2024年のビューティ業界は、各社が選りすぐりの技術を採用した新作が続々と登場するとともにアイコン製品のリニューアルも相次ぎ、話題が尽きない年となった。中でも、フレグランスの人気は右肩上がりで勢いに乗る。今年1年を振り返り、世界的に成長を続けるフレグランスカテゴリーの“話題”をピックアップ。
成熟市場でもフレグランスの活況続く
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コロナ以降、おうち時間の彩りから始まり、ファッションやアクセサリーと同様にアイデンティティとして、香りを取り入れる動きた高まったことでフレグランスは今年も注目を集めた。これは日本のみならず、フレグランス市場が成熟する欧米も同様で、グローバルでフレグランスニーズが高まっていると言える。
化粧品において世界No.1を誇るロレアル(L'OREAL)は2024年12月期第2四半期(2024年1〜6月)で、「イヴ・サンローラン・ボーテ(Yves Saint Laurent Beauté)」(以下、YSL)や「ヴァレンティノ ビューティ(VALENTINO BEAUTY)」、「メゾン マルジェラ(Maison Margiela)」といったクチュールブランドを中心にフレグランスが好調で、香りに定評のある「イソップ(Aēsop)」も加わり、リュクス事業部の増収をけん引した。また苦戦を強いられるエスティ ローダー カンパニーズ(ESTEE LAUDER COMPANIES)だが、2024年通期決算(2023年7月〜2024年6月)を見ると、「ル ラボ(LE LABO)」、「ジョー マローン ロンドン(JO MALONE LONDON)」が健闘し、フレグランスカテゴリーは成長で着地した。
フォーチュン ビジネス インサイトによると世界のフレグランス市場は、2023年の480億5000万ドルから、2024年の504億5000万ドル、2032年までに775億2000万ドル(約12兆2300億円)に成長すると予測されている。
イヴ・サンローラン・ボーテのアイコンフレグランス「リブレ」の新作「リブレ オーデパルファム フローラル」
日本のフレグランスは成長カテゴリーで投資拡大
日本はこれまで「香水砂漠」と呼ばれ、海外メーカー・ブランドから投資対象外と見られることも少なくなかったが、近年は一転して成長に期待が寄せられ、2024年も各ブランドから新作が次々発売されたのはもちろん、新ブランドの新規参入、フレグランス売り場の拡張が相次いだ。化粧品ブランドにとって1年で最も活況を呈すホリデー商戦においても、「シャネル(CHANEL)」、「ディオール(DIOR)」といった2大巨頭がフレグランスをメインにした、またジョー マローン ロンドン、「ディプティック(Diptyque)」といったフレグランスブランドなどが、華やかなポップアップイベントを開催。さらに雑誌やウェブメディアへのフレグランスカテゴリーでのTUの増加も見てとれ、フレグランスへの投資が顕著だ。
富士経済によると、日本におけるフレグランス市場シェアは化粧品市場の4%程度とまだまだ小さいものの、2024年のフレグランスの売上高は前年比9.4%増(547億円)、スキンケアカテゴリーは同3.2%増(1兆3956億円)を見込み、成長は大きい。
エントリーアイテムの拡充でギフトやジェンダーレス訴求を強化
成長が著しいとはいえ、香水“初心者”である日本市場では、まだまだいわゆるフレグランスを付けることに抵抗がある人も多い。香りの好みは人それぞれで、ギフトへのブレーキに、さらに周りに不快感を与えていないかと考えることも、フレグランスへのハードルを高くしている。
そういったハードルを低くするのが、バス・ボディやホームコレクションの拡充だ。先行して人気を集めるブランドはエントリー層やギフト需要、ジェンダーレス訴求に力を入れている。「エルメス(HERMÈS)」は「ル バン エルメス」のヘアケア・ボディケア製品を一新。ビューティカテゴリー全体で好調の「ディオール(DIOR)」は「ジャドール」のボディケアコレクションから新製品を、「ミス ディオール」のバス・ボディを発売した。ジョー マローン ロンドンは来年、“ウェルネス”を軸に新シリーズ「ケア コレクション」をローンチする。
韓国コスメ・ニッチフレグランスも続々と上陸
また、近年は多くの韓国コスメが上陸しているが、今年は上陸前から人気が高かったフレグランスブランド「タンバリンズ(TAMBURINS)」が青山に常設店を構え話題を集めた。オープン直後は数時間待ちは当たり前、数ヶ月たっても整理入場が続くなど一気に広まった。運営会社が同じ「ジェントルモンスター(GENTLE MONSTER)」と隣接する形での営業も、性別を問わない客層に一役買っている。
加えて、ニッチフレグランスの上陸も続く。フレグランス業界に30年以上従事するカール・ブラドル(Karl Bradl)と、ファッションや出版、フレグランスなど幅広いデザインクリエイティブに携わってきたカルロス・キンテロ(Carlos Quintero)によるニューヨーク拠点の「ノーメンクレイチャー(Nomenclature)」や、ファッション専門学生だった創業者のブラムが立ち上げたアムステルダム発の「フガッジ(FUGAZZI)」、ドラマーとして活動し、ジンやラムの蒸留などに没頭した調香師レオ・クラブツリーが立ち上げたイギリス発「ボーフォート」(イギリス)、架空の小説をモチーフにした「イマジナリー・オーサーズ(Imaginary Authors)」といった、ユニークなコンセプトを持つブランドが続々と日本展開を開始した。
2024年に上陸(本格展開)したニッチフレグランスの一例
「フガッチ」(オランダ)
「イマジナリー・オーサーズ」(アメリカ)
「ノーメンクレイチャー」(アメリカ)
「ボーフォート」(イギリス)
こうした“日本ではまだ無名”なブランドも、世界観やストーリー性に共感し、すぐにファンがつくケースも少なくないという。ニッチフレグランスを数多く取り扱うショップ「ノーズショップ(NOSE SHOP)」は右肩上がりの成長を続ける。店舗・取扱ブランドを順調に増やし、2024年の売り上げは前年比148.8%増を見込む。ノーズショップによると、エントリー層において、これまでお試しサイズで購入していた人が多かったが、2024年は即、フルボトルで購入する人の割合が増えたという。
“高級ライン”展開が加速 香りの日常化に向けた啓蒙も進む
新製品の発売などが増えるフレグランスの好調、香りへの入り口となるバス・ボディやホームコレクションの拡充、ニッチフレグランスの新規参入など、フレグランスの基盤が整っていく中で、さらなるファンの醸成を狙った“高級ライン”のローンチが目立ったのも2024年のフレグランスの動きだった。
百貨店などの売り場から好調ブランドに挙げられることが多いディプティックは自然の詩情な美しさを表現し、創業初期の要素を掛け合わせたコレクションを発売した。「ナルシソ ロドリゲス(narciso rodriguez)」はブランドのDNAであるムスクにフォーカスし、「ランコム(LANCÔME)」は自社農園で育てるローズを中心としたバリエーションを展開。メゾン マルジェラ 「レプリカ」 フレグランスは、ファッションメゾンの世界観を色濃く反映し、より深みのある香りを揃えるオードパルファンを復刻させた。また、「バーバリー(BURBERRY)」や「グッチ(GUCCI)」などのライセンシーで長年フレグランスやメイクアップを展開してきたコティ(COTY)は、今年自社展開のプレミアムニッチフレグランスとして「インフィニメント コティ パリ(Infiniment Coty Paris)」を立ち上げた。
調香師や香料の産地、グレードといったクリエイティブと品質の掛け合わせた無限の表現(香り)は、“香水沼”に陥った人も多い。ハマった人たちの熱量は高く、SNS時代も相まってユーザー同士の情報交換のスピードも早い。
厳選された香料と世界トップレベルの調香師たちを呼び込んだ各ブランドの“高級フレグランス”は、こうした高度なユーザーに向けて存在感を発揮し、また情報も商品量も急速に増加した市場で改めてブランドの世界観やこだわりの品質を伝えられるものでもある。富士経済によると、フレグランスの購入価格で1万円を超える価格帯で絞ると、2024年の売り上げは前年比12%増が予想されている(全体は9.4%増の予想)。今後も“高級ライン”のローンチは広がる可能性は十分に考えられる。
さらに、香りを日常的に楽しむフレグランス文化を啓蒙するための動きも広がっている。日本のフレグランス市場を長年支えてきたブルーベル・ジャパンは「フレグランス インスティチュート(FRAGRANCE INSTITUTE)」を設立し、来年からオンライン講座を継続的に開講する。フローラルやグルマンなど、よく聞く「香調(ノート)」を各回のテーマに、「香る」、「聴く」、「記録する」を柱に香りとの向き合い方や取り入れ方などを紹介していくというもの。
ブランドや売り場の声を聞いてみると、人気の香りは以前よりも多様化しているという。画一的な「外さない香り」や「みんなと同じ香り」ではなく、自分の好みや自己表現のために自由な視点で香りを選ぶ人が増えてきているということだ。服を着替えるように、香りもその日の気分や天気で変えて楽しむような(もちろん、つけないという選択肢もある)習慣が今後もっと広がっていくだろう。長らく香水砂漠と呼ばれてきた日本のフレグランス市場が豊かになっていく様子に期待が寄せられる。
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