いつの時代も私たちの見聞を広げてくれる「本」。「幻想系古本屋 古書ドリス」店主の喜多義治さんは、徳島県でオンラインブックショップを営み、上京。3度の移転を経験している。喜多さんは「全国にいるかもしれない幻想系というものをふわっとでも好む人が出来るだけ行きやすい場所に店を構え、文字通り、『誰でも来られる入りやすい場所』を用意していたい。『お呼びじゃない感』はなるべく軽減したいんです」と話す。そんな喜多さんに、携帯をスワイプしても出会うことができない「捲ってもらいたい本」3冊を選んでもらった。
■これまでの「書店であなたを待つ」連載
・書店であなたを待つ「円熟本」を探しに:80年以上続く老舗「小宮山書店」編
・書店であなたを待つ「幽霊本」を探しに:「古本屋 百年」編
・書店であなたを待つ「文化的雪かき本」を探しに:「スノウショベリング」編
店主プロフィール
【名前】喜多義治
【好きな本のジャンル】画集
【影響を受けた本】「映画の乳首、絵画の腓」/滝本誠
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高橋盾も魅せられた画家ヒエロニムス・ボス
【タイトル】ヒエロニムス・ボス画集
【著作】Carl Linfert
【発行年】1989年
喜多義治(以下、喜多):子どもの頃にボスの絵を見て強い衝撃を受けたことが、幻想絵画を好む一つのきっかけになりました。
FASHIONSNAP(以下、F):最初の印象は覚えていますか?
喜多:小学生の時に図書館で見たのが最初だったと思うんですが、「悪魔の絵みたいだな」と感じたのを覚えています。なんにせよ、「怖い」とか「気持ち悪い絵」という印象だったかと。今はそういうイメージを持ち合わせているわけではないんですけどね。
F:現在の喜多さんが考える、ボスのイメージはどういったものですか?
喜多:作家本人が謎に包まれている人物なので詳しいことは分かりませんが、元々は宗教画や寓話など、昔の人が見たら理解できるモチーフだったりするんじゃないだろうか、と思うんです。神様の価値観だったり、死生観も今とは全く違うものだろうし、そういう中から考えられる倫理や道徳を絵にしたものが当時は多かったのかな、と。そう言った意味では、もしかしたら「幻想的なもの」を描こうとしていたわけではないかもしれませんね。
F:ではなぜ、「ボスの作品は幻想絵画だな」と思えるのでしょうか?
喜多:澁澤龍彦の幻想絵画論に影響を受けて、どちらかといえば柔らかいものよりも、硬いものが幻想美術における美しさだと思っているし、好みです。ボスの作品も、形としてはっきり描かれているモチーフが多く、「祭壇画として描かれたのでは」とも言われています。
F:なるほど。「幻想的なものは輪郭がなければならない」というのを、モチーフを用いて表現しているから喜多さんはボスを好んでいる、と。
喜多:そういう理屈をわかっていても、ここに描かれているものがなんなのかはわからないし、研究する人によって見解が違うんですよね。でも、全部を解読できるものより、謎が残ったままのものの方がおもしろいな、とは思います。物語性や、隠されている儀式的なモチーフ、秘密めいた感覚とかが自分の中にも湧いてくる。違和感あるもの同士を繋ぎ合わせて、驚きを表現することが「幻想美術」なのかな、と。
F:ヒエロニムス・ボスの作品「快楽の園」は、「アンダーカバー(UNDERCOVER)」の2015年春夏コレクションでも取り扱われていましたね。
喜多:「ドクターマーチン(Dr.Martens)」も2014年頃にコラボアイテムを出していたと思います。自分が着るものは別として、ポール・ポワレがデザインした服や、オートクチュールなどは幻想美術作品として興味深いなと思います。
F:オートクチュールを幻想美術作品として見る、という視点は面白いですね。
喜多:服ほど「実体」なものってないじゃないですか。写真や絵で見る服は、着る服とはまた違った魅力があるな、と。
F:確かに、服から絵画や写真を読み解くこともできますよね。
喜多:そうですね。それこそボスが活躍したルネサンス期では、特に服が階級を表していたりと富の象徴だった。自然現象や夢占いに象徴されるような生き物と同じく、服やアクセサリーが意味を持っているというか……。幻想美術は、知識と「見ていて楽しい、美しい」と思える感覚があれば誰でも楽しめるものだろうなと思います。
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