フェティコ デザイナー 舟山瑛美
Image by: FASHIONSNAP
2020-21年秋冬シーズンにデビューしたウィメンズブランド「フェティコ(FETICO)」はボディコンシャスな服を作り続けている。エフォートレスな服が主流の今、何故あえて体のラインが出る服で勝負を挑むのか。女性の色気と強さを引き出す服でありながら、上品さも漂うクリエイションの源流をデザイナー 舟山瑛美に聞いた。
舟山瑛美
1986年茨城県生まれ。高校卒業後、渡英。マランゴーニ学院ロンドン校でファウンデーションコースを終了後、エスモードジャポン東京校に入学。卒業後、DCブランドや衣装デザイン、大手セレクトショップで経験を積み、「クリスチャンダダ(CHRISTIAN DADA)」のウィメンズデザインを手掛ける。2020年パタンナー高濱温子と共にフェティコを立ち上げ。国内生産にこだわり服作りを行っている。
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自分にとってより良い場所を探し続けた下積み時代
ーファッションに興味を持ったのはいつですか?
小学生です。矢沢あいさんの漫画「ご近所物語※」ドンピシャ世代ということもあり、とても影響を受けましたね。我ながらおませな洋服大好きっ子だったな、と思います。
※ご近所物語:漫画雑誌「りぼん」で1995年2月号から1997年10月号にかけて連載。矢沢芸術学院の服飾デザイン科に通う主人公 幸田実果子がデザイナーになるまでを描く。
ーでは早い段階からファッションデザイナーを目指していたんですね。
そうですね。高校もバンタンデザイン研究所のファッション科に進学しました。単純に、自分が普通の公立高校に通うイメージが持てなかった、というのもあるんですけどね。
ー高校卒業後、マランゴーニ学院ロンドン校に進学。
高校を卒業する時に、このまま日本の専門学校に進学してもデザイナーとして埋もれてしまう気がしたので留学を決めました。高校ではユニークな子やファッション業界を目指す熱量が高い人が周りにたくさんいて、「人と違うことをやらないと」と焦っていたんです。
ー留学先にロンドンを選んだ理由は?
とても単純な理由です。英語圏が良かったのと、「ヴィヴィアン・ウエストウッド(Vivienne Westwood)」と「アレキサンダー・マックイーン(Alexander McQueen)」が好きだったからで(笑)。ロンドンに憧れがあったんです。
ー舟山さんは留学後、エスモードジャポン東京校に入学しています。なぜ海外の学校で勉強した後に国内の専門学校に入り直したんでしょうか?
マランゴーニ学院はビジネスに強い学校ではあるんですが、私が求めていたようなデザインという側面では少し物足りなかった。友人たちも2年生になるとセントマ※に編入したりしていたので私もそのルートを狙っていたんですが、学費がマランゴーニとは比較にならないくらい高額で諦めました。諦めた、というよりは「私は一般家庭の子で、今ですら留学をさせたりして大変だろうにセントマに行きたいなんてとても言えない」となって(笑)。マランゴーニ学院でモヤモヤして過ごすよりも、帰国して日本で一番良いデザインが学べる専門学校に行こうと決め、エスモードジャポンに入学しました。
※ロンドンの芸術大学「セントラル・セント・マーチンズ (Central Saint Martins)」の略称
ーエスモードジャポン卒業後は?
DCブランドや衣装デザイン、大手セレクトショップなど興味のあるブランドや仕事を転々としていました。転々とする中で「私は大手向きじゃないんだな」というのが自分自身でわかったことも、ブランドを立ち上げる上では重要な経験だったかもしれません。
ー舟山さんの経歴を振り返ってみると、自分にとってより良い場所はどこなんだろう?というのを探し続けていたのかな、と思いました。
そういうところはあるかもしれないですね(笑)。「まずはやるだけやってみよう」と常日頃から思っています。そこは一貫していると思うし、行動に移すのも早いほうかもしれません。
クリスチャンダダのウィメンズデザイナーとして
ー舟山さんといえば、2020年1月に活動を休止した「クリスチャンダダ(CHRISTIAN DADA)」(以下、ダダ)でウィメンズのデザインを担当していました。
初めて東コレ※でダダのコレクションを観た時に衝撃を受けて。ウィメンズのデザイナーを募集していると聞いてすぐに応募しました。
※東コレ:東京ファッションウィークの略称
ー「フェティコ(FETICO)」のデビューは2020年3月。ダダの休止が発表されてからすぐにデビューしています。
元々「ダダでもう1個くらいコレクションを作ったら独立しよう」と思っていたんです。そしたら「ブランドを畳むぞ」と発表があって。じゃあ、予定より1シーズン早くはなるがデビューしよう、と。
ーダダの活動休止はブランド立ち上げには関係ない、と。
そうですね。活動休止を知らされる前からお金をこつこつ貯めたり、「私はブランドを立ち上げて具体的に何がやりたいのか」を考える時間を強制的に作ろうと、ダダで働きながら「ここのがっこう(coconogacco)」に少しだけ通ったりもしました。
ーダダとフェティコではクリエイションの方向性が異なりますね。
クリエイションは全く異なるものですが、自分が良いと思えるものを形にしていくために必要な「自分だけの美意識」を信じられるのは、ダダでの経験があったからこそだと思っています。大きい会社だと、何かを推し進めるためには偉い人の許諾を何回も取らなくてはならず、自分の意見も通り辛いと思うんですが、ダダはベンチャー企業っぽいというか、急成長している若い会社だった。なので「この生地、良いと思うんですけど」という提案に対する反応が早かったし、良いものはどんどん採用されていった。自分が持っている美意識の自信にも繋がったりと、何にも代えがたい貴重な経験でした。
フェティコの強みは
ーフェティコは毎シーズンのコレクションテーマをあまり大きく打ち出していないですよね。
そうですね。2022年春夏コレクションも彫刻的なピースを多く作ろうとは思っていたし、自分なりのテーマもあったんですが公にはあまりしませんでした。
ー製作の着想源はどこから見つけてくることが多いですか?
最近思っているのは、新たに取り入れた知識や、物事を見て感じたことをそのまま表現するよりも、自分の中に蓄積されているものを出していったほうが良いものづくりができる気がしています。
ー自分の中に蓄積されているもの、というのは具体的に?
所謂、思い出や記憶の類です。例えば、幼少期に何故か気に入っていたドレスの形とか、いつか観た映画で脇役の女の子が着ていたドレスのラインが可愛かったな、とか。理由はわからないけど何故だか覚えているものは、人間が持っている共通の美しさとしてあるんじゃないかな、と最近は考えるようになりました。
そんな事を考えながらも、もちろん新たに知識を取り入れるようなこともしていて。最近はクチュールのリサーチをしています。今はアメリカ初のクチュリエと言われているチャールズ・ジェームス(Charles James)に興味を持っています。
ーフェティコの強みは舟山さんのデザインと、共にダダで経験を積んだパタンナー高濱温子さんによるシルエットの美しさにあると思います。
高濱はエスモード時代の同級生でもあります。彼女は学生の頃から優秀で。ずっと「なにか一緒に仕事ができないかな」と狙っていました(笑)。ダダに彼女を誘ったのも私です。
ー2人はどのようなコミュニケーションを取って製作をしているのでしょうか?
基本的には私がデザイン画を描き、特にあまり細かい指示もせずに彼女に渡します。高濱がデザイン画を基にトワルを作り、2人でジャッジをする。これを何度も繰り返して作り上げていきます。製作において他のブランドと異なる点があるとするならば、毎シーズンコレクションルックのスタイリングをお願いしているスタイリストの山口翔太郎にもトワルチェックをお願いしている点でしょうか。
ースタイリストがトワルチェックに入るのは珍しいですよね。
海外ではよく聞きますが、日本だとなかなか聞きませんよね。彼はスタイリストなので「モデルが着た時に綺麗なのか」というジャッジに長けていると思います。
ー山口さんの一声でデザインが変更になることもありますか?
もちろんあります。例えば、パンツの丈感や袖丈などはトワルチェックでかなりシビアに調整します。彼は、モデルが服を着て、かつ写真になった時のことを考えてくれるので「この丈だとカッコよくならないからもう少しだけ長いほうがいい」というような提案をしてくれます。デザイナーやパタンナーにはない視点なので、ありがたいです。
ーエフォートレスでゆったりとした服がまだまだ主流の中で、フェティコは一貫して体のラインが出やすいボディコンシャスな服や、デコルテが露出するような服を作り続けています。
ありがたいことにお客さんからは「品があるから、ボディコンシャスな服でも着やすい」と言ってもらうこともあって。最初のコレクションをやった時に、かなりボディコンシャスなニットドレスを製作したんですが、全アイテムの中でも1番の反応をもらったんです。そこで「体のラインがしっかり出ていても、体が綺麗に見える服を求めている人はたくさんいるんだな」と自信を持てました。私も元々フェティッシュな服が好きだったし、だったら臆せずにやろう、と製作を続けています。
また、肌を見せることや体のラインの強調が、性的にならないようとても意識していて。日本の女性、特に大人の女性は肌を見せることに抵抗感を持っている人が多いと思うんですが、フェティコではポジティブなマインドで肌見せできる服を提案していきたいと考えています。具体的な取り組みとしては、次の2022-23年秋冬コレクションから別注素材を増やしていて。 洗いかけの茶色いベルベット地は、どんな人の肌でも綺麗に見せてくれるんじゃないかな、と。
ーサイズ展開を増やすことも考えているんでしょうか?
はい。今はほとんどのアイテムが2サイズ展開なのですが、海外進出を考えた時に、絶対にこのサイズ展開じゃ足りないと思うので。色んな体型な人にブランドを楽しんでほしいので、最低でも3サイズは用意したいなと思っています。
ーデビュー3年目、4シーズン目となる2022年春夏コレクションでは大幅に卸先が増えたそうですね。
「シスター(Sister)」「ミッドウェスト(MIDWEST)」「リトマス(litmus)」「ガリャルダガランテ(GALLARDAGALANTE)」「ステュディオス(STUDIOUS)」「アデライデ(ADELAIDE)」など、全23アカウントでお取引させていただいています。前シーズンと比較して8アカウント増えました。
ー2シーズン目からセールスにザ・ウォール(THE WALL)が入ったことも大きいのでしょうか?
大きいですね。ザ・ウォールはデビューシーズンを見て連絡をくれました。1シーズンやってみて「こんなに可愛いのに見に来てくれる人が少ない、これは心が折れるな」と思っていた時に声をかけてくれたこともあり、本当にありがたかったです。
ー外部のセールスエージェントに委託することに対して慎重なデザイナーも多いですが。
ザ・ウォールが繋がっているお店とブランドの相性がとても良いということもあり、うちはエージェントに入ってもらうことで良くなった事例だと思います。デザイナー自身がコミュニケーション能力に長けていたり、数シーズン展示会に誰も足を運んでくれなくても心が折れずに自分を信じられるのであれば、外部にお願いしなくても良いんでしょうけど、私はどちらも苦手だったので(笑)。
ー舟山さんが意識をしている同世代の国内ブランドはありますか?
「ミスターイット(mister it. )」ですかね。全然自分とは違う作り方をしていますが、次の動向が気になるブランドのひとつです。
ーフィジカルショーに興味は?
やりたいです。でも今じゃないなと思っています。今は、そこに割くお金をものづくりのクオリティを上げるために使いたいので。でもいつか、インスタレーションやフィジカルショーを通して「女の子が着るとこんなに綺麗なんだよ!」ということをしっかり伝えることができればと考えています。
ー最後に、5年後、10年後の目標を教えて下さい。
今は服しか作れていないですけど、ランジェリーや小物、アクセサリーなどを含めて、もう少しトータルで提案できるようなブランドにしていきたい。その前にまずは海外で展示会をやりたいですし、そのためには人数も増やしたいから、アトリエもしっかり構えたいです。
あと目標は「トーガ(TOGA)」といつも言っています。女性デザイナーで海外でも人気ブランドとして認知されていて、クリエイションがぶれることもない。トーガのようなブランドまでに成長させるには何が必要か、というのは常に考えています。
(聞き手:古堅明日香)
■フェティコ:公式インスタグラム
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