそうです。そのためなのか、レディースなのに左身頃が上のメンズ仕様になっているのが面白いところです。当時の資料ではウエストに太いベルトを巻き、長いビーズネックレスを袈裟がけにして、ネール帽という円筒形の帽子と丸眼鏡のサングラスでパンキッシュにコーディネートされています。ここからは想像になりますが、このネール・ルックのコレクションラインをカジュアルにアレンジして「KENZO JAP」のアイテムとして販売していたのかもしれません。
個人的には肩口のプリーツが気に入っています。上半身がガッチリ見えてしまう恐れもあるのであまりこういったプリーツの入れ方をしているアイテムは多くないと思いますが、絶妙なバランス感覚で洗練された印象に仕上げているのが流石だなと。花柄も和洋中のどれとも言えない様々な文化を合わせたようなパターンで、色々なものを混ぜ合わせるのが好きだったという賢三さんを感じられるアイテムです。
以下余談。私のお気に入りアイテムはワンピースやセットアップがかなり多いですが、これは純粋に情報量の差が理由です。例えば「襟がこういう形になっているからこの服はこういった用途を想定して作ったんだろうな」「ここからはデザイナーのこんな意図が汲み取れるな」といった具合に、服には様々な情報が隠れていますよね。トップスとワンピースでは表現できる面積が違うため、当然ワンピースの方が情報量は多くなるし、セットアップの片方が欠けていたら半分の情報しか得られません。私は服においてこの「情報」の部分に大きな価値を感じているんです。
52年前のレジェンドアイテム「KENZO PARIS 1972ss 絣プリント立体ワンピース」
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このワンピースは今日私が持ってきたものの中で一番古いアイテム。1972年春夏コレクションで発表された、「絣(かすり)」と呼ばれる伝統織物の柄をプリントで表現した立体ワンピースです。図録で写真付きで紹介されているだけじゃなく、国際ファッション専門職大学の小山有子准教授がこの服に関する論文を書いている、ケンゾーの「レジェンド」とも言える一着ですね。実際に和服の生地工房に足を運んで「絣」の柄を表現したというエピソードも凄いですが、個人的に圧倒されたのは袖の細かな作り込み。触ってみると分かりやすいんですが、肩先の部分を極端に平面的に作りながら、腕部分はなだらかなアーチ状に仕上げています。これによって着用時、肩周りがメリハリのあるシルエットになるんです。着ている私が「作るの大変だろうな」と感じるくらいなので、実際には気が遠くなるくらい複雑な工程を経ているんだろうと思います。
1970年代のケンゾーは特にタイトな作りのアイテムが多いので、肩幅がしっかりしている私には着られない服が多いんですが、このワンピースはボタンを全開にすればなんとか着用できます。それでも肩周りがキツめではあるんですが、ブラウスなどと合わせてロングジャケット風に合わせるとすごく上品でカッコいいんです。
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ちなみにこのアイテムはヤフオクで3000円くらいで見つけました。ファッション史的な観点からみるとものすごく価値のあるアイテムだとは思いますが、なにせ52年前の服なので当時20代だった人も現在70代。出品した人は何も知らずに手放したのではないでしょうか。断捨離か、亡くなった後の遺品整理か。。どのようにして私の手元にやってきたのか、想像が膨らみます。
使い勝手の良さにより2色買い「KENZO PARIS 1980's 綿麻花柄セットアップ」
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これは去年の夏からヘビロテしている花柄のサマーセットアップ。最初は色違いのイエローを買ったんですが、着心地や使い勝手が良すぎたので、後になってグリーンを見つけたときも迷わず購入しました。花と小麦を組み合わせた総柄がシンプルに可愛いです。また、ウエスト部分にスモッキングが施されているのもポイント。セットアップで着用するとスモッキング部分は見えないんですが、そのさりげなさも贅沢です。ケンゾーは1982〜1983年にスモッキングをあしらったアイテムのコレクションを発表しているので、このセットアップもそれくらいの年代のものだと思います。
素材は綿70%、麻30%で、すぐ乾くのも嬉しいです。綿と麻のいいとこどりという感じで肌触りも良いですし、これを買ってから綿100%のTシャツに満足できなくなりました(笑)。夏以外でも上にジャケットなどを羽織れば着られるし、見た目からは想像できないほど汎用性が高いです。
価格はセットで2万円しないくらいだったかな。オールドケンゾーは2次流通で価格が高くないのも魅力ですね。同じ日本人デザイナーズブランドのアーカイヴでも、「ヨウジヤマモト(Yohji Yamamoto)」や「イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)」は高価格帯をキープしていますが、それらのブランドと比べてオールドケンゾーは特に着る人を選ぶ分、競合相手が少ないんじゃないかと分析しています。
バブリーなボリューム!「KENZO PARIS 1980's 花瓶柄セットアップ」
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これは今日持ってきた服の中で一番新しい1989年のアイテム。「KENZO PARIS」の花瓶柄セットアップです。この青いタグが1989年春夏シーズンのものだと図録に載っていたので、簡単に特定できました。トップスは幅広のベストで、ボトムスはボリュームのあるボンタンシルエット。1980年代の後半に作られた服は当時のバブル景気の影響もあり、生地を贅沢に使ったアイテムが多い印象です。ベースの色が寒色なのも合わせやすくて嬉しい。やはり服の迫力という点において、柄物セットアップの右に出るものはないですね。
ボトムスの裾の留め具は光沢のあるシャツボタンのようになっています。ケンゾーの服は女性をより引き立たせる大胆さを持ちながら、決してだらしなくならないバランス感覚を備えているアイテムが多いです。
レイヤードでヘビロテ「KENZO CITY 1980's 花柄ブラウス&ノーカラージャケット」
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セカンドライン「KENZO CITY」のブラウスとノーカラージャケットです。KENZO CITYについては調べてもあまり情報が出てこないのですが、アイテムのデザインなどから推察するに1990年前後からフランスを中心に展開したカジュアルラインではないかと思います。もし詳しい方がいたら教えてください(笑)。このラインの特徴としてはゴージャスな総柄のアイテムが多く、チャレンジングな姿勢を感じます。大小の薔薇とリボンを組み合わせた独創的な柄に惹かれてジャケットを先に購入したんですが、肩パッドがしっかり入っていることもあって着こなしが難しくて。どうせならセットアップで合わせたかったのでボトムスも出てこないかなとマーケットをチェックしていたら、ボトムスではなくブラウスが見つかりました(笑)。折角同柄だったので購入してジャケットの下にレイヤードしてみたら思いの外良くて、今ではセットでヘビロテしています。下に合わせるブラウスは、あえて襟を開けて着用した方が抜け感が出て好みです。
あとこれは不思議なんですが、ケンゾーのアイテムは柄物同士でスタイリングしてもハマるんです。柄も違えば色も違うようなアイテムを合わせてもなんとなくまとまってしまう。やはり表面上では見えなくとも、賢三さんが手掛けたもの同士共鳴し合う部分があるんだと思います。それに気付いてから、スタイリングの幅が格段に広がりました。
和洋折衷を体現した一着「KENZO PARIS 1980's 花柄ドルマンスリーブウールコート」
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最後に紹介するのは、身幅が広くゆったりした印象の「KENZO PARIS」花柄ドルマンスリーブウールコート。タグが4番目に紹介したペイズリーセットアップと同じなのと、1984年秋冬シーズンに大ぶりの薔薇柄の生地がコレクションラインで使われているので、こちらも1984年のアイテムではないかと思います。袖を広げた時に生地がついてきて揺れる様子が着物のようで、まさに和洋折衷を体現したような一着。また、やや前気味についたポケットや深めのスリットなど、着用した時に野暮ったいシルエットにならないような工夫が見られるのも嬉しいポイントです。
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先ほどケンゾーの服は柄物同士で合わせても・・・みたいな話をしましたが、このコートに関しては柄物と合わせないようにしています。個性が強いオールドケンゾーの中でも特に存在感があるので、ほかをできるだけシンプルにしてこのアイテムを主役に据えたスタイリングにしないと勿体なく感じてしまうんですよね。極端な話をすれば、ほかは全てユニクロのベーシックな黒い服でも良いくらい。
後日談:シンプルな服と合わせたいと言いつつも、取材後にウールコートと同柄のスカートをメルカリで見つけ即ゲットしたという瀧波さん。「値段も破格。こんな掘り出し物が見つかることもあるので蒐集はやめられません」とのこと。
「KENZO研究家」瀧波ユカリ、偏愛の先に
私は自分をオールドケンゾーの「蒐集家」ではなく「研究家」だと称しています。理由は簡単で、「蒐集家」は綺麗だったり所有欲を刺激されるもの全てを集めると思いますが、「研究家」である私は自分が身につけられるものしか買いません。どこまでいっても服は服、実際に着用できるものにこそ価値があると考えているからで。「なんだか着て歩いているうちに快適さに気付いた」とか「着てみたらこんな風に褒めてもらえた」とか、着用したその先にまで目を向けて考えることが「研究」です。そして研究を続けていくと、直接お会いすることはできなかった高田賢三という「偉人」とどこかで繋がることができる、そう信じています。
また、最近はオールドケンゾーの素晴らしさを伝えていくことも大切だと考えるようになりました。今年の夏には、賢三さんの没後初となるケンゾーの大規模個展が開催されるので注目度は高まっていると思いますが、それでもケンゾーというブランドが当時どんな服を出していて、どれほど人気があったのかを知っている人は現代ではあまりいないと思います。実は最近少しずつオールドケンゾーの二次流通価格が上がってきており、蒐集のライバルを増やすのはやや複雑ではあるのですが(笑)、やはり「研究家」としては、より多くの人に賢三さんが作った服の魅力を知ってほしい。私にできることは多くありませんが、今後もオールドケンゾーを自分なりに楽しく着こなしながら世間に発信していきたいと思います。
(聞き手:村田太一)
■ファッションに関わる人の偏愛白書
第1回:Revolution PR 田中望が紐解く浮世絵の世界
第2回:四千頭身 都築拓紀が偏愛するマルタン・マルジェラ
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