ブランドデビューまでの道のりを赤裸々に綴っていく連載「デザイナー奮闘記」。前回は先輩デザイナーのoyuiさんにアドバイスを頂きました。
私たち(佐藤百華と宮崎)が新しくブランドを始めるにあたり、初めての展示会でやりたい事は沢山あります。その中でも私たちが絶対にやりたいと思っている事が、オリジナル生地の制作です。でもなかなか少ないロットで引き受けてくださる機屋さんは多くないイメージがあります。そこで今回は、織物の産地として有名な桐生へ工場見学に行き、お話を伺うことにしました。
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ジャカード織機、ドビー織機を備える「桐生絹織」
まず最初に伺ったのが創業70年以上の歴史を持つ桐生絹織です。ジャカード織機とドビー織機を備えており、高速な量産では決して表現出来ない手作業の味わいを残しつつも、ロットの少ない注文にも丁寧に対応しているそうです。当日は、代表の牛腸さまに工場を案内して頂きました。
時期やお見積りなど様々な条件はありますが、50メートルからでもオリジナルの織物を作れるそうです。また、過去に作った生地を保管している資料室があり、そこにあるものを参考にして柄を作る事も可能だそうで、直接ここの資料室に来て、その場でデザインまで決めて発注するデザイナーの方もいるそうです。資料室には沢山の織物の資料があり、長年ある工場だからこそ、一日居ても見きれない程でした。
上記画像は、デザインされた柄を織るための型紙として使われる「紋紙(もんがみ)」です。織機を動かしながらどこに糸を通すか示すために厚紙に穴が開けられていて、これを基に柄が織られます。最近では柄がデータ化されるまで進化してるそうですが、桐生絹織では今でも紋紙を専門の業者に頼んで作っているそうです。生地が織られている現場を直接見ることで、織り始めるまでの準備や織っている最中のメンテナンスがいかに大変かを改めて知ることが出来ました。
編み、織り両方を手掛ける「TOSHITEX」
次に訪問させて頂いたのは編みと織りの両方の素材開発を行っているトシテックス(TOSHITEX)です。一つの機屋さんで編みも織りも担うのはとても珍しいのですが、トシテックスでは代表の金子さまが40年以上の経験を活かしながら、ユニークでマジックのような仕掛けがある生地を高品質で作っています。
上記左の画像は、織物組織で折り紙のような折り目を再現したテキスタイルです。見る角度によって色や表情の見え方も変わりとても不思議でした。右の画像は袋ジャカードの中にカラフルに染まった不織布が入った花吹雪を閉じ込めたような生地で、「織物組織にイタズラを加えたもの(笑)」と微笑みながら、金子さまに丁寧にカラクリを説明して頂きました。
トシテックスにある編み機はラッセル編み機という機械です。セーターは横編み、Tシャツなどは丸編みで作られる事が多いのですが、ラッセル編みは縦方向に編み進める、レースなどに使われる比較的珍しい機種です。織物は大体200メートル位から、ラッセル編みのものは50メートル位からオーダーできるそう。ラッセル編み機でこれほどバリエーション豊かに表現できると知らなかったので、この技術を活かした服を作ってみたいなと思いました。
創業140年以上の刺繍工場「笠盛」
最後に伺ったのが、繊細でありながらも手仕事のような温もりを感じる刺繍を生み出している笠盛です。創業140年以上と歴史はとても長く、独自の技術を開発し続けています。
笠盛の工場は桐生の機屋の特徴でもあるノコギリ屋根。作業しやすいように、太陽の位置が変わらない北側に窓を付けることで、日中も同じ明るさのもとで作業ができるよう工夫されているそうです。
ジャカード刺繍機は、同時に多色の糸を使用して自動ミシンで縫い付けたような刺繍ができる機械のことです。笠盛にはジャカード刺繍機が複数台あり、サガラ刺繍やカットワークなど、沢山の手法の刺繍が行えます。また、特殊ミシンという、一つの用途に合わせて作られた専門的なミシンも沢山ありました。通常のミシンでは出来なかったり、手作業ではとても時間がかかる縫い方ができ、ピンタックやブランケットステッチなどがあっという間に出来てしまいます。刺繍の種類にもよるのですが、特に発注ミニマムを厳しく設けている訳ではなく、相談次第で少ロットでも引き受けて頂けると話してくれました。
また今回は1泊2日で桐生を訪れたので、2日目には刺繍屋さんや素敵なお店を回りました。
まとめメモ
桐生の機屋さんを回って一番に感じたのは、人の優しさでした。少ないロットでの依頼でも、直接お会いして相談してみると、どうにかして実現する方法は無いかと一緒に考えてくださり、アドバイスも頂きました。なんとか予算内でオリジナル生地が作れそうです。これから企画をしっかりと練って、素敵な生地を作れるよう引き続き頑張りたいと思います!
次回は、2023年秋冬からブランドをスタートするためのメンターとの打ち合わせ編です!
・第1回【連載:デザイナー奮闘記!新ブランドが出来るまで】まず何から始める?先輩デザイナーへの相談篇
・第2回【連載:デザイナー奮闘記!新ブランドが出来るまで】どこでオリジナル生地を作る?機屋探し篇
補足:最近の私たちのこと
ブランド立ち上げを目指す一方で、現在「HUNDRED FLOWERS PROJECT」と題したデザインプロジェクトを行っています。プロジェクトでは魅力的なお仕事をしている方から、過去の大切なお話を伺い、記憶の花のレースの編み手と織り手として、大切な記憶を守って新しい未来に導く修道服(守導服)を作り、お贈りしています。
プロジェクト第2弾では、表参道の「ディリジェンスパーラー(DILIGENCE PARLOUR)」で働くフラワーアーティストのMadoka Hayasakiさんにお話を伺いました。
服を好きになったことで人との繋がりが広がり、大切に思える方達と知り合って、今のお仕事に就くに至ったそうです。
お気に入りのディテールや着慣れたサイズ感を細かく伺い、服好きの彼女を象徴するようなエレムルスの花を施したレースのスーツを作りお贈りしました。
仕事終わりに花を包み、行きつけのバーに行くまでの過程を同行させて頂きながら、彼女の日常を切り取るように撮影をしました。
連載:デザイナー奮闘記
・まず何から始める?先輩デザイナーへの相談篇
・どこでオリジナル生地を作る?機屋探し篇
・ブランド名はどうやって決める?事業計画編
・展示会で何を発表する?サンプル作りのフロー
・ブランドロゴはどう作る?グラフィックデザイン編
・ルック撮影はどうやる?展示会準備編
・初めての展示会をレポート
■EUCHRONIA:インスタグラム
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