吉井雄一
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パリでは、「ゴヤール」のファミリー全員に囲まれながらプレゼンをしたのですが、案の定、答えは「NO」。それで肩を落として荷物をまとめて帰ろうとしたそのとき、ふと通訳さんが「吉井さんは本当にずっとゴヤールが好きなんですよ。ゴヤールのバッグに"ゴヤール"って名前を入れるくらいに」といった話をしたんです。(※ゴヤールは商品にイニシャルやラインなどを手作業でペイントする"マーカージュ"というサービスを行っている)
そうしたらその瞬間、オーナーが「ちょっと待った。僕はそのオーダーを知っている。ゴヤールのバッグに"ゴヤール"って名前を入れるなんて、150年の歴史のなかでバカな日本人1人だけだ。それは君のことだったのか!」と言ったんです。自分は単純に可愛いだろうと思ってやったことなんですが、聞くと、そのオーダーが入った時にオフィスではそのアホな日本人の話題で持ちきりだったそうなんです。それで、「君は本当にゴヤールを好きなんだな。わかった。OK!」と急展開。あまりに唐突で一瞬何が起こったかわかりませんでしたね。

「ゴヤールは大きなブランドとは違ってインディペンデントで、ファミリー経営で、これからも大きく広げるつもりもない。ましてや遠く離れた日本で売るには、自分達と同じようにゴヤールを愛してくれている人じゃないと絶対に任せられないんだ。でもあのバッグを買ってくれたお前なら大丈夫だ。やりましょう」。そう言ってもらった瞬間、目の前の曇りが晴れて一気にスカイブルーになったようでした。もう嬉しすぎて涙が出ましたね。お金や権力ではなく、自分の信じてたものが全てを動かした。愛する気持ちが何かを動かすことってあるんだと知って「世の中捨てたもんじゃないな」と思いましたね。あの瞬間は、人生でも忘れられない体験で、いまだに鮮明に思い出します。そして今では日本のブランディング・ディレクションを任されるようになりました。
セレクトショップは本当に必要とされているのか?
自分は、結局はファッション好きな1人の消費者であって、変なプロフェッショナルにはなりたくないんです。洋服を買って楽しんでいる人達が楽しめる店を作らないと何の意味もない。ドキドキするものが好きなんですよ。「ラブレス」立ち上げの当時、東京を見渡してもハートビートを味わえる店がなかったので、そういう店を作りたかったんです。 "レス"って付けたのも、実は逆説的にそこに"ラブ"がある、といった意味があります。

でもここ最近、はっきり言ってセレクトショップはいらないんじゃないかとも思っています。「パリヤ」を閉店して「ザ・コンテンポラリー・フィックス」を始めたときも「本当にセレクトショップという存在自体がこの時代にいるのか」という所から改めて考えました。ネットショップもたくさんある時代、「お店に行く動機って何?」と思ったところ、あえてお店に行って、試着して買うという基本の流れや、お店に行くための動機付けを大事にしないといけない。ただもの売買するのではなく、お店から発する空気や、店に置いてある商品にフレッシュな何かを感じられることが大切。空気を肌で感じることは、ネットでは出来ないことですよね。一番大事なことは空気。流れている空気が新しくてフレッシュなものでない限り、何の意味もないんです。
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