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ファッションの完成に欠かせないビューティ。トータルの美しさを作り出すメイクアップアーティストとはどんな人たちなのか? 業界でも一目置かれるメイクアップアーティストたちの幼少期から現在までをひも解く連載「美を伝える人」。第5回は、「ゲラン(GUERLAIN)」のメイク部門クリエイティブディレクター、ヴィオレット(Violette)氏。自身のブランドも展開しながら、Instagramフォロワー50万人超、登録者数30万人超えの人気YouTuberという顔も持つ。絵を描くことが好きだった少女時代、メイクアップアーティストを志すきっかけとなった意外な出来事、キャリアの道標となった奇跡の出会い、そしてゲランへの想いとはーー。
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■Violette(ヴィオレット)
フランス出身。「ディオール(DIOR)」のメイクアップデザイナー、「エスティ ローダー(ESTĒE LAUDER)」のグローバルビューティディレクターを経て、ゲランのメイク部門クリエイティブディレクターに就任。「The sky is the limit(意訳:不可能なことはない)」という信念を持ち、世界中のさまざまな雑誌とコラボレーションするほか、自身のブランド「VIOLETTE_FR」を手掛け、YouTubeチャネル登録者数30万人超、Instagramフォロワー50万人超を抱える。
「トゥームレイダー」のララに憧れていた子ども時代
ーメイクアップのクリエイティブディレクターであり、自身のブランドを持つ実業家、登録者数30万人超えの人気YouTuber、そして母……と、ヴィオレットさんはいくつもの顔を持つ、とてもパワフルで多才な女性といったイメージがあります。子どものころから冒険心や好奇心旺盛なお子さんだったのですか?
いいえ。今の私からは想像もつかないかもしれませんが、実はとってもシャイな子どもだったんですよ。
ーそれは意外ですね! 子どものころはどんな夢を見ていましたか?
ララ・クロフトに憧れていました(笑)。
ー映画「トゥームレイダー(Tomb Raider)」の…?
そうです。独立した強い女性で、1人で世界中を旅する考古学者のララは、シャイな少女だった私にとって憧れの存在だったの(笑)。
ーそんなシャイな少女時代のヴィオレットさんは、どんなことをして遊ぶのが好きでしたか?
両親ともにアーティストだったこともあり、3歳から本格的にアートの勉強をしていたので、絵を描いて過ごすことが多かったですね。シャイでみんなの輪に溶け込むことが苦手なタイプで、テーブルに座って絵を描いてる…。でも「何描いているの?」と、友だちや大人も声をかけてくれたので、みんなと話すきっかけになったも。そういう意味でも絵を描くことは好きだったし、自分を表現する方法のひとつだったと思うわ。
セーフティーゾーンから抜け出しNYへ
ーではなぜアートの世界ではなくメイクアップを志したのでしょうか?
もともとアートやファッションデザインを専攻していて、ある時友人から「コスチュームパーティがあるからグリッターつけてくれない?」って頼まれて。そのころはメイクなんてまったくわからなかったから戸惑ったけど、「ペインティングやってるからできるでしょ」って(笑)。私も私で、それならやってみようかなって、顔にドレスアップする感覚でトライしてみたら、思いのほか上手くできて(笑)。その出来事をきっかけにメイクアップアーティストという仕事に興味が湧いて、お金もビザもなく英語も話せなかったけど、いてもたってもいられずすぐにニューヨークへ飛び立ちました。
ーえ、ニューヨークへ? パリも学ぶには十分な場所では?
まずは自分のコンフォートゾーンから抜け出したかったの。自分しか頼れないところにポンと身を置いたら、自分がこれからどうなっていきたいのか、もっとクリアになるかなと思って。結局パリが恋しくて帰ってきたんだけど(笑)。
ーニューヨークでは何をされたのですか?
メイクのことがまったくわからないまま行ったので、まずは本屋へ行って、アメリカの著名なメイクアップアーティストの方の本を読み漁りました。パリにはない素敵なコスメもたくさんあったのだけど、何しろ当時はお金がなかったので、材料を買ってアイシャドウやリップを自作して…。それを使ってポートフォリオを製作していましたね。
キャリアの道標だったフランスヴォーグの元編集長
ー自分で作るなんてすごい! この頃からすでに商品開発みたいなことをされていたのですね。帰国後はどうやってキャリアを築いていったのですか?
フランスでメイクアップアーティストの道を志すなら、スクールを出て誰かのアシスタントから推薦してもらいキャリアを築く、というのが一般的だと思うのだけど…。でも私はそのどれもやらずに19歳でニューヨークへ渡り、独学でポートフォリオを作っていたから、作品を持ってパリに戻ってきた時には「この子はだれ?」と不思議がられて…(笑)。でも幸運なことに、ニューヨークで作ったポートフォリオがフランス「ヴォーグ(Vogue)」の元編集長カリーヌ・ロワトフェルド(Carine Roitfeld)さんの目に留まって、声をかけてくれたんです。
ーすごい(笑)。そんなことあるんですか?
実は、帰国してからエディトリアルのお仕事をやっていたことがあって、クライアントの中に1人だけヴォーグとつながりのあるファッションPRの方がいて。彼女はとても面白い人で、メイクをするたび私の顔をジロジロみて「あなた、いずれスターになるわよ」って毎回言ってくれて(笑)。私はそんな夢みたいなことあるわけないと思って、「はいはい」と受け流していたんだけど、その彼女がカリーヌさんとのミーティングをセッティングしてくれたんです。
ただ、やはりキャリアが短かかったから、「メイクアップだけじゃなく、アートディレクターとしての実績を積んで、ポートフォリオをもっと充実させなさい」とアドバイスをもらって。それから、昼夜問わず働き続け、ポートフォリオを発表していったことで、またカリーヌさんからお声がかかったんです。その時、「あなたはストーリーテラーだから、メイクアップアーティストじゃなくフォトシュートのアートディレクターとして活躍したほうがいいわ」と、今後の方向性を示すアドバイスをもらいました。そこから、私のすべてのキャリアがスタートしたと言っても過言ではありませんね。
ー彼女のアドバイス通りにキャリアを積み重ねていった、ということですね。
彼女は私の才能を最も活かせる働き方も、従来型のアーティストでは成功しなかったことも、この時すでに見抜いていたんですよね。スクールに通うでもなく、誰かに師事を仰ぐのでもなく、若くして今のスタイルでキャリアを築けたのは、彼女の言葉を信じてやってきたからにほかならないと思うわ。
ーその後はメイクアップのアートディレクターとしてキャリアを重ねていったわけですが、ディオールやエスティ ローダーなどラグジュアリーブランドでも活躍されていましたよね。
初めてラグジュアリーブランドから声がかかったのはディオールで、26歳の時。ディオールはイノベーションをリードできるブランドの顔となれる人を探しているということでした。プロダクト全般を見るという幅広い役割ではなかったけれど、フランスのブランドとして、フランスの若い人材でブランドのリフレッシュを図りたいと。スクールもアシスタントも経ずにメイクの世界で活動していた私は業界の中では若かったし、女性も少なかったので目に留まったのかもしれませんね。
ー初めてのラグジュアリーブランドはいかがでしたか?
マーケティング、コミュニケーション、プロダクト開発、撮影、ブランドリフレッシュなど、すべてが素晴らしい経験で感謝しかありません。ただ、私は名声にはまったくこだわっていないので、自分自身の情熱や、自分の中での完璧さ、自由を追求できることを何よりも重視してきたの。気になることがあれば口を出さずにはいられないたちだし(笑)。ブランドで働く人ではあるけれど、自分のスタンスというものは昔も今もあまり変わっていないと思うわ。
デートを重ねて恋に落ちるようにゲランを選択
ーどんな環境であれ、自分という軸をブレさせずにキャリアを積み重ねていくのは大変だと思いますが、かっこいいですね。2021年にゲランのクリエイティブディレクターに就任されていますが、フランスの象徴のような伝統と格式あるブランドで重要なポジションを任されるというのはプレッシャーではありませんでしたか?
おっしゃる通り、ゲランといえばコスメティックに限らずフランスの歴史そのもの。伝統と格式のあるブランドです。ただスティック型のリップスティックを初めて作るなど、革新的なブランドでもあるので、ようやくあるべき姿に向かっていくんだというエキサイティングな気持ちの方が強かったですね。
自分のブランド「VIOLETTE_FR」を立ち上げたばかりのタイミングでもあり、ニューヨークとの2拠点生活で、うまくやっていけるか少し不安もあったけど、ブランドの方々と何度も話し合って、インスピレーションを受けたことで、デートを重ねて恋に落ちるように最終的に「YES」と答えたの。
ゲランを代表するメイクアップ コレクション 「ルージュ ジェ ナチュラリー 」、「パリュール ゴールド」、「 キスキス ビー グロウ」
ー自身のブランドの立ち上げと時期が重なっていた…。スタートから相当大変だったのでは?
どうやら私、「W」とか「2」とか好きみたい。子どもも2人、拠点も2つ、ブランドもゲランとVIOLETTE_FRを掛け持ち、愛猫も2匹(笑)。もちろん、夫は1人だけど(笑)。2つあることでバランスが取れる性分なのかも。正確に言うと、ブランドを立ち上げてからゲランから声をかけていただいたんだけど、ゲランからは、私がブランドを持っていること自体がインスピレーションだと言ってもらって、ひとつのパッケージとして受け入れてもらえたのは本当にありがたかったわ。VIOLETTE_FRは、私の汗であり涙であり自分そのもの。一方、ゲランはデザイナーとして関わっているので、立ち位置が違う分、たくさんの気づきがあって。自分のブランドだけだと内向きになりがちなのが、ゲランがあることで一歩引いて見つめ直し問題解決することができる…。ゲランの中でのさまざまな意見に迷っても、一歩離れて自分のブランドから見つめることで、ゲランにとって何が一番ベストなのか考えられたりもして、相乗効果が生まれてるんじゃないかな。
ーインスタグラムのフォロワー数が50万人超え、YouTubeチャンネル登録数30万人超えです。どうやってフォロワー数を伸ばしていったのでしょうか。
「ビューティで人々の助けになりたい」と思ったことが、コンテンツを作ったきっかけ。地道に続けていって、そこに数がついてきたという感じですね。何か特別なことをしたわけではなく、私自身のメッセージがより多くの人に伝わることが、コンテンツをやるミッションだと思っているから、コミュニティが大きくなることは嬉しいですね。
ー最後に、今後の目標を教えてください。
とにかくハッピーでいたい。名声にはこだわらないので、このまま自由に自己表現を続けながら、大好きな仕事を続けていけたら幸せです。
(文・ライターSAKAI NAOMI、聞き手・企画編集 福崎明子)
■ゲラン:公式サイト
美容ライター
美容室勤務、美容ジャーナリスト齋藤薫氏のアシスタントを経て、美容ライターとして独立。25ansなどファッション誌のビューティ記事のライティングのほか、ヘルスケア関連の書籍や化粧品ブランドの広告コピーなども手掛ける。インスタグラムにて、毎日ひとつずつ推しコスメを紹介する「#一日一コスメ」を発信中。
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