ファミリーマートと「ファセッタズム(FACETASM)」のデザイナー落合宏理によるブランド「コンビニエンス ウェア(Convenience Wear)」。3月23日から全国約1万6600店舗での販売を開始し、緊急需要をメインに購入されていた"コンビニ服"をアップデートすることで、ライフスタイルの常識を変えていくという。コンビニ史上初の取り組みとなるコンビニエンス ウェアが目指すものとは何か、落合氏とファミリーマート コンビニエンス ウェア担当の吉村直途氏に話を聞いた。
ー落合さんにオファーをしたのはいつ頃ですか?
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吉村直途(以下、吉村):コンビニエンスストアは、淹れたてのカップコーヒーなど様々な分野で革命を起こしており、「今回新たな革命を」と注目したのがコンビニのアンダーウェアでした。我々の想いを形にするため、2019年9月頃に落合さんにお声がけさせて頂きました。
ーなぜ、コンビニウェアだったんでしょうか?
吉村:コンビニのアンダーウェアと言えば、多くの方がインナーや下着をイメージするように需要に偏りがある商材でした。終電に間に合わなかった人など基本的に深夜の緊急需要が非常に高く、仕方なく購入しているという方がほとんどです。もちろん明確な需要があることは悪いことではないですが、その場しのぎの間に合わせではなく、長く使っていくものとして納得して買ってもらえるアンダーウェアを作ることができたら、革命を起こせるんじゃないかと考えたんです。
ー落合さんはオファーを受けて、率直にどう思ったんですか?
落合宏理(以下、落合):僕はファッションデザイナーとして、多くの人に純度の高いクリエイションを見せていくことが今後必要になってくると考えています。自分自身を突き詰めるクリエイションはファセッタズムで今後も継続していきますが、2016年にリオ五輪の閉会式のセレモニー衣装をデザインさせてもらった経験から、ファッションの新しい価値や可能性を広げていくことにも取り組んでいきたいと考えるようになりました。そんな時にファミリーマートさんからお声がけを頂いたので即答でしたね。ファッション業界が大変な状況の中、クリエイターが次の方向性を示していくことは大事だと思いますし、年間で50億人以上の利用者がいるファミリーマートを通じてファッションデザイナーの新しい可能性を提示できるのではないかと考えました。ファミリーマートは全国に約1万6600店舗あるそうですが、そういった規模感でライフスタイルを提案していくことはファッションブランドではまずできない。だからこそ挑戦してみたいと思ったんです。
ーコンビニウェアの常識を変えるため、まず取り組むべきことは何だと考えましたか?
落合:信頼して使ってもらえることですね。ファミリーマートさんには40年にわたる歴史で培ったノウハウがありますし、我々が開発に関わることによってデザイン・品質の良い商品を作れるという自信がありました。だからこそ、次のフェーズとして多くの人から信頼されることが大事ではないかと。常にラックに並んでいることがライフスタイルを提案する上で重要なことだと思うので、まずはお店に信頼して置いてもらえるよう店舗で働く多くの方とコミュニケーションを取りながら作り上げていきました。
吉村:落合さんには約60店舗を一緒に回ってもらったほか、加盟店の方達に向けた座談会も開いてもらいました。落合さんの情熱を感じ取ってもらうことができ、結果として直営店舗だけではなく全国の店舗での展開が実現したんです。
落合:店舗に足を運んでみないと始まらないと思ったんですよね。一方的に店舗に置いてくれと言っても良い結果に繋がらないでしょうし。コミュニケーションをとることができて、結果として全国の店舗で販売できるようになったのは嬉しいことですし、正直奇跡に近いと思っています。
ーコンビニを来店する多くの人に受け入れてもらうために、デザインする上で意識したポイントはありますか?
落合:分かりやすいポップなデザインを取り入れました。あとは都市部、住宅街、地方とどのような環境でも馴染むようなもの、そしてコンビニに合う感覚というのは意識しましたね。
ーコンビニに合う感覚というのは?
落合:明るさ、品質の良さからくる安心感です。デザインや素材の選定、グラフィック監修、パッケージのアートディレクター決めなど、全てを任せて頂けたのでとてもやりやすかったですね。
吉村:例えばリブソックスは編地の太さだったり、本当に細かいところまで落合さんに決めてもらったんですよ。
ーTシャツは緊急需要がメインのインナーTシャツのほかに、コンビニエンス ウェアを象徴するアイテムとしてアウターTシャツを展開していますね。
落合:アウターTシャツは綿100%で、1枚で着られます。他のブランドのTシャツと比べて遜色なく、好んで選んでもらえるようなTシャツというイメージで製作しました。
吉村:アウターTシャツはファミリーマートとしてもチャレンジ商材です。1枚で着られるTシャツは僕が知る限り、コンビニ史上存在しない唯一無二のアイテムなので。
落合:実際、先行販売ではアウターTシャツの反応は凄く良かったようですね。
吉村:今まで展開していなかったので比較は難しいですが、店舗のスタッフからも「こんなに売れるんだ」という驚きの声が挙がっていましたね。
ー他にアイテムで気になったのがバンダナです。今回のラインナップの中でも特にファッション性の強いアイテムのように感じました。
落合:僕がどうしても作りたかったものなんですよね。エコバッグとしてはもちろん、弁当を包む時にも使えたりと汎用性が高いですし、ファッション性のあるバンダナが日々の生活の中で使われればライフスタイルが華やかになっていくのではないかと考えたんです。今後も生活が豊かになるようなライフスタイル提案や、様々なチャレンジを行っていく予定で、実際今も色々と企画を進めているところです。まだ詳細は言えませんが、皆さんが驚くようなことに挑戦していくので楽しみにしていてください。
ー今回得たアイデアや意見がファセッタズムのクリエイティブに影響することはありますか?
落合:ファセッタズムに関わってくるかは分かりませんが、クリエイションをしていく上での選択の基準になることはあると思います。先行販売した関西圏の店舗だけでも約3000店舗。本当に様々な人の声が聞けた貴重な機会になったので、ファセッタズムなのか、自分自身で作り上げる別の何かなのかは分かりませんが、今後のクリエイションに活かしていかなきゃいけないと思いますし、伝えていかなければと感じています。
ー今回、パッカブルのエコバッグ以外はパッケージに入れて販売。
落合:環境問題について考える今の時代に逆行しているのではという葛藤はありました。ただ、来客数が多いのでどうしてもフルパッケージにしないと商品が汚れてしまうという問題もあって。そこでエコ素材を使い、小物入れなどに使ってもらえるよう私生活でも使いやすいデザインにしました。例えば携帯の充電器を入れたり、筆箱、領収書入れとか。買ったら終わりではなく、捨てさせないサステナブルとしてデザインしました。
ー落合さんが特に気に入っているアイテムは?
落合:ラインソックスですね。デザイナーとしてコンビニという場所が面白い場所に感じたので、アイコンとして提案しました。プロジェクトが始まってすぐにデザインしたのがこれで、僕はポップアートのようなイメージで見慣れたアイコンを使ったアイテムがアーカイブされていくことに魅力を感じて。ファミリーマートを象徴する緑、青、白のラインという唯一無二のデザインに我々が新しい価値を付与することができたと思っています。
吉村:ラインソックスはコンビニ業界の常識では考えられないデザイン性の高さで衝撃が走りました。コンビニウェアでは黒が一番人気だったということもあり、実は社内からの反発もあったんですが、関西で先行販売したらツイッターで話題になって。先行販売では正式発表前のトライアルを兼ねていたため、落合さんの名前も出さず、会社としてPRも積極的にしていなかったので、純粋にデザインの力を感じました。
落合:デザイナーとして、これほど多くの人に向けて提案をしてきたことがなかったので、凄く勉強になりましたね。公共的なデザインの面白さを再認識するきっかけになりました。
ーコンビニエンス ウェアでの今後の目標は?
吉村:売上などの数値的な目標は非公開ですが、インナーをファミマで買うという文化をつくることが目標です。コンビニで服を買うことを当たり前にしていきたいんです。
落合:ファミリーマートで服を買うという文化が根付けば、24時間いつでも購入することができますし、それこそ時間に余裕が生まれることで、家族との会話だったり違うことに時間が使えて、暮らしが更に豊かになっていくんじゃないかと。多くの人に愛されるブランドとして、ファミリーマートの皆さんと一緒に今までの常識を覆すことをやっていきたいと考えています。
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