ファッションを取り巻く人の趣味を深掘りする連載「ファッションに関わる人の偏愛白書」。記念すべき第1回は「ヨシオクボ(yoshiokubo)」をはじめ国内外様々なブランドの広報を担当するRevolution PRの田中望さん。ご自身が十数年にわたって蒐集を続ける江戸時代の芸術「浮世絵」について語ります。「葛飾北斎と東洲斎写楽は同一人物である」といった持論を展開し、「作品の裏に霧吹きで水を吹きかける」といったマッドな一面を持つ田中さんの浮世絵に対する偏愛と野望とは?
目次
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「立ち小便をしているおじさんの絵」に魅了された、浮世絵との出会い
ーファッション業界きっての浮世絵コレクターである田中さん。まずは浮世絵との出会いについて教えてください。
最初の出会いという意味では、幼少期に教科書やテレビで見たのが最初だと思いますね。ただ、今のような「趣味としての浮世絵」に出会ったのは高校生の時です。東洲斎写楽の画集を買ったことがきっかけで「人の顔が面白いな」と思い、浮世絵を買うために神保町にちょくちょく通うようになりました。神保町といえば「本のメッカ」ですが、浮世絵も多く取り扱っているのでよく足を運んでいましたね。
ー高校生の時から浮世絵蒐集を?
いえ、足を運んでいただけで最初の5年間は買っていませんでした。というのも、浮世絵専門店で作品を見るとやっぱり結構高いんですよ。2万円、10万円、価値のあるものだと100万円の作品なんかもあるので。ただ浮世絵にすごく興味はあったので、時間をかけて「どんなアーティストがいて、どんな特徴があって、それが世の中にどんな風に評価されているのか」を知っていきました。自覚はなかったですが、今思うと「研究していた」ということなのかもしれません。お店に行くとおじいちゃん、おばあちゃんが優しく教えてくれるので、時間を見つけては通い詰めました。
ー初めて買った浮世絵は?
最初に買ったのは20代前半の時です。神保町にある「東洲斎」という浮世絵屋さんで「江戸名所道外尽」というシリーズものの名所絵を買いました。この名所絵の作者は歌川広景という浮世絵師ですが、かの有名な歌川広重の弟子なんです。広重の作品には「名所江戸百景」という名作があるんですが、「江戸名所道外尽」と比べると何かに気づきませんか?
ー構図が似ていますね。
そうなんです、広重の作品と同じ場所を描いているんですよ。じゃあ逆に何が違うのかというと、広重は純粋に絵として美しいものを描いたのに対して、広景は立ち小便をしているおじさんを絵にしている。師匠が描いた絵を、オマージュしてギャグ作品として表現したんですね。広重の名作「名所江戸百景」は本当に有名なので1枚数十万円から、高いときは数百万円ほどで取引されているんですけど、この広景の作品は「小便をしているおじさんを描いた下品な絵」みたいな感じで5、6000円くらいで投げ売りされていたような側面もあって。「世の中には評価されていないけど味がある浮世絵」にすごく魅力を感じて、こういう作品を集めたいなと思って購入しました。それが最初ですね。
ー有名作品ではなく、あえてあまり名の通っていない作品を買っているんですね。
超有名な100万円の絵をいきなり買ったら、次もまた100万円を貯めなきゃならないじゃないですか(笑)。そうではなくて、気軽に買えるものを集めた方がいいなって。まだそんなに世間に知られていない作品を自分なりに調べて、面白いものをコレクションしていけたらと思って蒐集を始めました。
ーちなみに、浮世絵は安くていくらくらいなんでしょうか。
紙の状態だったり、発色だったりで上下しますが、本格的なものは一番安くて4000円くらいから購入できます。退色があるものや破れているもの、誰が描いたかも分からないものは1000〜2000円で買える場合もあります。
ー田中さんは大体いくらくらいの浮世絵を集めているんでしょうか。
僕は安いものだとそれこそ4000円から、高価なものでも2万円くらいまでには収めています。もちろん5〜10万円を出せばもっと選択の幅は広がりますが、上を見るとキリがなくなってしまうので(笑)。自分が決めた範囲内で蒐集活動をしています。
東洲斎写楽は葛飾北斎?考察することの楽しさ
ー江戸時代の風俗を表現した浮世絵。田中さんにとって一体どんなところが魅力的なんでしょうか。
浮世絵の一番の魅力は、日本に住むのが楽しくなることだと思います。カメラがなかった時代の日本を見ることはできないですが、浮世絵を通して当時の風景を想像して「昔はこんな感じだったのかな」と思いを馳せるのはすごく楽しい。作品の知識を深めたり、作者について自分なりに考察するのも面白いですね。
ー背景を知ることで、その作品の見方が随分変わりそうです。
変わりますね。例えば、歌川芳虎という浮世絵師の作品で織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の「戦国三英傑」を風刺した「道外武者 御代の若餅」というものがあるんです。信長が餅をついて、秀吉がこねた餅を、家康が座って食べている様子を描いた作品なんですが、「徳川家康は美味しいところを持っていっただけ」と訴えているようにしか見えないので幕府にバレたら当然罰せられるんですよ。だから信長、秀吉、家康の名前は伏せつつ、あだ名にちなんで秀吉を猿で描くなど、見た人がそれと分かるように表現しているんです。まあ結局この絵は発禁になり、芳虎本人も処罰されてしまったんですが。僕はこのエピソードを知り、芳虎の反骨精神みたいなものを理解することができたので、作品について考察することは有意義だと思います。
ー作者についての考察、というのは具体的にどのようなことを考えているのでしょうか?
ずっと考えているのは、江戸時代の浮世絵師 東洲斎写楽についてですね。おそらく誰もが一度は名前を聞いたことがあるであろう有名な絵師ですが、約1年の間に数々の名作を世に送り出した後、忽然と姿を消してしまったんです。浮世絵の世界はファッション業界にある種似たところがあって、「このデザイナーがこのブランド出身」といったことが知られているように「この浮世絵師の師匠は誰々」というのが明確に伝わっているんですが、写楽は正確なところが分かっていなくて。写楽の正体を推理した本などもたくさん出ているんですが、僕は「写楽=葛飾北斎説」を夢想しています。
ー東洲斎写楽が実は葛飾北斎だったらびっくりですね。非常にロマンのある話ですが、どうしてそう思うようになったんですか?
根拠は大きく2つあります。まず1つ目は活動期間。北斎が画号(画家の名前)を頻繁に変えているのは有名な話ですが、最初に用いた画号は勝川春朗といいます。勝川春章という絵師の弟子としてキャリアをスタートさせたことに由来していますが、春朗(北斎)は1794年に破門されてしまいます。理由には他の流派や海外の画を学んだ事、兄弟子の勝川春好との不仲などがあるようですが、1795年に俵屋宗理という画号を使い再デビューするまで活動を休止しており、キャリアに「空白の1年間」が存在します。そして、写楽の活動時期(1794年〜1795年)がこの時期とピッタリ一致するんです。
ー北斎の休止期間と写楽の活動期間が一致するんですね。2つ目の根拠は?
2つ目は、写楽と北斎の絵のジャンルです。写楽の代表作の様式は、歌舞伎役者などの半身像を描いた「大首絵」というものなのですが、対して北斎は、自身のキャリアで一枚も大首絵を描くことはありませんでした。大首絵は北斎の兄弟子で因縁の相手とも言われる勝川春好(およびその一派である勝川派)が得意としていたジャンルでもあり、北斎も春朗を名乗っていた時代に歌舞伎役者の絵を描いていました。絵のタッチや画角などで春好と似通った部分が多いので、歌舞伎役者の絵自体が苦手ということはないと思うのですが、なぜ北斎の作品に大首絵が一枚もないのか。個人的に北斎は活動休止中に写楽として活動しており、大首絵を描いてしまうと同一人物であることがバレてしまうからではないか、と考察しています。
ー確かに「写楽=葛飾北斎説」は筋が通っている気がしますね。興味深いです。
写楽の版元(企画から宣伝、販売までをおこなった人物)は、浮世絵の世界では名の通った人物である蔦屋重三郎。喜多川歌麿の作品を大ヒットさせたことでも知られる有名プロデューサーですが、先見の明がある蔦屋ならば、勝川派と春朗(北斎)の因縁を知った上で、あえて勝川派が得意とする役者大首絵を写楽という別名を使って描かせた、という妄想もできます。まあそうは言っても現代では写楽の正体は能役者 斎藤十郎兵衛とする説が有力ですし、僕自身その説に異を唱えるつもりもないので、僕の説は与太話と思って受け止めてください。長々と失礼しました(笑)。
ー「信じるか信じないかはあなた次第」というやつですね(笑)。そのほかに田中さんが浮世絵に感じる魅力はありますか?
サイズが規格ごとに統一されているのも嬉しいポイントですね。元々コレクター気質なこともあって、10代の頃はスターウォーズのフィギュアを集めていたんですが、造形物なので保管に結構困っていたんです。その点浮世絵は紙で、サイズにも一定の規格があるので飾らずに保管しておくときも桐の箱に入れてスッキリと収納できるので有難いですね。
ー昔の美術品だと取り扱いにも気を遣いそうです。どのように保管しているんでしょうか。
桐の箱を用意して、その中で「奉書紙」と呼ばれる薄い紙に挟んで保管しています。作品同士が触れ合うと劣化が進んでしまうので。奉書紙はネットでも買えるんですが、僕は神保町に足を運んで買うようにしています。浮世絵の大敵は湿気と虫食いなので、「ムシューダ」のような湿気とりを同梱して、定期的に箱を開いて風を通してあげるのが大事ですね。外の箱も経年や湿気などで状態が悪くなってきたら買い替えるようにしています。そうはいっても年代物なのでどうしても少しカビ臭かったりはするんですが、逆に味がある感じがして、そんなところも魅力なんですよね。
ーこうしてみると作品によっては厚さがあるものもありますね。
それは「裏打ち」と呼ばれる裏面に薄い紙を貼り付ける手法ですね。多くは作品を補強するために施されます。ただ、裏打ちがしてある作品は裏面を確認することができないので、真贋の判定が難しい。そのため高価な作品を買うときは裏打ちがあるものは避けたほうが無難なのですが、僕はそこまで高価なものをコレクションしている訳ではないので、アートとして気に入ったら買ってしまっています。
ー多少汚れていたり、品質が悪かったりしても裏打ちをすることでカバーできるということですね。
その通りです。これは浮世絵蒐集家としてはあるまじき行為かもしれないんですが、実は僕、裏打ちしてある部分を興味本位でこっそり剥がしたりしているんですよ(笑)。
ー結構しっかり張り付いてそうですが、無理に剥がすと破れてしまったりしませんか?
実はコツがあって。江戸時代に使われていた糊ってお米が原料だったりするので、水をかけると溶けるんですよ。だから霧吹きをかけることによって剥がしやすくなるんです。それで「裏側どうなっているのかな」って確認してニヤニヤする(笑)。たまに失敗もしますけど、僕の物なんで誰に迷惑かけるものでもないですし。
ー本体の染料が滲んでしまうことはないですか?
可能性は大いにあります。特に明治時代以降の赤系の作品は滲んでしまいますね。明治時代には、当時にしてはすごく発色が良い赤系の塗料が流行ったんですが、滲みやすかったり水をかけると溶けやすかったりといった欠点があるんですよね。水に弱すぎると霧吹きをかけて裏打ちを剥がすという実験的なこともできないので、僕は明治時代の作品はあまり買わないようにしています。あと、水を含ませると紙が固くなるので、試す場合は自己責任でお願いします(笑)。
レアものはどこで買う?浮世絵の入手ルート
ー浮世絵コレクションはどこで購入しているんでしょうか。
主にヤフオクと神保町ですね。
ーメルカリではなくヤフオクなんですね。
メルカリのユーザーは若年層が多いため、年配の方は少ないんです。浮世絵コレクターの方はある程度お年を召した方なので、ヤフオクのほうが出品量が多いんですよね。
ー確かにヤフオクの方がそういった掘り出し物は多そうな印象です。神保町よりヤフオクで買う方が多いんですか?
そうですね。神保町に売っているものは基本的にコンディションが良いものが多いのですが、あまり珍しいものや変わったものは取り扱っていない印象ですね。ヤフオクは個人出品が多いので状態はまちまちですが、その分希少な品物が出品されることがあるので、ヤフオクで買うことが多くなっています。業者がヤフオクをやっているケースも多く、状態が悪くてお店に卸せないものをひっそり出品していることもあったり。コンディションを保証された「エア ジョーダン」や「エア マックス」を買うなら神保町ですが、レアスニーカーを探すならヤフオクといった感じですね(笑)。
あとは、浮世絵を集める過程で知った地方の浮世絵屋や「イーベイ(eBay)」で購入します。イーベイは海外のオークションサイトということもあり、贋作も結構出回っていたりするのである意味博打みたいなところもあるのですが、そこは割り切って「偽物でもいいか」くらいの気持ちで購入しています(笑)。
ー年季が入ってしまうと贋作かどうかの見分けは難しいように感じます。田中さんはどのように真贋の判別をしているんでしょうか。
裏面、作者の署名と版元の記載、あとは捺印されている「改印」(町名主の出版許可印)を確認しますね。特に改印に関してはしっかり調べれば出版時期まで分かるので、出版年月などもチェックするようにしています。ただ基本的に有名絵師の作品以外、精巧な贋作はあまり存在しないですね。僕が集めるような無名作品はそもそも贋作を作る理由がないので(笑)。
ー有名作品を蒐集する際は贋作問題がついてまわりそうですが、そうでない場合はそこまで神経質になる必要もないんですね。ちなみに、贋作をつかまされた経験は?
もちろんあります。以前、イーベイで状態の良い有名作品が破格で出品されていて、ワクワクしながら購入したら明かなコピーが届きました(笑)。今後の蒐集の助けになると思って今も自宅に保管しています。でもいずれ欲しいと考えている作品は、物は試しで贋作と分かっていてもあえて購入することもありますね。
鯰がラップ、お洒落なパンツ...お気に入りの浮世絵コレクション3選
ー10年以上にわたり蒐集を続けている田中さんの浮世絵コレクション。特にお気に入りの作品3点をご紹介ください。
まず紹介したいのは「鯰絵(なまずえ)」と呼ばれるシリーズの「どらが如来 世直しちょぼくれ」という作品です。鯰絵というのは1855年に発生した「安政の大地震」の後、江戸を中心に出版された250点を超える浮世絵の作品群のことですが、共通して作者が不明で、地震発生からの約1年間で出版されたという特徴があります。当時の民間信仰では、大鯰の活動によって地震が起こっているとされていたんですが、作者が自分の口では言えない世の中への批判などを鯰の口から言わせていたんです。
ー1年の短期間で250点はすごいですね。作者は同じなんでしょうか。
それが全くの不明なんです。有名絵師の作品かもしれないし無名絵師が各々描いて出版したものかもしれない。当たり前ですが、ほぼ全ての作品が無届の不法出版です。
ー届を出したら、出版が認められないどころか処罰の対象になりそうです。この作品の気に入っているポイントは?
「どらが如来 世直しちょぼくれ」には鯰と雷様が描かれているんですが、雷様が叩く木魚のリズムに合わせて鯰が何かを話していて、その内容が背景部分につらつらと記載されています。僕はくずし字が読めないのですが、文献によると当時の社会を風刺したラップみたいなものを発しているらしいです。そこがなかなかロックで面白いなと(笑)。
ー鯰のモチーフというのも可愛らしいですね。
そうなんです。でもそれでか、鯰絵のシリーズは近年少しずつ相場が上がってきていて。有名絵師の作品ではないにも関わらず、高いものだと10万円を超えるものも見かけますね。トレーディングカードの世界もそうだと思いますが、描かれたキャラクターが可愛らしいと価値が上がりやすいところはあります。
ー2点目はこちらの武士を描いた作品。かなり荒々しい雰囲気がありますね。
2点目は歌川国貞(後の3代目歌川豊国)が描いた「曽我五郎時宗 御所五郎丸重宗 十番切」という作品。国貞は豊国を襲名して役者絵(歌舞伎役者を描いた浮世絵)のジャンルで超人気絵師になるのですが、この作品は国貞が自分の絵の系統を確立する前、武者絵にも挑戦していた時期のものです。
こっちの浮世絵は国貞が豊国を襲名した後の1854年に出版した「当盛六花撰 百合花」という役者絵ですが、この2つの作品、同じ絵師のものとは思えないですよね。豊国として有名になってからのこの作品ももちろん気に入っていますが、個人的には試行錯誤を繰り返していた時期の作品も味があって気に入っているんです。
ー現代風に言えば、トレーディングカードのイラストを描いていた絵師が今は萌え絵を描いている、みたいな感じですね。
まさにそんな感じですかね(笑)。全盛期の豊国の作品を知ることができる現代だからこその味わい深さがあります。この作品は「曽我物語」という歌舞伎の演目の中で、復讐に向かった男が押さえつけられている様子を描いたものなんですが、この力強く太い足がたまらないですね。おそらく僕が所持しているコレクションの中で、最も迫力と勢いのある一品です。
ーでは最後3点目をお願いします。
3点目は「『ちよ/\お松 市川栗蔵』『路地ばんさぼてん次郎 坂東善次』」。先ほど紹介した国貞の師匠にあたる初代歌川豊国の作品なんですが、これはファッションを仕事にしているからこそ魅力的に感じる作品かもしれないです。前に立っている男性が夜の見張りをする路地番(警備員)なんですが、履いているパンツがお洒落なんですよ。「江戸時代に普通にファッションしてるじゃん」みたいな(笑)。この時代だと力仕事をする人はパンツを履いて描かれることが多いですが、こんなお洒落なパンツは見かけたことがなく新鮮で。
ー確かにパンツの柄がモダンな印象ですね(笑)。
200年以上前の作品ですが、今その辺を歩いていても違和感なさそうですよね(笑)。男の名前が「さぼてん次郎」なのも粋な感じがして面白いなと。
「現代の浮世絵を提供」蒐集の先に抱く野望
ー田中さんが今、蒐集している作品を教えてください。
ライフワークとして歌川芳虎という絵師が江戸の町火消しを描いた「江戸の花子供遊び」というシリーズを蒐集しています。当時「火消し◯◯」といった題名にすると検閲に引っ掛かってしまうので、「子どもの遊びですよ」といった名目で出版したことからこのシリーズ名になったらしいです。
ー確かに、江戸と火消しはセットで語られることが多いイメージがあります。
当時の江戸では「火事と喧嘩は江戸の華」という言葉があったように火事の発生件数が非常に多く、人々を困らせていました。そのため、自分の身を顧みずに江戸の街を守る町火消しの姿に憧れる人が多く、街のヒーロー的存在だったようです。町火消しは隅田川から西の火消しを担当した「いろは四十八組」と、東の本所・深川を担当した「深川本所十六組」、合計64組で構成されていたので、このシリーズも同じく64点の作品から成っています。
ー64点もの作品を集めるのは骨が折れそうです。今は何点ほど集めているんでしょうか。
4点です(笑)。まだまだ先は長いですね。でもそれぞれの組で纏(町火消の各組が用いた旗印)のデザインが違ったりと蒐集欲を掻き立てられるので、いつかコンプリートしたいと思っています。
ー蒐集を続けた先にやりたいことはあったりしますか?
本職で研究している人に比べたら自分は知識不足もいいところなのでそこまで本格的なことは考えていないんですが、いつか「新しい浮世絵の形」を世の中に提案できたらとは思います。例えば、浮世絵が好きすぎて現代のアニメなどを落とし込んだ浮世絵風作品を製作している海外のアーティストがいるんですが、そういった「現代の浮世絵」を低価格で世の中に提供したり。
ーすごく需要がありそうです。
低価格というのがポイントなんですよね。浮世絵は出版されていた当時「蕎麦一杯の価格」と言われていて、1枚が現代でいう500〜1000円くらいで売られていたんです。手軽に楽しめるところが浮世絵の魅力でもあったんですが、今浮世絵を買おうとするとアートの観点からどんなに安くても数千円はしてしまう。当時とは流通体系が違うので浮世絵をそのまま作ろうと思ったら1000円では提供できないかもしれませんが、手彫りをシルクスクリーンにしたり、一部をデジタルに頼ったりして低価格を実現できたら、浮世絵にはアートとして再び市民権を得るポテンシャルがあるんじゃないかなと。自分のコレクションの先にそういった野望もあるので、今後も粛々と浮世絵蒐集を続けていこうと考えています。
(聞き手:村田太一)
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