販売本部 通信販売事業部 WACOAL SPOON事業推進課 後藤真由課長
Image by: ワコール
ワコールが、食品や食卓雑貨を展開するモール型ECサイト「ワコール・スプーン(WACOAL SPOON)」を立ち上げた。同社がモール型ECを運営するのは初めて。大手下着メーカーとして歴史を築いてきた同社はなぜフードECに参入したのか。WACOAL SPOON事業推進課の後藤真由課長に聞いた。
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“食”への参入のきっかけは利用者の声
ワコール・スプーンの検討が始まったのは2020年の年末ごろ。顧客情報を一元管理する新会員サービス「ワコールメンバーズ」(※2022年3月に始動)の立ち上がりに合わせ、500万人以上の登録者を持つ会員基盤を活かした新事業の開発を模索していた。
同社はワコールメンバーズ会員を対象にアンケートを実施したところ、食への高い関心が高く、お取り寄せサービスをよく使っているという会員が多いことがわかったという。食の分野は同社にとって未知の世界だが、食はワコールが長年大切にしてきた「自分らしい美しさへの応援」や「体と心に一番近いところで寄り添い続ける」という姿勢を体現できるとし、アンケート結果も後押ししてワコール・スプーンの立ち上げを決定した。
中核は食好きが高じてバイヤーになった4人の社員
ワコール・スプーンで取り扱うのはスイーツ、惣菜、米・パン・麺、ドリンク・酒類、調味料・乳製品、雑貨の6カテゴリー。サービス開始時点で計103の販売元から550品をラインナップし、季節やイベントに応じて取り扱いアイテムを更新していく。サイト上では、カテゴリ別のソートに加えて「手土産」「ホームパーティー」「お助け」「おひとりさま」「からだ想い」の5つのシーンからも商品を選ぶことができる。のし(熨斗)や簡易ラッピングにも対応するギフトアイテムに加え、日々の食事を助ける簡単調理の食品も扱い、ギフト需要から普段使いまで幅広く対応している。
現在特に人気なのはスイーツカテゴリー
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食品のバイヤーを務めるのは、社内公募で手を挙げた2人を含む20代から40代の4人の女性社員。いずれの社員も食分野の実務経験はないが、食好きが共通項で、全国各地に足を運んで味わって選ぶことを厭わず、自分で調べ、取り寄せ、実際に食べてから販売元や商品を選定しているという。
同社としても食の分野のコネクションはほぼゼロだったが、長年にわたり女性の生活を支えてきた大手下着メーカーとしての信頼性を武器に、販売元との関係を順調に構築している。女性客の取り込みを課題にしている販売元からは「ワコールがやるなら是非」とスムーズに交渉が進むことも。サイトがオープンしてからは、未開拓の事業者から出店希望の声が届いているという。
ワコールアートセンターが運営する表参道の「スパイラル」のアイテムを取り扱っているのも、ワコール・スプーンならでは。テーブルウェアなども多く取り扱うスパイラルとの親和性を活かし、今後はスパイラルが得意とするインテリアやアクセサリー、アートなどライフスタイル全般に関わるアイテムの取り扱いも目指している。
モール型グルメEC後発 「読み物コンテンツ」で差異化
主な流入導線はメールマガジンやプッシュ通知などメンバーズ会員へのオウンド発信だが、インスタグラムや検索流入からも新規ユーザーを獲得できているといい、会員数は想定を上回るなど滑り出しは好調だ。メインターゲットであるメンバーズ会員は20代から40代の女性を中心に構成しているが、現状のユーザーの中心は50代。インスタグラム経由では20〜30代の利用者が増えており、公式インスタグラムには「サイトの雰囲気が良い」「手土産に困ることが多いがこのサイトはすごく探しやすい」などのコメントが届いているという。
同じアパレル関連企業では、オンワード樫山が「オンワード・マルシェ」を2016年に立ち上げたほか、三越伊勢丹ホールディングスなどの大手百貨店も近年はオンラインでの提案を強化しており、ワコールは後発となっている。競合ひしめくグルメ通販市場で強みをどう発揮するのか。後藤課長は商品ラインナップでも差異化を図っていく考えだが、「読み物コンテンツを他にはない最大の武器にしたい」と話す。
同社のアンケートでは、ワコールに期待する要素として「女性視点」「美と健康」に加えて、安心安全の生産背景やフードロス、地方創生など「社会課題への取り組み」が挙げられたという。読み物コンテンツではその情報発信をカバーしていく。具体的には、記事制作で同社内の情報メディア「ワコールボディブック」と連携し、社内リソースを活用。ものづくりの背景を伝える「ひと匙のサステナブログ」や、「朝食習慣をはじめるのは一杯の炭酸水から」「なぜ朝食を食べたほうがいいのか、その3つの理由を教えます」といった美につながる「ひと匙のビューティーブログ」などのコンテンツを用意している。他社の特集が季節や時制イベントに合わせたものを中心に構成されているのに対し、ワコールでは心や身体にフォーカスし、女性視点で独自性を訴求していく。
下着以外の領域進出でも「ゆりかごからゆりいすまで」を体現
同事業では目標取扱高として3年後に5億円、2031年3月期に10億円を目指す。商品ラインナップも拡充していき、毎年50の販売元を開拓していくという。将来的には、ワコールと理念を同じくする販売元との共通のテーマに基づいた商品開発や、販売元同士をマッチングし素材や技術を生かしてコラボレーションを仲介するなどの商品展開を視野に入れる。ワコール・スプーンで培った顧客データは、新たなビジネスの展開にも活かしていきたい考えだ。後藤課長は「ワコールの考え方を体現する分野として食が入ったことで、ポジティブな反響があれば嬉しい。顧客満足度向上に繋げるのは勿論、ゆくゆくはワコールの会員基盤を底上げするコンテンツのひとつになれれば」とコメント。インナーウェアだけではない領域でも「ゆりかごからゆりいすまで」女性のライフスタイルに寄り添うことを目指す。
■ワコール・スプーン:公式サイト
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