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【連載ふくびと】第2話 販売のエキスパート 秋山恵倭子——「よっしゃ、ここから人生始まったわ」

インタビューに答える秋山さんの手元

Image by: FASHIONSNAP

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【連載ふくびと】第2話 販売のエキスパート 秋山恵倭子——「よっしゃ、ここから人生始まったわ」

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第1話からつづく——

 高校卒業後、念願叶って国内アパレルブランドの販売スタッフとして働き始めた秋山恵倭子。持ち前の明るく元気な性格でファッションや接客を楽しみながらも、弟を大学に行かせるため、アルバイトを掛け持ちし仕事に明け暮れる20代を過ごしていた。しかし、次第に将来的なキャリアへの危機感を覚え、インポートブランドに的を絞り「セリーヌ(CELINE)」への転職を決意する。——BRUSH代表取締役会長を務め、販売の極意を熟知した店舗運営コンサルタントの秋山が半生を振り返る、連載「ふくびと」販売のエキスパート 秋山恵倭子・第2話。

朝・昼・夜の仕事3本立て生活

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 子ども時代からセリーヌに入る20代後半くらいまでは、半ば本能のような形で「お姉ちゃんが弟を守らないと誰が守るんだ」と思っていたんです。だから、高校を卒業して親元を離れすぐに働き出したのも、「私の力で弟を大学に行かせたい」という大きな理由がありました。

 社会に出てすぐの頃は、日本のアパレルブランドの店舗で販売員として働きながら、朝は駅前の喫茶店で、夜は飲食店でアルバイトをするという3本立ての仕事生活。アルバイト先の方々も、お金を貯めるために必死に働いていた私を応援してくれていたので、朝食や夕食はそれぞれの店で食べさせてもらったりもして。しばらくの間はそんな毎日が続いていましたが、それが嫌でも苦でもなかったですね。実家は、物は豊かにあっても心が豊かでいられる環境ではなかったので、そこから解放されて自由になったのが嬉しかった。「よっしゃ、ここから人生始まったわ」という気持ちでした。

椅子に座ってインタビューを受ける秋山さん

Image by: FASHIONSNAP

 でも、私は必死でお金を貯めて弟を大学に行かそうと思っていたのに、結局弟から「俺、大学行くのやめる。行っても仕方がないし、コックになる」と言われた時には、ショックで3日間くらい寝込みましたね。「せっかくこんなにお金を貯めたのに、何だよ!」と。

 そして、その貯めたお金を持って、当時良いものがなんでも揃っていた大阪のロイヤルホテルの地下に行き、自分の買いたいものを全部買いました。元々は良いものが好きだし本当はブランド物も欲しかったのに、何も買わずにずっと我慢していたので、もう爆発してしまって。その日、貯めたお金を全て使い切ったのですが、あまりにも衝動に任せてしまったからなのか、今となっては何を買ったのか全然覚えていないんです(笑)。

「私には到底できない」だからこそ決めたセリーヌへの転職

 日本のアパレルブランドで販売をやっていた頃は、もちろん日々一生懸命ではあったものの、ただ洋服が好きで、洋服に囲まれたところにいたいという気持ちだけで働いていました。そして仕事が終わったら、毎晩のようにディスコへ。今思うと、有り余る若さゆえの享楽的な日々でしたね。日本が高度成長期からバブルに向かっていく、そんな時代でした。

 でも20代後半の頃、自分はこの先もずっと販売員を続けていきたいと考えた時、「こんなに若者向けのものばかり売っていたら、長く続けられないんじゃないか」と、はっきり感じたんです。このまま歳を取り続けたら、きっと若いお客様との乖離が生まれる。もっと大人のお客様にも買っていただける“難しいもの”を扱えるようにならなければと思い、転職先として選んだのが、ジェーシーシー*時代の「セリーヌ」でした。

*ジェーシーシー:1970年からセリーヌの日本での輸入販売を行っていた企業。セリーヌは、1996年にLVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン グループが買収。1997年にはセリーヌ フランス本社の100%出資によるセリーヌ・ジャパンが設立され、ジェーシーシーは事業譲渡を行った。

椅子に座ってインタビューを受ける秋山さん

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 いろいろな会社を受けて選択肢は他にもあったものの、自分がどこで働きたいかを見極めるために店舗に足を運んだ時、「ここだ」と思ったのがセリーヌだったんです。当時、神戸のトアロードにあった店舗を訪れたら、ディスプレイを見た瞬間に圧倒されてしまって。紺のスカートにコットンのブラウス1枚だけなのに、まるで生きているみたいに上手にディスプレイされていて「これは私には到底できない」と思った。だからこそ、そこに身を置いてチャレンジしようと決めました。

 その素晴らしいディスプレイを手掛けたのは、当時セリーヌ 神戸トアロード店の店長であり、後に長い付き合いとなる天王寺順子さんでした。新たな職場では、まるで映画「プラダを着た悪魔」(2006年)に登場する編集長 ミランダ・プリーストリーのような彼女の、“矯正ギプス”が待っていたんです。——第3話につづく

第3話「強烈スパルタ教育のセリーヌ時代」は、11月20日正午に公開します。

文:佐々木エリカ
企画・制作:FASHIONSNAP

【連載ふくびと】販売のエキスパート 秋山恵倭子 全7話
第1話―「私にはこれしかない」
第2話―「よっしゃ、ここから人生始まったわ」
第3話―強烈スパルタ教育のセリーヌ時代
第4話―自分にしかできないことは何か?
第5話―50代で決断、ジュエリーへの転身
第6話―40年来の顧客、形見分けのエルメス
第7話―販売員の地位と価値向上を目指して

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