人気ヘアスタイリストの現在地に迫る連載「now&then」の第2回。今回は、Belleスタイリスト・藤原愛莉さんにフォーカスします。30歳を目前に大阪から上京を決めた藤原さんをひも解くキーワードは、「直感力」と「積み重ね」。キャリアアップするにつれて気づいた“女性美容師の働き方”についても迫ります。今回も藤原さんがインスタントカメラで撮影した“日常”と共にお届けします。
#2 藤原愛莉 ふじはらあいり
島根県出身。グラムール美容専門学校卒業後、大阪府内数店舗を経て2020年からBelle omotesando店長に就任。Instagram
Belle ベル
現在、東京・表参道、渋谷、銀座、吉祥寺、新宿で6店舗を展開するヘアサロン。外国人風のやわらかなヘアスタイルやこだわりのヘアカラーが人気で、モデルやタレントも多く通う。表参道店は一軒家サロンが目印。
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ー美容師になった経緯や理由を教えてください。
大きなきっかけがあったわけじゃないんです。小さいころからたくさん夢はあったのですが、高校生になってから自然と「私は美容師かな」と思ったんですよね。ただ、昔から髪を触ったりするのは好きでした。東京の美容学校もいくつか見に行っていたのですが、なんとなく住みたくて大阪の美容学校へ進学。技術やセンスの第一線はやっぱり東京で、そういう場所で働きたいという気持ちや漠然とした憧れもあり、最初は東京の美容室を中心に就活をしていました。そんな時、学校の先生から「学ぼうと思ったときに技術はいつでも学べるよ」と助言され、ふと関西のサロンも受けてみようと、最初に受けたサロンに合格。これはご縁だなと思って入社しました。そこから10年くらいずっと大阪にいましたね。
ー藤原さんのルーツは大阪だったのですね。
でも実は大阪の1社目のサロンで体を壊してしまって、2ヶ月くらいで辞めているんです。もっとタフだと思っていたので体調が悪くなるとは自分でもびっくりでした。休んでいる間はメイクの検定を受けたり車の免許をとったりと体調を戻しながら過ごしました。でもそういう経験をする中でも不思議と美容師を辞めたいと思ったことは1ミリもなかったですね。復帰するまでいろんなことをやろうとは思っていたけど、“辞めよう”はなかった。派遣美容師をやったりしながら、2社目のサロンでアシスタント経験を詰んだ後、別のサロンのオープニングスタッフとして業務委託形態で4年ほど働きました。そして、その後上京し、Belleへ入ります。
ー現在に至るまで紆余曲折あったのですね。勝手なイメージですけど、藤原さんはBelleにずっといらっしゃるような雰囲気があります。
それよく言われます(笑)。実はまだBelleで働いて6年くらいなんですよね。私、上京したのは29歳と遅めなんです。当時、大阪のサロンでは役職ももらっていたし、幹部としての仕事もあった。大阪で培ったもの全部捨てて一からやるって言い始めたら周りからしてみたらびっくりですよね。でも、同期や友達が東京で活躍しているのを見た時に、「あと10年経った時にはもう雇ってもらえないな」と感じたんです。もともと東京で働いてみたいという気持ちはずっとありましたし、30歳になる前に一度動こう! という気持ちで大阪を飛び出しました。本当にパッと考えて動いた感じです。
ー数ある東京のサロンの中でもBelleを選んだ理由は何かあったのでしょうか?
本当にこれも直感だったんですよね。入る前、代表の飯田(尚士)にカラーリングをしてもらった帰り際「履歴書送っていいですか?」と言った覚えはあります。なんとなくですが、「私はここで働くな」という感覚があったんですよね。面接を受けたときも私以外全員、新卒の若い子たちがきているような状況だったので、スタイリスト経験のある私にだけ飛んでくる質問が違いました(笑)。とはいえ最初はアシスタントからスタートなので、お給料も大阪の時からの3分の1以下に。
ーそんなに…。顧客はいらっしゃったんですか?
デビューのころには30歳になっていて、そこから再スタート。大阪から東京に来て、お客さんはゼロだし、とりあえず全部もうがむしゃらにという感じでした。当時のフォロワーは2000人くらいでそれもほとんどが関西の人。SNSから来てくださるお客さまは一人もいませんでした。だからとにかくハントをしていましたね。営業時間の間にハントに行ったり、朝と夜に街頭に行って声をかける。コツコツやるしかなかったです。
ー2000人程度だったフォロワーが、現在では5.1万人(1月28日現在)。SNSの使い方のコツはあるのでしょうか?
私自身、SNSを活用した発信が嫌いじゃなかったこともあり、その中でインスタグラムを続けた感じです。最初は食べログみたいな感じの投稿で全然何もしなかったんですけどね(笑)。“ちょっとずつをやり続けてる”っていうのが大きいかもです。一気に5万人は絶対にいかない。アレンジが流行ったタイミングでアレンジ動画を載せたり。フォロワー数が上がったり落ちたりを繰り返している感じですが、この数年でやってきたことがだんだん積み上がってきました。集客のツールとまでは思っていなかったけれど、それでも自分のインスタを見てくれている人がいるんだなっていう意識は大切にしています。
店長になり見える世界が変化
ー今年でBelleに入社して7年目。一昨年からは店長になりました。店長になってから変化はありましたか?
店長になるとやっぱり見える景色が変わってきますね。どうしたらもっと下の子たちを成長させられるんだろう、と環境や人を俯瞰して見られるようになった気がします。お客さまに喜んでいただくのがもちろん一番うれしいですが、お客さまがアシスタントを褒めてくださるときの方が最近はうれしいんです。「あの子よかったね」とか「シャンプーはまたあの子にお願いしたい」と言われると、成長が目に見えるから。じつは最初は店長はやりたくないと言ってたんです(笑)。自分がBelleにきてそんなに早く店長をやっているなんて想像もしていなかったので、覚悟は必要でした。でも自分が店長でいることで、下の意見を吸い上げて上に伝えたり、上の考えを下の子たちに伝えることができたり…。そうやってお店の風通しをよくしていくことにはやりがいがあるなと今は感じています。白髪は増えましたけど(笑)。
「スタッフがお客さまから褒められるとうれしい」
ーでは、藤原さんご自身が美容師として一番うれしいと思う瞬間はどんなときでしょう?
学生のときからのお客さまから、彼女の恋人を紹介してもらったり、結婚されるときには「結婚式のウェディングヘアをお願いします」と言われたりするとものすごく人の人生に携わっているなという気になります。お客さまがママになったり、お子さんを連れて来てくださったりすると、一緒に年齢を重ねていると感じ、サロンワークをしていてよかったなと思う瞬間です。お客さまと一緒に年をとっていくという感覚は30代に入ってから感じるようになったことのひとつです。
ー現在は新卒採用で面接官でもあります。藤原さんの採用ポイントは?
最初の雰囲気や印象ですね。基本的にみんな、面接で話す内容は決まっていると思うんです。だからその人の持つ雰囲気や、本当に美容が好きなんだっていうこと、もちろん服装のテイストも見ます。逆に、コンテストで優勝した実績なんかを言われてもあまりピンとこないかも。最終的にはスタッフ全員の意見で採用を決めるので、やっぱり「一緒に働きたいかどうか」だと思います。優秀だから通るのではなく、「一緒に働きたい」と思えるかどうか、じゃないでしょうか。
ー藤原さんから見て“伸びる若手”とは?
伸びている人は、自分で自分の時間をうまく使えていると思います。スタイリストになるのも早いし、スタイリストになってからも伸びるのも早い。そういう人の特徴は、追い込むところは追い込んで、羽目を外すところは外してというメリハリをつけられていること。プライベート含め、1日の時間の使い方、オンとオフの使い方が上手だと思います。
ーちなみに、藤原さんご自身は切り換えが早いほうですか?
私はもう超切り替えタイプなので、入社して2日目で店長よりも先に「おつかれさまでーす。残りは明日朝やるんで!」って(笑)。仕事は仕事場で済ませて、家ではだらだらしたいと思うタイプです。ただチャキチャキしているとも思うので、10時半出社だとしても7時半には起きて家事とか夕飯の支度とかすませちゃいます。夜は21時まで営業ですが、その後にレッスンがあったりすると遅くなるので。で、帰ってからは撮り溜めていたテレビドラマを見たりゲームをしたりリラックスする。休日も7時台には起きます。スキマ時間を埋めたいところもあり、今日はネイル行って、まつげ行って、髪行って…と、スケジュールが詰まっていた方が達成感があるし、切り替えが気持ちいいんです。
「旦那さんが、朝5時半に仕事にいくのでお弁当は夜に作っています」
女性が長く働ける仕組みを作る
ー藤原さんご自身が年を重ねていくことで、変わっていった心境の変化などはあるのでしょうか?
20代前半は「一生美容師やりたい!」くらいの感じだったのですが、年齢を重ねていくと「一生フルでサロンワークをするのは…」という気持ちも出てくるのがリアルなところなんじゃないかな。体力面でもそうだし、例えば子どもがいる・いないに関わらず、年齢と共に働き方を変えていきたいと気持ちは少なからず出てくると思うので、そこは多様な働き方があっていいのかなと。今、店の女性美容師で、結婚・妊娠・出産までを経験した人がいないんです。私が一番年上で結婚はしていますが、たとえば今後、妊娠出産でどうなるのか?というのは考えるようにはなりました。今、制度について代表や幹部と話をしているのですが、自分がモデルケースに、というわけじゃないですが女性が長く働けるような仕組みを作り、「こういう道もある」ということを示すことも私たち幹部の役割だと思います。
ー女性が長く働けるサロンの実現、いいですね。では藤原さんご自身の将来のゴールは?
私個人としては実は最終的にこうなりたいというのはあまり持っていないんです。今までも、大きなゴールというより「そのとき頑張る」というのを何度も積み重ねてきているのかも。たとえば「ヘアショーのステージに立ちたい」「業界誌をやってみたい」などと目標が出てくるので、それらをひとつずつクリアする。「絶対に店長になりたい!」という思いはなかったのですが、でも「店長をやったからには店全体で売上1位を取りたい」という思いはあり、昨年末クリアすることができました!次は…なんでしょうね?
ー美容師さんは独立を夢見るものではないのですか?
独立したい願望は特にないのですが、じゃあ今後自分が子どもを産んで働くとしたら、ママになっても働きやすい店舗を構えるのはありかな、とは思ったりはします。変化に柔軟に、年齢や働き方によって違う形で美容をできたらいいなと思います。
仕事道具
ー最後に、美容学生さんや若手美容師さんにメッセージをお願いします。
若いときは、本当にやりたいことをやって興味のあるものに対しては何でも柔軟に動けたほうがいいです。最近は、昔に比べて仕事と休みのメリハリがはっきりしてきましたよね。今の若い皆さんはそのリズムに沿って、仕事に専念できるときは仕事して、オフのときは思いっきり遊んでほしい。あとは、自分の引き出しを増やすために、いろんなところに目を向けて“自分の好き”を探すのは大事なのかなと思います。そのためには柔軟に吸収できる頭を作っておくことも大切です。ちゃんと食べて寝ないとサロンワーク中はしんどいし、思いっきり遊ばないと長くは続かない。のびのびやってほしいと思います。
(写真:藤原愛莉、企画・編集:福崎明子)
■宮本香菜
編集者、ライター。出版社2社を経て独立。書籍の企画・編集、ブックライティング、記事等のインタビューなど活動中。ペンギンが好き。今回の「now&then」の聞き手、文を担当する。
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