藤原ヒロシ
Image by: Yuichi Sugita
藤原ヒロシが「非言語マーケティング」の講義を行う「FRAGMENT UNIVERSITY」のオープンキャンパスが開催された。教壇に立った同氏は、「カルチャー」という言葉の意味を交えながらFRAGMENT UNIVERSITYについて解説。同校がテーマに掲げた「非言語マーケティング」の意味をオープンキャンパスのレポートとあわせて、藤原ヒロシのインタビューから紐解く。
FRAGMENT UNIVERSITYの主催は、集英社の「ウオモ(UOMO)」が担当。同社の「メンズ ノンノ(MENʼS NON-NO)」で1995年から2006年まで連載していた「藤原ヒロシのア・リトル・ノーレッジ」の内容をまとめて書籍化するという会議から今回のプロジェクトがスタートしたという。
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カルチャーは心を耕すこと
「カルチャーという言葉は個人的にも使いますし、メディアでもよく用いられている凄く都合の良い言葉です。カルチャーとは何かを問うと、皆さん文化と答えます。では、文化とは何か、果たして皆さんが使っているカルチャーは本当に文化という意味なのか。実際には何のことかわからず使っている人も多いと思います」
カルチャーの解説について、約320万年前の化石人類「ルーシー」の例を用いた。
「1974年11月24日に全体の骨の約40%になるルーシーの化石が見つかり、骨格からどうやらこの頃に草食から肉も食べるようになったことがわかりました。草から得られる栄養は少ないので、だいたい寝ているか食べているかの生活だった。それが、肉も食べるようになったことで、余暇が生まれ、暇な時間をどのように過ごすかを考えたことから脳が活性化して発達した。より人間らしくなり、グルメになったことで、賢くなっていったわけです」
「そこから僕ら人間になり、肉を食べるだけでは物足りなくなった。塩や胡椒をかけたり、どうすれば美味しく物を食べられるか。自然と生(な)っている果物を食べるだけではなく、畑を耕したらもっと美味しいものが食べられるのではないかと考えるようになりました。『耕す』という言葉はラテン語でコレレ(colere)と表します。コレレはカルチャーの語源であり、カルチャーとは心を耕すこと。既にあるものをそのままではなく、手を加えることで、喜びを得たり、満足感を得て心を耕していく。だから、余分なディテールが付いている服だったり、少しでも美味しい果物を作るために数年間畑を耕したりすることは、非合理的で無駄なように見えて重要なことなのではないかと。心を耕す遊びや無駄こそが凄く大切なことではないかと思うんです」
合理的ではないマーケティングを紐解く
カルチャーの非合理的な要素を取り入れたマーケティングが、同氏が提示する「非言語マーケティング」を構築する要素の一つになっているという。
「マーケティングとは本来、合理的で実用的なものだと思います。車のマーケティングをするなら例えば、どれだけ速く走れるか、どれだけ燃費が良いかを見せられるかが重要だと思います。でも、非言語マーケティングでは何か違うエッセンスで、何も語らなくても人の目や心を惹くこともあるのではないかということを掘り下げていきます。僕はこれまでマーケティングについて一切考えたことがなかったし、好きなもの、楽しいものを作っているという感覚だったんですが、周りの人たちに『無意識のうちにマーケティングをしているのではないか』と言われたことから始まった企画でもあります」
全8回のカリキュラムを通して、様々な形のマーケティングについて討議する。受講料は13万2000円(税込)で、定員は50人。9月15日まで同校の特設サイトで申し込みを受け付け、9月27日に選考結果を発表する。
■「FRAGMENT UNIVERSITY」カリキュラム
Day1:文化人類学〜遊学史〜
1982年に初めてロンドンへ行った際に痛感したという横社会の文化などをはじめとした、海外経験とカルチャーとの邂逅を振り返り、すべての根源にある「パンクとDJの精神」を解き明かす。
Day2:社会学〜メディア論〜
1980年代の宝島社での連載をはじめ、メンズ ノンノの「藤原ヒロシのア・リトル・ノーレッジ」、新たなブログ系メディアを模索した「ハニカム(honeyee.com)」といったメディアとの関わりから、アナログとデジタルの役割と情報発信について学ぶ。
Day3:情報学〜インプットとアウトプット〜
SNSがない時代から続いている人も多いという友人関係や、人付き合いといった人間関係のマネジメント、そこから繋がるインスピレーションとアウトプットなどアイデア発想術やタイムマネジメント術を学ぶ。
Day4:経営学〜コラボレーション理論〜
多用されており、言葉の意味が一人歩きしていると感じると話す「コラボレーション」の本来の意味について。「グッドイナフ(GOODENOUGH)」から「レディメイド(READYMADE)」、「ヘッド・ポーター(HEAD PORTER)」、「メディコム・トイ(MEDICOM TOY)」、「フラグメント デザイン(fragment design)」までコラボレーションをマーケティング視点で分析する。
Day5:建築工学〜空間デザイン論〜
もともと存在した店舗の建築を活かした店舗作りの「the Pool aoyama」や、「THE PARK・ING GINZA」「THE CONVENI」にみる実店舗の総合的なプロデュース事例から、空間デザインに関するコンセプトの作り方などディレクション論を学ぶ。
Day6: Case Study Starbucks Coffee Japan
創業者のハワード・シュルツと面会した際に偶然お揃いのロレックスポールニューマンモデルを着用していたというスターバックスとの取り組みについて語る。
Day7:Case Study NIKE
アスリートではなく、ストリートの人としてコラボレーションしているナイキとの取り組みがどのようにして始まったかなどについて講義する。
Day8:FRAGMENT UNIVERSITY最終講義
卒業証書の授与など。半年間で内容を決定する。
講義タイトルは変更される可能性あり。講義の内容は議事録として書籍化され、2024年秋に出版される予定。
オープンキャンパスを終えた藤原ヒロシにインタビュー
—改めて「藤原ヒロシのア・リトル・ノーレッジ」の書籍化の話からどのように「FRAGMENT UNIVERSITY」のスタートに至ったのでしょうか?
ア・リトル・ノーレッジは写真がメインなので、写真をまとめただけの本であれば書籍化する意味がないかなと思っていたんです。その中で会議でスタッフが「ア・リトル・ノーレッジは言葉にしない上手なマーケティングをしていた」と言ってくれて。その非言語マーケティングを紐解く授業をすればそのまま本にもできるし、良いのではと。当初の方向性からは随分変わりましたが面白いスタートができたと思っています。
—2020年に青稜中学校・高等学校の制服の監修をしていましたが、教育に興味があったのでしょうか?
教育という考えは全然なかったです。青稜は制服という物作りが面白いなと思って監修した話で、未来の若者のためにとかは思わないですね。
—今回のフラグメント大学も教育という考えではない?
そうですね。フラグメント大学は学ぶ大学なのかという疑問はあります。クリエイティブは答えがあるわけではないので、数学的に学ぶものではないですよね。いわゆる知識を蓄えていくというか、自分のアーカイヴを増やしていくことだと思います。授業でも僕が買ったこのアイテムにはこういう思いがある、この美術作品にはこういう思いがあるんだよというようなことを話して、自分で解釈して考え方をインプットしてもらえればなと。本当は僕も面白い話を聞ければ良いなと思っているので、聞くだけではなく、自分で芯のようなものを持っている人がいてくれれば良いなと思っています。
—授業のカリキュラムはどのように決めたのでしょうか?
スタッフ皆んなで話し合いながら決めました。順番は少しずらしている箇所もありますが、基本的には時系列です。コラボレーションの授業は事例が多いので話しやすいんですが、「社会学〜メディア論〜」や「情報学〜インプットとアウトプット〜」などは僕がカフェでお茶しながら人と交流した体験がメインなので、どうやって授業にしていくかはこれからもっと内容を詰めていかないといけません。
—カルチャーの話のように、言葉にするのが難しい内容も多そうですね。
皆んなカルチャーと普通に使うけど、実際の意味はわかっていなくて、意味があるのかもわからない。ああいう感じの話が今後もいくつか話せれば良いなと。少しでもどこかでなるほどと思えるような説明できれば良いかなと思っています。僕が経験してきたことにカルチャーのような話を混ぜて、他の人にも「これ知ってる?」と話せるような面白い講義ができれば良いですね。
—あまり多くを語らないイメージもあったので、今回の講義という形は意外でした。
自分でもなぜ語ってこなかったのかはわからないです。ただ、僕は自然と入ってくる情報に頼らずに、踏み込んで自分で調べるのが楽しいんですよね。僕らの時代は情報を探して、何か面白いことはないか、あのアーティストは次に何やるんだろうかと情報を探していたわけです。今はSNSを見ると情報が勝手に入ってきて、情報に僕らが探されているような立場になった。それよりもハードルを超えたところにある面白いものを皆んなに体験してもらいたいですね。
■FRAGMENT UNIVERSITY:特設サイト
受講料:13万2000円(税込)
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