【ミニインタビュー】3度の移転と根岸に店舗を構えた理由、「古書 ドリス」が目指す古本屋の姿とは
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喜多:元々は趣味でネット販売だけを行っていました。2006年に徳島県で店舗を持って、2012年12月に東京の森下に移転。森下で5年間営業した後に、今の店舗に移りました。
F:15年間で3度の移転。「幻想書籍」というジャンルは、キャッチーなものが多い分、オンラインショップとの相性も良さそうですが、なぜ実店舗を構えたのでしょうか?
喜多:店舗を構えた理由は、オンライン販売用の本が増えてきて、倉庫を借りたのがきっかけです。それ以前は実家の6畳部屋で在庫を管理していました。倉庫兼事務所だった実家の部屋にお客さんを呼ぶことはなかったですが、倉庫を借りるにあたってどうせ物件を借りるなら、お店をやってみようかな、と。
F:なるほど。徳島県での開業はもちろんですが、地元徳島県から基盤を東京に移すことは大きな決断だったと思います。
喜多:それなりにリスクは伴いますが、当時は20代だったので「チャレンジ」という側面が強かったのかもしれません。
F:チャレンジしようと思ったきっかけは?
喜多:徳島県内にもセレクショップのようなお店が増えていく中で、僕も所謂「オシャレなお店」の雰囲気を出していた時があったんです。でも、徐々に「自分のお店が、東京でよくある良いお店の劣化版みたいになっていってしまうんじゃないか」という不安が大きくなってきた。いいお客さんがたくさんいたし、郵送の買い取りと県内での仕入れだけでも良い本は集まっていたので、徳島県が悪いということを言いたいわけじゃないです。でも「良い悪いは一度置いといて、都心部へ行こう」と。
F:都心部では古書店の数も多く、他店舗との差別化が難しいようにも感じます。
喜多:森下や現在の根岸といった下町を選んだのも、中央線カルチャーや神保町、渋谷周辺でお店を構えるのは僕には向いていないかな、と単純に思ったからです。でも、その地域の個性や、お客さんに合わせてお店をやっていくというよりかは、自分で選んだものを置いて、近所に住む人はもちろん、様々な地域や県外からわざわざ来てくれるようなお店にしたかった。それには森下や根岸という土地がちょうどいいなと思ったんですよね。
F:確かに現在のお店は、新幹線や京浜東北線、常磐線など、関東近郊や都心部以外のアクセスが良い上野駅から歩いて訪れることができますね。
喜多:わざわざお客さん全員に「何処から来ましたか?」と聞くわけでもないので、狙い通りと言い切ることは難しいのですが、森下で店舗を構えていた時によく来てくれるお客さんがいて。「近所の方かな?」と思っていたら閉店間際になって埼玉からわざわざ足を運んでくれていたと判明したことがありました。今はコロナ禍で状況が少し違いますが、上野の美術館から人が流れてくるのを願ってこの辺を選んだというのもありますね。
喜多:美術館とかギャラリー、もっというと散歩のついでに立ち寄れる「ただ開いている本屋さん」になりたいんです。古本屋巡りをする人だけに焦点を当てるのではなく、散歩をしている人を期待しているところはあるのかもしれません。
F:立ち寄って欲しいのは、古本屋巡りをする人だけではないというのはとてもわかりやすいですね。
喜多:街歩きって一日中同じ街にいるわけではないですよね。自分の行動パターンを考えても、銀座のギャラリーを巡って、次は電車で上野に行って、それから歩いて鶯谷に行って……みたいに路線や歩いて行けるところを考えて移動をする人が多いと思っています。
F:客層の間口を広げる考えがある一方で、書店のジャンルは「幻想系」とかなりクローズドです。
喜多:結局、こういうものが好きな人は、全国に5000人くらいなのかなという気もしているんです。でも、幻想作品が好きな人はいろんな場所にいる。僕の経験不足かもしれませんが「幻想美術が好きな人が多い街」ってパッと思い当たらない。だからこそ、全国にいるかもしれない5000人が、出来るだけ行きやすい場所に店を構え、出来るだけ入りやすい場にしよう、と。
F:「幻想系古本屋」ということだったので、室内は暗く、入店までのハードルが高いお店を勝手にイメージしていたのですが、良い意味でとても一般的な本屋さんの内装ですよね。
喜多:自分がそういうお店作りができないというのもあるんですが、「幻想」という雰囲気を出すのはオンラインストアだけでいいなと思ったんです。というのも、やはり古本屋は本を売ってくれる人がいて、買ってくれる人がいるから成り立つもの。であれば、妙な色がついていない多くの人が入りやすい雰囲気の方が、買い取り作品を絞ることもせずに済む。「幻想系」を好んで読んでいた人が手に取った、幻想系とは違うジャンルも仕入れることが出来るんですよね。
F:「幻想系」とお店のことを謳い始めたのは、いつ頃からですか?
喜多:いつだったかな。明確には覚えていませんが森下に移転した時は言っていなかったと思います。
F:「幻想系」と自覚したきっかけは?
喜多:根岸に来るときにはもう自覚していましたね。元々、幻想文学の新刊書出版イベントをやった時に、SNSを中心に話題にしてくれる人が増えてきたんです。それを求めてお店に足を運んでくれたり、はっきりと「幻想文学専門店」として紹介してくれる人もいて。確かに、うちは比較的幻想文学の取り扱いが多い方だったとは思うんですけど、幻想文学専門店を名乗れるほど特化しているつもりもなかったし、知識もない。幻想文学専門店になるのは荷が重すぎて若干ノイローゼ気味というか、「ありがたいけど困ったな」と。そこで「幻想"系"」と名乗ることにしました。幻想系と名乗ることで「幻想美術をはじめとした、魔術本やオカルト本、幻想文学を取り扱っていますよ」と伝えることが出来るんじゃないかと考えたわけです。
F:そういう意味での「系」だったんですね。
喜多:ハードルを下げようとしているわけではないんですよ。でも「◯◯専門店」とか「古書マニアのためにこういうものがあります!」と僕が言ってしまうとどうしても「わたしはお呼びじゃないんだな」と考えてしまうお客さんもいると思うんです。僕としては、もっと気楽に、文字通り誰でも来られるような下準備として、「幻想系」というものをふわっとなんとなく好む人でも楽しめるような謳い文句が欲しかった。
喜多:最初は「現代美術とサブカルチャー」のお店にしたかったんですけど、すぐに諦めました(笑)。だったら徳島の時からネットで見てくれていた人たちや、うちのお店に足を運んでくれる人たちが薄々感じてくれていた古書ドリスに対するイメージを大事にしよう、と。お客さんが求めてくれているものを感じ取って、愛される店になろう、と思っています。
(聞き手:城光寺美那/古堅明日香)
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