国内の天然皮革(リアルレザー)関連産業にまつわる生産地を巡り、業界を牽引する産地から発信されるサステナブルアクションとクラフトマンシップに迫る全3回の連載が始動。第1回は国内外を問わず多くの観光客で賑わう街、浅草にフォーカス。
雷門で有名な浅草寺の北側に「奥浅草」というエリアを歩いて目を引くのは、革靴関連の品物を扱う店の多さ。浅草は革靴生産量日本一を誇る“革靴の街”としての顔を持ち、その歴史は江戸時代まで遡る。
革靴は誕生して150年あまりが経過しながらも、今なお私たちの生活に身近なアイテムの一つ。今回、FASHIONSNAPでは俳優の長濱ねると共に、より現代のニーズを汲んだ靴作りを目指す気鋭の靴メーカー「ヴァーブクリエーション(VERB CREATION)」を訪ねた。既存のモノづくりに捉われず、新たな挑戦を続けるヴァーブクリエーションの中川宏明が紹介するのは、約1ヶ月で完成するオーダーシューズ。しかも、履き潰した革靴は、再生素材にリサイクルすることができるという。半径10キロ圏内でモノづくりが完結し、トレーサビリティー(追跡可能性)が実現する浅草だからこそ生まれた同社の“見える靴作り”から、革靴産業の持続可能な未来が浮かび上がる。
目次
そもそもどうして浅草は「革靴」が有名になったの?
かつて、天然皮革は鎧や武具作りに欠かせない素材であった。徳川家康が幕府を開いたことによって、江戸城の城下町だった現在の浅草付近に腕利きの革職人たちが数多く移り住んだという。明治維新以降になると近代化の流れを受け、今度は革靴作りが盛んになる。戦争による軍需産業として発展し、丈夫な革靴は広く普及されることとなった。メーカーや革問屋、素材・部品等を供給する業者が多く立ち並ぶのは、革靴発祥の地であり、現在も日本の革靴生産の中心地として産業を支えているからこその光景だ。こうした歴史と共に歩んだ地場産業は、現在もこの地で脈々と継承され続けている。
革靴作りで手に入らない素材や道具はない街「浅草」
ー浅草に工房を構えるヴァーブクリエーションは、国内外の人気ブランドのOEMシューズを手掛けるほか、カスタムオーダーブランド「ユードット(U-DOT)」を展開しています。ねるさんは普段、革靴を履きますか?
長濱ねる(以下、長濱):ローファーが好きで、普段からよく履いているんですが、天然皮革のローファーは靴擦れしやすく、硬くて重たいイメージがあって。ここ2年くらい履いていません。
中川宏明(以下、中川):ぜひ、ユードットの履き心地を試してみてください。使用する天然皮革の色も、自分で好きなように選べるんですよ。
左)長濱ねる 右)ヴァーブクリエイション 代表取締役社長 中川宏明
長濱:軽い!革靴と思えないくらい柔らかくて軽いのは、どうしてですか?
中川:すべて1枚革で仕立てているからです。通常の靴だと革を2枚重ねて芯材なども入れるので、硬くて重く感じるのかもしれません。
中川:ここは「奥浅草」と呼ばれるエリアで、江戸時代に猿若という歌舞伎文化が生まれた地でもあります。私たちの工場がある場所は昔「革屋銀座」と呼ばれていた通りで、車が渋滞するほど賑わっていたそうです。今も、天然皮革に関連する会社がたくさん残っていますし、靴作りで手に入らない素材や道具はないとも言われる程です。そんなことが可能なのは、世界的に見ても浅草だけです。
中川:ユードットでは、一気通貫の浅草らしさを活かして、オーダーから約4週間で完成する革靴を販売しています。つまり、完全受注生産で、余計な在庫を抱えていません。在庫を抱えない=無駄なものを生産しないということだと考えています。
長濱:素材の調達から製造までの工程が、すべて浅草周辺で完結できるからこそのものづくりですね。
中川:その通りです。浅草では、ここから半径10キロ圏内で、革靴づくりができるんです。
「食肉の副産物」である天然皮革は、昔からサステナブルを貫く素材だった
中川:素材はすべて、兵庫県の姫路市とたつの市でなめされた天然皮革を使っています。
長濱:もう一つ、天然皮革を用いたローファーを履いていなかった理由があるんです。お仕事でサステナブルの勉強をしていく中で「天然皮革を使うことは果たしてサステナブルなのか」と疑問に思うようになったんですよね。
中川:誤解されがちなのですが、天然皮革はとてもサステナブルな素材なんですよ。何故なら、革靴を作るために動物を殺しているわけではないから。理由はシンプルで、食肉の副産物だからです。
長濱:食肉の副産物?
中川:食べるためのお肉をとった後、動物に残った「皮」をタンナーさんがなめして「革」にし、それらを靴や鞄などに加工しています。
長濱:つまり、いただいた命を余すことなく使っているのが天然皮革製品。
中川:その通りです。皮のほかにも、天然皮革を作る際に生まれる「ニベ」と呼ばれているコラーゲン層は、化粧品や絵の具などに利用されています。
長濱:知らなかった。捨てるはずのものを、使えるように加工しているのが天然皮革なんですね。
履き潰した靴もリサイクルする新たな循環システム
長濱:工場の入り口に山積みになっているのは靴のソールですか?
中川:お客様から回収したユードットのソールです。ユードットでは、履き潰した靴を回収しています。回収した靴は、粉砕して、棚や机といった内装材として使えるボードに生まれ変わらせています。
長濱:そもそもサステナブルな素材である天然皮革を用いたアイテムを、更にリサイクルしているんですね。
中川:ユードットの靴は、粉砕しやすいように金具や釘を使っていません。糊も水溶性の天然素材を使っているんですよ。
長濱:伝統文化のある浅草で、このような新しいことを始めようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
中川:イタリアなど、海外の靴産地を巡ったことで「日本製」の意味を考え直したことがきっかけでした。靴作りを始めてもうすぐ30年になりますが、海外の生産工程を間近で見て「この循環システムは、素材の生産から製造までを一気通貫で行える浅草でしか作れない」と確信したんです。この循環のモノづくりを、いつか輸出産業にしたいという思いもあります。今後も積極的に声を上げ、時代に合わせて柔軟に意識を変えていかないといけないと感じています。
長濱:天然皮革がそもそもサステナブルな素材だということに加え、無駄のない循環した靴作りであることを初めて知りました。普段使いしやすいアイテムが「実はサステナブル」であることが一番嬉しいです。
■Verb Creation
2003年に創業した靴製造メーカー。国内外の有名ブランドや、舞台衣装のシューズなどを手掛ける一方、靴の再生素材の開発とその素材を使ったオリジナルブランドU-DOTを展開している。
公式サイト
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